城郭探訪

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初詣 太郎坊宮・夫婦岩の成り立ち 約7千万年前に出来た奇岩

2012年01月04日 | 番外編

=八日市地学趣味の会会長・磯部 敏雄=

太郎坊山・夫婦岩は山中腹より上の本殿前にある

◇東近江
 八日市で「太郎坊さん」の愛称で呼ばれている太郎坊宮のシンボルと言えば「はさみ岩」である。はさみ岩は、子どもの頃、親から「ウソをついた者が通ると挟まれてしまう」と言われたものだから、はさみ岩を通る時は怖くて走り抜けたという人も多かろう。

 

本殿側から見た女岩(右)と男岩

 このはさみ岩は、「夫婦岩」とも呼ばれる大きな割れ目で「男岩」と「女岩」の二つに分けられる。この夫婦岩は命が宿る神を意味しているという郷土史家もいる。
 また、昔、相撲とりが夫婦岩を通る時大きな腹が岩にすれたことから「へそずり岩」と呼んだという説もある。
 ウソをつくと挟まれる、へそずりとおもしろい言い伝えが残るはさみ岩はどうしてできたのだろうか。今回、太郎坊宮の許可を得て夫婦岩を科学的、岩石学的に調べてみた。
 太郎坊宮の箕作山をはじめ、繖山(きぬがさやま)、雪野山等、湖東平野に散在する山々は、恐竜が全盛期の中世代白亜紀(約七千万年前)の火山活動で出来た岩石の山である。

 

女岩のトア(岩塔)下部にはズレがある

 近江八幡市の八幡山、沖島、能登川の猪子山、彦根の荒神山などで見られる岩石は広い範囲にわたる火山活動で出来た「湖東流紋岩」と名付けられている。湖東流紋岩は、古くから古墳の石室、城の石垣、京都のインクライン、石橋、石垣等ありとあらゆる場所や施設に利用されている。
 岩石は、出来る時に冷却して収縮する。この時、岩石内部に応力が働いて「割れ」が生じる。この割れを「節理」という。節理には規則的な形が多い。その形から「柱状節理」、「板状節理」、「球状節理」と呼ばれている。兵庫県の日本海側には素晴らしい柱状節理が大規模に見られる景勝地があり「玄武洞」と名付けられた観光名所がある。福井県の「東尋坊」も大きな節理による観光名所である。

 

 
永源寺地区の日本コバ(標高九三四m)は、湖東流紋岩から出来た山で永源寺ダムサイト下流の清水橋横では大きな柱状節理が観察出来る。 
 岩石に節理が出来るときには、引っ張りや圧縮による破断節理、剪(せん)断節理も出来る。この節理には岩石に大きな割れを生じることがある。
 太郎坊宮の夫婦岩付近には随所に節理が見られ、破断節理や剪断節理も観察出来る。このことから、夫婦岩の割れは節理が大きく起因し、加えて地震等による地殻変動も関係しているものと推測できる。節理が発達してトア(岩塔)を形成したものが夫婦岩と言える(図面参照)

 

夫婦岩の節理を調べる磯部さん(鉱物鑑定士)

 平成七年一月に起きた阪神淡路大震災の後、すぐに夫婦岩を調査したが、少しもズレた痕跡はなかった。夫婦岩の女岩下部は岩床から切り離されているが、男岩と寄り添った安定した状態で、男岩の岩床と接合していると推測できる。
 このように太郎坊山は、湖東流紋岩の節理が原因でトアや割れ目を形成したものと結論できる。また、古くから人々に信仰されてきた夫婦岩は他に比類ないもので、東近江市の天然記念物に指定しても十分に価値があるものと言える。
 平成の合併で東近江市が誕生して七年目の年始めを迎えるにあたり、東近江市内に見られる湖東流紋岩を「市の石」として制定されることを初夢として願いたいものです。

 

夫婦岩入り口にある説明板
ウソをついたら挟まれるという言い伝えのある夫婦岩の狭い通路

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