「ファースト・アルバムはそのミュージシャンの本質を表している」という言葉を聞いたことがあります。このアルバムを聴くと、それはまさに真理だという気がしてなりません。
今や、ジャズ・ピアニストの最高峰を極めた感のあるキース・ジャレット。
彼のトリオは「スタンダーズ」と呼ばれ、数多くの作品を発表していますが、そのファースト・アルバムである『Vol.1』を聴くと、やはりこのトリオの本質が色濃く出ているように思うのです。
スタンダード・ナンバーをキースならではの解釈で再構築するのがこのトリオのコンセプトのひとつですが、こうして聴いてみると、キースの音楽性の深さ、大きさには改めて圧倒されるばかりです。
また、共演者のゲイリー・ピーコック(bass)、ジャック・ディジョネット(drums)とも当代きっての名手として鳴らしているだけに、キースのピアノと対等に渡り合っているのがよく分かりますね。
それぞれが超一流である三人が、おそらくはとても楽しみながら、そして信じがたい集中力で演奏を繰り広げているのでしょう。彼らは一緒に音を出してみて、すぐに「何かが生み出せる」確信を得たに違いありません。集まるべくして集まったトリオ、と言えると思います。
この三人の相性の良さは、例えば1+1+1が5にも6にもなるようなものだと言っていいでしょうね。
それぞれに自由な音楽的背景や着想を持ちながら、それを放出する時にはひとつの方向に向いているところに、このトリオから得られる大きな感動があると思うんです。
また言うまでもないことではありますが、三人ともがタイム感覚やグルーブ感を内包していることで、リズムの流れ、グルーブの波がより厚くより強力なものとなって聴いているぼくを包んでくれることも、このトリオの魅力のひとつだと思います。
演奏中に「何かが降りてくる」ようなことを感じることがありますが、とくにぼくの好きな5曲目の『ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド』においては、まさにそういう深みへ下りて行くような雰囲気を感じます。ごくリラックスしていながら、一方では静かに、そして激しく燃え盛っているさまはスピリチュアルでさえあり、この曲をゴスペルのように荘厳で魅力的なヴァージョンに仕立て上げているのです。
この曲におけるゴスペル・ロックのような演奏は、ぼくのフェイヴァリットでもあります。心が震えるんです。
聴き始めた最初の頃は、あまりの素晴らしさに何度も何度も繰り返し、そのたんびに全身を耳にして聴いていました。
ついつい堅苦しい文章になってしまいがちですが、平たく言うとぼくは、「これは文句のない名盤である」と言いたいだけなのです。
◆スタンダーズVOL.1/Standards VOL.1
■演奏
キース・ジャレット・トリオ
キース・ジャレット/Keith Jarrett (piano)
ゲイリー・ピーコック/Gary Peacock (bass)
ジャック・ディジョネット/Jack Dejohnett (drums)
■リリース
1983年
■録音
1983年1月11~12日 ニューヨーク市、パワー・ステーション
■プロデュース
マンフレート・アイヒャー/Manfred Eicher
■レーベル
ECM
■収録曲
A① ミーニング・オブ・ザ・ブルース/Meaning of the Blues (Bobby Troup, Leah Worth)
② オール・ザ・シングス・ユー・アー/All the Things You Are (Oscar Hammerstein Ⅱ, Jerome Kern)
③ イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド/It Never Entered My Mind (Lorenz Hart, Richard Rodgers)
B④ ザ・マスカレード・イズ・オーヴァー/The Masquerade Is Over (Herb Magidson, Allie Wrubel)
⑤ ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド/God Bless the Child (Arthur Herzog Jr., Billie Holiday)