仙女が出したと言い伝えられる温泉「華清池」の湯によって、その体はより美しやかに白やかに、そして、滑らかに なります。 その様子を白居易は
“ 侍兒扶起嬌無力
始是新承恩澤時“
と詠っており、これを日本では
侍兒 扶け起こせば 嬌として力無し
始し是れ 新めて恩澤を承けなん時ぞ
と、読ませております。
そのなよなよとまめかしく、今にも、倒れかからんばかりに温泉に酔うが如くの楊貴妃は、おこしもとに抱きかかえられるようにして湯殿から上がります。準備はすべて整い、初めて、恩澤(天子の御寵愛)を受ける時になったのです。
この時の様子を陳鴻は「長恨歌伝」に書いております。
“躰弱力澂若不任羅綺光彩煥発転動照人”と。
体は本当に弱々しく力は無きかの如く、薄い絹織物を着ても、今にも倒れてしまうかのようで、それでいて、その体からは、何か浮き立つようなこの世のものとは思えないような美しさはそこら辺りに一杯に照り輝いておると。(煥発)
なお、この「転」という字を、吉川幸次郎は、<クルメク>と読ませており、本来「くるめく」とは「目がくらくらするような状態」を云いますが、そこにいる人たちまで皆を浮き浮きした気分にさせるような特別な美しさであると解説しております。