「処女作にはその作家の本質が現れる」という言葉がありますが、大西順子嬢のデビュー作である「WOW」を聴くと、「なるほどなあ」と思ってしまいます。
このアルバムからは見事に順子嬢の本質が伺えるのです。
中低音を駆使した力強いタッチ、ダイナミックなスウィング感、クリアーな音色、黒っぽさ、ゴリゴリした疾走感。それらには、聴いているこちら側の体が思わず揺さぶられるような、強いエネルギーがあります。
全8曲中、順子オリジナル4曲、カヴァーが4曲です。
オリジナル曲のできの良さには瞠目させられます。とくに1曲目の「The Jungular」。テーマのあと、ピアノの中低音を中心としたソロが続き、次第にヒート・アップしてゆくのが実にカッコいい。ハードボイルドなピアノです。3曲目の「B・ラッシュ」のクールさにも惹かれます。
カヴァーはデューク・エリントン、セロニアス・モンク、エデン・アーベス、オーネット・コールマンの曲を選んでいますが、それらのイディオムを「大西順子の個性」で消化しているので、まるでオリジナルであるかのような、「大西順子の香り」に満ちたものに仕上がっています。
大西順子の世界って、濃いですね。
そこには性別も体格の差も年齢の差も存在しません。ただ自分の世界を表現するためにわき目もふらずピアノと格闘している順子嬢が存在しているだけです。
そういえばこのアルバムには珍しくベース・ソロもドラム・ソロもありません。文字通り大西順子のリーダー・アルバムです。ひたすらピアノが音を紡いでゆきます。
そして、その迫力に押されながら音を浴びる自分がいます。
女性ピアニストの進出が目覚しい昨今です。山中千尋、上原ひろみを筆頭に、アキコ・グレース、川上さとみ、安井さち子、早間美紀、白崎彩子ら、枚挙にいとまがありません。その先鞭をつけたのが、この大西順子だと言っていいでしょう。
そういえば、4月16日が順子嬢の誕生日だったんですね。長い間消息を絶っていた彼女ですが、2005年の4月あたりからマイ・ペースで再び活動をはじめています。
そろそろ彼女の新作を聴いてみたい、と思っている人、たくさんいるのではないでしょうか。もちろんぼくもその中のひとりです。
◆WOW
■演奏
大西順子トリオ
■リリース
1993年1月20日
■録音
1992年9月3日~5日(サウンド・シティ スタジオⅠ 東京)
■プロデュース
大西順子
■レコーディング・エンジニア
飯田益三
■収録曲
① ザ・ジャングラー/The Jungular (大西順子)
② ロッキン・イン・リズム/Rockin' In Rhythm (Duke Ellington)
③ B・ラッシュ/B-Rush (大西順子)
④ プロスペクト・パーク・ウエスト/Prospect Park West (大西順子)
⑤ ポイント・カウンター・ポイント/Point-Counter-Point (大西順子)
⑥ ブリリアント・コーナーズ/Brilliant Corners (Thelonious Monk)
⑦ ネイチャー・ボーイ/Nature Boy (Eden Ahbez)
⑧ ブロードウェイ・ブルース/Broadway Blues (Ornette Coleman)
■録音メンバー
大西順子(piano)
嶋友行(bass)
原大力(drums)
■レーベル
somethin'else