人の知ってる草の名は、わたしはちっとも知らないの。
人の知らない草の名を、わたしはいくつも知ってるの。
それは私がつけたのよ、すてきな草にはすてきな名を。
人の知ってる草の名も、どうせだれかがつけたのよ。
ほんとの名前を知ってるのは、空のお日さまばかりなの。
だからわたしはよんでるの、わたしばかりでよんでるの。
金子みすゞ 「草の名」
母さん知らぬ草の子を、
なん千万の草の子を、
土はひとりで育てます。
草があおあおしげったら、
土はかくれてしまうのに。
金子みすゞ 「土と草」
名もないもの、見えないもの、小さなもの、だれも見向きもしないもの、
そんなものにだって、尊い命があるんだよと、金子みすゞの詩を読む
度に思い出します。自分を犠牲にして草を育てても、だれもほめてく
れない土にまで、愛情を注ぐみすゞさんです。だって、捨てられるだ
けの「なしのしん」の行く末まで心配しているみすゞさんですから。
なしのしんはすてるもの、だからしんまで食べる子、けちんぼよ。
なしのしんはすてるもの、だけどそこらへほうる子、ずるい子よ。
なしのしんはすてるもの、だからごみばこへ入れる子、おりこうよ。
そこらへすてたなしのしん、ありがやんやら、ひいてゆく。
「ずるいこ子ちゃん、ありがとよ。」
ごみばこへいれたなしのしん、ごみ取りじいさん、取りに来て、
だまってごろごろひいてゆく。
金子みすゞ 「なしのしん」