ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

クリムゾン・キングの宮殿 (In The Court Of The Crimson King)

2006年05月23日 | 名盤

♪自分的名盤名曲104


 「クリムゾン・キングの宮殿」は、豪奢で、華やかで、着飾った人々のための『宮殿』ではないと思う。現実に苦悩する者、自分を見失っている者、未来に怖れを抱いている者たちのための『宮殿』ではないだろうか。
 観念的で難解な歌詞や、一種の毒と狂気の感じられる曲群などは、現代音楽にも通ずるような深遠な楽想に満ちている。


     
     キング・クリムゾン

 
 「21世紀の精神異常者」というタイトルの曲が、この『宮殿』の入り口だ。
 ロバート・フリップのかき鳴らすヘヴィなギターやフリーキーなイアン・マクドナルドのサックスに乗せて歌われる、エフェクターによって歪められたグレッグ・レイクの迫力あるヴォーカルがたいへん印象的だ。
 一転してアコースティックに奏でられる「風に語りて」は、いわば『宮殿の中庭』だろうか。イアンの演奏するサックスとフルートと、グレッグのヴォーカルの会話が、『中庭』をそよいでいる風のようでもある。
 土着フォーク風の幻想的な「ムーン・チャイルド」は『宮殿の夜』だ。奇妙な静けさをたたえた、異界への扉のような雰囲気を持っている。
 「エピタフ」と「クリムゾン・キングの宮殿」はメロトロンが大活躍する叙情的な大作だ。とくに、アルバムの最後を飾る「クリムゾン・キングの宮殿」は、いわば『宮殿の大広間』とも言えるスケールの大きな曲である。


     


 このアルバムにおける楽想は、とてもドラマティックだ。クラシカルでもあり、フリー・ジャズや現代音楽にも通じる奥深さ、広がりがある。これを音で表現しきったキング・クリムゾンの音楽的な器の大きさにはただ驚かされるばかりだ。
 ロバート・フリップのアイデアも素晴らしいが、これをサウンド化するにあたっては、キーボード、メロトロン、管楽器を操るイアン・マクドナルドと、グレッグ・レイクのヴォーカルの果たした役割は非常に大きいと思う。


     
     ロバート・フリップ(guitar)


 異様なアルバム・ジャケットも強烈なインパクトを放っている。このジャケットを描いたバリー・ゴッドバー氏は、この時まだ24歳。しかし、アルバム完成からわずか4ヵ月後には亡くなったそうである。


 このアルバムについては、すでに多くの人によって語られているが、まさに1960年代の終わりを飾るにふさわしい名盤にして、ロック界を代表する作品のひとつだと思う。


     


       


 さて、このアルバムの作品自体とはあまり関係がないことだが、最近、1曲目の「21世紀の精神異常者」の表記が、「21世紀のスキッツォイドマン」に改められている。しかし、果たしてこの表記の変更に意味はあるのだろうか。「不適切な表現」というのがその表記の変更の理由らしいのだが、そもそもこの曲のタイトルは、決して精神疾患の人に対する差別などではない。「スキッツォイドマン」の意味自体を考えると、なんとも無意味でバカバカしい言葉狩りだと思う。



クリムゾン・キングの宮殿/In The Court Of The Crimson King
  ■歌・演奏
    キング・クリムゾン/King Crimson
  ■リリース   
    1969年10月10日
  ■プロデュース   
    キング・クリムゾン/King Crimson
  ■録音メンバー   
   【キング・クリムゾン】    
    ロバート・フリップ/Robert Fripp (electric-guitar, acoustic-guitar)    
    イアン・マクドナルド/Ian McDonald (piano, organ, mellotron, harpsichord, sax, flute, clarinet, bass-clarinet, vibraphone, backing-vocals)    
    グレッグ・レイク/Greg Lake (lead-vocal, bass)    
    マイケル・ジャイルズ/Michael Giles (drums, percussion, Backing-vocal, organ⑤)    
    ピート・シンフィールド/Pete Sinfield (words, illuminaton, lyrics)
  ■収録曲
   A① 21世紀の精神異常者(インクルーディング : ミラーズ)/21st Century Schizoid Man including Mirrors
      (Fripp, McDonald, Lake, Giles & Sinfield)
    ② 風に語りて/I Talk To The Wind
      (McDonald & Sinfield)
    ③ エピタフ(墓碑銘)
      (a) 理由なき行進  (b) 明日又明日/Epitaph including : (a) March For No Reason  (b) Tomorrow And Tomorrow
      (Fripp, Lake, McDonald, Giles & Sinfield)
   B④ ムーン・チャイルド
      (a) ドリーム  (b) 幻想/Moon Child including : (a) The Dream  (b) The Illusion
      (Fripp, McDonald, Lake, Giles & Sinfield)
    ⑤ クリムゾン・キングの宮殿
      (a) 帰って来た魔女  (b) あやつり人形の踊り/The Court Of The Crimson King including : (a) The Return Of The Fire Witch  (b) The Dance Of The Puppets
      (McDonald & Sinfield)
  ■チャート最高位
    週間チャート  アメリカ(ビルボード)28位、イギリス5位 




コメント (8)
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