30歳になるか少し前か、多分昭和50年前後の事、川崎の中原区と言う所に住んでいた
古い木造の2階建てのアパートは1階と2階に各々2世帯づつ4世帯の作りだったが如何にせん古く当時では許可の出ない中央の狭い階段は下で靴を脱いで上がると言うスタイルでシンクはステンレスで床も板敷、窓ガラスの枠も木製である、
風が有るとこのガラス窓がカタカタと音楽を奏でると言う塩梅で入った時には1階の一世帯だけで3世帯分が空いていた
家主は年配の姉妹で建替えて収入をあげると言う気持ちは無く空き家だと不用心だし痛みも進むから住んでくれればよいと言う様な事らしく専有面積からすると近隣の相場の半分程度だった、
借りたのは上がって右側の部分で階段を上がって一畳程度の踏込み廊下の先の扉開けると板敷のお勝手が約3畳程度、右側の襖をあけると四畳半で突き当りを開けると六畳の和室である、
四畳半にベッドを置いて六畳間にはその頃はみんな持っていたいわゆる「コンポ」を置く
基本的には夕飯は飲み屋で済ませるのでこの部屋で飲み食いはあまりしない
未だレコード全盛期でカセットデッキはラジオから録音したものか大事なレコードをダビングして流す位で買って来るのはレコードである
ジャンルはそれこそ民謡からクラシック、ロックからJAZZ、R&Bとなんでも聞いた
洒落でイーゼルを買って来てそこにジャケットを乗せて置いて廻す
近くのスナックの(当時未だ17か18位)の娘が転がり込んできた、
寒い頃で6畳には炬燵を置いていたのでそこにもぐりこんで寝ていた
昼は空いているから合いカギを渡して置いて仕事から戻ってくる頃は当然彼女は居ない、
朝起きると炬燵に丸まっているので一応声をかけて仕事に出かける
多分一か月もいなかったと思うが何時か来なくなって合鍵をスナックに行ったときに返してきた
ひと廻りり以上の差がある女の子だったが何もない訳はなかったがさしたることもなくまあ家賃のつもりだったんだろう
アダモのLPを買って来てかけっぱなしで寝てしまった事がある、
「ブルージンと皮ジャンバー」と言う曲が気に入って買って来たのだがその中にアダモが「雪が降る」を歌っていた
夜中に気が付いたら彼女はこれを繰り返し聞きながらな泣いていた、
何となく声をかけるのも咎めて気が付かないふりをしてそのまま寝てしまったが若しかしたらそれが出て行くきっかけだったのかもしれない
その後暫く住んでいたら1階の先住の年配の人が退去してこの古くて広い家に自分一人となった
お蔭で夜置くまで飲み騒いでも苦情が出ないと言う桃源郷が出現し悪友が挙って酒を飲みに来るようになった
ある時腐れ縁の悪友が何処かで知り合ったと言う高校生位の娘を連れて来て深夜まで飲んだ時この娘も見つけた曲を掛けて踊りながら泣いた
こっちは「魅せられしギター」だったか「二つのギター」のどちらかでその後は「忘れて!」と暴飲をして飲み潰れてしまった
「まあ色々あるんだな」と30近い野郎は飲み潰れた小娘を眺めながら暫く飲んだのだが担ぐように連れて帰って言った、
考えれば大変な酔っぱらい運転だったよな、無事でよかったが時効々
因みにアダモのCDもギターの物もある
