6日は朝8時から、焼津の磯自慢酒造で上槽(じょうそう=搾り)の撮影をしました。大吟醸の上槽は、青島酒造(喜久醉)のときと同様、もろみを酒袋に一枚ずつ詰めて、槽(ふね)と呼ばれる長方形の箱に積み重ね、上から圧力をかけるというもの。青島酒造と違うのは、自動で酒袋に注入する点です。また、槽の中での酒袋の積み重ね型も若干異なります。カメラマンの成岡正之さんはレンズ越しに「同じように見えて微妙に違うし、違うようでも、酒袋を折りたたんで積み重ねる丁寧さは同じ。面白いねぇ」とさかんに感心していました。
昨日は、うれしいハプニングもありました。焼津市在住のカメラマン・山口嘉宏さんが飛び入り参加してくれたのです。
彼とは、昨年末、某社の住宅情報誌の取材で初めて知り合ったのですが、いろいろ話をしているうちに、なんと、成岡さんの会社の元社員で、『朝鮮通信使』の行列イメージシーンの助監督の一人だったことが判明。エンドロールのスタッフ名にしっかりクレジットされていました。本人から聞くまでまったく気がつかず、汗顔の至り・・・。
今は、映像とスチール両刀遣いのフリーカメラマンとして、BS,CS系の海外旅行番組を一人で撮影編集したり、海外でドキュメント写真を撮って国際的な賞を獲るなど、幅広い活躍をしています。私と成岡さんが酒の映画を撮っていることを、先週、偶然、ケーブルテレビのニュースで知ったそうで、「制作過程を追いかけたい」と連絡をくれたのです。しかも直前まで徹夜でBS番組の編集作業をこなし、一睡もせずに駆けつけてくれたのでした。
映像カメラもスチールカメラも使えて、一人で番組が制作できるほどのスキルを持ったカメラマンが、こんな身近にいたなんて、驚きと同時に、『朝鮮通信使』と地酒の不思議な縁を、ふたたび思い知らされました。
上槽の撮影後、3人で近くのファミレスで遅い朝ごはんを取りながら、独立系の映像制作会社やフリーの映像クリエーターが置かれた厳しい実情を聞き、「だからこそ、こういう、作り手の表現の場が必要なんだ」と実感しました。
私が関わる雑誌『あかい奈良』も『sizo:ka』も、広告スポンサーに頼らず、クリエーター自身が自己表現の場を自ら創出したものです。山口さんに、「今は朝飯代ぐらいしか出せないけど」とクギをさしたところ、「こういうの、面白いし、好きだから」と意に介していない様子。ふだん、しっかり仕事をしている多忙な人から、こういう言葉をもらえると、大きな自信になります。
成岡さんも、「今まで撮った被写体の中で、イチバン面白いし、勉強になる。厳しい労働環境の中で真剣に働く蔵人さんたちを見ていると、働くことの意味を改めて考えさせられるね」としみじみ語ります。
林隆三さんが教えてくれたように、こんなふうに、クリエーター自身が面白がって、気持ちがノッて参加してくれるプロジェクトなら、きっと観る人も楽しんでくれるだろうとワクワクしてきます。このノリを、いつまで持続できるか、不安は確かにありますが。