大分の岩佐先生の鑑賞実践を参考にして、
日本文教出版社編 中学校美術 2・3年 上・下 2冊の教科書を使って鑑賞の授業を行いました。
題して「教科書を隅から隅までじっくりみてみよう!!」です。
3年生になった最初授業で、2年生の時から使ってはいますが、隅から隅までみることはほとんどありません。たくさんの作品が掲載されているのにもったいないとは常々思っていました。そこに、岩佐先生の実践事例がタイムリーにFBにUPされていて、「これだ!!」と思いました。ワークシートもメールで送っていただき、中学生用に少し手直しして行いました。
実践風景はFBにタイムリーにUPしたので、画像をご覧下さった方もおられると思います。やってみたいと思われる方もいるのではないかと思いますので、私のやり方を示します。岩佐先生は高校生で、高校は美術は選択制なので、受講者はそんなに多くないと思われます。ですから、選んだ作品を自己紹介に替えて紹介させていらっしゃいましたが、私の中学校では、3年生は3クラス各39名が在籍しています。自己紹介で作品紹介させると2時間でも終わらない・・・。ちょっとそれは厳しいので、小グループで作品紹介を行い、グループ内で代表作品を決めて、全員の前で発表するという形態を取りました。そうすると、2時間で鑑賞の振り返りまでできます。ワークシートは2種類準備しました。
では、進め方です。
①教科書2冊を隅から隅までじっくりみて、作品を選ぶ(生徒作品は対象外とする)。
②選んだ作品について、PR文を書く。
③小グループでPR文を紹介しあい、グループ代表を決める(1~2作品)。
この時、グループ内で紹介しあった生徒については、聞いた生徒はコメントを書く。
④グループ代表のPR文を全員で聞く。
この時も、紹介した生徒についてはコメントを書く。
⑤すべてを聞き終えたら、この鑑賞活動の振り返りをする。
①~③までが記録できるワークシートが1種類
④⑤が記録できるワークシートが1種類
この活動を終えて、生徒が選んだ作品を集計してみると
☆取り上げた作品は34作品
☆BEST5は
第1位 東山魁夷「二つの月」16票
第2位 フェルメール「デルフトの眺望」11票
第3位 エッシャー「滝」10票
第4位 松林桂月「春宵花影図」9票
第5位 横尾忠則「私への疑問」6票
でした。
では、生徒の書いたPR文を紹介します。
A)トニー・クラッグ「椅子の上の自画像」(絵画)
トニー・クラッグは身の回りにあるありふれている廃棄されたプラスチックを用いて自分の姿を表しています。
私は、この作品をみて、なぜ、わざわざ廃棄されたプラスチックを拾い集めて作品にしたんだろうと思いました。しかし、いつも使ったら捨てている物も、日々の生活の中ではなくてはならないとても大事な存在だということに気づきました。ゴミとして扱っている物でも、それを使ったことで今の自分があるから、廃棄されたプラスチックで自分を表現したのかなと思いました。こういった風に絵を見るとすごく深いんだなと思いました。
B)ルネ・マグリット「白紙委任状」(絵画)
この作品はゆったりのんびり森の中を散歩しているようなのに、なぜか緊張があるような不思議な絵です。馬の姿が途切れたり、背景であるはずの木が前面に出てきていたりと考え込んで見入ってしまうほんとうに不思議な絵です。リアルな絵の中にそのようなあり得ない事が混ざっているところがあるのがすごく面白いです。
ざっと見ると、普通の絵なのに、よくみると現実ではありえないようなおかしなところがあって、考え込んで何だか楽しくなってきてしまう作品です。
この不思議な感覚を味わってみませんか??
C)クロード・ワイズバッシュ「パガニーニへのオマージュ」(絵画)
この作品を見た時、どんなふうに弾いているのか、どんな音を弾いているのか見るだけで音が聴こえてくるかのように思いました。手がいろんなところにあることで、動きの激しさや大きさを表し、着ている服のなびき方やまわりの楽譜が飛んでいるところ見ると、より力強く、速く、激しく弾いていることがわかります。この人の周りに激しい風が吹いているようにも見えました。
このように絵を見るだけで、その中で起きていることが感じられる絵はすごいと思います。私もこのような絵を描きたいです。
D)ジム・ダイン「自画像」(絵画)
自画像と言われるとゴッホのように自分の身体や顔が描かれるのをイメージします。ですが、ジム・ダインの描く自画像は愛用しているバスローブを自分の自画像としました。バスローブと聞くと清潔感のある白を思いつきますが、色とりどりのバスローブです。腕、胴、足、一つ一つが違う色で、一つの作品に同じ色のないジム・ダインの愛用のバスローブを自画像としたことに、絵の世界に決まりごとはないと思わせるこの作品が僕の一押しです!!
E)バーバラ・ヘップワース「母と子」(石像)
石の丸みと自然なカーブの曲線で、優しく、ほんわかした明るい母と子が想像できます。母の体となっている石がとても大きくどっしりとしているところに、表には出さない母の力強さが分かります。また、大きな体で後ろから包むように抱いているところから、自分の小さなたった一人の子どもを必ず自分が守ってやろうという強い気持ちも見えました。
F)松林桂月「春宵花影図」(日本画)
墨だけで桜の枝や花を表していて、すごい技術だと思います。桜の色が見えてきそうな作品だと思います。後ろの月がこの桜を引き立てているようにも思えます。葉や花はすごく繊細な線で描かれていて立体的に見えます。
BEST5に入った作品の紹介はFだけになったのはわざとではないです。PR文の優れたものを選んだ結果です。
Aは、廃棄物を作品に使うことについて考えを深め、表現そのものの奥深さに気づいているところが素晴らしいと思います。
Bは、よくみないとその不思議な表現に気づかないくらいさりげない不思議さを楽しいと感じることができているところが素敵だと思いました。
Cは、本人もヴァイオリンを弾くので親近感があったのではないでしょうか?書かれている文に演奏者の思いが乗っているように感じました。
Dは、男子生徒のPR文で、あまり器用ではなく、制作は苦手なのですが、鑑賞では素晴らしい感覚を披露してくれます。今回も選んだ作品もちょっと個性的でPR文も「絵の世界に決まりごとはない」と感じてくれたことをうれしく思いました。
Eは、立体を選んだことにまず、視点の違いを感じました。石彫像のダイナミックさと、母と子の関係を自分なりに読み取っているところが素敵だと思いました。
Fは、粗い文ですが、「桜の色が見えてきそうな」という表現に心打たれました。墨の濃淡の世界に色を感じることができる感覚が素直に文に表れているところがいいと思いませんか?
さて、大変なのはこれからです。118名の生徒の2種類のワークシートの評価をしなければなりません。たくさん自分の考えや想いを記述してくれているので、おろそかな扱いができません。こころして、読んでいきたいと思います。
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