キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

100万回生きた猫

2012-04-22 14:09:40 | 人生
100万回生きたねこ (佐野洋子の絵本 (1))
佐野 洋子
講談社

        文字通り殺しても死ないように見えるふてぶてしいこの猫は、百万回生き返

        りました。一年に一度死んでも百万年かかったことになります。王さま、泥

        棒、女の子、そのほかいろいろな飼い主が、猫が死ぬ度にそれはそれは悲し

        みました。でも猫はちっとも悲しくありません。どの飼い主も大きらいだった

        からです。猫は自分だけが好きでした。でもある時、野良猫になった猫は一

        匹の白猫に出会います。初めて自分以外のものを好きになった猫は、白猫が

        死ぬと悲しみの余り自分も死んでしまいました。そしてもう二度と生き返る

        ことはありませんでした。

        

        お世辞にも愛嬌があるとは言えない獰猛そうな主人公の猫、自分以外は大嫌

        いな猫。絵本にはあまりないキャラクターです。絵もそうですが、文もビシビシ

        と固くて、時々絵本にある甘ったるい、子どもに迎合するような、または教訓

        的なところが微塵もありません。それでいて、白猫に向かって言う「そばにい

        ても いいかい?」という短い言葉に胸をつかれます。久しぶりに良い絵本に

        会えたと思ったら、この『100万回生きたねこ』とても有名な絵本なんですって

        ね。生きるということ、愛するということを、とことん突き詰めた絵本です。
シズコさん (新潮文庫)
佐野 洋子
新潮社


        この絵本の作者はエッセイストとしても有名な佐野洋子さんです。過酷な少女

        時代を送り、何人もの兄弟に死に別れた彼女の人生に、この絵本の厳しい美し

        さの原点があるようです。彼女が母親を回想するエッセイ『シズコさん』もまた、

        衝撃的です。四歳の時、母の手を握ろうとして振り払われたときから、母が大

        きらいだった洋子さん、自分の母が嫌いだということに負い目を感じ、認知症

        になった母に複雑な感情を抱きつつも、献身的につくして、ついには深い慈し

        みを感じるにいたる過程が、赤裸々にまたユーモラスに描かれています。洋子

        さんが100万回生きた猫と二重写しになります。
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