【ゴッホが模写した「亀戸梅屋舗」など百景全図!】
奈良県立美術館ではいま企画展「広重の名所江戸百景」を開催中。江戸時代後期の浮世絵師、歌川広重(1797~1858)の代表作「名所江戸百景」や「東海道五十三次」などを一堂に集めて展示している。「名所江戸百景」(全119作)の中には「ひまわり」や「自画像」で有名な後期印象派の画家ゴッホが浮世絵に心酔した時期に模写した「亀戸梅屋舗(うめやしき)」などもあり、浮世絵師の第一人者広重の世界にどっぷり漬かることができる。3月14日まで。
広重は役者絵から出発して美人画や花鳥画などを描き、1833年に発表した「東海道五十三次」で風景画家としての地位を確立した。生涯に描いた東海道シリーズは20種類以上に上る。もう一つの代表作「名所江戸百景」は最晩年の1856~58年に描かれた。遠近法を大胆に取り入れた斬新な構図は19世紀後半のヨーロッパでの日本ブーム「ジャポニズム」の中で洋画家の注目を集め、とりわけ後期印象派を代表するゴッホ(1853~90)たちに大きな影響を与えた。
展示作品は前期と後期で一部入れ替えが行われ、会場入り口の導入部には「江戸名所百景」と「東海道五十三次之内(保永堂版)」の代表作を1点ずつ展示。前期は「大はしあたけの夕立」と「日本橋 朝之景」だったが、現在開催中の後期は「亀戸梅屋舗」と「京師 三条大橋」が並ぶ。「名所江戸百景」のこの2点はゴッホがパリ在住時代に模写したことでも知られる。「大はしあたけの夕立」は突然夕立に見舞われて足早に急ぐ人々の姿が生き生きと描かれており、幾筋もの黒い線が降り注ぐ雨の激しさを表す。「亀戸梅屋舗」の題材は将軍徳川吉宗もその花の香で駒を止めたといわれる有名な梅林。前面に描かれた黒く太い白梅の幹が圧倒的な存在感で目を引き付ける。
広重の展示作品はこのほかに「東海道(丸清版・隷書東海道)」や富士三十六景」「六十余州名所図会」「東都名所」など。「館蔵コレクションにみる名所絵」として葛飾北斎の「東都勝景一覧」、渓斎英泉の「東都両国橋夕涼図」や「江戸名勝尽 隅田川」、菊川英山の「風流美人近江八景 矢橋帰帆」などの浮世絵も展示されている。