杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

サッカー王国静岡その2

2010-06-17 00:03:25 | 本と雑誌

学研スポーツムック STRIKER特別編集

『サッカー王国静岡』(1994年9月発行)

 

SPECIAL MEETING IN SHIZUOKA~Jリーガーを育てた指導者座談会

 

〈座談会メンバー *役職は1994年当時のものです〉

◇長谷川二三氏(藤枝東高校サッカー部監督・静岡県サッカー協会技術委員長・藤枝市出身)

◇井田勝道氏(静岡学園高校サッカー部監督・日本サッカー協会公認コーチ・静岡市出身)

◇前嶋孝志氏(高部小学校教諭・清水市サッカー協会技術委員長・焼津市出身)

◇古川一馬氏(静岡県サッカー協会理事・トレーニングセンター部長・清水市出身)

◇橋本忠弘氏(静岡県サッカー協会専務理事・藤枝市出身)

◇進行役/加藤真久氏(静岡県サッカー協会常務理事・沼津市出身)

 

(前回より)

(長谷川)静岡県出身選手は外国人に気後れしないんですよ。彼らは海外遠征やSBS国際ユース大会等で、外国チームとの経験を積んでいるから、国際大会にも場慣れし、自分の力を発揮できるという利点を持っている。

 

(前嶋)外国チームとの交流や対戦経験は、子どもにとって財産です。これはやっぱり静岡県ならではでしょうね。

 

(加藤)日本サッカー協会の事業報告の資料をまとめていた時、発見したんですが、海外派遣の申請は静岡県が18件で全国一。2位は東京都の13件です。人口の割合からすればすごい数字ですよね。派遣先は、かつては韓国が多かったが、今では南米、ヨーロッパ、オーストラリア、東南アジアと世界中に及んでいます。それだけ県内指導者の考え方が進んでいるということでしょう。長池先生などの指導を受けられた、現在40歳ぐらいの指導者層が大変充実していると思います。

 

(井田)長池先生の高い技術力に裏付けされた指導方法と、もう一つは堀田先生が清水に少年FCを作り、選抜方法を取り入れ、トレーニングセンターやコーチングスクールを始めた。それも、すべて全国に先駆けて始めたという点が大きいですね。

 

(長谷川)現在、静岡県内に指導者は800名いて、毎年100人ずつ誕生しています。他県では2年に1回ぐらいしかコーチングスクールをやらないという。川淵さんは今後5年間で3000人の指導者を育成すると言っています。静岡方式でやれば1年で4800人できるわけです。ただ、そうなるとコーチのレベルの問題が出てくる。日本協会で指導者レベルアップの対策を取ってくれればいいのですが、そうなると日本サッカー自体のレベルの問題ですからねえ(苦笑)。

 

(前嶋)現在、清水でコーチングスクールを受けにくる人のほとんどが、少年指導を目指す人なんです。たまに中学の先生や社会人チームで現役引退しそうな選手が来ますが、少年指導が多い。そうなると少年レベル、ユースレベルと分けて、専門的な講習会を設定してもいいと思う。

 

(長谷川)そうですね。準指導員は少年団で基本的なことを教える。その上のC・B級指導員は中学・高校レベル、A級はプロというように分けて、柔軟性を持ってやるべきでしょう。

 

(橋本)他県の足並みがそろうには、3~4年待たなければならないな。

 

(長谷川)準指導員は何人いてもいいと思います。1チームに何人もいて、選手がコーチを選べたり、場所と時間ごとにコーチを配置できるようになれば、チーム全体に柔軟性が出てくるんじゃないかな。指導の理念に確固たる一貫性があれば大丈夫だと思います。指導者個人のエゴで選手を潰すようなことがあってはいけませんから。

 

(前嶋)今、清水の少年団でそういう傾向が見られなくもない。もちろん指導そのものは熱心に考えてやってくれるのでしょうが、ちょっと気になっています。

 

(古川)女子の指導についても、女子専用のカリキュラムが必要です。今の男子対象の講習だけでは問題があるんじゃないでしょうか。

 

(加藤)そうですね。ところで古川先生、中学生の指導は教育の一環としてやりますから、大変な部分があると思いますが?

 

(古川)我々のプロジェクト委員会で一番問題になるのが、中学生の指導者不足です。中学チームは学校の先生でなければベンチに入れないんですよ。

 今、どこの中学校にもサッカー部があり、生徒数が減ってもサッカー部員は減らないという。当然、先生が付かなければならないが、サッカー経験を持つ男の先生が少ない。17時以降、社会人コーチを頼んでも、その人は試合でベンチに入れない。これは選手にとってたまらなく心細いことです。

 一人の指導者がいっぺんに指導できるのは、せいぜい18人です。ところがあまり経験のない先生が、70人も80人も見なければならず、顧問がいても職員会議だなんだと言ってグラウンドに来る時間が少ない。結局、1年生などは、一番ボール感覚が身に着く大切な時期であるにもかかわらず、ボール拾いやランニングで終わってしまうんです。6年前から静岡では1年生大会というのを始めた。最初、進学塾にスポンサーになってもらったものだから、体育協会からこっぴどく怒られまして(苦笑)、まあ、これが定着し、他県に比べれば問題解決に向かっているほうです。また3年生は夏の大会以降、引退という形で公式戦から退いてしまう。この時期はボールを扱うイメージや相手との接触感覚が一番身に着く頃なんですよ。なんとかしてやりたいと思うのですが…。

 少年指導においてはトレーニングセンター(以下TC)の目的が、正しく認識されていないという問題もあります。TCはチーム強化やチーム指導に当てはまる選手を育てるのではなく、選手個人の能力を引き出し、これをきちんと指導するのが目的です。あくまでも個が対象なんです。ですから井田さんのような個性を磨いてくれる指導者がTCに来てくれればありがたいんですよ。

 

(前嶋)TCはどの地域でもやっているんですが、TCで選抜を組むというやり方は少年レベルだとわりとスッと入っていける。静岡県の場合は選抜チームをよく組むから、TC方式は浸透しやすかったのでしょう。

 

(加藤)TC活動は全国でも活発ですが、静岡は県内まんべんなく行われているのがいいですね。

 

(前嶋)4年、5年、6年生それぞれ学年別に県大会があるのも静岡の特徴です。いいか悪いかは別にして、ある程度の普及効果や、少年たちの意識向上に役だっていると思う。今まで県中部が主流だったのが、県西部でも組織だった考えが出始めている。地域ごとに少年のレベルアップを考え、中学でも外国の指導者を入れるといった方向に進んでいます。これは歓迎すべき傾向じゃないかな。

 

(長谷川)それらが定着したところで、その上のレベルを目指す時、どうするかですよね。ブラジルでは8歳ぐらいから目星を付けられ、どのクラブに行くかも決まるという。

 

(前嶋)静岡県の場合はジュビロ、エスパルスというトップチームがあるのだから、トップクラスの指導者がユースやジュニアユースのレベルに入ってきて、TCの流れの中で選手を育てるという形になればベストだと思う。

 

(長谷川)日本協会で指導者を個人登録し、少年クラスのチームにも派遣するという形が望ましい。

 

(古川)そういう柔軟な考えがもっと浸透してほしいですね。選手の登録問題も同様です。クラブチームでプロの技術を学び、希望の高校で選手権を目指したいという子がいくらでもいるのですから。

 

(加藤)教育的に問題があるとよく言われるが、生徒はその辺、割り切って考えていると思いますねえ。

 

(長谷川)TCにしても(選抜されることに対して)子どもたちはそんなに抵抗感を持っていません。サッカーは力が勝負の世界だと自覚している。問題はむしろ、我々大人たちが組織や資格に対して、いかに柔軟に対応できるかでしょう。

 

(古川)TCに所属しなければ上に引き上げてもらえないという状況も問題です。中学3年の夏で引退させられても、サッカーが好きで学校のグラウンドで黙々と練習を続ける子がいる。子どもにとって、いつでもどこでもサッカーができるという環境を作ってやるのが大切じゃないでしょうか。

 中1や中3の生徒が思う存分サッカーができない、行きたいクラブや高校でプレーできない、指導者も選べない…静岡だけの問題じゃありませんが、子どもの立場から見ると、まだまだ整備し足りない部分がある。草の根的な運動になるかもしれませんが、誰かが声を出して始めなければ解決しないでしょう。

(つづく)

 


サッカー王国静岡その1

2010-06-16 14:31:27 | 本と雑誌

 12日(土)の『吟醸王国しずおか』パイロット版試写&トークIN藤枝の終了後、トークゲストの「喜久醉」蔵元青島孝さん、スタッフ、最終19時上映のお客さんで遅い夕飯を食べに行った時、食堂のテレビでサッカーW杯韓国‐ギリシャ戦をやっていて、みんなでサッカー談議で盛り上がりました。メンバーは藤枝の住人が多かっただけに、みんな詳しいのなんの。19日の日本オランダ戦は藤枝のパブリックビューイングで燃えるぞ~と張り切っていました。

 

 

 私ひとり、藤枝人のサッカー熱に煽られっぱなしでしたが、「これでも、昔、“サッカー王国静岡”って雑誌を丸一冊書いたことがあるんだよ~」と虚勢を張ってみたら、青島さんから「凄いじゃない、昔サッカー王国静岡で、今は吟醸王国しずおかなんだ~!」と冷やかされ、帰宅して久しぶりにその雑誌を引っ張り出してみました。

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学研スポーツムック STRIKER特別編集

『サッカー王国静岡』(1994年9月発行)

〈内容〉

◎日本の頂点に立つ静岡のサッカー力学/インタビュー・藤田一郎氏(前日本サッカー協会強化副委員長)

◎2002年への挑戦~ワールドカップを日本へ・そして静岡へ/対談・石川嘉延知事&小倉純二氏(日本サッカー協会専務理事)

◎王国の誇り85人 静岡県出身Jリーガー名鑑

◎カズ、世界に挑戦!静岡からエールを込めて―KAZU goes to ITALY/談話・納谷義郎氏(静岡県サッカー協会理事)

◎川口能活(横浜マリノス)インタビュー

◎BORN IN THE SHIZUOKA 対談/長谷川健太×三浦泰年

◎ALL OF 中山雅史★GONのルーツを追え!

◎ライバル静岡を語る/小嶺忠敏氏(国見高校監督)、大渕龍介氏(読売日本ユース監督)、古沼貞雄氏(帝京高校監督)

◎SPECIAL MEETING IN SHIZUOKA~Jリーガーを育てた指導者座談会

 

 

 この雑誌を企画した出版プロデューサーの土屋清さんは藤枝の出身。Jリーグが発足して2年目のこの時、故郷を離れて暮らす静岡出身者にとってのプライドの象徴として実現させたのでした。ライターもデザイナーもオール静岡人で作ろうということで、デザイナーの松永直人さん(藤枝東サッカー部出身)から声をかけてもらいました。

 特別サッカー通でも何でもない自分に書けるかどうか不安でしたが、インタビューの多くは土屋さんがやってくれて、自分は書き起こし&編集作業に徹することができ、「サッカー通じゃない人が読んでも分かるように書けてた」と及第点をもらい、安堵しました。

 

 

 中でも、『Jリーガーを育てた指導者座談会』は、自分の恩師のことが直接話題になったデザイナー松永さんが並々ならぬ思いで取り組んだコーナーだったようで、入稿後、彼から「専門的な内容で難しかったと思うけど、よくまとめてくれた。レイアウトもしやすかった」と褒めてもらったことを今でも覚えています。

・・・そんな制作者側の事情はさておき、この指導者座談会、サッカー王国の基礎を築いた名将たちの誇りと本音が吐露されていて、静岡県のサッカー事情に関心のある人にはかなり読み応えがあるんじゃないかと思います。

 

 ワールドカップで盛り上がっている時期だけに、改めて、Jリーグ誕生のころ、こんな座談会があったということを紹介してもいいかな~と思い、数回に分けて再掲しますね。

 

 

 

SPECIAL MEETING IN SHIZUOKA~Jリーガーを育てた指導者座談会

 

〈座談会メンバー *役職は1994年当時のものです〉

◇長谷川二三氏(藤枝東高校サッカー部監督・静岡県サッカー協会技術委員長・藤枝市出身)

◇井田勝道氏(静岡学園高校サッカー部監督・日本サッカー協会公認コーチ・静岡市出身)

◇前嶋孝志氏(高部小学校教諭・清水市サッカー協会技術委員長・焼津市出身)

◇古川一馬氏(静岡県サッカー協会理事・トレーニングセンター部長・清水市出身)

◇橋本忠弘氏(静岡県サッカー協会専務理事・藤枝市出身)

◇進行役/加藤真久氏(静岡県サッカー協会常務理事・沼津市出身)

 

(加藤)静岡県はJリーガーを85人も輩出し、平成5年度は9つの全国大会で優勝を果たしました。まさにサッカー王国にふさわしい躍進ぶりですが、もちろん、このような状況は一朝一夕で出来上がったわけではありません。いろいろな歴史を背景に、指導者の方々が熱心に指導された賜物といえましょう。

 まず、Jリーガーを大量に送り出した手腕ということで、彼らに最も近い高校チームの監督さんにうかがいます。全国で勝つより県内で勝つほうが難しいといわれる環境の中で、年間を通して指導し、大会を勝ち抜いていくにはプレッシャーがきつく、監督さん同士でしのぎを削ることもあると思いますが…?

 

(井田)私が高校サッカーの世界に入ったのは23年前(注・1971年)でした。当時は藤枝東の名将長池実先生をはじめ、美和利幸先生(浜名高)、勝沢要先生(清水東)といったみなさんが非常に熱心にやっておられ、藤枝東は見事全国制覇を果たしました。

 長池先生はヨーロピアンスタイルのパスをつなぐ組織プレーを日本で最初に高校サッカーに取り入れた。美和先生はイングランドスタイルの走りまくるパワーサッカー。勝沢先生は外側からえぐる勝負強いスタイル。みなさんそれぞれ独自のスタイルを持っておられた。他県では一県に一人ぐらいしかいませんでしたが、静岡には独自スタイルを持つ監督が大勢いましたね。そんな中に飛び込んで、最初はまったく歯が立たなかったのですが、なんとか自分らしいサッカーをやりたいと思いました。

 

(加藤)東京五輪やメキシコ五輪で活躍した山口、富沢といった選手は、長池先生の教え子でしたね。

 

(井田)とにかく当時は藤枝東の強さがずば抜けていた。長池先生が来る前から藤枝にはその素地があったと思いますよ。中学でも藤枝中学が県内では抜群に強かった。同じ藤枝地区では、西益津中、静岡市では城内中、清水市では袖師中、浜松では西部中学が強かった。そのあたりがサッカー王国の歩みを語るスタートになるんじゃないかな。

 

(前嶋)僕は焼津の出身ですが、中学時代は藤枝中にさんざんいじめられました。高校は藤枝東に行きたくてもレギュラーになれないだろうから、静岡や清水に行って藤枝東のエリートたちを見返そうと思った。

 

(古川)確かに僕らがサッカーを始めた頃の藤枝の力は絶大でしたね。教員になって清水に戻った時、2番3番じゃダメだ、藤枝を抜いて一番にならなきゃと思いましたが、やっぱりサッカーは11人のチームプレー。1人や2人うまい子がいたって無理なんですね。そこで清水では、清水FCという選抜スタイルを組み、藤枝コンプレックスを取り除くことから始めた。選抜のレベルを上げたことが、結果的に清水全体の底上げにつながったんじゃないでしょうか。

 

(加藤)藤枝の近代的なサッカーを、束になってやっつけようという気概が清水にはありましたね。清水FCには小学生から育てようとトレーニングセンター制度に真っ先に力を入れました。

 

(前嶋)自分の中学(焼津・豊田中)のころを考えると、藤枝周辺の中学の指導者に与えた長池先生の影響というのはすごかったと思います。僕は清水の高校へ進んで初めてリフティングを覚えたんですよ。今なら小学3年生でやるようなことです。清水の場合は、だから小学生から力を入れなきゃいかん!というわけで、ちょうど望月達、後藤、反町あたりの世代から小学生の基礎づくりを始めた。そこから生まれたイイものとイイものが重なれば、もっとイイものが生まれるだろうというのが清水FCの考えでした。これが小・中・高・社会人へと広がったんだと思います。

 

(加藤)藤枝ではテクニック重視の考えが今も続いています。テクニックといえば井田さんの指導が挙げられますが、やはり藤枝への対抗意識があったのですか?

 

(井田)とにかく長池先生をはじめ、すごい指導者がいたから、自分はもっと違った新しさを追求したかった。その中で70年代のブラジルのサッカーが日本人に合うのではないかと考えた。最初は先輩指導者に追いつけ追い越せでしたが、他人と同じことをやっていてはいつまでも追いつけないから、人と違うことをやろうと思いました。

 

(長谷川)僕らが高校生の頃は、日本代表の半数を藤枝出身者で占めようというのが目標でした。今は県出身者で実現させた。でもこれからはどうでしょうか。

 今後の問題は、第一に指導者育成です。長池先生が僕らのお手本だったように、僕らが今の若手のお手本になれるかどうか。それがダメなら世界から優秀な指導者を呼ぶという方法もあるでしょう。

 指導の世界も日本だけでなく、世界のレベルで考えなければならない時代です。静岡がそのあたりを柔軟に考え、率先してやるべきでしょうね。ハッキリ言って現場でモノを考える力は、日本のトップより静岡の指導者のほうが上だと思うんですよ。

(つづく)


パイロット版試写&トーク IN 藤枝

2010-06-15 10:17:10 | 吟醸王国しずおか

 6月12日(土)は藤枝市生涯学習センターで、『吟醸王国しずおか』パイロット版試写&トークの会を開催しました。15時・17時・19時の3回上映で、試写の後は藤枝市の蔵元(杉錦、喜久醉)とトークをし、終了後は吟醸王国しずおか映像製作委員会の蔵元7社(富士錦、正雪、初亀、磯自慢、杉錦、喜久醉、若竹)の自慢酒の試飲をお楽しみいただきました。

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 会場が駅から少し離れていて、車で来た人も多かったため、運転手の方には杉錦と喜久醉の汲みたて仕込み水を飲んでいただきました。「藤枝市内なのに、比べて飲むと違うね~」と蔵元同士も互いの水を試飲しながら、参加者と地酒談義・水談義を楽しみました。

 

 告知期間が短かったため、15時の回は30人ほど来てくれましたが、17時は5人、19時は3人と、ちょっと寂しい結果でした。

 杉錦、喜久醉ファンにはサービス満点のプログラムじゃないかと思ったんですが、自分の力の至らなさを恥じるばかりです。

 

Imgp2603 ・・・それでも最後まできちんとトークをし、試飲コーナーでも丁寧に解説をしてくれた杉井均乃介さん、青島孝さんの誠実な態度には、本当に感動しました。お2人と至近距離でざっくばらんな話が出来て、17時・19時の参加者の方はとても喜んでくれたみたいです。

 

 

 15時の初回に車で来て、「こんなにいい酒が一度に試飲できるなんて」と、いったん帰宅して車を置いて、17・19時の会に来てくれた人もいました。「飲み会の予定があったけど、ここにいるほうが楽しい」と、終了後の食事会までImgp2598 つきあってくれた人もいました。

 

 

 19時の回の直前10分前に、HPで知って大慌てで会場へ駆けつけたという藤枝在住のライター青陰悦子さんは、ご自身が復興に尽力中の島田みのる座で完成上映会を…という素敵なプランを提案してくれました。青陰さんのブログはこちら

 また静岡から駆け付けてくれた一級建築士・家具デザイナーの野木村敦史さんからも「職人仲間の勉強会で試写を」と嬉しいプランをいただきました。野木村さんのブログはこちら

 

 この作品が、酒の業界の枠にとどまらず、地域を良くしたい・地域で頑張りたいという人々とつながって、みなさんで育ててもらえたら…と強く願います。

 日本酒のプロモーション映像なら、酒造組合や酒販組合が造ればいいし、個々の銘柄のPRなら各社がCMを作るなり個別にテレビ取材なり受ければいいこと。私のような立場の人間が、心ある同志や蔵元の協力で制作する以上、「心でつながる」「心でつなげる」やり方を貫こう…と噛みしめました。

 12日の様子はこちらをぜひご覧ください。

 

 

 まだまだ完成への道は険しく、「力不足」でイジケてる余裕はありません。次回は掛川。飲食店内の壁掛けテレビでの試写なので、大きなスクリーンとは違ってちょっと観づらいかもしれませんが、ぜひ多くの方に来ていただきたいと思います!

 

 

 

◆掛川会場
◇日時 6月27日(日) 15時~ *随時上映

◇会場 <試写>掛川ターミナルホテル1階「駅前天国PACCHI」、<はしご酒交流会>「さんぱち屋」「蔵」 *いずれも掛川駅徒歩3分圏内

◇費用 1000円 試飲・おつまみ付き

◇申込 吟醸王国しずおかHP *当日参加もOK


コミュニティレストランでの試写会

2010-06-14 09:50:34 | NPO

 先週末の11日(金)、12日(土)と、『吟醸王国しずおか』パイロット版試写会を行いました。

 このところ毎週のように各地で試写の機会をいただき、この映画が少しずつ“進化”しているような気がして、大きな手ごたえを感じています。今月は18日(金)に静岡市内の異業種経営者の情報交換会『気楽勉強会』、23日(水)は県職員有志の方の集まり、27日(日)には掛川での試写&はしご酒交流会で試写を予定しています。各試写会の関係者の皆さまには、改めて深謝申し上げます。

 

 11日(金)の試写会会場は、浜松市のコミュニティレストラン『てまえみそ』。コミュニティレストラン(コミレス)とは、地域住民の“お茶の間”や“集会所”を兼Imgp2593 ねた地域密着型のレストランで、多くがNPOによる非営利運営です。

 

 私も長年、NPO関連の取材をし、独り暮らしの高齢者、家庭内で孤立化する子育て世代、ひきこもりがちな障がい者、地域ボランティアの活動拠点を模索するシニア世代の人々などが集まるコミュニティスペースが各地に増え、そういう場所にはちょっとした食事処や物販コーナーが自然発生している例をたくさん見てきました。

 コミュニティレストラン(コミレス)という言葉があるのは今回初めて知りましたが、これはNPO法人研修・情報センター代表理事で、酒の世界では『酒蔵環境研究会』の代表幹事としても知られる金沢大学大学院の世古一穂教授が提唱し、全国展開しているものだそうです。

 

 浜松の『てまえみそ』は、浜松のNPO法人アクティブシニアタンク理事のImgp2594田久恵さんが、自宅を改築する際に、思い切って1階をコミレスにしようと一念発起し、自前で厨房設備をそろえ、調理師免許を取って2005年に開店。現在、固定店を持たない出張料理人や、これから独立して店を持ちたいという料理研究家の方々に曜日変わりでレンタルさせるという方法で運営しています。毎週火曜日には新鮮朝市を、店内では常時クラフトショップを展開中で、地域の催事情報等も多数取りそろえています。

 こういう場所は、ひところは、市役所のロビーや出先機関のオープンスペースなどでよく見かけましたが、今はこうして地域の中に溶け込んで、ご近所のみなさんが気軽に“お茶の間”として利用できるようになったんですね。

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 11日は『てまえみそ』で月1回、地酒サロン「地ねた屋」を開催する旭屋酒店さんがパイロット版試写を企画してくださいました。世古教授はじめ、浜松市内でさまざまな地域活動に尽力されているNPO関係者、プランナー、市職員、酒販関係者など、“情報感度”の高い方々18人が集まり、パイロット版を観賞した後、映像に登場する酒蔵4社の酒と、出張そば職人野澤俊治さんのそば料理を楽しみました(試写会の様子はこちらをご覧ください)。

 

 

 

 現在、展開中のパイロット版試写会は、今回のように、少人数でも地域をよくしたいと何らかの活動をしている人々に直接届く形で開催できるスタイルが、自分としても理想的だと思っています。地酒ファンはもちろんのこと、日本酒とあまり接点のない方でも、この作品の“地域資源の価値を伝える”という趣旨をキャッチしてくださる方に、一人でも多く観ていただきたい。

 

 DVDを観賞できる環境であれば、どこにでも出張しますので、よろしくお願いいたします!

 


中日新聞掲載の日

2010-06-11 12:07:06 | 吟醸王国しずおか

 昨日(10日)の中日新聞朝刊県内版(16面)をご覧いただけたでしょうか?『吟醸王国しずおか』の制作への思いを書かせていただきました。元の原稿は掲載分よりも3倍ぐらい長くて、編集サイドでかなり削られてしまいましたが、資金不足で四苦八苦している中、これだけの紙面を提供していただけるなんて本当にありがたい…! これも、長年、私のライターとしての成長を見守ってくださった中日新聞東海本社の編集委員・長井満喜廣さんのおかげです。

Imgp2588  

 他の業界と同様、下請けのライターや映像制作者が置かれた環境というのも厳しさを増す一方で、何か自分たちから仕掛けていかないと不況の大波にいとも簡単に呑まれてしまいます。そんなとき、思うのは、たとえばライターとしてまともな仕事ができない者が、目先の変わったことに手を出したとしてもやっぱり中途半端で終わるんじゃないかということ。

 

 私の周辺にも、「スズキマユミはライターで食っていけなくなって映像に手を出し、酒屋にカネをたかっている」とか「ろくな資本もないから、今になって募金だ何だと騒いでいる」と批判する人がいますが、『吟醸王国しずおか』は、世間から相手にされなくなったライターが一人で騒いで出来るものじゃありませんし、ライターとしてまっとうな仕事が出来ない人間に、新聞の紙面が提供されるはずもありません。

 確かにこのご時世でのライター稼業はタイヘンで、仕事の量は確実に減っているけど、ギャラは少なくとも「スズキさんだからお願いする」という仕事がある限り、プロとして恥ずかしくない仕事をしたいですね。

 

 

 『吟醸王国しずおか』はライターとしての地酒取材歴22年の結晶。食える・食えないで線引き判断して作っているんじゃないし、食えなくなっても女一人、今の世の中、生きて行く方法はきっとあるはず…と楽観しています。今のNHK朝ドラ『ゲゲゲの女房』で水木しげるさんが貧乏神に取り憑かれてても泰然自若としている姿に、どことなく励まされています。もっとも水木さんは後に大家になるって視聴者の誰もが知ってるから安心して観ていられるんでしょうけど(苦笑)。

 昨日の中日新聞の原稿は、そんな思いも込めて綴りました。中日の読者の多い県西部地区の方、どうぞよろしくお願いいたします。長井さん、本当にありがとうございました!

 

 

 

 

 さて昨日は丸一日東京でした。朝、静岡駅で中日新聞を買って新幹線の中で目を通した後、新宿伊勢丹で9日~14日開催の『チアアップ!ニッポンの“食”展』を観に行きました。

 

 以前、JA関連の仕事で「地産地消をさらに進めて日本の食料自給率を上げる(=関税率が緩和され海外から食料がドッと入ってきたら日本の農業が壊滅するから)」というようなメッセージ性あるポスターのImgp2590 キャッチコピーを、という依頼を受けて、今の日本の農業の実力って、幕末の黒船襲来時みたいにアタフタするほど脆弱なんだろうか…と心配になったことがありました。

 その一方で、静岡県の広報の仕事で、川勝知事が、静岡県は食材品目数が日本一の「食の王国だ」とさかんに強調されるのを聞いて、それって日本中で認識されている話なんだろうかと思いました。

 

 

 今回の伊勢丹のイベントは、食料自給率向上に向けた官民一体のキャンペーン「FOOD ACTION NIPPON」の一環。よくある“全国うまいもの物産展”的な催事とは違い、イートイン、農産物、直売所、海産食材、畜産食材、チーズ、スイーツなどいろいろなジャンルに分かれて、全国のわりと隠れた逸品や地元でしか知らない新しいB級グルメみたいなものがたくさん出ていました。

 

 

 Imgp2589 とくに興味深かったのは、生産者と有名シェフが「地方食材のコラボレーション」をテーマに、日替わりランチプレートを均一2100円で食べさせてくれるプロジェクト“Cu-Cal”。

 この日は軽井沢のフレンチ『エルミタージュ・タムラ』田村良雄さんが軽井沢サラダファーム依田義雄さんの野菜、東京銀座の『レカン』高良康之さんが群馬・「太陽と雨」奥田典子さんの野菜を使ってワンプレートランチを紹介していました。私は田村さんのほうをチョイスして、カウンター越しに田村さんの手仕事を眺めながら味わうことができました。…ファンの人にはたまらない企画ですね!

 

 ただ、フロア全体をザッと観渡した限り、静岡県の食材はゼロでした。北海道から九州まで、出展者の地域は全国まんべんなく揃っていましたが、緑茶のブースがあったかと思ったら三重県の業者…。静岡県の業者が参加しない事情はよくわかりませんが、新宿伊勢丹のような情報感度の高い場所で、しかもニッポンの食をテーマにしたイベントならば、もっと図太く賢く利用すればいいのになぁと率直に思ってしまいます。

 

 

 

 

 午後はANAインターコンチネンタル東京で開かれた(社)日本ニュービジネス協議会連合会の総会取材。記念講演の講師は長野県小布施町の町おこしでおなじみ・枡一市村酒造場の市村次夫さんです。市村さんは長野県のニュービジネス協議会の前会長で、10数年前、かのセーラ・マリ・カミングスさんが入って話題になったころ、静岡県ニュービジネス協議会の視察でうかがったことがあります。

 

 町を整備する目的は、第一に地元住民にとっての住み心地、第二に地域のアイデンティティ、第三に産業振興や観光振興だというお話が印象的でした。ややもすると産業や観光の振興を優先する町おこしが多い中、当初からこの順列で一貫して取り組んできたことが、小布施の成功につながっているようです。町おこしの哲学として見事ですね!

 

 本業の酒造のほうは、「年間生産量が200石程度で、売り上げは1億2千万。ふつうの蔵元が1億2千万売りあげようと思ったら1000石は造らないと出ないと思う。その分うちは売値が高い」そうです。直売化した上、高くても売れるしくみを作ったのはさすがニュービジネス団体の代表を務めるだけの経営者。「資本は品質向上に投下し、しかも価格を抑えて売る」静岡の蔵元とはある意味対照的ですね。…私はそういう蔵元を『吟醸王国しずおか』として必死に世に伝えようとしているわけですが、こういう成功例を聞かされると複雑な気持ちになります…。

 

 

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 夜は、静岡県地酒まつりIN東京の常連さんで、日経BP社を早期退職し、先月21日、開店した菅原雅信さんの日本酒バー『酒庵 醉香』を訪ね、開店祝いに先日京都松尾大社で購入したお守りをお届けしました。場所は押上駅から歩いて10分くらい。建造中の東京スカイツリーのお膝元です。

 他に高層ビルのない、地方の町の昔ながらの商店街みたいな一角で、築50年の酒屋を見つけて開業されたそうです。

 

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 醉香は2000円で好きなお酒90ml+おまかせおつまみ4品が付き、後は自由にオーダーできるしくみです。お酒は全国の有名無名がそろっていて、静岡県では『開運』だけでしたが、「これから徐々に増やしていきますよ~」とのこと。

 

 私は秋田出身の菅原さんにちなんで、いぶりがっこを肴に秋田の純米酒を一杯。…ホントにここが東京都内で、スカイツリーがオープンしたら大規模開発で町が大きく変わると言われる場所なのか…なんだか不思議ひとときでした。

 

 

 

 

急遽決定!「吟醸王国しずおかパイロット版」試写&トーク 参加者募集

◆藤枝会場

◇日時 6月12日(土) ①15時~ ②17時~ ③19時~

 <各回およそ1時間・試写(20分)+蔵元&監督トーク>

◇会場 藤枝市生涯学習センター 第1会議室 

(藤枝市茶町1-5-5 TEL054-646-3211

*JR藤枝駅よりバス中部国道線10分、「上伝馬」もしくは「千才」下車、徒歩10分)

 

◇費用 無料

 

◇申込 直接会場へお越しください。

 

◇参加蔵元  杉井均乃介さん(「杉錦」蔵元・杉井酒造)、青島孝さん(「喜久醉」蔵元・青島酒造)

 

◇吟醸王国しずおか映像製作委員会加盟の蔵元より試飲酒を提供していただきました。試飲ご希望の方は、公共交通機関にてお越しくださいませ! お車でお越しの方には、杉錦、喜久醉のおいしい汲みたて仕込み水をご用意いたします。