リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

隠れ家に隠れる

2016-10-09 08:30:00 | オヤジの日記
ブログネタが尽きたので、安易に前回の続きを。

前回、10年前のことを書いた。
仕事のない日が6日続いて、ヨメの機嫌が悪かったという話だ。

そして、3日目には居たたまれなくなって、プチ家出をした。
そのとき、友人のコピーライターの前で醜態をさらした。

人様に迷惑をかけたのだから、もう迷惑をかけるのはよそう。
普通の人だったら、きっとそう考える。

しかし、甘ちゃんの私は、また人様に甘えてしまったのだ。

その当時の私は、埼玉の中古OA販売会社の社長と懇意にさせていただいていた。
年に2回、その会社ではセールを打つのだが、そのチラシを毎回頼まれていた。

さらに、そればかりではなく、その会社のバーベキューの集いに参加させていただくこともあった。
他にも、動物好きな私のために、上尾のご自宅から、わざわざ私の暮らすさいたま市のメガ団地まで、社長自ら車でハスキー犬を連れて来てくださった。
犬の散歩をさせてくれたのだ。

社長の会社とご自宅は埼玉上尾市。
しかし、会社の倉庫は、都合のいいことに、我が家族が住むメガ団地から1キロ程度のところにあった。

あるとき、倉庫を見学させていただいた。
大きな倉庫ではないが、100平米以上はあったと思う。

そこに、中古のコピー機、業務用ファックス、机、椅子、キャビネット、パソコン、プリンター、モニターなどがギュウギュウに詰まっていた。

そして、倉庫の隅には衝立てで区切られた小さな事務所もあった。
その中に、机と椅子がワンセット。
横長のソファが一つ。
あとは電話付きファックスとエアコンだ。

それを見て、私はヨダレが出た。

なんていい物件なのだろう!

そこで、図々しいことに、私は社長に、おねだりをしたのだ。

もし、この倉庫を使わないときは、私にこの事務所を貸していただけないでしょうか。

無理をお願いするのだから、私は正直に、自分の立場を説明した。
仕事がないとき、家で私が休んでいると、家内の機嫌が悪いということを。

すると、社長はアッサリと合鍵を渡してくれた。
(そのとき、自分が一瞬、社長の愛人になった気がした)

利用するときは、あらかじめ社長にお伺いを立てることを約束した。

今回も前日の夜に、メールでお伺いを立てていた。
「今週は使う予定がないから存分に」というありがたいお返事をいただいた。

仕事のない日の4日目。
前日と同じように、朝4時に起きて、家族の朝メシと息子の弁当を作った。
そして、ヨメが起きる5時前に家を出た。

倉庫までは、自転車で7、8分の距離だ。
私は、ここを「隠れ家」と呼んでいた。

使い初めの頃、HARD OFFでCDラジカセと毛布、ギターと電熱器、ヤカン、鍋を買いそろえ、それらを持ち運んで生活感を出した。
さらに、社長が気を利かせてくれて、ミニ冷蔵庫を設置してくれたものだから、冷蔵庫にはビールが詰まっていた。

そして、カップラーメンと袋ラーメンが、それぞれ10個以上。
それが、私の朝メシ、昼メシだ。

その倉庫は、太陽光が直接入ってくることはなかった。
そんなところも落ち着いた雰囲気で良かった。
少し埃っぽいが、そんなことで文句を言ったら罰が当たる。

隠れ家としては、最高の物件と言っていい。


隠れ家に5時過ぎに着いて、すぐに寝た。
起きたのは11時前。
ビールを飲んで、ラーメンを食い、また寝た。
次に起きたのは、夕方5時過ぎだった。

昨日より体調が良くなった自覚があった。
7割くらいの回復と見ていいだろう。

嬉しくなって、J-WAVEを聞きながら、ノンビリとビールを飲み、魚肉ソーセージをかじった。
そのとき、倉庫のドアがドンドンと叩かれた。

なんじゃ、と思って出てみると、当時小学5年生の娘が立っていた。
「迎えにきたぞい!」

心配すると思ったので、娘にだけは、場所を教えておいたのだ。
そして、7時前には帰るとも伝えておいた。

しかし、娘は直接自転車で迎えに来たのだった。
それは、想定外のできごとだった。

娘は興味津々の様子で倉庫内をまわり歩き、「悪くないな」と頷いた。
ふたりで、魚肉ソーセージをかじった。

娘と一緒に、6時半過ぎに倉庫を出た。
団地と倉庫の途中に、小さな公園があった。
「ちょっと寄ろうぜ」と娘が言うので寄った。

ベンチに並んで座った。
座ってすぐ、娘が言った。
「おまえ、何でも自分ひとりでやるのは間違いだぞ。少しは人に頼れよ。ときどきは泣きごとを言ってもいいんだぞ」

驚いた。
まるで親に言われるようなことを10歳の娘に言われたからだ。

ハハハ、と笑うしかなかった。
しかしな、泣きごとを言うファザーは嫌いだろ?

「毎日だったら嫌だけど、一度だけだったら聞いてやってもいい」

そうか、じゃあ、溜めて溜めて、いつか一気に泣きごとを言おうか。
覚悟はできてるか?

「あたりまえだろ。
オレをなめるなよ!」
(娘は、小学校、中学校、高校のときは、家では自分のことを『オレ』と言っていた。
大学生になってからは『ボク』だ。なぜそう言うのかは聞いていない)

いつか・・・・いつか・・・言ってみるか。

「そんなことをいっても、言わないんだろうな、おまえは。
そんな可愛いやつじゃないものな。
まあ、とにかく、おまえのことはオレが見張っているから、安心しろ」

そして、私の顔を覗き込んで、娘は続けた。
「今日の顔色を見ると、回復度7割だな」


驚いた。
確かに、よく見張っていると思った。

私も自分で7割だと思っていたからだ。


きっと明日は10割に回復だ、と私が言うと、娘が「まだあと二日ある。急ぐなよ」と私の膝を叩いた。


それを聞いて、どっちが大人かわからないな・・・と思った。