100万回生きたねこ (佐野洋子の絵本 (1)) | |
佐野 洋子 | |
講談社 |
文字通り殺しても死ないように見えるふてぶてしいこの猫は、百万回生き返
りました。一年に一度死んでも百万年かかったことになります。王さま、泥
棒、女の子、そのほかいろいろな飼い主が、猫が死ぬ度にそれはそれは悲し
みました。でも猫はちっとも悲しくありません。どの飼い主も大きらいだった
からです。猫は自分だけが好きでした。でもある時、野良猫になった猫は一
匹の白猫に出会います。初めて自分以外のものを好きになった猫は、白猫が
死ぬと悲しみの余り自分も死んでしまいました。そしてもう二度と生き返る
ことはありませんでした。
お世辞にも愛嬌があるとは言えない獰猛そうな主人公の猫、自分以外は大嫌
いな猫。絵本にはあまりないキャラクターです。絵もそうですが、文もビシビシ
と固くて、時々絵本にある甘ったるい、子どもに迎合するような、または教訓
的なところが微塵もありません。それでいて、白猫に向かって言う「そばにい
ても いいかい?」という短い言葉に胸をつかれます。久しぶりに良い絵本に
会えたと思ったら、この『100万回生きたねこ』とても有名な絵本なんですって
ね。生きるということ、愛するということを、とことん突き詰めた絵本です。
シズコさん (新潮文庫) | |
佐野 洋子 | |
新潮社 |
この絵本の作者はエッセイストとしても有名な佐野洋子さんです。過酷な少女
時代を送り、何人もの兄弟に死に別れた彼女の人生に、この絵本の厳しい美し
さの原点があるようです。彼女が母親を回想するエッセイ『シズコさん』もまた、
衝撃的です。四歳の時、母の手を握ろうとして振り払われたときから、母が大
きらいだった洋子さん、自分の母が嫌いだということに負い目を感じ、認知症
になった母に複雑な感情を抱きつつも、献身的につくして、ついには深い慈し
みを感じるにいたる過程が、赤裸々にまたユーモラスに描かれています。洋子
さんが100万回生きた猫と二重写しになります。