9月12日夜、穐吉敏子さんの朝日賞受賞記念コンサートが行われました。
このコンサートでは、皇后陛下も聴衆のひとりとしてジャズを楽しんでいました。皇后陛下がジャズをライブで聴くのは初めてのことだそうですね。
皇族がジャズを聴くことがジャズの権威づけになるとは全く思いませんが、ジャズが広く愛されるようになって欲しいという意味としては、とても嬉しいニュースです。
穐吉さんが皇后陛下の前で初めてジャズを演奏したプレイヤーとなったのは、穐吉さん自身にとっても感慨深いものがあるのではないでしょうか。
おそらく穐吉さんは、お金や名誉のためではなく、ただより良いジャズを追求し続けて来ただけだ、と言うでしょう。
穐吉さんは、戦後満洲から引き揚げて以来、生活のためにピアノを演奏するようになり、やがてジャズの魅力に取り付かれます。縁あって渡米し、バークリー音楽院に学び、やがてアメリカでも高い評価を得ることになります。
その穐吉さんの半生は、岩波新書「ジャズと生きる」で詳しく読むことができます。
少し前のNHKでは、自身の語りによる穐吉さんの半生が放送されていましたね。
岩波新書「ジャズと生きる」
ぼくは野茂英雄投手が好きで、彼の生き様を尊敬しています。
それは、野茂投手が、(多くの人の助けを借りたにしろ)自分自身で自分の道を切り拓き、信ずるところを進んでいったからなのです。
穐吉敏子さんの生き方にも、同じものを感じます。
だからこそぼくは、演奏も含めて穐吉さんを尊敬しているのです。
穐吉さんの著書を読むと、幾度も挫折しそうになったことが書いてあります。
慣れないアメリカで、性差別、人種差別、言葉での苦労、経済的困窮などにさらされたことでしょう。
それらを乗り越えてきた穐吉さんは、強い人間だとも思います。
しかし、穐吉さんが絶対的に強かったのではなく、「弱さ」というものを知っているからこそ強く成長してゆけたんだと思うのです。
そしてそれが、人生の機微を織り込んだような、味のある演奏につながっていると思うのです。
演奏中の表情も、とっても素敵です。
穐吉さんの文章、語り口は、とても論理的で知性にあふれています。そういうところも穐吉さんの魅力だと思っています。
穐吉さんの作品の中でここ最近よく聴くのが、「ライブ アット ブルーノート東京」です。
名手・鈴木良雄さんの味のあるベース、今は亡き日野元彦さんの素晴らしいドラムも聴くことができます。
ライヴ・アット・ブルーノート東京'97 (2001年)
穐吉敏子トリオ ☆穐吉 敏子(piano)
☆鈴木 良雄(bass)
☆日野 元彦(drums)
緊迫感に満ちていながら、どこかリラックスした、それぞれお互いが敬意を払っているかのような、珠玉のライブ録音だと思います。
今も精力的に各地でソロ・ピアノを聴かせて下さる穐吉さん、まだまだ素晴らしいピアノを弾き続けて欲しいと思っています。
註:このブログでは「穐吉敏子」と表記しましたが、CDには「秋吉敏子」と表記されています