日本のロック・ミュージックは、米英のロックから多大な影響を受けて育ってきました。しかし、「ロックは売れない」などと言われていた1970年代頃は、セールスを伸ばすために歌謡曲っぽく薄められたロックが氾濫していたり、あるいはコピーの域を出ないバンドが多かったりと、まだまだ日本の音楽界の中ではロックは主流とは言えないものでした。
しかしその反面、1960年代後半から1970年代中盤にかけては、先進の気質に富んだ多くのミュージシャンたちがデビューしています。彼らは強烈な個性を持ちながら、独自のサウンドを開拓していこうとしました。
そんなグループのひとつが「四人囃子」です。
ぼくが「四人囃子」を体験したのは、『一触即発』というアルバムによってでした。それ以前も、それ以後も、多くの和製ロック・アルバムを聴きましたが、これほど自分たちの音楽性をしっかり持った個性的なバンドにはなかなかお目にかかれません。
彼らからは、ピンク・フロイドやキング・クリムゾン、キャメル、クリームなどのプログレッシヴ・ロックや、ブリティッシュ・ロックの強い影響が見られますが、単なるそれらの模倣に終わっていないところが「四人囃子」の素晴らしいところだと思います。
『一触即発』からは、プログレッシヴ・ロックやハード・ロックにとどまらず、フォークやポップスなどの要素も加味した、若々しくてオリジナリティ豊かなサウンドを聴くことができます。
末松康生による幻想的でシュールな歌詞も、聴いているぼくのイマジネーションを強く刺激し、不思議な非日常へと案内してくれます。
この当時の未成熟な音楽的状況から考えると、すでに「四人囃子」がこういうサウンドを持っていたということは、驚きに価するのではないでしょうか。いや、これだけ音楽が多様化し、氾濫している現在の中でも、彼らの個性は充分に際立っていると思います。
森園勝敏(g)
サウンドの中心は森園勝敏のギターでしょう。彼のギターは、ロックを始めとして、さまざまな要素をクロスオーヴァーさせたユニークなものです。テクニックもさることながら、幅広い表現力には驚くばかりです。彼はのちに「バーズ・アイ・ヴュー」や、「プリズム」などに在籍し、ロックにとどまらず、ジャズのフィールドでも活躍しています。
圧巻は、なんといってもタイトル・ナンバーの「一触即発」でしょう。
不穏な空気を醸し出すオルガンがフェイド・インしてくるや、荒々しくも伸びやかなギター・ソロがすぐ耳を釘付けにします。
その後は組曲風に、劇的な場面展開が続きます。「フォークとプログレが混在している」とでも言ったらいいのか、そんな異空間に加え、攻撃的なハード・ロックや、キング・クリムゾンを思わせる変拍子の坩堝が聴いているぼくを待ち構えています。最後はギター・ソロが、まさに「満を持して」再登場し、曲はクライマックスを迎えます。
四人囃子の特徴のひとつが、ピンク・フロイドなどのプログレッシブ・ロックにフォークの要素を大きく加味した独特の空気です。このアルバムに収録されている「空と雲」「おまつり」でそれが顕わに聴かれますね。
高校時代、友人に「四人囃子」フリークがいたせいもあって、この『一触即発』はとてもよく聴きました。日本のロック・アルバムの中でも相当な回数を聴いたはずです。しかし自分にとっては、最初にこのアルバムを聴いた時の新鮮さは未だに失われていないのです。
近年、「四人囃子」は再結成され、ライヴも活発に行っているようですね。「四人囃子」の復活のニュースを喜んでいるロック・ファンも多いと聞きます。もちろん、ぼくもその中のひとりです。
◆一触即発
■歌・演奏
四人囃子
■リリース
1974年
■プロデュース
四人囃子
■収録曲
[side A]
① [hΛmǽbeΘ] (曲:森中秀二)
② 空と雲 (詞:末松康生 曲:中村真一)
③ おまつり(やっぱりおまつりのある街へ行ったら泣いてしまった) (詞:末松康生 曲:森園勝敏)
[side B]
④ 一触即発(詞:末松康生、森園勝敏 曲:森園勝敏)
⑤ ピンポン玉の嘆き(曲:岡井大二)
■録音メンバー
[四人囃子]
森園勝敏 (lead-vocals, electric-guitar, acoustic-guitar)
中村真一 (bass, backing-vocals)
坂下秀実 (acoustic-piano, electric-piano, organ, mellotron, synthesizer)
岡井大二 (drums, percussions)
[additional musician]
石塚俊 (percussion③)