ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

10月のみるみるの会のレポートが澄川会員から届きました!!

2014-10-21 22:33:54 | 対話型鑑賞
10月のみるみるの会のレポートが澄川会員から届きました!!


みるみる鑑賞例会 2014/10/18 
ナビゲーター:澄川 由紀    鑑賞作品:「永遠」清水光夢(1998)

澄:今から20分程度皆さんとこの作品について会話を通してじっくり鑑賞したいと思います。
澄:どうですか?まず最初に第一印象を伺いたいと思います。どう思われましたか?
A:まず、思いついたのですが先日の台風19号ですね。雨がふっているような感じもする。
B:冬の日本海ではないかなと思う。なぜかというと、空がどんよりしているし、自分が育った浜田で見たことがある感じ。
澄:ご自身の経験や体験とも照らし合わせて観てくださいました。冬の日本海、台風、といったキーワードが出てきましたが、他の方どうですか。
B:神秘的な感じがする。空の真ん中の所に、白い部分があり、光が差し込んでいるので神々しい。
澄:それは、(示しながら)この部分からですか?
A:描かれている大半は海だが、主体は、あそこ(上空)の光だと思う。本来なら(画面奥水平線を指して)この辺りが光っているはずだが、この波が明るく描かれている。
澄:ご自身も絵を描きますか?描く時、このような風景の場合は光の当たり方が違うということ?
C:乾いた後、おつゆ描きで、うすく赤をのせたところが、この人の描き方だと思う。面白い。
澄:赤をのせるところとのせないとかなり印象が違いますか?
C:白いところにうすい赤をのせると濁ってしまう。
澄:技法などにも触れて考えてくださいました。他には?
D:海だと思う。岩とか砂浜とかが描かれていない。どうしてだろう。
A:安定した感じ。空、波、波打ち際の画面からの比率を見ると、黄金分割のように分かれている。下に砂浜があるだろうが見えない。
E:険しい波。 
澄:どこから険しさを感じられましたか?
E:このあたり(波の盛り上がっている部分を指して)。
F:東映映画のオープニングがぴんときた。
G:冬の海だと思う。寒さを感じないのはなぜかと思っていた。厳しいタッチではなく、この波が柔らかいタッチで描かれていることと、波の上に光が当たっているとおっしゃっていたが、この波の上にも、雲間が有り、光が差し込んでいるから、その感じから、暖かさを感じるので、寒さを感じない。
澄:初めに「冬の海」という発言があった。見てきて、色や描かれているもの、波しぶきの感じから皆さんは「寒さ」などといった感じを受けますか?それとも先ほど「柔らかい」と言われたが「柔らかい」感じを受けますか?
E:冬だと思うけれど、どちらかと言うと柔らかい感じを受けた。白い光の中にピンクを入れているところに温かさを感じるのではないか。荒い波だからやはり冬。
B:両方あるなと思いました。冷たさや厳しさは濃い色から、白やタッチからは柔らかさを感じる。
C:日本海ならもっと波が立つ。
A:風をあまり感じない。ほとんど感じない。これほど波が立っていたら、もっと奥も波があるはず。
D:初めに台風のことをおっしゃった方がいたが、これは台風が去って今から落ち着いていくのでは?何時間か前は荒れ狂っていただろう海だが、これは、台風が去って光は満ちる「あけぼの」の状態。
F:光が有る。空の分け目に。
澄:たしかに光がある。
G:浜田にゆかりがある作家のブースなので、浜田の海なのかなと思っている。山陰の海は確かに荒れているけれども、どこかに穏やかさがあるというイメージがある。山陰の気候や風土がこの作品の通底にあるのかなと思う。リアルに荒れているのではなく穏やかなイメージがあって・・・。もしかしたらこの土地を離れて懐かしい自分の思い描く故郷というイメージの作品ではないか。
澄:今言われたが、(キャプションを示し)「浜田市出身の画家で、教員を経て上京して絵を描くことに専念した」とある。故郷を思い出し描くと言われたが、もしかしたらそうなのかもしれない。
F:これは浜田?伊豆大島みたいな感じがする。
澄:どうして、伊豆大島だと思った?伊豆大島に行ったことがある?
澄:ふるさとを描いたかもしれ無いし、伊豆大島と言われたけれど、他のところで海を見ながら浜田の海を描いたのかもしれない。
D:波が描きたかったんだろうと思う。海と空しかないから。海の方が面積が大きい。題名に「永遠」と書かれている。波がひいては寄せてと繰り返すということを描きたかったのではないかと題名を見て思った。
澄:「永遠」というタイトルである。
澄:今まで、波と海しかない、光がさしている、荒れていて厳しさを感じるけれど柔らかさもある、その両面を感じると言ってくださいました。少し、赤という色味を感じることや描き方にも触れていただいた。さて、「永遠」というタイトルを聞いてもう一度この作品を見た時に、どうですか。違う感じとかありますか?
A:ある少女に、水平線の先には何があるかと問うた時に「水平線がある」と答えたという話がある。永遠と聞いてそれを思い出した。でもタイトルは「波」でもいいかも。
H:永遠は日常である。波は繰り返す。毎日も繰り返す。だから永遠。
E:元に戻るけれど、舞台のようにも見える。すごく写実的に描かれている。記憶のイメージを描いていて、光がスポットライト、日々のドラマチックな映像が始まるように思った。
G:雲の切れ間が真ん中にある。どこが切れていてもいいはずなのに。「ドラマチックに」「舞台で」と聞くと、なにがしかの意図があると思う。「永遠」というタイトルだし、天候も刻々と変わるけど光は常にそこにある。地球と月がある限り波は繰り返す。切り取られている場面は、一場面だけれど。そこに作者の気持ちが込められているのでは?
澄:この作者の気持ちを言われましたが、他の皆さんはどう思われましたか。作者はどんなことを描こうとしたと思いますか?
B:私は、いいことも悪いこともやってくるということかと。それは、雲の間からの光は希望、波のぐっと奥まっているところは怖さや闇にも見える。良いことも悪いことも繰り返して永遠につながっていくようなことではないかと思いました。
A:隣の作品は「正月」という題。「正月」と言われれば正月のような気もするし。タイトルってどうなのかなと。
澄:もしかしたら作者はそんなにタイトルを考えていないと?
G:たしかに、べつに「永遠」で無くてもいいかもしれないが、波の途絶えることはなく寄せては返すしところから繰り返し続く時間的な流れと、形が変わるという二つの意味はあると思う。雲の切れ間があって光が差しているところから、見る人には明るいものがそこにあるだけで気持ちが晴れるというか・・・。山陰の空って人を暗く重くさせるものだけれど、少し光があることで気分が明るくなる。山陰独特の感性みたいなのは、この作品に投影されているような気がする。
D:自分も光に神々しさのようなものを感じていて、多くの神話では事の初めは空と海から始まっている。だとすると、真ん中に光があることは意味があることだと思う。そうなると、海にも空にも主題があって、どっちも大事。
G:だから、真ん中に光がある。
澄:光というのは、すごく大きい意味があるのだということですか?
I:どうもね、緻密にね、微細にこれだけ描いているのに、あのサインはいただけない。邪魔している。
(笑)
澄:はじめにこの作品を見た時に、荒れている感じなのに柔らかい印象を受ける絵だなと思った。描かれているものは少ないがタイトルにも触れていただいたことで、見方が広がると思わなかったが、楽しい時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。

<活動を振り返って>
作品選定の理由:対象のモチーフは、海と波、注がれる光のみである。一見すると荒々しい冬の海であるがそこからは「やわらかさ」「あたたかさ」も感じ、鑑賞者の受け止め方は様々であることが想定されると考えこの作品を選定した。リピーターが多く、いずれの鑑賞者も絵を描いている方なので、「描き手の立場」から鑑賞することで作者の心情を感じ取ることができるのではないかと考えたことも、理由のひとつである。また、鑑賞が進むにつれ、キャプションに目が留まることは十分想定される。今回は「永遠」という作品名である。作品名と描かれている対象とを関連させて考えた時に、新たな見方が表出されるであろうとも考えた。
①描かれているものが限られていたので、第一印象からというアプローチを行ったが?
・逆に迷わせてしまったかもしれない(いつもは何でもいいですよ、という導入)
・曖昧な絵だったので「印象」は答えにくいのかもしれない
・「どんな感じがする?」という聞き方の方が答えやすかった?
・何が描かれている?でもよかった。例えば、「海」→「どんな海?」→「荒れているけど、柔らかい印象の海」という感じ。
・海なら海、空なら空、と絞ってもよかったのではないか?
・鑑賞者はリピーターなので、周囲の意見を聴いて鑑賞を深めていた。
・「色の塗り方について」さらに深める方法もある。
・少年の声は、そばに行きつぶやきを拾った後、全体に流してもよかった。
②ナビというより鑑賞者にゆだねたところが多かったが?
・発言と発言をつなげたり、小まとめすることは少なかった。一人の発言が長くて多岐にわたっていた。視点を絞り、意見を集約すればより深めることができるのではないか。
③タイトルを明かしたことは?
・「永遠」というタイトルを明かしたことで、鑑賞者は自分の日常と照らし合わせて語っていた。
・鑑賞者の発言を受けてキャプションの内容を触れたのは、よかったのではないか。
④その他
・作品は「海」を描いたものである。海に対する印象は自身の体験や経験に裏付けられたものではないか。同じ海の絵を見ても自身の育った場所の海の印象をフィルターにかけて見るであろう。海の受け止め方も人それぞれ。
・終わった後に「潮のにおいがする」「音がする」というつぶやきがあった。おそらくそれは、この鑑賞から五感を通して味わっていた結果ではないか。
・海と波などしかないが、それしか描かない理由があるはず。心象風景である。心象風景だから自己投影がしやすくなるのではないか。
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