1970年代の日本ロック界を代表するバンドのひとつ、四人囃子のセカンド・アルバムが「ゴールデン・ピクニックス」です。ファースト・アルバムの「一触即発」と並ぶ四人囃子の傑作にして、70年代J-ロックの名作アルバムでもあります。
プログレッシヴ・ロックの持つ非日常的な雰囲気を保ちながらも、ジャズ・ロック、あるいはクロスオーヴァーといった趣きのあるサウンドがより前面に出てきています。
また、シュールな歌詞も健在で、独特の四人囃子の世界が広がっています。
「一触即発」と比べると、こちらの方が全体的に明るめに仕上がっている感じがします。
①「フライング」…ビートルズのカヴァーです。この曲はビートルズ唯一のインストゥルメンタルです。四人囃子は、オリジナルよりさらにゆったりと演奏し、よりサイケデリックな雰囲気を醸し出しています。
②「カーニヴァルがやってくるぞ(パリ野郎ジャマイカへ飛ぶ)」…底抜けに明るいアップテンポのロックンロールです。ハードなサウンドですが、ユーモラスな空気が形作られているのが楽しい。
③「なすのちゃわんやき」…軽やかでひょうひょうとしていて、これもユーモラスな雰囲気を湛えています。しかしサウンドはスピード感あふれる変拍子とハイ・テクニックの渦で、それらが聴き手に突き刺さってくるようです。
④「空と海の間」…軽快なポップ・ロックといった風情で始まるこの曲は、非常にゆったりとしたギター・ソロへと移行してゆきます。このあたりはタイトルをも含めてウェスト・コースト・サウンドを想起させるものがあります。しかし、後半のハードなギターのアプローチを聴いていると、まるでハード・ロックを思い起こさせます。
⑤「泳ぐなネッシー」…ユニークなタイトルの曲が多い四人囃子の作品ですが、このタイトルもユーモラス。サウンドからはジャズ・ロックのニュアンスも感じ取ることができます。
ゆるやかなフォーク・バラード風のテーマで始まる曲は、幻想的なサックス・ソロ→シンセサイザーとギターの無機質なソロ→サウンド・エフェクトを交えたシュールなパート→3拍子のサックス・ソロ→牧歌的なコーラス・パート→テーマ→ギターとサックスのソロ・バトル、というように場面転換が豊富です。16分55秒にも及ぶ大曲で、ピンク・フロイド的な夢幻サウンドが繰り広げられています。
⑥「レディ・ヴァイオレッタ」…ギタリスト、あるいはコンポーザーとしての森園勝敏が本領を発揮した、メロウなギター・インストゥルメンタル・サウンド。当時勃興期にあったフュージョン・テイストにあふれた名曲です。一時、FM大阪の某音楽番組のオープニングに起用されていました。
プログレッシヴなサウンドを持ちながら、リラックス感があり、メロディーの良さが際立っているからか、難解感は少ないです。
テクニカルなフレーズや変拍子を駆使するところなど、イエスやキング・クリムゾンなどの影響も見られる四人囃子サウンドですが、プログレとはいっても、英国の暗い空ではなく、遊び心たっぷりの、明るくて楽しい空気感が特徴です。もっとも彼らは、「自分たちはプログレを意識してサウンドを作っているわけではない」という意味の発言をしていますが。
いずれにせよ彼らは、時代を超えて新鮮に響く、世界に通用するサウンドを発しているのではないでしょうか。
森園勝敏
この頃の四人囃子の面々はまだ20歳そこそこでした。その年齢でこれだけのサウンドを作り出すのは、この当時ならずとも驚異的なことだと思います。フォークやハード・ロックが主流だった当時のJ-POP界の中では、四人囃子の存在は異彩を放っていたのも分かるような気がします。
一時は解散していた四人囃子ですが、最近では再結成して活発に活動しているようです。
なお、アルバム・タイトルの「ゴールデン・ピクニックス」とは、レコーディングの最中に、彼らが食べたアイスクリームの名だということです。
◆ゴールデン・ピクニックス/Golden Picnics
■歌・演奏
四人囃子
■アルバム・リリース
1976年4月21日
■プロデュース
磯田秀人
■収録曲
[side-A]
① フライング/Flying (Lennon, McCartney, Harrison & Starkey)
② カーニバルがやってくるぞ(パリ野郎ジャマイカへ飛ぶ)/Carnival (茂木由多加, L. フェレ)
③ なすのちゃわんやき/Continental Laid-Back-Breakers (中村真一)
④ 空と海の間/Kool Sailer & Fools (末松康生、森園勝敏)
[side-B]
⑤ 泳ぐなネッシー/Bird's & Nessy's (末松康生、坂下秀実)
⑥ レディー・ヴァイオレッタ/A Song For Lady Violetta (森園勝敏)
■録音メンバー
[四人囃子]
森園勝敏(vocal, guitar, synthesizer)
佐久間正英(bass, recorder, synthesizer)
坂下秀実(piano, organ, clavinet, melotron, synthesizer)
岡井大二(drums, percussion, synthesizer)
[ゲスト・ミュージシャン]
ジョン山崎(piano, organ④)
中村 哲(sax⑤)
浜口茂外也(flute①, flute, percussion⑥)
トシ(percussion⑤)