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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ドント・ルック・アップ

2021-12-15 20:50:49 | 映画(た)
評価点:83点/2021年/アメリカ/146分

監督・脚本:アダム・マッケイ

これが現代のパニック映画。

天文学の大学院生ケイト・ディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)は念願の新しい彗星を発見した。
指導教諭のランダル・ミンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)たちのチームで検証したところ、半年後に地球に蝶とすることが分かった。
震える手でNASAに連絡し、クレイトン・オグルソープ博士とともに大統領に直接掛け合う機会を得た。
しかし、予備選挙を控える大統領は忙しく、話をすることさえできなかった。
翌日ジャニー・オルレアン大統領(メリル・ストリープ)に話をしたが「静観して精査する」という解答だった。
絶望したケイトとランダルは、メディアにかけあい民衆に知らせることにするが……。

Netflix制作のコメディ映画。
話の設定としては20年前に公開された「ディープ・インパクト」などと同じで、いわゆるディザスターや終末思想をモティーフにした作品と言える。

だが、趣は全く異なり、コメディ映画になっている。
ただし、大真面目に作られているので、安っぽい感じは全くない。
これが飛ぶ鳥を落とす勢いの、天下のNetflixかというくらいの、素晴らしいクオリティだ。
12月24日以降に全面解禁されるらしいので、Netflixに入っている人は是非見るべきだ。

なにせ出演陣が豪華すぎる。
ディカプリオ、ジェニファー・ローレンスだけではない。
報道番組の司会者にケイト・ブランシェット、ちょい役のアーティストにアリアナ・グランデ、ティモシー・シャラメ(「DUNE」の主人公)、ヒメーシュ・パテル(「イエスタディ」の主人公)などなど、そうそうたる顔ぶれだ。

私はこれを契機に、Netflixに入りたいと同居人に交渉したくらいだ。
(一蹴されたが)

▼以下はネタバレあり▼

彗星が半年後に地球にぶつかる、といわれてどれくらいの人間がそれを本気で受けとめるのか。
「ディープインパクト」が公開されたときは、感動の嵐で涙が止まらなかったが、実際今だとどうなのか。
おそらくだれも信じないだろう。
そういう危機的な話はほとんどオカルト的な、迷信に近い話としてしか捉えられないだろう。
この映画はその様子を描いている。

とにかくここに出てくる登場人物は目の前のことしか考えられない。
大統領選挙、視聴率、SNSの反応、お金儲け、自社の商品の世界シェア、性欲……。
発見した二人の学者は、これを発表したら大パニックになるのではないか、と恐れていたのに、みんなの反応はほとんどなかった。
それどころかぎりぎりまで「落ちてこない」「ウソだ」といって信用しなかった。
危機感がまるでないのだ。

しかし、これを単純に映画の中だけの世界だ、と笑うことができないのがこの映画のすごいところだ。
私は、大統領に話す最初のシークエンスを、ディカプリオと同じくらい緊張して体験した。
こんな重大なことを、どうやって伝えるのか、どう分かってもらうのか。
そして、なぜこんなに待たされるのだ!と。
この映画の絶妙さを象徴するようなシークエンスだったと思う。

タイトルの「ドント・ルック・アップ」もさいこーである。
大統領が、「下をみて歩こう!」「上なんて見なくていい!」と熱弁する姿に問題を直視したがらない民衆は熱狂する。
現代社会を痛烈に皮肉っているわけだ。
地球温暖化、地下資源の枯渇、民族紛争、貧富の拡大、海洋汚染…あらゆる危機的な状況から私たちは目を背けることをし続けている。
たしかに、それらの全てが地球や人間を破壊的に損なうものなのかはわからない。
けれども、その警鐘に目を向けることなく、見たいことだけを見ようとするその姿は、笑えるけれども笑えない、すごくふざけた映画だが真剣な映画でもある。

彗星発見の当の本人である、ミンディ博士ですら、時代の寵児ともてはやされて人気報道番組の司会者と不倫してしまう。
(このケイト・ブランシェットもまたさいこーだ。)
徹頭徹尾、自分の目の前のことしか人は考えられないのだ。

アメリカ大統領と、バッシュなるスマホのCEOとの関係性もほんとうにおもしろい。
科学的な査読はされているのか、というミンディに対して、マーク・ライアンス演じるCEOは、ほとんど宗教的な妄言で対抗する。
ミンディは閉口するが、私たちはこういう大金持ちを知っているだろう。
そしてしばしば私たちはこういう超然的な態度をとる人々に感化されてしまう。

こういう事実を見ようとしない人々に対して、現実は徹底的にクールに、確実に訪れる。
レアメタルを掘り起こす計画は見事に失敗、大統領もCEOも逃げ出してしまう。
そして彗星が衝突し、地球は甚大な被害を被る。
そこには感動的な別れも、印象的な死もなにもない。
ただ、人々がこの時点でやっと「やっぱりだめだったんだ」と気づくだけだ。

エンドロール中、後に挟まれるシニカルなシーンも、どんなに追い込まれても事態を真剣に受けとめることができない人間の姿が描かれている。

だが、この映画をみて笑っている私たちは、どれくらいこの映画の登場人物と違った行動がとれるだろうか。
笑いが大きければ大きいほど、私たちはもう「笑うしかない」くらい事実を簡単に受けとめることができなくなっている。

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