なぜ信長は本拠を近江に? 元安土城博副館長がガイド本
織田信長の歩みをたどるように県内の史跡を紹介する旅の本を出版した大沼さん(大津市瀬田南大萱町)
安土城考古博物館元副館長で滋賀県文化財保護協会普及専門員の大沼芳幸さん(61)が、織田信長の県内での足跡をたどる旅行者向けのガイド本「信長が見た近江」を出版した。信長が築城や接収した城跡などを紹介し、華麗な天主と伝わる安土城築城の真意なども考察。「信長は戦うことよりも、視覚的に権威を示すことに重きを置いて天下取りを描いた。なぜ近江に本拠を置いたのか、人物像に少しでも迫れれば」と話している。
大沼さんは琵琶湖文化史が専門。県教委文化財専門職員として、安土城の発掘調査や県内の文化財保存に長く携わってきた。
書籍はオールカラーのA5判で136ページ。信長に仕えた太田牛一(おおたぎゅういち)が記した「信長公記(しんちょうこうき)」の記録に沿って、現代に残る城跡や古戦場、巨木などを巡る構成になっている。上洛途中に初めて信長が琵琶湖を見た1559年から始まり、物流と情報の拠点としての近江と琵琶湖の支配、安土城天主が完成した1579年ごろまでの湖国での足跡を追いながら、各史跡の歴史上の位置づけを記している。
安土城については信長が自身を神格化するための「究極の装置」と紹介。「天皇という農耕神に対抗するため、信長はより神威の高い水と太陽をつかさどる神を目指した」などとし、金箔(きんぱく)張りの絢爛(けんらん)豪華な天主は神殿的な役割を担ったと解説している。
山形県出身の大沼さんは「滋賀の人は信長に『侵略者』のイメージを持つ人が多いが、信長は天下取りの拠点として近江を重要視し琵琶湖にも大きく感化されたと思う。自分なりの物語を重ねながら史跡巡りを楽しんでほしい」と話している。
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京都新聞2016年01月02日 09時10分