本年度の映画の総括、3日目。
きょうは、「17年度に公開された劇場映画の第01位~第08位」です。
第01位『哭声/コクソン』
とある田舎の山のなかに、ひとりの日本人が住み着いた。
やがて、この地域に住むものが、自分の家族を惨殺する猟奇事件が連続して発生し・・・。
國村隼、大怪演。
この作品の迫力や闇は、國村の力によるところが大きいが、いやいや、監督の冷徹で変態的な視点も褒めなければならないだろう。
おぞましいのに、映画的な美しさもある。
「なんだか分からないものを観たが、とりあえずすごい」というのは、『ポゼッション』や『カルネ』を観たときの感覚に「ひじょうに」ちかい。
本年、最も映画的興奮をもたらしたのは、「同じアジア圏に住むもの」としてこれほど悔しいことはないが、「やっぱり」韓国産の映画だった。
…………………………………………
第02位『沈黙 サイレンス』(トップ画像)
本年度で、最も繰り返し鑑賞した映画。
(ブルーレイをあわせると、現在までに28回だぞコノヤロー!!)
「この国は、すべてのものを腐らせていく沼だ」
スコセッシが遠藤周作の原作小説を読んだのは、自分が高校生のガキだったころ。
それから20ン年、「待ちつづける」っていうのも悪いことばかりではない―ということを、初めて実感出来た年となった。
スコセッシ映画の特性からいって、拷問描写はもっとエグいものになると思っていた。
それに、はっきりいえば、キチジローを演じた窪塚洋介にも納得がいってない。
けれども、それらを帳消しに出来るほどエピローグが素晴らしかった。
原作にはない「魂」の部分を描くことによって、スコセッシが追究しつづけてきたものとリンクが生まれ、長いことファンをやっている自分のような男は、内容以上に、そこに感動したのではないだろうか。
…………………………………………
第03位『彼女の人生は間違いじゃない』
本年度の日本映画ベストワン。
震災後の被災地・福島で市役所勤めをつづけるヒロインは、週末、高速バスで東京に向かいデリヘル嬢をやっている。
映画は彼女とその周辺のひとびとを見つめ、そして、冠せられたタイトルのとおり、彼女の人生を全肯定して終わる。
ワンショットごとに力がこめられており、制作陣の並々ならぬ気迫を感じ涙してしまった。
福島に帰郷する途中、新幹線のなかで震災に遭ったという監督・廣木隆一を絶賛したい。
じつは本年ワースト映画のひとつ、『PとJK』も廣木さんであることに「多少」眩暈を覚えるのだが・・・
創りたいものを創るために、「単なる仕事」として割り切ることもある、ということだろう。
我儘をいえば、割り切った作品でさえ一定のクオリティを保つ「某監督」のようになってほしいのだけれども。
…………………………………………
第04位『メッセージ』
「この先に、何が起こるか分かっていたとしても・・・選択を変えないか?」
地球の12ヵ所に姿を現した、飛行体の目的とは―。
「今年の顔」ドゥニ・ヴィルヌーヴによる、真摯さの際立つSF大作。
日本では「ばかうけ」に似た形状だと話題になった飛行体のフォルムが、まず素晴らしい。
そして、エイリアンとの意思疎通に用いられるのが身体を用いたアクションではなく、言語そのものというのも素晴らしいし、その言語を映像化していく点が斬新。
冒頭の、持続される緊張感だけで監督の才能は分かるが、真のハイライトは原題『ARRIVAL』の意味が分かる結末だろう。
こういう煽り文句は、あまり好きではないのだが・・・
映画ファンを自称するのであれば、観ないと確実に損をする名作だと思う。
…………………………………………
第05位『彼女がその名を知らない鳥たち』
「共感度0%、不快度100%」という惹句に偽りなし、
性悪女の性悪さをこれでもかと、ダメ男のダメダメな部分をうんざりするほど描いている・・・にも関わらず、彼ら彼女らを嫌いになることは出来ない。
蒼井優や阿部サダヲの「なりきりっぷり」も素晴らしいが、
監督作はそれほど多くないものの、確実にストーリーテラーとしての実力をつけてきている白石和彌の語り口に最も感心した。
ミステリー仕立てにした物語が浮かび上がらせるのは、それでも離れられない男と女の不思議。
『浮雲』が証明するように、じつはこの手の物語は日本映画の真骨頂であったりする。
描きかたは現代的だが、そういう伝統に連なる作品として、この映画の誕生がうれしかった。
…………………………………………
第06位『ブレードランナー2049』
映画ファンにとって、期待値の高さと不安の大きさは『マッドマックス』や『スター・ウォーズ』の比ではなかったであろう、不朽のカルト35年ぶりの続編。
時間が経ち過ぎたとか、やはり163分は長過ぎたとか、いろんな意見がある。
実際に興行面では大苦戦、初日に列を作り、緊張していたのは40代過ぎの男ばかりだった。
たしかに・・・
シド・ミードによる、革新的なデザインはない。
ヴァンゲリスによる、新たなテーマ曲の提供はない。
けれども・・・
3時間後―。
報われぬ主人公Kに感情移入しつつ、作品全体を包む切なさに涙した自分は、この映画を手がけたのがドゥニ・ヴィルヌーヴでほんとうによかったと思った。
日本では上半期に『メッセージ』が公開されたこともあり、映画の世界の「今年の顔」だろう。
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『待つ、ことの快楽(4) ~2017年の映画を総括~』
きょうは、「17年度に公開された劇場映画の第01位~第08位」です。
第01位『哭声/コクソン』
とある田舎の山のなかに、ひとりの日本人が住み着いた。
やがて、この地域に住むものが、自分の家族を惨殺する猟奇事件が連続して発生し・・・。
國村隼、大怪演。
この作品の迫力や闇は、國村の力によるところが大きいが、いやいや、監督の冷徹で変態的な視点も褒めなければならないだろう。
おぞましいのに、映画的な美しさもある。
「なんだか分からないものを観たが、とりあえずすごい」というのは、『ポゼッション』や『カルネ』を観たときの感覚に「ひじょうに」ちかい。
本年、最も映画的興奮をもたらしたのは、「同じアジア圏に住むもの」としてこれほど悔しいことはないが、「やっぱり」韓国産の映画だった。
…………………………………………
第02位『沈黙 サイレンス』(トップ画像)
本年度で、最も繰り返し鑑賞した映画。
(ブルーレイをあわせると、現在までに28回だぞコノヤロー!!)
「この国は、すべてのものを腐らせていく沼だ」
スコセッシが遠藤周作の原作小説を読んだのは、自分が高校生のガキだったころ。
それから20ン年、「待ちつづける」っていうのも悪いことばかりではない―ということを、初めて実感出来た年となった。
スコセッシ映画の特性からいって、拷問描写はもっとエグいものになると思っていた。
それに、はっきりいえば、キチジローを演じた窪塚洋介にも納得がいってない。
けれども、それらを帳消しに出来るほどエピローグが素晴らしかった。
原作にはない「魂」の部分を描くことによって、スコセッシが追究しつづけてきたものとリンクが生まれ、長いことファンをやっている自分のような男は、内容以上に、そこに感動したのではないだろうか。
…………………………………………
第03位『彼女の人生は間違いじゃない』
本年度の日本映画ベストワン。
震災後の被災地・福島で市役所勤めをつづけるヒロインは、週末、高速バスで東京に向かいデリヘル嬢をやっている。
映画は彼女とその周辺のひとびとを見つめ、そして、冠せられたタイトルのとおり、彼女の人生を全肯定して終わる。
ワンショットごとに力がこめられており、制作陣の並々ならぬ気迫を感じ涙してしまった。
福島に帰郷する途中、新幹線のなかで震災に遭ったという監督・廣木隆一を絶賛したい。
じつは本年ワースト映画のひとつ、『PとJK』も廣木さんであることに「多少」眩暈を覚えるのだが・・・
創りたいものを創るために、「単なる仕事」として割り切ることもある、ということだろう。
我儘をいえば、割り切った作品でさえ一定のクオリティを保つ「某監督」のようになってほしいのだけれども。
…………………………………………
第04位『メッセージ』
「この先に、何が起こるか分かっていたとしても・・・選択を変えないか?」
地球の12ヵ所に姿を現した、飛行体の目的とは―。
「今年の顔」ドゥニ・ヴィルヌーヴによる、真摯さの際立つSF大作。
日本では「ばかうけ」に似た形状だと話題になった飛行体のフォルムが、まず素晴らしい。
そして、エイリアンとの意思疎通に用いられるのが身体を用いたアクションではなく、言語そのものというのも素晴らしいし、その言語を映像化していく点が斬新。
冒頭の、持続される緊張感だけで監督の才能は分かるが、真のハイライトは原題『ARRIVAL』の意味が分かる結末だろう。
こういう煽り文句は、あまり好きではないのだが・・・
映画ファンを自称するのであれば、観ないと確実に損をする名作だと思う。
…………………………………………
第05位『彼女がその名を知らない鳥たち』
「共感度0%、不快度100%」という惹句に偽りなし、
性悪女の性悪さをこれでもかと、ダメ男のダメダメな部分をうんざりするほど描いている・・・にも関わらず、彼ら彼女らを嫌いになることは出来ない。
蒼井優や阿部サダヲの「なりきりっぷり」も素晴らしいが、
監督作はそれほど多くないものの、確実にストーリーテラーとしての実力をつけてきている白石和彌の語り口に最も感心した。
ミステリー仕立てにした物語が浮かび上がらせるのは、それでも離れられない男と女の不思議。
『浮雲』が証明するように、じつはこの手の物語は日本映画の真骨頂であったりする。
描きかたは現代的だが、そういう伝統に連なる作品として、この映画の誕生がうれしかった。
…………………………………………
第06位『ブレードランナー2049』
映画ファンにとって、期待値の高さと不安の大きさは『マッドマックス』や『スター・ウォーズ』の比ではなかったであろう、不朽のカルト35年ぶりの続編。
時間が経ち過ぎたとか、やはり163分は長過ぎたとか、いろんな意見がある。
実際に興行面では大苦戦、初日に列を作り、緊張していたのは40代過ぎの男ばかりだった。
たしかに・・・
シド・ミードによる、革新的なデザインはない。
ヴァンゲリスによる、新たなテーマ曲の提供はない。
けれども・・・
3時間後―。
報われぬ主人公Kに感情移入しつつ、作品全体を包む切なさに涙した自分は、この映画を手がけたのがドゥニ・ヴィルヌーヴでほんとうによかったと思った。
日本では上半期に『メッセージ』が公開されたこともあり、映画の世界の「今年の顔」だろう。
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『待つ、ことの快楽(4) ~2017年の映画を総括~』