ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

アンセストリー (ancestry)

2006年02月15日 | 名盤

 先日買って何度も繰り返して聴いた、北川潔トリオの『プレイヤー』。
 そのサウンドにすっかりマイってしまい、さっそく澤野工房に注文したのが、北川潔のセカンド・アルバム、『アンセストリー』である。


 ここでもストレートな「北川潔ワールド」が広がっている。
 「アンセストリー」とは、「祖先」という意味らしいが、文字通り自分の音楽的原点を存分に披露しているのだろう。
 ソロ作品を除き、サイド・メンを従えた北川氏の初のリーダー・アルバムであるにもかかわらず、北川氏の中で広がっている音楽観に対する、北川氏自身の確固たる自信がみなぎっているのを感じることができる。
 ケニー・バロンを起用してのアルバム制作は、もともとは澤野工房側からの打診だったそうだ。話があった時点で、ドラマーはブライアン・ブレイドにしたい、という北川氏自身の構想があったということだが、このあたり、自分の思い描く音を具現化するための北川氏自身の人選やビジョンは非常に明確であった、とも言えるだろう。実際、この三人のコンビネーションは素晴らしいものだと思うのだ。


 ジャズ界の中でも名だたる手練れであるケニー・バロン、ブライアン・ブレイドの両名がサイドを固めているといえ、北川氏は彼らの強烈な個性に没することなく、堂々と、そして伸び伸びと自分の世界を描いている。
 逆に、ケニーとブライアンは、自分たちの個性を出しつつも、北川氏の意図や音楽観を的確に捉え、その世界に積極的に入り込んでいて、見事に「北川潔のベース・トリオ」というコンセプトをサポートしきっていると思う。





 全10曲中、北川氏のオリジナルは4曲。残りはウェイン・ショーター、ジョン・コルトレーン、タッド・ダメロンなどのジャズ・オリジナル作品が5曲、そしてスタンダードが1曲、という構成だ。
 1曲目の「Ancestry」からいかにもジャズ、といった風情の強烈なリフが飛び出してくる。3曲目の「Time To Go」では、スピーディーかつグルーヴィーなウォーキング・ベースに心地よく身を委ねたい。8曲目の「Hot House」はドラムとのデュオだ。ベースでバップのメロディーを存分に歌っている。
 4曲目の「I Wish I Could」でのピアノ・ソロとベース・ソロの美しいこと。同じバラードでも、10曲目の「You've Changed」はピアノとベースのデュオで、この曲では北川氏のベースが全面的にフューチャーされ、心に響くメロディーを紡ぎ出している。
 とにかく、10の曲群が、統一された北川ワールドを形作っているのだ。


 ぜひ一度は生で聴いてみたい。が、世界を股にかけて活躍している北川氏のこと、日本でのライヴの機会にもなかなか巡り合えないのがとても残念。せめて次はライヴ・アルバムを出してくれないものか、とひそかに思っている。


 あ、そうそう、先日の『プレイヤー』の記事を書いた時に、ごく一部(笑)で話題になった『アンセストリー』のライナー・ノート、ここに記載しておきます。
(もしライナーの転載に不都合がありましたら、コメントを下さればすぐに善処いたします)

【ancestry/キヨシ・キタガワ・トリオ】
 北川潔は1988年に活動の拠点をNYに移し早16年が経つ。現在、ジミー・ヒース、ケニー・バロン等、大御所ミュージシャンにレギュラー・ベーシストとして招かれ、アメリカ、ヨーロッパを舞台にバリバリ活躍している唯一の日本人ミュージシャンと言っても過言ではない。しかし、今の彼の日本での知名度は、日本のジャズ・メディアの中で紹介されることは皆無に近く、その活躍、活動のスケールからすれば驚くほど低い。
 そんな中、今回のアルバムはプロデューサー澤野由明氏と北川潔の一瞬の出会いがキッカケで実現した。さて、肝心の本アルバムの内容は?と訊かれると、そりゃあもう、自身のお耳でお確かめ、お聴きいただくしかないわけである。ただ敢えて言うなら、「KIYOSHI JAZZの確固たるビジョンのもと、ケニー・バロン、ブライアン・ブレイドは忠実にしかも見事にサイドメンの仕事をし、北川Worldを描き上げている。」まさにこの言葉に尽きる。
 このアルバムに関する北川潔の思いが澤野工房HPにインタビューとして掲載されているので、是非、お聴きになった後、そちらをご覧頂きたい。最後に非常に粗っぽい文章になってしまった事をお許し願いたい。収録曲に関するデータ、解説等は一切避けた。それは作品に対して、それを受けるオーディエンスは何の先入観も無しに先ずはお聴きいただきたいと制作に携わっている人間のひとりとして切に願うからである。   text by 篠田博嗣     (原文のまま)



◆アンセストリー/Ancestry
  ■演奏
    北川潔トリオ
  ■リリース
    2004年
  ■録音
    2003年11月25~26日  システム2(ニューヨーク市ブルックリン)
  ■プロデュース
    北川潔 & 篠田博嗣
  ■レコーディング・エンジニア
    マイク・マルシアーノ/Mike Marciano
  ■収録曲
    ① Ancestry (Kiyoshi Kitagawa)
    ② Equinox (John Coltrane)
    ③ Time To Go (Kiyoshi Kitagawa)
    ④ I Wish I Could (Kiyoshi Kitagawa)
    ⑤ Tadd's Delight (Tadd Dameron)
    ⑥ Mahjong (Wayne Shorter)
    ⑦ Tell Me Why (Kiyoshi Kitagawa)
    ⑧ Hot House (Tadd Dameron)
    ⑨ Pinocchio (Wayne Shorter)
    ⑩ You've Changed (Carey / Fisher)
  ■録音メンバー
    北川潔 (bass)
    ケニー・バロン/Kenny Barron (piano)
    ブライアン・ブレイド/Brian Blade (drums)
  ■レーベル
    澤野工房



コメント (7)
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