杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

表彰式と鑑賞会

2008-03-26 12:43:38 | 吟醸王国しずおか

 昨日(25日)は12時から県もくせい会館で静岡県清酒鑑評会一般公開&表彰式が、18時30分からB-nest静岡市産学交流センターで『朝鮮通信使』鑑賞&地酒を味わうシズオカ文化クラブサロンがあり、昼間から酒づくしの1日でした。

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  12時~14時の県鑑評会一般公開では、13日に行われた審査会に出品された27蔵の吟醸酒と純米酒102点がすべて無料で試飲できるとあって、平日昼にもかかわらず県内外から200人を越える静岡酒ファンが集まりました。私はファンの自然で率直な反応をカメラに収めたいとインタビューを試みましたが、声をかけた人の多くは、たまたまというか偶然というのか、かなりの地酒通の方ばかりで、評論家並みのコメントが返ってきて、美味しそうに呑むとか、おいしさにビックリするといった動きのある映像が撮れませんでした。一般の人の自然な表情を撮るって難しいですね…。

 

 これまではただの参加者として他人にかまわず、ひたすら試飲に没頭していましたが、今回、この会場を映像として残すという試みをして、初めてこの会場にどんな年齢や階層の人が、どんなモチベーションで来ているのかをじっくり観察し、消費者心理というものを考える機会になりました。

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 なかなかいいコメントがとれないなぁと困っていたところ、隣りにいた清水の居酒屋・河良の河本昌良さんと喜久酔松下米の米農家・松下明弘さんが熱く語りはじめ、いそいでカメラをまわしました。料理人の目から見た静岡酒の素晴らしさ、米を供給する農家として間近に見る蔵元の酒造りへの姿勢の美しさなど、シナリオに書いたような見事な言葉の数々を、こちらがQを出すまでもなくごく自然に語り合う2人に、聞いていてジーンとしてしまいました。2人は、純粋な一般消費者というわけではありませんが、自分の仕事や生活をかけて静岡酒とかかわる立場ゆえに、その言葉に確かな根っこがあり、第三者にも実感として伝わってくるんですね。

 後で聞いたら、2人はこの日が初対面。まるで数十年来の酒友のように互いの言葉を理解し、相打ちしながら話していたのが不思議でした。それが酒縁の面白いところでしょう。

 

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 肝心の蔵元=出品者の多くは、14時30分から別室で行われる関係者のみの試飲会場に参加するため、一般公開の時間からやってくる蔵元は数えるほどですが、昔に比べると、若い蔵元がずいぶん積極的に来るようになり、ファンも気軽に声をかけていました。年に1回のことですから、こういう交流の場をもっと活かせばいいのに…と思います。

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 もっといえば、16時からの表彰式は、県や税務署のお偉いさんを来賓に迎えた典型的な形式行事。代表者の挨拶や、賞状を渡すだけの儀礼的なもので、映像的に見たら味気のないものでした。200人ものファンが同じ会場にいたのです。彼らの前で表彰できたら、静岡の酒はもっともっと川下から盛り上がるのに…と思いました。

 10年ほど前、宮城県の清酒鑑評会一般公開と表彰式に行ったことがあります。米どころだけに、審査は米の種類別に行われ、最高位の県知事賞は県産米100%の使用酒に与えられ、表彰式は、県やJAが大々的に行うお米まつりのイベント会場で、多くの市民が見守る中、華やかに行われました。蔵元の顔がよく見える、とても楽しくアットホームな表彰式で、酒と消費者の距離の近さというものをしみじみ実感しました。

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 昨日の表彰式で印象的だったのは、杉本審査委員長(県沼津工業技術支援センター主任研究員)が、「バランスの取れた香りと、きれいで丸い味という静岡タイプの酒を評価することに徹しました。静岡的にバランスの取れた香りとは、酢酸イソアミル系の香りが、カプロン酸系の香りより勝るということです」と明言し、「首位の喜久酔は10点でした」と発表したこと。10人の審査員による3点法(1~3点まで順位をつけ、1点が最高)でトータル10点だったということは、全員が1点を付けたパーフェクトな酒だったということです。『吟醸王国しずおか』で大吟醸造りを撮影してきた喜久酔が、今年、最も静岡らしい酒、という満点評価をもらった事実に、胸が一杯になりました。

 

 

 

  

 

  17時に表彰式が終わり、その足でB-nestへ移動。シズオカ文化クラブさんが企画してくれた『地酒の女神が映画を作った!?~朝鮮通信使鑑賞会と地酒を味わう』で、通信使ゆかりの白隠正宗(沼津市)と臥龍梅(静岡市清水区)の2種を味わいながら、映像作品『朝鮮通信使』を観ていただきました。80人近い参加者の大半が、静岡を代表する企業やマスコミや老舗商店、学校関係のみなさん。朝鮮通信使のことも、徳川家康との関係のことも、ほとんどの人が知っていて、レベルの高い視聴者を前に、緊張で酒杯が思わず進んでしまいましたが、清酒鑑評会懇親会を終えた白隠正宗の高嶋一孝社長がわざわざ駆けつけてくれて、その、ほのぼのキャラにホッとさせられました。

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 80名の中には、実際に駿府公園東御門や三保松原の撮影にエキストラとして参加してくれた方も数人いました。聞くと、完成した映像を観るのは初めてとのこと。文化クラブ幹事の満井義政さん(満井就職支援奨学財団理事長)は「市税を投入してこれだけの作品を作ったのに、エキストラに参加した人や一般の市民が気軽に鑑賞できないのはおかしい。今日の参加者のみなさん、ぜひご自分のテリトリーで鑑賞の機会を作ってください。そういう運動が広がれば、当クラブで上映した甲斐があるというものです」と、力強いエールを送ってくださいました。

 

 県や酒造組合にしても、朝鮮通信使を製作した市にしても、静岡にしかない素晴らしい地域資源を扱っているのですから、もう少し市民に近づける努力をしてほしいと思うのですが、川下から川上に何か訴えようとしても、川上で聞く耳を持つ人がいなければどうにもなりません。黙っていても川上が動かざるを得なくなるような潮流を、川下から起こすことができればいいのですが、ふだん、仕事でNPO団体などを取材していても、そのことの難しさは重々実感します。

 

 

 一升瓶の空き瓶やゴミを抱えながら、丸一日、感激したり、自分自身の川下としての非力に落ち込むやらで、感情の起伏が激しかった一日を思い返しつつ、帰路のバスに乗ったら、シズオカ文化クラブに参加していたテレビ静岡の曽根正弘社長から「まる井にいるから」と呼び出しコール。曽根社長のフジテレビ海外特派員時代のスパイ小説並みの面白い体験談を聞いたり、まる井の河井美子さんの元気な顔を見たらスカッと気分をニュートラルにできそう!と、急いで自宅へゴミを置いて、タクシーで両替町に逆戻り。

 

 23時近くになって、別の宴席にいた喜久酔の青島孝さんが合流し、先週、日本経済新聞に載った青島さんの「拡大より継続を哲学に」の紹介記事をひやかしながら、曽根さんと青島さんの、世界を動かすユダヤの政治力・経済力や、ユダヤ商人と日本の老舗経営者のロジックの違いなど、酔っ払って聞くにはもったいないような実のある話で盛り上がりました。

 「ホントはもっとたくさん支援したいけど、うちもまだまだひよっこの身だから」と恐縮しながら吟醸王国しずおかの支援金をくださった河井さんにも、心の底から励まされました。現金を見て元気になるって、ホント、ゲンキンですね、人間って。

 

 

 私には、元気を注入してくれる人が身近にたくさんいる。川下は川下なりに果たす役割があるはずで、川下でがんばるからこそ応援してくれる人もいる。そんな思いで締めくくった一日でした。