学生時代の話である。
私の友達にやたらモテる男Kがいた。
男前で口数が少なく硬派。まぁ典型的なモテる条件が整っていたので当たり前だが。
私はいうと、まるっきり正反対のキャラクターなので、当然モテなかったが、そのうち誰か俺を好きになる人もでてくるでしょ、と、牧歌的な気持ちでいたので、特にAが羨ましいとも思っていなかったのだが、ある出来事を機にその考え方は一変した。
それは、Aと私を含む男性3人と女性3人の最もスタンダードな人数のコンパでの出来事。
A以外、つまり私ともう一人の男性は特にモテるわけでもない泣かず飛ばず組(以下NT組)だったので、Aの女性独占状態を防ぐために、その日のコンパでは特に頑張った。
セミ(店の柱にしがみついてミィミィと鳴く、当時の学生の鉄板ネタ)はするわ、漫才はするわ、とにかく場を盛り上げることは大汗をかいてなんでもした。
そしてやがてコンパも終わりの時間。俺達NT組はそれぞれに目星をつけていた女性に、今晩返してなるものかと毛アタックを開始した。
やれ、セミでは俺が一番柱の高いところへとまっただの、小銭なら財布一杯持ってるだの、今日は電車の線路がいつもより広がっているので電車が脱線する可能性があるだの、送りオオカミはこの間最後の1頭を俺が仕留めたのでもういないだの、言えば言うほどモテなくなる言葉の連発である。
結果、「今日はとっても楽しかった、ありがとう。またね」という、NT組には、「アホボケカス」の婉曲としか聞こえない定番ワードで締めくくられたのは必然であった。
ところでKである。彼は私たちが必死で場を盛り上げている間も、ほとんどしゃべることはなく、私たちNT組のアタックも時折笑顔を浮かべて見つめているだけだった。
そしてもう仕方なくこのまま解散か、という状況下、彼は初めて、このコンパの女性メンバー圧倒的NO.1で、俺達NT組は恐れ多くてアタックできずにいた女性にはっきりと聞こえる声でこう言ったのだ。
K:「今日帰るんか?」 女性:「ううん、帰らない」
なんじゃとおぉぉぉ!!!???たったそれだけで!!!???
俺達NTが、わずかばかりのセミの命を賭けたのに?電車の線路を広げるのは人間ワザではないぞ!送りオオカミをやっつけたやないの!Kは俺達の1000分の1しか口を動かすことができんヘタレやないか!たった一言なら赤ん坊でもしゃべるでちゅー!俺達NT組が同じことを言ったら「うん」だったろうに、そのもうひとつの「う」はなぜもれなく付いてくるのよ!?
まったくバカバカしいたらありゃしない。でも無茶苦茶羨ましい。NT組3時間の汗と涙と笑いを、Kにたった2秒で持っていかれたこの日を境に、私は男前に対抗してモテるためにはどうしたらいいのか、ということを真剣に考えるようになった。
そしてKN組二人が出した結論はこうだ。男前と横並びで比べられたら勝ち目はない。でも、男前を連れていかないと、コンパで女性が集まらない。なら、いっそのこと、コンパをあきらめて男前がいないところで勝負しようではないか、と。
それが、ナンパであった。これも男前が有利には違いないが、こればっかりは黙っていてはできない。無口なAには決して(とまではいかないが)できないのだ蟻の脳くらいだけざまあみやがれなのである。私たちがKに勝つにはこれしかないと思った。
かくして、私たちNT組の、「コンパからナンパへ」という主戦場の鞍替えが始まったのである。
~後編へ続く~
私の友達にやたらモテる男Kがいた。
男前で口数が少なく硬派。まぁ典型的なモテる条件が整っていたので当たり前だが。
私はいうと、まるっきり正反対のキャラクターなので、当然モテなかったが、そのうち誰か俺を好きになる人もでてくるでしょ、と、牧歌的な気持ちでいたので、特にAが羨ましいとも思っていなかったのだが、ある出来事を機にその考え方は一変した。
それは、Aと私を含む男性3人と女性3人の最もスタンダードな人数のコンパでの出来事。
A以外、つまり私ともう一人の男性は特にモテるわけでもない泣かず飛ばず組(以下NT組)だったので、Aの女性独占状態を防ぐために、その日のコンパでは特に頑張った。
セミ(店の柱にしがみついてミィミィと鳴く、当時の学生の鉄板ネタ)はするわ、漫才はするわ、とにかく場を盛り上げることは大汗をかいてなんでもした。
そしてやがてコンパも終わりの時間。俺達NT組はそれぞれに目星をつけていた女性に、今晩返してなるものかと毛アタックを開始した。
やれ、セミでは俺が一番柱の高いところへとまっただの、小銭なら財布一杯持ってるだの、今日は電車の線路がいつもより広がっているので電車が脱線する可能性があるだの、送りオオカミはこの間最後の1頭を俺が仕留めたのでもういないだの、言えば言うほどモテなくなる言葉の連発である。
結果、「今日はとっても楽しかった、ありがとう。またね」という、NT組には、「アホボケカス」の婉曲としか聞こえない定番ワードで締めくくられたのは必然であった。
ところでKである。彼は私たちが必死で場を盛り上げている間も、ほとんどしゃべることはなく、私たちNT組のアタックも時折笑顔を浮かべて見つめているだけだった。
そしてもう仕方なくこのまま解散か、という状況下、彼は初めて、このコンパの女性メンバー圧倒的NO.1で、俺達NT組は恐れ多くてアタックできずにいた女性にはっきりと聞こえる声でこう言ったのだ。
K:「今日帰るんか?」 女性:「ううん、帰らない」
なんじゃとおぉぉぉ!!!???たったそれだけで!!!???
俺達NTが、わずかばかりのセミの命を賭けたのに?電車の線路を広げるのは人間ワザではないぞ!送りオオカミをやっつけたやないの!Kは俺達の1000分の1しか口を動かすことができんヘタレやないか!たった一言なら赤ん坊でもしゃべるでちゅー!俺達NT組が同じことを言ったら「うん」だったろうに、そのもうひとつの「う」はなぜもれなく付いてくるのよ!?
まったくバカバカしいたらありゃしない。でも無茶苦茶羨ましい。NT組3時間の汗と涙と笑いを、Kにたった2秒で持っていかれたこの日を境に、私は男前に対抗してモテるためにはどうしたらいいのか、ということを真剣に考えるようになった。
そしてKN組二人が出した結論はこうだ。男前と横並びで比べられたら勝ち目はない。でも、男前を連れていかないと、コンパで女性が集まらない。なら、いっそのこと、コンパをあきらめて男前がいないところで勝負しようではないか、と。
それが、ナンパであった。これも男前が有利には違いないが、こればっかりは黙っていてはできない。無口なAには決して(とまではいかないが)できないのだ蟻の脳くらいだけざまあみやがれなのである。私たちがKに勝つにはこれしかないと思った。
かくして、私たちNT組の、「コンパからナンパへ」という主戦場の鞍替えが始まったのである。
~後編へ続く~