先日、図書館で、
前から読みたかった本に出逢ったんです。
『アハメドくんの いのちのリレー』 鎌田 實 著
このお話は、いつだったか鎌田さんの文章で知った。この本のことも。
ページをめくるごとに大きな絵が現われてとても読みやすく、著者は「絵本」とおっしゃっている。
でも、中身はズシリと重く、詰まっています。
想像していた以上に素晴らしい本でした。
子どもから大人まで。英語がついているので外国の方々にも読んで戴きたいです。
前半の要旨は、
――――
アハメド君は、難民キャンプで生まれたパレスチナ人。
2005年、おまつりの日に、イスラエル兵に誤射され、亡くなってしまった。まだ12才でした。
脳死となったとき、医者はイスマイル(そのお父さん)さんに、そっと臓器提供の相談をすると、イスマイル父さんは、周りの人と相談し、結局同意することにしたのです。
提供を受けた6人(皆 イスラエル人)のうち、50代の女性は亡くなったけれど、5人の子ども達は生きている。笑顔を取り戻し、ふつうの暮らしを楽しめるようになった。
鎌田さんは新聞記事で知って強く心打たれ、そのアハメド君のお父さんに是非お逢いしたいと願い、ついに5年後、その夢が叶った。
私の胸にグッときた部分を引用させてもらいます。
『イスマイル父さんは、悲しみを横に置いた。
憎しみも横に置いた。
大事なのは、病気の子どもを助けること。』
『渦巻く批判の嵐のなかで、イスマイルが発した言葉。
それが、ぼくが新聞で読んで胸打たれたあの言葉だった。
「臓器提供は、平和の実現を望む私たちパレスチナ人の
シグナルだと思ってほしい」
イスマイル父さんは言う。
「大切な人やものを奪われたとき、その相手に報復すれば
憎しみの連鎖に巻きこまれてしまう。
武器を手に戦うことばかりが、戦いではありません。
戦い方は、いろいろあるんです」』
『平和な明日を勝ち取るための戦いだった。
イスマイル父さんの行動は、爆弾よりはるかに大きな衝撃を
イスラエルの人々の心に与えた。
とてつもなく難しいからこそ
とてつもない力を秘めた戦いだった。』
(鎌田さんが、イスマイル父さんと連れだって、移植を受けたサマハちゃんという女の子の家を訪ねると、そのお母さんは、)
『ひざの上で重ねていた両手を、彼女はぎゅっと握りしめた。
「ただ、アハメドくんのご家族のこと
とくにお母さんのお気持ちを考えると心が痛みます。
さぞ、おさみしいでしょう。さぞ、おつらいでしょう。
殺されたアハメドくんの無念とご家族のつらさを
忘れないようにしています」
そのあとの長い沈黙から、言葉にならない想いが聞こえてきた。
この人は、心臓を提供した少年の母親の気持ちを
察しようとしている。
悲しみを共有しようとしている。』
~あとがきにかえて~より
『お母さんと一緒に絵本を読んだ子どもたちが大きくなったとき、アハメドとサマハのいのちのリレーが、悲しみや憎しみに流されないための錨になると信じたい。憎しみの連鎖から、あたたかさの連鎖へ。世界を変えていくための小さな力になると信じたい。』
私も、最初は、
(このお話は美しすぎる。できすぎ…。)
と思ってしまいました。
でもこれは、現実・実際にあったことなんですよね。
そう、『憎しみの連鎖』は、延々と果てしなく続いていく。
人間って、そんなに愚かな動物とは思いたくないです。
たった一つのことからでも、
『あたたかさの連鎖』に切り替えて、
心豊かな世界に、少しずつ変わっていく、
そんなキッカケになってほしいと願うばかりです。