■組曲「惑星」より"木星"
[The Planets op.32 "Jupiter"]
■グスターヴ・ホルスト作曲
■1914年
まだ幼稚園に行くか行かないかの頃に、テレビから繰り返し流れてきたおかげでしぜんと覚えてしまった曲がいくつかあります。
もちろん当時は曲のタイトルなど分かるわけはありません。ただ、メロディーが印象的で、子供心にも「いい曲だなあ」と思っていただけでした。大きくなっていろんな音楽を聴きあさるようになってからそれらの曲と「再会」することになるわけです。「あ!これはあの時の曲だ!」と。結構覚えているものなんですね。
その頃、土曜日の昼12時からは、「吉本新喜劇」を見るのを楽しみにしていました。その番組は地元の運輸会社の提供で、そのCMのバックに流れる曲が、とても「カッコいい!」曲だったんです。CMで使われるくらいですから、時間はわずか1分間ほど。その1分間に流れる音を全て聴き逃さないつもりでいつも聴いていたんです。
また小学生の頃、テレビで見たい映画のある日は、親に頼みに頼んで、なんとか夜遅くまで見せて貰うのを楽しみにしていました。その頃普段はなかなか夜更けまでテレビなど見せてもらえなかったし、まだビデオなんか家になかったですからね。それこそかぶりつきでテレビの前に座っていたものでした。
映画番組は週に3つか4つありましたが、その中の『水曜ロードショー』のエンディングに流れる、ゆるやかで壮大なメロディーが大好きでした。
中学生だったある日、近所のフジイ君の家でいろんなレコードを聴いていました。その時にふとフジイ君がある1枚のレコードをかけたんですが、そこから流れてきたメロディーに思わずビックリしました。だってそれは、あの吉本新喜劇の合い間のCMで流れていた「カッコいい曲」だったんですから。
レコードのジャケットには、
「レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック演奏 組曲『惑星』」とありました。
お目当ての曲は、その中の「木星」だったんです。
「木星」は3部形式で、CMで聴き覚えていた部分は第1部の第1主題だったんですね。
そのまま半ば興奮しながら聴いているうちに、またしても聴き覚えのある部分が! そうだ、このメロディーは『水曜ロードショー』のエンディング・テーマではないか!
この部分、アンダンテで演奏される「木星」の第2部だったんです。
という経緯で、記憶の中にあったふたつの好きなメロディーが、ひとつに結びつくに至ったというわけです。
『組曲 惑星』
■ニューヨーク・フィルハーモニック
■レナード・バーンスタイン指揮
金管楽器が、16分音符の煌びやかな木管楽器と弦楽器に絡んでゆく、迫力のある第1部。分厚いホルン群の活躍と打楽器の効果的な使用が印象的です。第2部の、美しい民謡風のメロディーを愛する人も多いことでしょう。そして第3部では4つの主題が再現されます。
全体に明るく、壮大で快活な雰囲気のあるこの曲、クラシックの中でぼくがとても好きな曲のひとつです。
『組曲 惑星』
■ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
■ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
組曲「惑星」は、イギリスの作曲家グスターヴ・ホルストの代表作です。
この組曲は、天文学ではなく、占星術から着想を得たものです。占星術で描かれている各惑星の性格を音で描写してみようとしたわけです。組曲の中に「地球」が含まれていないのはこのためです。また作曲当時は冥王星はまだ発見されていなかったので、楽章は「火星」「金星」「水星」「木星」「土星」「天王星」「海王星」の7つで成り立っています。
「木星」を作曲したのは3番目。思いついた順に作曲したんだそうです。
「木星」の中間部(第2部)には、のちに歌詞がつけられ、愛国的な賛歌として広く歌われるようになりました。ダイアナ妃の葬儀の時に中間部が歌われたのは有名ですね。
ホルストは、劇作家のクリフォード・バックスから占星術の手解きも受けていて、この組曲の構想にあたっては、占星術における惑星とローマ神話の対応まで研究したそうです。
グスターヴ・ホルスト(1874~1934)
「木星」は、太陽から7億7830万キロ離れた、63個の衛星を持つ、太陽系最大の惑星です。地球と比較すると、質量は318倍、直径は11倍(太陽の約10分の1)、体積は1300倍という大きさです。公転周期は11.86年、自転周期は9.56時間。
英語名は「ジュピター」、ラテン語では「ユピテル」。ギリシャ神話のゼウスに相当します。
木星は、ローマ神話の至上神ジュビターになぞらえられているだけあって、「王者の風格があると同時に快楽を好む傾向がある」とされています。
曲には「快楽をもたらす者」という副題が付けられていますが、これは一般的な快楽や歓喜というもののほか、「儀式的な喜びを表現した祝典的音楽」という意味合いもあるようです。そのあたり、各惑星の性格を必ずしも忠実に再現しているわけではないので、われわれ聴き手がある程度自由な聴き方をしても差し支えないということだそうです。
『惑星』 冨田 勲(1977年)
ホルストはこの曲に対して、楽器編成の厳守や抜粋演奏の禁止など、いくつもの制約を課していましたが、1977年に冨田勲がシンセサイザーでの演奏・編曲を許されて以降、その制約は絶対的なものではなくなりました。今では数多くのヴァージョンが存在していますね。
映画「ライト・スタッフ」で主題部分が使われているほか、エマーソン・レイク&パウエルや押尾コータローらによって取り上げられています。
歌曲として歌っているアーティストも多く、シャルロット・チャーチの歌などが有名です。
日本でも本田美奈子(日本語詞=岩谷時子)が歌っていますし、新しいところでは平原綾香(日本語詞=吉元由美)が大ヒットさせていますね。
太陽系。左端から太陽(赤色)、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星。
ぼくは、やはり自分にとっての印象が最も強い、バーンスタインの指揮によるニューヨーク・フィルの演奏が一番好きです。そして、一部だけの抜粋よりは、全編通したものを聴きたいと思います。その方が、原曲の持つイメージがより直截的に伝わってくるからです。
惑星を占星術的な側面から捉えた組曲ではありますが、聴いているうちに、木星の上から宇宙を眺めているような、神秘的な気分になってきます。
もっとも、実際の木星の地表はガス状だから、その上に立つことはできないんですけれどね。(^^)