そうだ、アメリカに行こう:
漏れ聞く所では、「都内の富裕層が多いある地区では日本の旧帝大や四大私立大学に進み、中央官庁や有名企業に職を得ることよりも「自由と民主の気風に満ちて、実力さえあれば我が道を切り開いていけるアメリカの有名私立大学進み、MBAを取得し現地の企業に就職しようとする方向を目指そうという機運が醸成されつつある」のだそうである。
アメリカのビジネスの世界とは如何なる世界かを経験から語ってみよう。
負担する学費:
アメリカのIvy Leagueの大学を目指せば、大学によっては授業料だけでも7万ドル(≠1,000万円)にもなるのだから、年間の学費が優に1,500万円にも達する時代であるので、富裕な家庭の子弟でなければ簡単にというか容易く目指せる方向ではないのではないと思う。(奨学金や学費免除という事はあるが)素直に言えば「その意気込みは壮大で宜しいだろう」とはなるが。
即ち、そういう機運が出てきた背景には、彼等は「我が国はもう数十年も景気が低迷し、賃金は上昇せず、新規の産業が産み出されず、幾ら才能に恵まれていても、一流の大学を終えて中央官庁や一流企業に就職すれば、未だに年功序列の壁に阻まれているかのようで、能力や実績に相応しい昇進は期待できないという流れがある」と、読み切っているのだそうだ。
それならばとばかりに、アメリカを見渡せばGAFAMなどのように世界を牽引しているかの如き「新規の産業」が目覚ましく発展し、そういう世界を若き有名私立大学のMBAやPh.D.がその類い希なる才能を活かして牽引しているという状態が見えてくるのだ。今や、大手企業で生き残る為の資格(または条件)はMBAであるから、先ずそこを目指していこうと考えるのだそうだ。
その見方は正しいと言っても良いと思う。即ち、(嘗ての)我が社では本社にある各事業部門担当の副社長兼本部長たちでは圧倒的にIvy Leagueまたはそれに準ずる私立大学のMBA取得者が多かった。また、他社でも傾向は同じであると聞いていた。見方を変えると、ビジネススクールの入学資格得る為の4年間の実務社会経験の期間を除けば、負担する6年間の学費は9,000万円を超えてしまうのである。
実力の世界か:
我が国で色々な分野の多くの方に訊いてみると「アメリカとは実力の世界であり、能力を活かせば思うように活躍できて、昇進の道を切り開き、企業内で生き残ることが可能であり、高額の年俸も優雅な生活も夢ではない」のように認識しておられるようだった。私が経験した範囲内で言えば「この見方が正しいかどうかは、50%かそれ以下であろう」なのだ。
アメリカ、特に製造業の世界では我が国のように大学の新卒者を毎年定期的採用して、社風に合うように育成し、社内の多くの分野を経験させ一般職乃至は総合職者(generalistとでも言うか)に育てていこうという習慣はないのである。部員は「事業部長の判断でその時の業績次第で必要に応じて専門職者(specialist)を会社の内外から募集して行くのだ。即ち、中途入社の世界である。
ここで重大な我が国との致命的な相違点は「この専門職者は飽くまでも営業や企画等に専任するのであり、喩えマネージャーのような肩書きを与えられていても、その地位が所謂管理職に昇進することなど例外を除けばあり得ないのである。大学や他社で鍛えられ習得してきた技術と能力を活かすだけの人材なのだから、昇進はないのである。これが、近頃我が国で云々され始めた「job型雇用」の実態である。
では、「実力は何処で活かされているのか」との疑問が生じるだろうが、それは例えば輸出のspecialist(専門家)として部内に確固たる地位を占めて、定年制度がないアメリカでは、自分でリタイアしようと思う年齢まで生き残っていられる。また、実績次第何歳になろうとも昇給はしていく力なのだ。「これぞ、実力の世界」でなくて何だろう。ここまでを締めくくれば、専門職には必ずしもMBAは要らないという事。
事業部長のような大きく且つ広い範囲の責任を負う地位に就くのは、それこそ一流大学の大学院を終えた者たちが多くなる。彼等は始めから経営陣がそれと見込んでビジネススクールの出身者を採用して言う所の「昇進のスピード・トラック」に乗せて、直ちに管理職等を経験させる。言うなれば「幹部候補生」として育てていくのだ。
希には四大卒の総合職の中でも優れた者を昇進させる人事もある。その際には、社命でハーバード大学ビジネススクールの4ヶ月の短期コース(Advanced Management Program)などに派遣されるので周囲にいて見ていれば解る。また、自らビジネススクール進学を選ぶ野心家もいた。
結論を言えば「実力の世界の面もあるが、実力があっても必ずしも昇進が可能な訳ではない世界である」と認識しておいた方が正しいと思う。私のように40歳を過ぎてから、4年制の大学の出身者では、専門職者=specialistとして実力は活用されても、昇進の道は待っていないのである。但し、我が国との相違点は「実力あり」と広く知られれば、他社からの好条件の勧誘や引き抜きの機会がある世界だという点。
アメリカの会社で言われていることの一つに「常にjob offer(私は他社からの勧誘と解釈していた)の二つや三つを持っていなければ実力があるとは言えない」というのがある。換言すれば「同じ会社に何十年も一筋」という経歴は、アメリカのビジネスの世界では「実力が無いこと」と看做されて評価されないのである。
ここまでで、「アメリカのビジネスの世界とは上記のようなシステムになっている」と手短に紹介した。このようなのがアメリカであると承知で目指す方が良いのではと思う次第。
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