「スーパー・トリオ」。
ぼくは、このアルバムは、メンバーの顔ぶれを見ただけで買ってしまいました。
タイトルにはひねりがないとは思うけれど、そこはそれだけで人の目を引くだろうというレコード会社の自信なのでしょうね。
少なくともメンバーは「看板に偽りなし」です。
キース・ジャレットやハービー・ハンコックらと並ぶ、現代ジャズ・ピアノ最高峰のひとりであるチック・コリア、文句なしのトップ・ベーシストであるクリスチャン・マクブライド、名前にかけて「GOD」とも呼ばれる名ドラマー、スティーヴ・ガッド。
この3人が集まるとどのようなサウンドになるのか、ピアノ・トリオ好きのぼくとしては興味を抑えることができませんでした。
クリスチャンのベースの音色は黒っぽくて太く、生きたビートでバンドをぐいぐいと引っ張っています。
16ビートや8ビート系でのセッションが多いスティーヴのドラミングは正確さでは定評があるところですが、4ビートのスウィング感も素晴らしく、よく歌っています。
そして、このふたりの相性がとてもいいと思うのです。
チック・コリアのピアノって、ぼくの中では好きな部分と苦手な部分がはっきり分かれています。とくに、フュージョン系の音楽で目立つ計算されたような緻密さというか、幾何学的な硬い雰囲気は今でもあまり好きになれません。
でも、このアルバムでのチックのピアノは、勢いは相変わらずながら、心なしか穏やかさがあるというか、柔らか味を帯びているようです。緊張感と温かさがのブレンドがほどよい、という感じ。名手ふたりの鉄壁のバックに乗って安心して弾いているのでしょう。だから聴いていて気持ち良かったです。
収録曲も、『スペイン』をはじめ、『ハンプティ・ダンプティ』、『マトリックス』、『ウィンドウズ』など、チック・ファンには馴染みのあるものばかり。
ただ、『スペイン』が曲の途中でフェイド・アウトして終わっているのはとっても残念です。
すでに60歳を超えているチックですが、へんに枯れておらず、チックらしいフレーズ満載で、以前のままのアグレッシヴな雰囲気にやや穏やかさの加わわったかのようなプレイを聴くことができました。
クリスチャンの正統的かつ驚異的なベース、スティーヴの精密ながらも痛快なドラミング、そしてこの3人の創造的な融合も存分に味わうことができました。
◆スーパー・トリオ/Super Trio Corea/Gadd/McBride
■演奏
チック・コリア/Chick Corea (piano)
クリスチャン・マクブライド/Christian McBride (bass)
スティーヴ・ガッド/Steve Gadd (drums)
■リリース
2006年3月
■録音
2005年4月3日 テキサス州オースティン、ワン・ワールド・シアター
■プロデュース
チック・コリア/Chick Corea
■レーベル
ストレッチ/Stretch
■収録曲
① ハンプティ・ダンプティ/Humpty Dumpty
② ザ・ワン・ステップ/The One Step
③ ウィンドウズ/Windows
④ マトリックス/Matrix
⑤ カルテット#2 Part1/Quartet #2 Part1
⑥ シシリー/Sicily
⑦ スペイン/Spain
※All songs composed by Chick Corea