とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

「山月記」の授業4(『古譚』の「木乃伊」について)

2016-05-20 18:03:25 | 国語
 『古譚』の二つ目「木乃伊(ミイラ)」の紹介です。

 紀元前500年よりも昔、ペルシャが、エジプトに親友したころの話。武将のパリスカスが主人公。パリスカスはしらないはずのエジプト人の言葉がわかるような気がする。ある墓所の探索に加わったとき、とある木乃伊の顔に視線が止まる。さして長い時間視線が釘付けになる。そして「俺は、もと、此の木乃伊だったんだよ。たしかに。」とつぶやく。それと同時にミイラが生きていたところの記憶が蘇ってくる。言葉は思い出せないが、映像のように記憶が蘇るのである。そして前世の自分が今の自分と同じように前前世の自分と出会ったことを想像し、さらに前前世の自分が前々前世の自分とであることを想像する。

 パリスカスは考える。「合わせ鏡のように、無限に内に畳まれて行く不気味な記憶の連続が、無限にー目くるめくばかり無限に続いているのではないか?」

 ミイラを抱いたまま気を失い、発見され息を吹き返したとき、パリスカスはエジプト語のうわ言をつぶやいていた。

 ここには言葉と記憶の問題、言葉と伝承の問題、消え去った言葉の問題など言葉に関するテーマが襲い掛かるように描かれています。

 すべてが整理がつかないまま、不思議な世界に我々を連れていきます。
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「山月記」の授業3(『古譚』の「狐憑」について)

2016-05-19 09:30:50 | 国語
 順番的には別の話をしたほうがいいのですが、備忘録のために順番を無視してこの話を先にします。

 小森陽一氏の『大人のための国語教書』という本を読んで大変勉強になりました。これは国語の教科書に出ているいわゆる定番の小説のこれまでの読み方を批判し、新しい読み方を提案している本です。

 この本の中で「山月記」が取り上げられています。そこで大きな示唆を与えていただきました。「山月記」というのは『古譚』という短編集のなかの一つだといことを見逃してはいけないというのです。さっそく『古譚』を読んでみました。これまでの「山月記」の読み方は一面的なものでしかないということに気づかされました。大きな発見でした。

 『古譚』の作品群はどれも寓話的な話で、すべて言葉に関することがテーマになっています。今回は「狐憑」を紹介します。こんな話です。

 スキタイ人のシャクは、遊牧民に弟が悲惨な殺され方をしてから変になった。弟がとり憑いてしゃべっているようなうわ言を言うようになったのである。そしてそれは弟だけに限らなかった。しだいに他のものもとり憑くようになった。しかもそれは人間だけとは限らなかった。人々はシャクをだんだん信じなくなったが、シャクの話をみんなは聞きに来る、そんな日が続いた。シャクの話は次第に精彩を欠くようになる。しかもシャクはすでに怠け者になっていた。人々はシャクを処分することにする。しきたりにしたがってシャクは大鍋の中に。みんなに食べられる。ホメロスよりもずっと以前に存在した伝承詩人はこうして抹消された。

 「山月記」との関連から考えるととてもおもしろい話です。文字のなかった時代に言葉を残すためは伝承詩人が必要です。しかし伝承詩人は人々から結局は殺されてしまうのです。古代の人々にとって言葉は残してはいけないものだったのです。

 この話は何を意味しているのでしょう。

 今回は問題を投げかけるだけで終わり。
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「山月記」の授業2(李徴はなぜ虎になったのか)

2016-05-18 10:39:05 | 国語
 「山月記」の読解にあたって備忘録としていくつか考えておく。まずは李徴はなぜ虎になったのかという問題。いくつかの考え方を示してみる。

1.「理由などない。運命であった。」
 生徒に聞けばこれが最初に出てくるだろう。なぜなら李徴自身がこう言っているからだ。
 「なぜこんなことになったのだろう。わからぬ。全く何事も我々にはわからぬ。理由もわからずに押し付けれたものをおとなしく受け取って、理由もわからずに生きていくのが、我々生き物のさだめだ。」
 ここをもとに李徴は虎になる運命だったとする考え方は正当な理由のあるものであり、楽に答えられるものである。根本にこの答えがあることを忘れてはならない。
 ただし、これは李徴自身の考え方であり読者はこれに従う必要はない。

2.「臆病な自尊心と尊大な羞恥心を飼い太らせり、それが猛獣になった。つまり自身の醜い自意識が自らをそれに見合う虎に変えてしまった。」
 これは後半に李徴自身が自分が虎になった理由を分析してした結果の結論である。これはこれで国語の問題の解答にはなるであろう。一番国語の授業の解答っぽいかもしれない。
 しかしこれも李徴自身の解答であり、これを読者はそうとらえる必要はない。

3.「虎になることによって苦しみから解放された。」
 これも李徴自身が言っていることがヒントになっている。
 「おれの中の人間の心がすっかり消えてしまえば、恐らく、そのほうが、おれはしあわせになれるだろう。」
 虎になってしまうことによって、すべての人間の苦しみから解放される。だから虎になったのだ。
 この考え方に私自身は一番魅力を感じる。人間の苦しみは人間が言葉を持ったことにある。その言葉が李徴を苦しめてきた。最後に自分の詩を書き留めさせるくらいに李徴は言葉に執着した。そのために一方では自分を苦しめたのである。
 
 とりあえずしまりのないまま今回は終わり。
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書評「クリティカルリーディング」(福澤一𠮷著)

2016-05-17 08:14:47 | 読書
 文章を根拠、論拠、主張の3つに分けて論証過程をたどりながら論理的に書いたり、読んだりする方法を教えてくれる。

 論理的にわかりやすく書く。そしてそのようにして書かれた文章を正確に読む。それが国語教育の根本になければならない。しかし、その方法は日本の国語教育の中でまだ確立していない。これは国家的な大問題である。

 私自身も国語の小論文の指導などで自分の意見を書くときにはその理由となることを書きなさいと指導してきた。しかし、その理由をどのように書くべきかについてはしっかりと示してこなかった。これでは生徒が書くことがいやになって当然である。読解のほうも同じである。筆者の論理性をあいまいなまま検証し、論証がはっきりしない文章を教えてきたのである。これでは国語教師として失格と言われてしょうがない。

 この本は英語の「パラグラフ」の発想を日本語に当てはめるとどのようになるのか、そしてその指導のためにどうすべきかを示唆してくれる。最後にそのような方法を駆使して論証を分析し、その論証を批判的に検討する方法を示してくれている。

 これまで日本の国語教育がおろそかにしていた点を示唆し、これからの国語教育の方向性を示してくれる本である。
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もうテレビに「飽きたぁ」(松本人志氏はどういう立場?)

2016-05-16 08:55:41 | TV
 松本人志氏がテレビ番組でベッキーさんの騒動について「飽きたぁ」と言ったことがインターネットのニュースで紹介されていました。私はこれにはとても違和感を覚えています。

 「飽きたぁ」と言うくらいならば自分の番組でどうして取り上げるのでしょうか。自分で大騒ぎしておいて「飽きたぁ」の一言ですませようとしている人に、テレビで発言できる資格はないように思うのです。

 確かに一般の視聴者にとってみれば、ベッキーさんのマスコミの取り上げ方は異常であり、飽きたと思わせるところがあります。だから一般の視聴者の立場からすれば共感が得られる発言かもしれません。そしておそらく松本氏はそのような一般視聴者の立場から発言したのではないかと思われます。

 しかし、一般の視聴者にとってみれば松本氏はテレビ側の人間です。大騒ぎしている側の人間なのです。しかも自分がメインで出演している番組で大きく取り上げているのです。それでいて「飽きたぁ」はない。

 わたしはベッキーさんについて好きなタレントでも嫌いなタレントでもありません。応援したいともその逆とも考えません。そんなわたしにとってベッキーさんの問題は当事者間の問題で回りが大騒ぎするような問題ではないと考えていました。そんな問題をみんなで大騒ぎして、何かやるたびにされに事を大きくするような取り上げ方をするテレビや雑誌メディアのことを、とても不快に感じていました。テレビの視聴率かせぎ戦略にベッキーさんの騒動は利用されたにすぎません。そこまで利用しておきながら最後は「飽きたぁ」と切り捨てるのならこれは大人のいじめです。

 ベッキーさんの問題はデリケートの問題で、もし取り上げるのならばもっと真面目に取り上げるべきです。笑いのネタにするようなものではない。もっとたくさんの社会的な問題がある中で、とりあげないという決断があってもいい。

 今回の件でまたテレビから人は離れていきます。今回の騒動は長い目で見ればテレビの衰退の要因の一つになると思います。
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