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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

THE FIRST SLAM DANK

2023-01-17 19:52:32 | 映画(さ)
評価点:73点/2022年/日本/124分

原作・脚本・監督:井上雄彦

「スラムダンク」の原点

宮城リョータ(声:仲村宗悟)。
小学生のころに父親を亡くし、バスケットが大好きだったソータとともに過ごした。
しかし、そのソータは父が死んで間もなく、後を追うように亡くなった。
それから高校二年生になったリョータは全国大会常連の山王高校との一戦を迎えた。
手首にはソータが身につけていたリストバンドが巻かれていた。
神奈川県代表湘北高校と秋田県代表山王工業高校との激闘が始まる……。

井上雄彦による新たな映画化プロジェクトとして公開された。
プロモーションにイロイロと批判が集まり話題になってしまった。
テレビアニメの声優を全部入れ替えたり、主題歌が全く違っていたり。
ファンが期待していた山王戦をやってくれるのかくれないのか。
早くから前売り券を発売したのにもかかわらず、情報がほとんど漏れてこなかったことが批判の的になったようだ。

しかし、封を切られてからは破竹の勢いだ。
欧米で話題になっていた「アバター」なども公開されているが、何週も連続で観客動員数を確保している。
作品が良ければ当然興行収入も伸びる。
私は上映時間の関係もあってアイマックスで鑑賞した。


▼以下はネタバレあり▼

私は「スラムダンク」連載時にジャンプを購入しており、単行本も集めていた。
何度も読み直し、「リアル」「バガボンド」も集めている。
画集も持っているし、漫画展も行った。
けれども、おそらくそういう人は多いだろうから、それほどマニアックというわけでもない。
原作のコミックもおそらく10年以上読んでいない。
アニメのほうは作画が好きじゃなかったので、ほとんど見ていないので、声優が変わったことが批判の的になっていてちょっとびっくりした。
あのクオリティでそれほど人気があったとは知らなかったからだ。
(もともとマンガのアニメ化が好きじゃないので、原作のクオリティと比してよいアニメ化だとは思っていなかった)

それはともかく、見に行った周りの人には見に行った方が良いと勧められたので、見に行くことにした。

先に断っておくが、映画と原作と比較するのは辞めようと思う。
井上雄彦自身が作品を作り出したとはいえ、それだけファンにとって思い入れの強い作品が、何十年も経ってから映画化されればどうしても読者側の作り上げた理想像がある。
それを全く理想通りの作品を作り上げることなど不可能だからだ。
この年月でバスケのルールも変わっている。

原作通りの映画を望むのは「映画」や「マンガ」の特質を無視することにもなる。
どこがどう違うのかを議論してもあまり生産性があるとは思えない。
映画は映画として自立しておくべきである、という見方もある。
(原作を知らなければ楽しめないのならそれは駄作である)

だから、むしろ問題にすべきは、「これが「スラムダンク」と言えるのはなぜか」という、共通点のほうだ。

映画を見終わって、これは私が知っている、しっかりとした「スラムダンク」だったと感じた。
それだけ時が経っていたとしても、あのときの興奮がよみがえってきた。
それだけのクオリティはあったと思うし、原作にあった「らしさ」や「魅力」は感じられた。
では、それは何か、ということだ。

平たく言えば、「バスケットボールによって人生を救われた者たちのドラマである」ということだ。
そして「寝ても覚めてもバスケットボールが好きだ」ということだ。

宮城リョータは幼くして父親と兄を亡くした。
彼の支えであった二人を亡くして、家族はバラバラになってしまった。
もちろん一緒に住んでいる。
けれども、兄という要石(かなめいし)を亡くしたことで、母親ときちんと向き合えなくなってしまう。
彼の心の支えは、いつだってバスケットボールだった。
友達がいなくても、バスケットボールと向き合うことで自分をつなぎ止めてきた。

上級生(三井寿)と喧嘩して、バイクで事故をして自分を見失った彼は、初めて兄が死んだことを悲しむ。
自分にとってかけがえのないものをなくしたことを初めて認める。
ずっと強がって生きることを教えられてきた彼は、バスケットと向き合うことで兄との別れと正面と向き合ったわけだ。
覚悟を決めた彼は、兄とともに山王高校との試合に臨む。

これは原作の再話である。
映画化することによって原作の語り直しなのだ。
それは、映画化する態度としては正しかったのだろう。
どの試合にフォーカスするにしても、2時間という上映時間を考えればすべてのキャラクターや出来事を網羅的に描くことは難しい。
しかも、新しい映画化として立ち上げたプロジェクトも、一作で終わるのかもしれない。
映画として成り立たせるには、どうしても語り直しが必要だった。
作品としての統一性を出すためには、一人を描くということは正しかったように思う。

そしてなにより良かったのは、「説明しなかったこと」だ。
映画として心情を事細かに説明されることほど、野暮なことはない。
リョータの涙を、秘密基地まで描かなかったあたりも、映画を理解しているのだな、という印象を与える。
そのため物語が軽くならずに、キャラクターに重みが出た。
(「僕は悲しい」と明示されることほどその「悲しみ」は軽くなる)

湘北の5人の境遇を、断片的であっても描くことで、バスケットに向き合ってきた5人が成し遂げた勝利の意味を描き出すことができた。
すなわち、全国でも常勝のチームに勝つことができた必然性が描き出されている。

タイトル「THE FIRST」とあることから、次回作への期待もあるようだ。
(私個人としては、マンガで描けなかった「第二部」を映画にしてほしいけれど。
いや、それ以上に中途半端になっている「リアル」「バガボンド」を終わらせてほしい。
新しいことを始めるのも重要だが、始めたことを「終わらせる」ことも重要だと思うので。)

映像の見せ方が話題にもなっている。
思った以上に違和感はなかった。(全くなかったとは言わない)
少なくとも躍動的なバスケットの楽しさは描かれていたと思う。

しかし、それでもこの映画に自立性はない。
結局「スラムダンク」の原作ファンの人気にあやかった作品であることは間違いない。
ファンも、それを望んでいるからこそこの人気ぶりなのだろう。
その意味では井上雄彦もファンの共犯関係にある。

とはいえ、日本におけるマンガ人気、スラムダンク人気が圧倒的だったことを改めて認識させる年末年始になった。



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