【茎は伝統色の「木賊色」、能の演目にも】
トクサ科トクサ属の多年生常緑シダ植物。本州中部以北~北海道の渓谷沿いなどの湿地に自生する。観賞用として庭に植えられ、花材として利用されることも多い。横に這う地下茎の節から高さ60~100cmほどの円柱形の地上茎を直立する。茎は中空で直径5~6mm。夏に茎のてっぺんにツクシに似た形の胞子嚢穂(ほうしのうすい)を付ける。茎の青みがかった濃い緑色は「木賊色」(別名陰萌黄=かげもえぎ)と呼ばれ、古くから伝わる日本の伝統色の一つになっている。
和名は「砥ぐ草」からの転訛、木賊は漢名から。茎には縦に細かい筋が走り珪酸を多く含む。このため表面がざらついて硬いことから、かつては木や竹細工、角や骨などの研磨材として用いられた。別名にハミガキグサ、ヤスリグサ、ツメトギなど。茎は生薬名で「木賊(もくぞく)」と呼ばれ止血・解熱・下痢止めなどとして煎じて服用された。学名は「Equisetum hyemale(エクイセツム・ヒエマレ)」。属名はラテン語で「馬の毛」、種小名は「冬の」を意味する。
トクサはかつて信州などでよく栽培され各地に出荷されていたという。能の中にその信州を舞台にした演目がある。室町時代の能役者世阿弥の作ともいわれる「木賊」。都の僧がもう一度父に会いたいという少年僧を伴って信濃の国園原を訪れ、トクサ刈りをしていた老人に出会う。わが家に案内した老人は身の上話をし、生き別れた息子の装束を纏って舞う。そして少年僧が実はその老人の息子だったことが分かり、再会を喜び合う――。長唄にも「木賊刈」という演目がある。「木賊刈る園原山の木の間より 磨かれ出づる秋の夜の月」(源仲正=平安末期の武人・歌人)