secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ワールド・ウォーZ

2013-08-23 17:50:34 | 映画(わ)
評価点:80点/2013年/アメリカ/116分

監督:マーク・フォースター

これは! 新手のスタンド使いか?!

国連の調査員だったジェリー(ブラッド・ピット)は家族との時間を優先するため、アメリカ・フィラデルフィアに住んでいた。
世間ではなぞのウィルスがニュースを騒がせていた。
ある日、いつも通り娘二人を学校に送ろうとしたとき、トラックが突っ込んでくる。
人が豹変し、人間を襲っていたのだ。
とにかく逃げ出すべきだと判断したジェリーたち家族四人は、医療品と食料を求めてスーパー・マーケットに向かうが……。

ブラッド・ピットの制作会社プランBが版権を獲得し、映画化にこぎ着けた、「夏の大作映画」である。
ずいぶん前から映画館でも予告編が流されていたので、見た人も多いだろう。
ジブリやピクサーなども話題だが、こちらも話題作の一つに違いない。
スター・トレック」までの2週間でどれだけ映画館に足を運ばせるかが商業的な命運の岐路といったところか。

予告編だけではどんな映画なのかわからない。
ヤフーなどのレビューサイトをみるとすぐにわかるだろう。
この映画はゾンビ映画である。
けれども、どこまでもマニアックなオマージュの連続となるこれまでのゾンビ映画の系譜とは一線を画する。
むしろ、そういう残酷描写やオマージュといった要素は廃されている。
素直に、子どもから大人まで楽しめる、そんな映画になっている。

▼以下はネタバレあり▼

私はゾンビ映画が好きだが、それほど詳しいわけでもない。
ゾンビ映画が流行るのは、いま生きている人間社会が自然からみるとひどく不自然だからだろう。
他の生物、とくに敵対するような生物が一切排除された形で生活しているのは人間くらいだ。
街を歩いていて、いきなりライオンやイノシシやオウムにおそわれて命が奪われることはまずない。
ウイルスや細菌類などに過剰反応してしまうのは、それが目に見えないものであり、人間以外の生命体(めいたもの)に命を奪われてしまうかもしれない数少ない脅威だからだろう。
飼い犬に殺されてしまう可能性もあるが、それならお酒を飲んだ運転手に轢かれる可能性のほうがずっと高い。

だから、人間がもっともわかりやすい脅威なのだ。
人間が何らかの形で狂気に走り、人を襲い始めたら……という想像は人間社会に生きている人なら誰しも想像しやすい恐怖なのだろう。

この映画の見所は、その世界的なパニックが全世界に広がったらどうなるか、ということを映像で見せてくれているという点だ。
ミニマムな視点ではなく、CGによる俯瞰的な視点からそれを描く。
文明そのものが破壊されていく様子を描くので、おもしろい。

あるいは、「リアリティ」という言い方には様々な側面から考えることができる。
CGによって圧倒的なスケールで描く、街が壊れていく様子は、確かにリアリティがある。
逆に、どんなに追い込まれても希望を失わずに、突き進んでいく主人公は、かなりリアリティが薄い。
この映画に対して、「こんなのあるわけがない」と思った人と、「ありうるかもしれない」と思った人との差異はかなり大きいように思う。
賛否両論ありそうな映画だ。

確かに、主人公はどこかの特殊部隊で従軍経験があるのではないかと思われるくらい、行動力がある。
決して判断を間違えないし、目的のためなら多少のリスクを選択してしまう。
そこに説得力(リアリティ)を感じないのは、その設定があいまいなためだ。
国連の調査員だったということしか設定されていないので、「おいおいそんな調査員おるんかよ」と思ってしまう。
調査員といってもどんな調査をしていたかもあまり明らかにされない。
スーパーマンのような働きの彼をみて、興ざめしてしまうのも無理はない。

「あえりえない」のは、主人公の働きだけではあるまい。
ウイルスを巡る物語だが、あまり科学的とは言えないオチが待っている。
「ウイルスは時に弱さを隠したがる」
「猛威を振るうということは逆に死にゆくものに対しては無関心だ」
論理的には筋が通っているように見えるが、非常に非科学的だ。
言い換えるなら「とんち」みたいなものだ。

私はこの映画を見ながら、まるで「ジョジョの奇妙な冒険」を読んでいるようだな、と思った。
ウイルスという敵と戦いながら、その敵の弱点を観察し、それをつく。
科学者ではない調査員だった主人公だからこそ気づいた弱点なわけだが、少々強引だし、非科学的だ。

ただし、ほとんどの人は科学者ではないわけだから、このオチは納得できる。
物語としては非常にうまくできたオチだといえる。
これがもし、ややこしい酵素の配合だとか、DNAの欠損だとか、ニュートリノだとかiPS細胞だとか言われるとまったくついていけない。
目に見えない相手と戦いながら、きちんと「共闘」できたのはうまいシナリオだった。
そもそも、音に反応するという設定もうまかった。
知らず知らずのうちに、画面のこちら側にいる私たちも息をのむし、息を殺す。
音の要素をきちんと利用しての壁が乗り越えられる時のシークエンスは見事だし、絶望感は非常に大きい。

ウイルスだとか、ワクチンだとかそういった目に見えないものを、科学者ではないほとんどの観客に共感させたのはこの映画を支えるポイントとなった。
多少、主人公がスティーブン・セガールでも、ミラ・ジョヴォビッチでも、緊張感を持続させたまま入り込むことができた。
ブラッド・ピットが言うように、誰もが楽しめる夏の娯楽大作、となったわけだ。

先にも書いたが、残酷描写はほとんどない。
人が人を襲うシークエンスは数回しかない。
それもほとんどがその姿を見せずに、俯瞰的な描写であったり、暗やみでの出来事として描く。
血を流しさえすれば怖い、と日本映画はやたらと残酷描写(サスペンスとかでも)が多いわけだが、このあたりは見習うべきではないだろうか。

最近飛行機に乗ったばかりだったから、これを見た後でなくてよかったと本気で思う。


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2 コメント

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テレビ放送 (セガール)
2017-02-11 21:47:08
でやってますね。

僕は、制作費がなくなってペプシに助けてもらうというリアル が好き。
返信する
テレビに縁がないのです (menfith)
2017-02-12 21:22:49
管理人のmenfithです。
本日約一月ぶりの休みです。
しかもそれは子どもの風邪による年給という…。
いつ映画に行けるのやら。

>セガールさん
書き込みありがとうございます。

テレビを見ない生活になりまして。
一週間でテレビがついている時間はおそらく30分くらいかと。

そのかわりAmazonプライムに入ったので、つい最近この作品は観ていました。
あのペプシの描写はそういう意味があったのですね。
確かに飲みたくなる……。
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