新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

バイデン大統領が日本製鉄のUSスティール買収を阻止

2025-01-06 06:28:20 | コラム
「木を見て森を見ず」ではなかったのか:

この度、バイデン大統領が日本製鉄のUSスティール買収を阻止したことは予想通りのことで意外でも驚きでもない。「矢張りやってくれたか」と受け止めたのは誠に残念な結果である。産業界の実情に精通しているのかが疑わしいトランプ氏が、選挙キャンペーン中に先手を打って「反対」を唱えてしまったので、立場上追随せざるを得なかったようだ。だが、本当にそれだけの理由からだったら、事態は深刻だと思っていた。

私は「バイデン大統領の認識ではアメリカの鉄鋼業界が中国等の新興勢力に圧倒されて、劣勢であるとは知らず、自力で再建が可能とでも見ておられるのかもしれない」と疑いたくなってしまう。鉄鋼と言い紙パルプと言い、素材産業が衰退しつつあるだけではなく、新興勢力に市場を奪われている現状を何処までご承知かという事。と言うのは、私は既に24年12月26日に以下のように指摘していたのだから、

>引用開始
アメリカ側では懸案事項になっていたこの問題を、23日に連邦政府の傘下にあるCFIUS(=対米外国投資委員会)バイデン大統領の決断に任せることにしたと報じられた。CFIUSは「国家安全保障上のリスクがある」などと表明していたが、忌憚のないところを言えば「何を今頃になって言っているのか」辺りになる。

バイデン大統領は既に買収を支持しない意向を示していたし、トランプ次期大統領等は期待通りに反対を表明していた。私には両氏が21世紀の今日USスティールが世界の鉄鋼産業界でどのような地位というか、勢力になってしまっているかを良く承知の上で、立場上否定的な言辞を弄しておられるのだと推定しているが、そうでなかったら大変な事なのだ。

それは世界の鉄鋼産業界は言わば新興勢力の中国、インド、韓国等に圧倒されてしまい、生産量では日本製鉄は第4位でUSスティールに至っては24位の弱小メーカーに落ち込んでしまっている。即ち、市場では新興勢力の大量生産体制と安値の攻勢に圧倒されて、先進国は押されっぱなしなのだ。その24位に沈んだUSスティールに、日本製鉄が合併という救いの手を差し伸べたと言えば解りやすいかも知れない。

この時点での当方が危険視していたことは「バイデン大統領もトランプ次期大統領もアメリカの製造業が世界的に劣勢であり鉄鋼業界も例外ではない事を正確に認識出ていないのではないか。出来ていれば、真っ向から反対など出来るわけがないから」と言う点だ。
<引用終わる

JIJIの報道:
バイデン大統領は声明で、買収計画は「国家安全保障と重要なサプライチェーン(供給網)にリスクをもたらす」と述べ、安保への懸念を強調した。

ただ、米シンクタンクのハドソン研究所によると、USスティールの取引先は自動車や建設など民間部門が多く、国防関連先に鉄鋼を供給していない。また、国防総省が必要とする鉄鋼は米生産量の3%にとどまり、米鉄鋼業界は十分な生産量を確保できているという。

また、USスティールのブリット最高経営責任者(CEO)は3日、バイデン米大統領が日本製鉄による買収計画を阻止したことについて、「恥ずべき、腐敗したものだ」と批判する声明を発表した。「バイデン氏の政治的腐敗と闘うつもりだ」と述べ、法廷闘争を示唆した。このように米企業のトップが、現職大統領を強い言葉で批判するのは異例なのだそうであると聞いた。

USスティールの反応:
CEOブリット氏は声明で「経済、安全保障上の重要な同盟国である日本を侮辱し、米国の競争力をリスクにさらした」とも指摘。中国が不当に安価な鉄鋼を輸出し、市場支配を強めていることを念頭に、「中国共産党指導者は小躍りしている」と語り、買収阻止は中国を利することになると主張した。

日本製鉄はアメリカ政府に対して法的措置を講じる意向。バイデン米大統領が買収中止命令を出したことを受け、日本製鉄とUSスティールは3日、「明らかに政治的な判断だ」とする共同声明を発表した。今回の判断は適正な手続きが取られず、法令違反だとして米政府を提訴する方針を明らかにした。  

声明で両社は「この決定はバイデン大統領の政治的な思惑のためになされたものであり、米国憲法上の適正手続きと、対米外国投資委員会(CFIUS)を規律する法令に明らかに違反している」と批判し、「法的権利を守るためにあらゆる措置を追求する」と表明した。 

声明は「日鉄による買収は、米国の国家安全保障を弱体化させるのではなく、強化するものであることは明らか」として、買収計画が米国鉄鋼業界全体に利益をもたらすものであると主張した。  

その上で「同盟国である日本をこのように扱うことは衝撃的で、非常に憂慮すべきことだ。米国へ大規模な投資を検討しようとしている米国の同盟国を拠点とする全ての企業に対して、投資を控えさせる強いメッセージを送るものだ」と外交関係にも言及しながら厳しく非難した。「我々は決して諦めない」とも述べ、米政府に対する提訴を含め対応策を講じる考えを示した。

日本政府は:
私がやや奇異に思う事は「バイデン大統領が阻止を決定したのに対して、日本製鉄は遺憾の意を表明して法的に争う姿勢を鮮明にしたにも拘わらず、日本の政府は実質的に音無しの構えである点」なのだ。何故だろうか。

上述のように、当方の見解と各社の報道を纏めてみると、このような論調になるのである。上手い喩えにはならないかもしれないが、バイデン大統領はこの事態を処理するに当たって、「木を見て森を見ず」のような事をしてしまったのではないのか。


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