1977年10月、カルメン・マキ&OZは解散します。その2ヶ月後にリリースされたのが、OZの実質的なラスト・アルバム(翌年ライヴ・アルバムが発表されている)となった「Ⅲ」です。
「Ⅲ」は、前の2作に比べてややポップになっています。
最初に聴いた時は、1曲目の「南海航路」のイントロで多少肩透かしを食ったような気持ちになりました。ウェスト・コースト風のギター・サウンドに意表を突かれたんです。
しかし幾度か聴いているうちに分かったのが、やはりOZのサウンドは叙情性のあるハード・ロックをベースにしているということです。この「Ⅲ」は、独特の重さ・暗さを維持しつつも、単にハード・ロックに終わることなく、音楽的な世界をさらに広げることに成功していると思うのです。
全曲の作曲に携わっているのが、春日博文。彼の音楽的な幅の広さも評価されてしかるべきでしょう。
相変わらず冴え渡っている加治木剛の歌詞の世界は、OZのサウンドに奥行きを持たせているようです。
このアルバムで目につくのが、マキ自身の過去を振り返ったかのような内容を持つ歌詞の存在です。「26の時」「昔」などがそれです。「とりあえず…(Rock'n'Roll)」なども、無我夢中でロックし続けてきた自分について歌っているのではないでしょうか。あるいは、「空へ」などは、マキ自身がリスペクトしているジャニス・ジョプリンについて歌ったものだと推測できる曲です。
このように歌詞を見てみると、この時点までのマキ自身を総括している内容になっているということが言えるかもしれません。
マキ嬢のヴォーカルも健在です。時にはパワフルに、時には柔らかく、時には影のある彼女の歌声は貫禄充分で、自在に天空を駆け抜けてゆくような清々しささえ感じます。
「26の時」「街角」「昔」などのように切々と聴かせるかと思えば、「空へ」「とりあえず…(Rock'n'Roll)」などではパワフルで豪快な歌い回しとシャウトを聴くことができ、改めてマキ嬢の実力を知ることができます。
このアルバムの中でぼくが好きなのは、「とりあえず…(Rock'n'Roll)」~「26の時」~「空へ」の流れです。
「とりあえず~」は歌詞も曲も痛快なロックン・ロールの名曲です。
『ガガガガ学校行くよりも
タタタタタタタ旅に出よう』
この一節がいかに胸に響いたことか・・・。
名バラードの「26の時」に続くメロディアスなハード・ロックが「空へ」。この曲はのちに寺田恵子嬢(元SHOW-YA)がカヴァーしています。
『遠く聞こえるおまえの唄が いつも私をささえた
いつかはきっとおまえのように 飛んでみせるよ 私も』(空へ)
組曲風ヘヴィ・ロックの「昔」は、前作からの延長線上にある曲で、14分04秒もあるこのアルバム一番の大曲です。後半の、春日博文の重く粘るギター・ソロも聴きものです。
このアルバムの最後、つまりOZの最後を飾るのが「Age」。子守唄風の小品です。
今聴き返してみても、古びるどころか未だに輝きを失っていないカルメン・マキ&OZ、もっともっと再評価されてもいいのではないか、と思うのです。
◆カルメン・マキ&OZ Ⅲ
■歌・演奏
カルメン・マキ&OZ
■リリース
1977年12月
■プロデュース
カルメン・マキ&OZ
■収録曲
[side-A]
① 南海航路 (詞:加治木剛 曲:春日博文)
② Love Songを唄う前に (詞:加治木剛 曲:春日博文)
③ とりあえず……(Rock'n Roll) (詞:加治木剛 & 春日博文 曲:春日博文)
④ 26の時 (詞:加治木剛 & Maki A. Lovelace 曲:春日博文 & 来住野潔)
[side-B]
⑤ 空へ (詞:加治木剛 曲:春日博文)
⑥ 街角 (詞:加治木剛 曲:春日博文)
⑦ 昔 (詞:加治木剛 & Maki A. Lovelace 曲:春日博文)
⑧ Age(智水ちゃんに捧ぐ) (詞・曲:春日博文)
■録音メンバー
[カルメン・マキ&OZ]
カルメン・マキ(vocal)
春日博文(guitar, percussion)
川上茂幸(bass)
川崎雅文(piano, organ, synthesizer, mellotron, accordion, celesta)
武田 治(drums)
[ゲスト]
竹田和夫(guitar)
中嶋正雄(guitar)
甘糟澄子(accordion)
川崎智水(voice)