石見美術館で3回目の「みるみると見てみる?」を行いました
ナビの房野さんから、早速レポートが届いたのでお伝えします。
今回の作品は藤田嗣治とデュフィです。作品は画像でご覧ください。
2つの作品はどちらも1920年~1923年に描かれた油彩で、作者はフランスにゆかりのある画家でした。同じ年代、パリで生き、同じモチーフを描きながらも全く異なる画風であることが興味深いと感じました。
藤田は「エコール・ド・パリ」の画家といわれ、パリ画壇の寵児として活躍した画家。面相筆で細い輪郭線を描き「乳白色の肌」と呼ばれる人物画が有名です。デュフィはフランス人でマティスの作品に衝撃を受け、フォーヴィスムに傾倒した画家。構成的な作品を制作し、この石見美術館にはこの作品と同じモチーフを使ったテキスタイルとドレスも収蔵されています。このことからも、構成にこだわりのある画家なんだな、と思えます。
今年の鑑賞イベントには、昨年からのリピーターさんが多く参加してくださり、また、実際に絵を描く方も多く、毎回、色や構成について言及されることもあります。この2つの「港」つながりのシークエンスでは、物語というより、そんな二人の画家の生き方や芸術について、画風や構成を手掛かりに語ることもできるのでは?と考えました。
さて、藤田作品から始めましたが、やはり、のっけから「船の形や浮かび方に違和感がある」「画面にいくつもの角度の違う視点があるので違和感がある」「一見普通の風景がだが、よく見ると水面の高さや立体感につじつまの合わないところがある」などに話題が集中。また、「十字架のある尖塔がいくつもあり、これは教会であろう」「風車が2つ小さく描かれているので、ヨーロッパの風景と思われるが、港にあることからオランダではなさそう」「中央の島は他と隔絶していることから監獄ではないか?」などの場所についての読み取りもありました。
「キュビスムっぽい」と出たところで、時代背景にも話題を移したいと思い、『嗣治 Fujita
1923』というサインに注目。隣の作品も同じ頃に描かれた作品だという情報を出して、鑑賞する作品をデュフィに変えました。「水上の祭」というタイトルを伏せてはいるものの、人物やモチーフがたくさん画面に描かれており、そこから祭りのようなにぎやかさ、動きを感じるとの発言が多数。一方、空の色の変化、色彩の激しさや黒く太い線から不穏さ、嵐の前など、前半とは一転した意見もあり、「野獣派」に通じる雰囲気も感じられたようです。
「藤田の作品は人が見当たらず、静かで、空気感を感じられるが、もう一つは平面的」と藤田とデュフィの両方を比べた意見が出て、それぞれのモチーフの描かれ方の違いに話題はシフトしました。私はタッチや色彩、構成について根拠を明らかにしながらパラフレーズしていきましたが、「そこからどう思いますか?」と、もう一歩踏み込んだ投げかけがなかったため、この時代の画家たちが独自の芸術を求め、そこに自分の存在価値を見出そうとしていたということまでは至りませんでした。せっかく鑑賞者から「印象派以降の画風」との言及があったので、ピカソ、モディリアニ、マティスなど、よく知られている画家も当時パリで活躍していたことを知らせたら、もっと深められたのでは・・・とその後の反省会で意見が出ました。
今回は鑑賞者の年齢が高め、芸術への興味関心が高い「アダルトみるみる」でした。絵画技法や美術史的な背景も考慮しながらの鑑賞ができたように感じます。そうした鑑賞者の様子をうまくナビゲーターがとらえながら<どのタイミングで><どんな情報を伝えるか>が重要なポイントになると痛感しました。
今回はたまたまその場に居合わせた方も2人参加いただきました。このような鑑賞会は初めてとのことでしたが、「自分以外の人の感じ方を聞くなんて滅多にないことなのでとてもおもしろかった。」「作品を見比べることで一つの絵を見るのとは違った見方ができてよかった。」「他の人の意見でいろいろな見方ができて面白かった」との感想をいただきました。対話をしながら鑑賞することの意義を感じていただけて嬉しいです。45分間があっという間に感じるひと時でした。
来週3月23日は最終回。ですが、みるみる会員の多くは京都造形芸術大学での「みる 考える 話す 聴く 鑑賞によるコミュニケーション教育」刊行記念セミナーに参加のため、益田に残った松田さんがナビゲーターです。グラントワ内島根県立石見美術館にも、京都のセミナーにも、多数ご参加いただきたいです。どうぞよろしくお願いします!
ナビの房野さんから、早速レポートが届いたのでお伝えします。
今回の作品は藤田嗣治とデュフィです。作品は画像でご覧ください。
2つの作品はどちらも1920年~1923年に描かれた油彩で、作者はフランスにゆかりのある画家でした。同じ年代、パリで生き、同じモチーフを描きながらも全く異なる画風であることが興味深いと感じました。
藤田は「エコール・ド・パリ」の画家といわれ、パリ画壇の寵児として活躍した画家。面相筆で細い輪郭線を描き「乳白色の肌」と呼ばれる人物画が有名です。デュフィはフランス人でマティスの作品に衝撃を受け、フォーヴィスムに傾倒した画家。構成的な作品を制作し、この石見美術館にはこの作品と同じモチーフを使ったテキスタイルとドレスも収蔵されています。このことからも、構成にこだわりのある画家なんだな、と思えます。
今年の鑑賞イベントには、昨年からのリピーターさんが多く参加してくださり、また、実際に絵を描く方も多く、毎回、色や構成について言及されることもあります。この2つの「港」つながりのシークエンスでは、物語というより、そんな二人の画家の生き方や芸術について、画風や構成を手掛かりに語ることもできるのでは?と考えました。
さて、藤田作品から始めましたが、やはり、のっけから「船の形や浮かび方に違和感がある」「画面にいくつもの角度の違う視点があるので違和感がある」「一見普通の風景がだが、よく見ると水面の高さや立体感につじつまの合わないところがある」などに話題が集中。また、「十字架のある尖塔がいくつもあり、これは教会であろう」「風車が2つ小さく描かれているので、ヨーロッパの風景と思われるが、港にあることからオランダではなさそう」「中央の島は他と隔絶していることから監獄ではないか?」などの場所についての読み取りもありました。
「キュビスムっぽい」と出たところで、時代背景にも話題を移したいと思い、『嗣治 Fujita
1923』というサインに注目。隣の作品も同じ頃に描かれた作品だという情報を出して、鑑賞する作品をデュフィに変えました。「水上の祭」というタイトルを伏せてはいるものの、人物やモチーフがたくさん画面に描かれており、そこから祭りのようなにぎやかさ、動きを感じるとの発言が多数。一方、空の色の変化、色彩の激しさや黒く太い線から不穏さ、嵐の前など、前半とは一転した意見もあり、「野獣派」に通じる雰囲気も感じられたようです。
「藤田の作品は人が見当たらず、静かで、空気感を感じられるが、もう一つは平面的」と藤田とデュフィの両方を比べた意見が出て、それぞれのモチーフの描かれ方の違いに話題はシフトしました。私はタッチや色彩、構成について根拠を明らかにしながらパラフレーズしていきましたが、「そこからどう思いますか?」と、もう一歩踏み込んだ投げかけがなかったため、この時代の画家たちが独自の芸術を求め、そこに自分の存在価値を見出そうとしていたということまでは至りませんでした。せっかく鑑賞者から「印象派以降の画風」との言及があったので、ピカソ、モディリアニ、マティスなど、よく知られている画家も当時パリで活躍していたことを知らせたら、もっと深められたのでは・・・とその後の反省会で意見が出ました。
今回は鑑賞者の年齢が高め、芸術への興味関心が高い「アダルトみるみる」でした。絵画技法や美術史的な背景も考慮しながらの鑑賞ができたように感じます。そうした鑑賞者の様子をうまくナビゲーターがとらえながら<どのタイミングで><どんな情報を伝えるか>が重要なポイントになると痛感しました。
今回はたまたまその場に居合わせた方も2人参加いただきました。このような鑑賞会は初めてとのことでしたが、「自分以外の人の感じ方を聞くなんて滅多にないことなのでとてもおもしろかった。」「作品を見比べることで一つの絵を見るのとは違った見方ができてよかった。」「他の人の意見でいろいろな見方ができて面白かった」との感想をいただきました。対話をしながら鑑賞することの意義を感じていただけて嬉しいです。45分間があっという間に感じるひと時でした。
来週3月23日は最終回。ですが、みるみる会員の多くは京都造形芸術大学での「みる 考える 話す 聴く 鑑賞によるコミュニケーション教育」刊行記念セミナーに参加のため、益田に残った松田さんがナビゲーターです。グラントワ内島根県立石見美術館にも、京都のセミナーにも、多数ご参加いただきたいです。どうぞよろしくお願いします!