本年度の映画の総括、2日目。
短評とはいいつつ、少しずつ長文化してしまっているので苦笑、さっそくいきましょう。
きょうは、「17年度に公開された劇場映画の第12位~第07位」。
第07位『エル ELLE』(トップ画像)
2度観に行ったが、2度とも「ほぼ満席」。
しかも単館上映でないところに希望が持てる、ポール・ヴァーホーヴェンが放つ悪意に満ちたブラック「ヘンタイ」コメディ。
強姦されるヒロインを、喉を鳴らして見つめる愛猫。
道路に飛び出す鹿の、唐突な感じ。
そしてなにより、犯されたヒロインの「なにを考えているのか、さっぱり分からない」言動。
なにもかもが受け手の想像を超えていて、スクリーンから目が離せなくなる。
良識を嘲笑うような描写や展開がつづくが、意外と真理を突いているところがあったりして、監督の深い人間洞察に感心した。
エンディングで「脱暴力」を宣言しつつ、だがそれは物語上の中盤に過ぎぬことで映画的快感を生んだ『パルプ・フィクション』にちかい感触があり、ヴァーホーヴェンは社会一般というより、我々映画ファンを挑発し、試しているのだと思った。
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第08位『わたしたち』
「やられたらやり返して、またやり返して…そんな風につづけたら、いつ遊ぶの? 僕は遊びたいんだよ」
才能の、あるいは光る演出の「発見」という意味においては、本年度のベストワンといっていい韓国映画。
いじめ問題を扱った物語は数あれど、変化球の『キャリー』を除けば、どの国の映画も「劇映画」として成功しているとはいい難い。
日本産に限定して考えると、それは安易に、または強引に「よい話」にしようとする誤った道徳観念のようなもの、、、が働いているからではないか。
つまり落としどころを間違っている、ということ。
『わたしたち』は、結論を急がない。
「こうあるべきだ」という主張をしない。
そうすることで、見えてくることがある―監督は映像の力を信じ切っているのだ、そこが感動的じゃないか。
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第09位『ダンケルク』
奇人変人、そして天才クリストファー・ノーランによる、テーマを限定した実験的戦争映画。

「IMAXで上映、鑑賞すること」を前提として制作されており、一部劇場でしかそれが叶わないという時点で「多少キレている」ノーラン監督が、少し笑えるのだけれども、それでいて愛おしくなる。
というのも自分は、本作を (1)通常版(2)IMAX(3)フィルム版(4)再びIMAX…と4度観たのだが、(1)と(2)とで受ける印象が、まったく別モノだと感じてしまうくらいの「差」があったから。
だからといって、誰もがIMAXで体感するのは不可能。
主に通常版で観たひとからは不評が出ており、その多くは「説明不足」「時間軸が複雑過ぎて分からない」というものだった。
文句の多くは分からないでもないし、強引な結論であることを承知でいえば、それらを含めての「体感的戦争映画」を目指しているのだから、それでいいのだ!! と断言しておこう。
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第10位『ムーンライト』
ほとんどジャンキーの母親は、自分のことなど気にかけない。
学校では、いじめられる。
しかも、唯一こころを許せる同性ケヴィンに対し、友情以上のものを抱き始めてしまう俺ってヤバいのか…。
貧困地域で育つ黒人少年のこころのありようを、少年期/青年期/成人期で描くインディーズは「ダークホース」とされていたオスカー戦線において、大逆転の末? に作品賞を勝ち取った。
それでも縁のない物語―と感じたのか、わが国での興行はオスカーブランドにも関わらず不振、
しかしウォン・カーワァイの『ブエノスアイレス』に対するオマージュや、東洋的な趣味がそこかしこに感じられ、監督バリー・ジェンキンズに親近感を抱いたのだった。
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第11位『光』
同じ年に、しかも同じ国で同じタイトルの映画が発表されて混乱するが、これは河瀬直美のほうの『光』。
視力を失いつつあるカメラマンと、映画の音声ガイドを始めたばかりの女。
ある意味で出来過ぎな設定を用いて描くのは、河瀬流の「映画論」。
河瀬映画は近年、かなり意図的に間口を広げている。
「よい映画を創っても、観てもらわないことには始まらない」ということだろうが、この制作姿勢の変化は演出にも表れており、厳しい物語でありながら、とても柔らかな印象を受ける。
そして永瀬正敏は、おそらくキャリアで最高の演技を披露している。
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第12位『ベイビードライバー』
自分が初心な高校生だったとしたら、まちがいなくデートムービーに選んだであろうアクション映画の新種。
カーアクションとロックをシンクロさせる演出は、『ワイルドスピード』に「ぜんぜん感心しなかった」自分でさえノリノリにした。
事故の後遺症で耳鳴りが消えないために「iPod」が手放せない―という設定だけで押し切る映画があってもいいじゃない? と思わせるほどゴキゲンな創りだが、
リズミカルな映画だからこそ、失速気味となる後半が目立ってしまい残念。
ただそうしたマイナス点も、たとえばカーステレオのスピーカーに手を当て、その振動で音を感じるといった繊細なシーンで帳消し、、、、とまではいかないものの、たいしたことではないかもな…と感じてしまうのだ。
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明日のコラムは・・・
『待つ、ことの快楽(3) ~2017年の映画を総括~』
短評とはいいつつ、少しずつ長文化してしまっているので苦笑、さっそくいきましょう。
きょうは、「17年度に公開された劇場映画の第12位~第07位」。
第07位『エル ELLE』(トップ画像)
2度観に行ったが、2度とも「ほぼ満席」。
しかも単館上映でないところに希望が持てる、ポール・ヴァーホーヴェンが放つ悪意に満ちたブラック「ヘンタイ」コメディ。
強姦されるヒロインを、喉を鳴らして見つめる愛猫。
道路に飛び出す鹿の、唐突な感じ。
そしてなにより、犯されたヒロインの「なにを考えているのか、さっぱり分からない」言動。
なにもかもが受け手の想像を超えていて、スクリーンから目が離せなくなる。
良識を嘲笑うような描写や展開がつづくが、意外と真理を突いているところがあったりして、監督の深い人間洞察に感心した。
エンディングで「脱暴力」を宣言しつつ、だがそれは物語上の中盤に過ぎぬことで映画的快感を生んだ『パルプ・フィクション』にちかい感触があり、ヴァーホーヴェンは社会一般というより、我々映画ファンを挑発し、試しているのだと思った。
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第08位『わたしたち』
「やられたらやり返して、またやり返して…そんな風につづけたら、いつ遊ぶの? 僕は遊びたいんだよ」
才能の、あるいは光る演出の「発見」という意味においては、本年度のベストワンといっていい韓国映画。
いじめ問題を扱った物語は数あれど、変化球の『キャリー』を除けば、どの国の映画も「劇映画」として成功しているとはいい難い。
日本産に限定して考えると、それは安易に、または強引に「よい話」にしようとする誤った道徳観念のようなもの、、、が働いているからではないか。
つまり落としどころを間違っている、ということ。
『わたしたち』は、結論を急がない。
「こうあるべきだ」という主張をしない。
そうすることで、見えてくることがある―監督は映像の力を信じ切っているのだ、そこが感動的じゃないか。
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第09位『ダンケルク』
奇人変人、そして天才クリストファー・ノーランによる、テーマを限定した実験的戦争映画。

「IMAXで上映、鑑賞すること」を前提として制作されており、一部劇場でしかそれが叶わないという時点で「多少キレている」ノーラン監督が、少し笑えるのだけれども、それでいて愛おしくなる。
というのも自分は、本作を (1)通常版(2)IMAX(3)フィルム版(4)再びIMAX…と4度観たのだが、(1)と(2)とで受ける印象が、まったく別モノだと感じてしまうくらいの「差」があったから。
だからといって、誰もがIMAXで体感するのは不可能。
主に通常版で観たひとからは不評が出ており、その多くは「説明不足」「時間軸が複雑過ぎて分からない」というものだった。
文句の多くは分からないでもないし、強引な結論であることを承知でいえば、それらを含めての「体感的戦争映画」を目指しているのだから、それでいいのだ!! と断言しておこう。
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第10位『ムーンライト』
ほとんどジャンキーの母親は、自分のことなど気にかけない。
学校では、いじめられる。
しかも、唯一こころを許せる同性ケヴィンに対し、友情以上のものを抱き始めてしまう俺ってヤバいのか…。
貧困地域で育つ黒人少年のこころのありようを、少年期/青年期/成人期で描くインディーズは「ダークホース」とされていたオスカー戦線において、大逆転の末? に作品賞を勝ち取った。
それでも縁のない物語―と感じたのか、わが国での興行はオスカーブランドにも関わらず不振、
しかしウォン・カーワァイの『ブエノスアイレス』に対するオマージュや、東洋的な趣味がそこかしこに感じられ、監督バリー・ジェンキンズに親近感を抱いたのだった。
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第11位『光』
同じ年に、しかも同じ国で同じタイトルの映画が発表されて混乱するが、これは河瀬直美のほうの『光』。
視力を失いつつあるカメラマンと、映画の音声ガイドを始めたばかりの女。
ある意味で出来過ぎな設定を用いて描くのは、河瀬流の「映画論」。
河瀬映画は近年、かなり意図的に間口を広げている。
「よい映画を創っても、観てもらわないことには始まらない」ということだろうが、この制作姿勢の変化は演出にも表れており、厳しい物語でありながら、とても柔らかな印象を受ける。
そして永瀬正敏は、おそらくキャリアで最高の演技を披露している。
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第12位『ベイビードライバー』
自分が初心な高校生だったとしたら、まちがいなくデートムービーに選んだであろうアクション映画の新種。
カーアクションとロックをシンクロさせる演出は、『ワイルドスピード』に「ぜんぜん感心しなかった」自分でさえノリノリにした。
事故の後遺症で耳鳴りが消えないために「iPod」が手放せない―という設定だけで押し切る映画があってもいいじゃない? と思わせるほどゴキゲンな創りだが、
リズミカルな映画だからこそ、失速気味となる後半が目立ってしまい残念。
ただそうしたマイナス点も、たとえばカーステレオのスピーカーに手を当て、その振動で音を感じるといった繊細なシーンで帳消し、、、、とまではいかないものの、たいしたことではないかもな…と感じてしまうのだ。
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明日のコラムは・・・
『待つ、ことの快楽(3) ~2017年の映画を総括~』