塩野七生の「海の都の物語」や「緋色のヴェネツィア」、トーマス・マンやビ
スコンティの「ベニスに死す」それからメンデルスゾーンの「ベニスの舟歌」で
憧れていたヴェネツイアを初めて訪れました。ヴェネツィアの守護聖人聖マ
ルコの象徴である有翼の獅子があちこちで出迎えてくれます。828年に二人
のヴェネツィア人がアフリカのアレキサンドリアの寺院から聖マルコの遺骸
をこっそり持ちだし、イスラム教徒の忌み嫌う豚肉の中に隠してヴェネツィ
アに持ち帰ったのだそうで、その時から聖マルコがヴェネツィアの守護聖人
になったんですって。つまりは盗んできたわけです。「でもまあ、いいっか」
っていうイタリアらしい(愛すべき?)適当さを初めて感じたエピソードです。
イスラムの影響を受けたサン・マルコ寺院やドゥカーレ宮殿の威容には
やはり圧倒されました。
海運都市ヴェネツィアにあちこちから運ばれてきた色違いの大理石でできた
大きな柱や、建物の外にまで極彩色と金箔で描かれた宗教画が圧巻です。
ヴェネツィア本島には、自動車はおろか自転車も入れないので、移動はヴァ
ポレットと呼ばれる水上バスか水上タクシー。道路いっぱいの車を見慣れ
た目には、なかなか面白い光景です。このヴァポレットが運河や海を頻繁
に行き交っているので、不便ということはないのですが、システムも運転も
かなり大雑把であらっぽい。岸壁にガンガンぶつけるわ、水しぶきを上げ
て飛ばすわ。タダ乗りしている人もかなりいそう。イタリアの適当さを、ニ
度目に垣間見たのがこのヴァポレットでした。
溜め息橋の下を行くゴンドラ。ゴンドラはもう観光用にしか使われていない
ようです。溜め息橋はドゥカーレ宮殿と古い牢獄をつないでいて、牢獄に連
れて行かれる罪人が、外を見て溜め息をついたのでそう呼ばれるようになった
たとか。今は観光名所で、ここもサン・マルコ広場も笑い声がさざめいてい
ますが、その昔は血なまぐさい権力闘争が繰り広げられていたのでしょうね。