病気や薬の利き方にも差 北海道医療大個体差健康科学研究所長 新川 詔夫さん
耳あかのタイプの違いから、薬の利き方や遠い 過去の民族同士のつながりまで推測できるの だという。「人類遺伝学」の第一線で研究を続け てきた北海道医療大学の新川詔夫特任教授に、 耳あかと遺伝子の不思議な関係を語ってもらっ た。「あなたの耳あかは湿っていますか。乾いて いますか」。こんな問いを何度となく繰り返してき た。日常生活ではとるに足らない耳あかが、遺伝 学では有用な情報をもたらしてくれる。耳あかに 湿型と乾型の二タイプあり、それが遺伝すること は知られていた。タイプの違いがどの遺伝子によ って生じるかを、な長崎大在職当時の2006年、同僚の研究者ととも に明らかにした。タイプを決める遺伝子を調べ始めた契機は、ある遺 伝性疾患に関する研究で「この症状の人は耳あかがベトベトしている」 という患者の家族の言葉を伝え聞いたこと。「耳あかのタイプ決定遺 伝子が疾患と連鎖している(密接な関係がある)と直感した」。協力 を得て家系図を調べると、やはり予想通りだった。異なる情報を持つ 遺伝子が染色体上で近接していると、一緒に子孫に伝わることが多 い。この特徴をヒントに、耳あかのタイプは、23本あるヒト染色体のう ち16番目の染色体上に存在する「ABCC11」と呼ばれる遺伝子が 決めていることを突き止めた。「人類の祖先の耳あかは湿型で、遺伝 的には湿型が慢性。ところがこの遺伝子の538番目の塩基(グァニン、 G)が他の種類(アデニン、A)に偶然変わったことで、乾型の耳あかを 持つ人が生まれてきた」。両親から受け継いだ遺伝子がGとG、また はGとAだと耳あかは湿型に、AとAだと乾型になる。耳あかは汗と同 様にアポクリン酸が作り出すので、そのタイプは汗や体臭にも影響す る。また、分子レベルで見ればABCC11遺伝子自体は細胞に入った 物質を外に排出する機能を持っており薬の利き方や副作用の個人差 を生む。この点に注目するのが個体差健康科学という学問だ。
多くの民族を調べた結果、こうした異なる遺伝子 タイプの構成比が民族や集団で異なることも分か った。アフリカや欧州はほぼ100%湿型(一般型、 祖先型遺伝子)だが、日本をはじめ東北アジアの集団は8割以上が 乾型(東アジア型遺伝子)だ。この割合を世界地図に示すと、「バイカ ル湖あたりで遺伝子タイプが変わったらしい」ことまで推測できる。並 行して、理科系教育に力を入れる文科省のス-パ-・サイエンス・ハ イスク-ル指定高校の協力を全国的に得て、国内の耳あかタイプ地 図作りも進めてきた。「日本でも地域によりタイプの比率が異なり、民 族や集団の動きとの関係をうかがわせる。将来、高校生が作った耳あ かタイプの地図が、日本史の教科書に載ったら面白い」と話す。
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