【イチリンソウの仲間、近畿~北海道に分布】
キンポウゲ科イチリンソウ属(アネモネ属)の多年草。本州の近畿から北海道にかけて分布しており、明るい陽光が差し込む落葉樹林の林床や林縁に自生する。早春、木々が葉を展開し始める前に芽吹いて花を付けるが、初夏には地上部が枯れて長い休眠に入る。このためカタクリなどとともに、短命ではかない早春植物を指す〝スプリング・エフェメラル〟の一つに数えられている。
草丈は10~20cmほどで、茎の先端に直径3~4cmの菊に似たような形の花を1輪上向きに付ける。花は天気が悪いと閉じ、晴れると開く。花弁のように見えるのは萼片が変化したもの。通常萼片の数は8~13個だが、写真のように多いものもあって「八重キクザキイチゲ」と呼ばれ、「雪の精」といった園芸品種名でも流通している。地域差や固体差が大きく、花色は白のほか薄い紫や濃紫などもある。花の大きさも雪の多い寒冷地のものが暖地に比べ大きくなる傾向があるという。
学名は「Anemone pseudoaltaica(アネモネ・プセウドアルタイカ)」。属名のアネモネはラテン語の「風」に由来し、種小名は「偽の」と「アルタイ山脈」の複合語。花がよく似たものに「アズマイチゲ」。こちらは小葉にキクザキイチゲのような深い切り込みがないことで区別される。春到来を告げる可憐なキクザキイチゲ。ハイカーたちにも人気の野草だが、佐渡では古くから「ヨメナカセ(嫁泣かせ)」と呼ばれてきたという。なぜ? 佐渡では炊事や風呂焚きなどに使う柴木を山で拾い集めるのは嫁さんたちの仕事で、この花の開花が山に分け入る節目になっていたそうだ。