secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ

2021-10-08 17:00:16 | 映画(さ)
評価点:83点/2021年/イギリス・アメリカ/163分

監督:キャリー・ジョージ・フクナガ

ボンドの罪と罰。

スペクターとの闘いの後、マドレーヌ・スワン(レア・セドゥ)とイタリアで隠退生活を送っていたボンド(ダニエル・クレイグ)は、それでもマドレーヌに心打ちを明かすことができなかった。
過去との決別のため、昔の恋人ヴェスパー・リンドの墓を訪れた際、何者かに攻撃される。
誰にも居場所を知られることがないはずなのに、ばれてしまったことから、ボンドはマドレーヌを疑う。
追っ手から逃れた二人は、別れる決断をする。
その5年後、ジャマイカで過ごしていたボンドに、アメリカのCIAが訪れ、誘拐された細菌科学者救い出す作戦に協力するように頼まれる。
M16からも同じことを頼まれ、その背景の不穏さを感じたボンドは、CIAに協力することにするが……。

ダニエル・クレイグが演じる007の最後の作品。
見てもらえればわかるが、最後になることは確実であろうというラストになっている。
何度もコロナの影響で上映が延期となり、やっと公開にこぎつけた。
結果2年くらいずっとトレーラーが映画館で流されるという異例のプロモーションになった。

映画としては独立しているが、ダニエル・クレイグのシリーズは(007を詳しく知らないが少なくとも)連続しているので、ある程度理解するには前作「スペクター」を鑑賞しておく必要がある。

上映時間は長いし、あっという間なんていう生やさしい表現はできないくらい、やはり長い。
体調を整えて臨みたい。
私は非常に楽しい時間を過ごすことができた。
ぜひ、映画館で体験してほしい。

▼以下はネタバレあり▼

「007」について多く語ってもどうせ俄ファンにすぎないので、一連の流れや伝統について正統に言及できない。
よって、この作品についてのみ、語ることにしよう。

上映時間が長いこともあって、非常に複雑な話になっている。
細かい設定や結構を解説してもキリがないので(また前作までの流れをおさらいしてしまうことにもなるので)、最小限にする。
話題にするのは作品のテーマについてだ。

ヘラクレスというイギリスが開発を進めていた細菌兵器は、DNA情報によって殺害できる相手を選別できるというものだった。
そして、その改良版が、今回のボスであるサフィン(ラミ・マレック)が農園で作ったという、「触れる相手をすべて殺してしまう」という禁断の「保険」だった。
その改良版ヘラクレスに侵されたボンドは、農園ごと吹き飛ばすミサイルもろとも抹殺される。

このヘラクレスという生物兵器の設定が非常にうまかった。
ボンドはこれまで何度も女性を抱いてきた。
いやっちゅうほど、うらやましいほど情事を重ねてきた。
世の中の女性は、ボンドに抱いてもらえるかもらえないか二種類しかいない。
それくらい女性を悦ばせ、そして泣かせてきた。

そのボンドが本当に愛すべき人を見つけた。
それがマドレーヌだった。
しかもそのマドレーヌとの間には、自分と同じ目をした娘も生まれていた。
やっと安息の場所ともいえる「家」を見つけた。
しかし、ヘラクレスに侵されたボンドは、もう二度と愛する人に触れることができない。
これは絶望的なことだ。

あのミサイルの嵐からもしかしたらボンドなら生き延びることができるかもしれない。
映画なので。
だが、触れることができない、という決定的な罰を背負ってしまったボンドが、生き残っても生きる道は残されていない。
クレイグのボンドに生きているという設定は、あり得ないのだ。

これまでボンドは多くの女性を抱いてきたのと同時に、多くの人間を殺してきた。
その殺しのライセンスをもった罪を、触れる者を全て殺してしまうという罰によってあがなう物語なのだ。
しかも、最も残酷な時期、真っ暗で、真っ黒な殺しの人生の中で、一筋の光を見つけたそのときに、残酷な罰を背負わされるのだ。
これが泣かずにいられるだろうか、いやいられない。

しかも、この昨今である。
新型コロナウィルスの蔓延によって、人と人が直接ふれあうことが難しくなったこの時期に、この設定のラストを用意する。
これが泣かずにいられるだろうか、いやいられない。

そこにはミサイル攻撃を完遂させるための自己犠牲などという甘美なラストではまだ生やさしい。
徹底した罪と罰が描かれている。
さらに言えば、ボンドを知る人間は数少ない。
M16の中でも数人だけだ。
彼が生きた証を立てて、そして彼を偲ぶことができる人間は、彼が今まで果たしてきた役割に比べてあまりにも小さい。
この孤高の男の最後を、たった数人の献杯で終わらせてしまう。
なんと悲しいことなのか。

もうマドレーヌとマチルドはおれがめんどうをみる!

……おほん。ちょっと取り乱しました。失礼しました。

とにかく集大成というにふさわしいラストだった。
タイトル「ノー・タイム・トゥ・ダイ」は直訳すれば「死ぬための時間なんてない」ということだが、作品のテーマから言えば、「しっかり今を生きろ」ということだろう。
太く強く輝くように燃えて、燃え尽きた、ボンドの生き方そのものだ。

物語の要素が繋がるまで(サフィンが黒幕であることが明らかになるまで)かなり回り道をする。
特に、前半のマドレーヌとボンドの関係があっさり終わってしまうのは、ちょっと驚きであり不自然さも感じる。
そもそもスペクターは情報を世界中から集める、という技術を持っていたのだから、二人がいちゃついている場所など、マドレーヌが明かさなくてもいずればれてしまうことだったはずだ。
それなのに、疑心暗鬼に駆られてボンドが別れてしまうのは性急だったし、冷静さを欠いていたように感じる。

だが、マドレーヌは他ならぬミスター・ホワイト(過去のヴィラン)の娘だった。
目の前にいるマドレーヌが本当なのか、判断がつかなかった。
そして何より、ボンドはマドレーヌを深く愛していた。
だからその判断が、本当なのかどうかすでに判断力が鈍っていた。
マドレーヌを疑ったのか、自分の愛を疑ったのか。
とにかく別れるという決断を下す以外に、選択肢はなかったのだ。

ヴィランであるサフィンについてもわかりにくい。
物語が冗長に感じるのも、こいつの性癖(?)がゆがみにゆがみまくっているからだろう。
スペクターを抹殺して、ボンドを付け狙うのは、スペクターの一人だったホワイトに、家族を殺されたから。
そしてその家族を殺したホワイトの娘マドレーヌに、自分と同じ境遇に陥れるため。
さらには、そのために、マドレーヌが愛した男、ボンドを標的と定めて、ボンドを殺すことでマドレーヌをどん底に落とそうとした、ということだ。

え?

もうちょっとマシな動機はなかったのか。
ほとんどボンドは巻き込まれた感じになっており、マドレーヌという人間を浮き彫りにするには役立っているが、サフィンという人間がなぜそこまで「助けた女性に執着するのか」という点がわからない。
こいつはこれ以外に特別な体験を一切してこなかったのか、マドレーヌに対する感情は負なのか正なのか。
もう少しすっきりさせたほうがアクション映画としてはすんなり落ち着いた気がする。

ヘラクレスで実質的には世界を手中に入れたことには変わりないので、ボンドとマドレーヌについては余興に過ぎなかったのかもしれないが。

もう一つ。
国際問題になりかねないロシア領を空爆したことが、実際どのように扱われたのか、処理されたのかという点は描いてほしかった。
そこが一つの見せ場になっており、うまくいったことを示すことがボンドへの弔いでもあると思うから。

とはいえ、傑作といえる作品であることは変わりないだろう。
私は一気に007のファンになってしまった。(単純)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イコライザー2(V) | トップ | 消費者としての自分、労働者... »

コメントを投稿

映画(さ)」カテゴリの最新記事