芒の穂揺れて夕光零しけり 岡本紗矢句集「向日葵の午後」より
「枯れすすきの穂が夕日をこぼす」秋の山野の夕景をうまく表現した
きれいな句です。すすきは薄よりこの芒のほうが趣がありますね。
「こぼす」って「零」という漢字なんですね。零してしまえばなくなる
からでしょうか。
「山は暮れて野は黄昏の芒かな」なんていう与謝蕪村の句もありま
す。芒は夕暮れが似合います。
今、コーラスで「山のあなた」という歌を練習しています。カール・
ブッセの詩を上田敏が訳したあの詩に曲をつけたものです。
遠い山と空の景色を見ると心が広がります。あの山の向こうにはきっ
と何か素晴らしい物があるに違いないと、あこがれが湧いてきます。
山のあなたの空遠く
「幸」住むと人の言ふ
ああ、われひひとと尋めゆきて
涙さしぐみか帰へりきぬ
山のあなたのなほ遠く
「幸」住むと人の言ふ
カール・ブッセ 上田敏訳詩集「海潮音」より
落語のネタにされたこともあり、この詩を知らない人はいないでしょう。
「幸Glueck」を擬人化しているところが巧みです。「ああ、われひとと
尋めゆきて」のところ、ぼおーと読んでいて一人で「幸」を探しに行った
んだと思い込んでいたのですが、違うんですね、おおぜい(Schwarme)
で探しに行ったんです。だれだって幸せになりたいですからね。でも、
見つからなくて、涙ぐんで帰ってくるんです。そりゃあそうでしょう。
人生、そううまくは行きません。ブッセ自身の生涯はどうだったので
しょう?詩人もこの詩もドイツではあまり有名じゃないようですが、
日本人の心の琴線には触れるロマンチックな詩です。