長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

234. 第5回 ユーカリ版の会展

2016-02-29 20:06:55 | カルチャー・学校

先週の26日金曜日から地元のNHKカルチャー・ユーカリが丘教室で担当している講座「初歩からの木版画」金曜クラスと土曜クラスのメンバーによるグループ展が始まった。

ここで木版画の講座を持って今年で11年目になる。始めた頃はこんなに長く続くとは思っていなかったのだが、いつの間にか10年を過ぎていた。それもひとえに熱心な生徒さんたちに支えられてここまで来れたのだと感謝している。受講者の5-6割は仕事をリタイヤした世代の人たちだが、教室での制作ぶりはとても集中力があり、スキル的にもどんどん上達していっている。指導する側も長く続けている受講生は普通にやっていたのではあきてしまうだろうと、あの手この手で新しい課題を提出していく。今回5年目になる対外的なグループ展に出品した作品もこの一年間さまざまな技法に取り組んできた成果の集大成となった。

内容(技法)としては「彫り進め法(リダクション技法)」、「ミニアチュール版画(極小作品)」、「彫らない木版画(マチエール法、コラグラフ、ニス版 etc.)」などが中心となっていて、かなり専門的な部分に踏み込んだものもある。

以下、展覧会概要となります。

・展覧会名:第5回 ユーカリ版の会展

・共催:NHKカルチャーユーカリが丘教室

・協力:山万株式会社 

・会期:2016年 2月26日(金)~3月10日(木)会期中無休 10:00~17:00(最終日は16:00まで)

・会場:ユーカリプラザ 3階イベントホール (京成電鉄ユーカリが丘駅北口ウィシュトンホテルユーカリ隣)

・入場料:無料

・内容:NHKカルチャー「初歩からの木版画」講座で(社)日本版画協会会員 長島充に木版画を学ぶ金曜クラス、土曜クラスのメンバーによる一年に一度のグループ展。今年は木版画の特殊技法で制作した作品や小作品合わせて約50点の力作を展示しています。

以上、近隣にお住いで木版画に興味をお持ちの方々、ぜひこの機会にご高覧ください。画像はトップが会場での搬入、展示のようす。下が向かって左から展覧会ポスター、搬入展示の日にお互いの作品を前に熱心に作品批評をする出品者(画像2点)、展示された受講生のニス版技法の版木。

 

         

 

 

 

 

 

 


222. カルチャー教室で『彫らない木版画』の講評会

2015-12-22 21:13:37 | カルチャー・学校

今回ブログの回数が222回目のキリ番である。18日、19日と二日間、地元千葉のNHKカルチャー・ユーカリが丘教室で今年最後の木版画のレクチャー2クラス分を連チャンで行った。この木版画教室も早いもので来年11年目となる。スタートした時は、正直こんなに続くとは思っていなかった。熱心な生徒さんたちに支えられてここまでやってこられた。感謝である。

3か月6回~7回が1クールなのだが、初心者と自由制作の時以外は毎回、僕がテーマを決めて進めている。今期のテーマは『彫らない木版画』。字ずらだけ見るとなんのことか解らないだろう。初日に黒板に発表した時は生徒さんたちからも「なんですかそれはっ!?」といった声や深いため息が聞かれた。現代の木版画も近年、表現内容が進化した。彫刻刀で彫って摺るだけが木版画ではない。版木にニスを塗ったり、ボンドで何か他の物質を張り付けたり、アクリル用のメディウムでマチエール(絵肌)を作ったりと多種多様である。生徒さんたちも公募展やら画廊やらを廻ってこうした表現に接する機会も少なくない。カルチャーでそこまでやるのはどうなのかという気持ちもあったが、思い切って決行した。

当然、「えーっ、どういうものか理解できません!」「そんなこと私たちにできるんですか?」という声もあがった。そういう時の僕の台詞はいつも決まっていて「やってみなはれーっ!(サントリーの社長風)」なのである。そう言いつつも、今までもみんなで陰刻法木版画、キアロスクーロ法、リダクション法と結構マニアックな特殊技法もなんなくこなして来ているのである。

ふたを開けて見ればこの二日の講評会には不安などどこ吹く風か、なんなく課題をこなした力作がズラリと並んだのである。それにしてもこの『彫らない木版画』は絵画性が強く、より自由な表現を獲得できるんだなぁ、と再認識した。指導している僕自身も毎回発見なのである。

新年1月からはシュールレアリズムの手法である『ディペイズメント(置き換え)』に挑戦する。今期のキーワードは「やってみなはれ!」だったが来期のキーワードは「ビックリポン!」となっている。なんのことはない朝ドラのセリフのパクリなのである。画像はトップが黒板に張り出された生徒作品の一部。下が向かって左から同じく生徒作品の一部、参考に作って見せた彫らない版木、講評会風景。

 

      

 


197.今年も美術学校で『変容・Metamorphosis』の授業を担当した。

2015-06-26 21:00:15 | カルチャー・学校

今年も東京の専門学校、A美術学院で『変容・Metamorphosis』という授業を4月から今月まで集中して担当した。内容は昨年と同じくイタリアのマニエリスムの画家、ジョゼッペ・アルチンボルトの変容表現をテキストに生物のシルエットの中に自然物を置き換えたり、いくつかの生物を構成、合体し新たな自分の変容生物を想像してもらうというもの。

こうした表現・イメージは現在、サブカルチャーなど、いたるところに氾濫しているので、学生さんたちの課題への反応や理解も早い。1クラス3日の授業だが、初日のガイダンスを終えると、スケッチブックに次々とアイディアを描いていく。早い人は一日目の午後には本画に着色を始めている。この美術学校に非常勤講師で呼ばれて7年目となる。最近の画学生の様子を観ているととても真面目である。出席率も良いし、講師への質問も多い。その点はいつも感心してしまう。それから女子の比率が高く元気がいいのも最近の傾向である。「世の男子は何に夢中になっているんだろうねぇ」

自分が学生だった頃を授業の合間に思い浮かべることがある。今から30数年前、とても自慢できたものではない。長い芸大の油絵科の受験に区切りをつけ、版画という世界に活路をみいだそうと当時、西東京にあった美術学校の版画科に入学した。当時この学校の版画科では「イメージ・ドローイング」に重点を置く指導をしていたのだが、長い間、受験絵画で現実のモノを描写することに慣れきってしまった頭では何を表現していいのかピンとこない。煮詰まった僕は一年間ぐらい学校の授業に真面目に出席せず、美術館や画廊を回って自分探しをしていたことを思い出す。ただ放課後に学生が自主的に開いていたコンパ(ようするに飲み会)には参加していた。一年生の一学期が終わる頃、あまり出席率が悪いので3人の専任教官に呼び出されて個人面談となったのだが、先生の一人に「長島、酒を飲んでから来てもいいから、授業に出席してくれよ…」とまで言わせてしまったのを、その面談の部屋の状況と共によく憶えている。

ともあれ、今年も一年生の4クラス、100人強の瑞々しい変容生物が生まれた。この手法で一枚の作品を描いたことを手と眼でしっかりと記憶し、どこかで思い出してほしい。アート、デザイン、アニメ、映像、コマーシャル等、さまざまなジャンルのどこかできっと応用できるはずである。画像はトップが美術学校の中庭。下がアルチンボルト作「フローラ」の部分、教室の風景、同時期に開講していた「環境と表現」という授業の実習風景。

 

      


181. 第4回ユーカリ版の会展

2015-03-05 20:09:34 | カルチャー・学校

地元のNHKカルチャーセンターで指導している木版画教室の年に一回のグループ展、『ユーカリ版の会展』が今月2日より地元イベント会場で始まった。今年で4回目。初心者から継続のベテラン組まで力作が44点展示されている。

講座自体は2005年開講なので、今春で10周年を迎える。これを記念して今回はそれぞれの初期作品と最新作を並べて展示している。つまりビフォー&アフターということだ。会場がどう見えるかというのは企画した僕自身、並べてみなければわからない。展示された作品を1点1点観ていくと、最新作が完成度が高かったり、あまり違いが感じられなかったり、旧作の方が魅力的だったり十人十色でなんとも言えない。共通して言えるのは初期作品というのは版画がどういうものなのか右も左も解らない状態で五里霧中で制作していて力強い。今からもう一度このテンションで作ろうと思っても同じようにはできないだろうということだ。そのことがいったいどういうことなのだろうと考えてみると、やはりそこには彫ること、摺ることに新鮮な「感動」があったのだろうと思う。初めてモノを作る「喜び」と言ってもいいかもしれない。最新作は技術的にもうまくなっていて、それぞれの個性がはっきり出てきているのだが、比較するとまとまり過ぎて見える気もする。

当然だが、言いだしっぺの僕も初期作品と最新作の木版画を合わせて出品した。みなさん現在の具象的な作風は個展などに観に来ていただいて知っているのだが、この初期作品は初めて観るということもあって、とてもおどろいていた。今とは全く異なるテーマで画風も抽象的である。東京という都市をゴースト・タウンに見立てた連作のうちの1点である。なんせ、33年も前、20代前半の作品なのだ。出品者の中で僕が一番年齢が若いのだが、初期作品と最新作の間の時間はダントツで長い。この間にもいろいろなテーマ、作風へと変化している。「作品というのは作り続けている以上、変化していかなければならないし、作家自身、変容していくものなのである…」というようなことを会場で人生の先輩でもある生徒さんたちに話した。

それから開講10周年を記念したA4サイズの共同画集(ポートフォリオ)『THE SQUAERS・2015』を僕も参加して限定出版した。今回で2冊目となる。これもポートフォリオを開いて一枚一枚手に取って見ていくと楽しい。10年は一昔、10年続けばなんとかとも言う。どこまでできるか今から想像はできないが15周年、20周年と講座とグループ展が続いて行くように、みんなで精進して行こう。

展覧会は京成電鉄ユーカリが丘駅徒歩1分、ユーカリプラザ3階イベントホールで16日(月)まで開催しています。近隣にお住いの木版画に興味のある方、ぜひこの機会にご高覧ください。画像はトップが会場風景。下が向って左からビルの入り口にセットされたポスター、額装して展示された木版画の一部、今回制作した共同画集を開いたところ。

 

      


146.美術学校で『変容・Metamorphosis』の授業を講義中。

2014-06-05 21:04:56 | カルチャー・学校

4月から東京の美術学校、A美術学院で『変容・Metamorphosis』という新授業が始まった。

この学校は3年制の専門学校でデザインとファインアートの専門課程があるが、僕が担当するのは1年生の基礎学年の授業である。描写表現実習として自然物の細密描写や心の中の世界を描くイメージ・ドローイングなど、いくつかの授業とリンクして行われている。昨年までは野外での自然物描写(スケッチ)を担当してきたのだが、年末に専任のF先生より「学生の質が変化してきているので、野外スケッチ授業は今年限りとして新学期から教室内の授業を担当してほしいのだけど、物を描写することを根底とする何か良い授業のアイディアはないですか」という依頼があった。少し考える時間をおいて「アニメやゲームなどサブカルチャーが日常化している若い学生たちに『変容・Metamorphosis』という課題ではいかがでしょうか?たとえばテキストにマニエリスムの画家、アルチンボルドなどを見せたりしてはと思っているのですが」というアイディアを出したところ即答で「それはおもしろい!今日的なテーマでもあるし学生も興味を持つと思う。その方向でいきましょう」と2つ返事をいただいた。

ジョゼッペ・アルチンボルド (Giuseppe Arcimboldo, 1527-1593)はイタリア・ミラノ出身の16世紀マニエリスムを代表する画家で植物や動物などで構成、変容された肖像画が代表作として知られている。この時代特異な画風で一世を風靡した。時のヨーロッパの王族の目に留まり宮廷画家となった。その中でもルドルフ2世は最大のパトロンで多くの作品がコレクションされている。わが国でも少し前に文学者などが紹介したことでブームとなり、最近では変容表現の代名詞的な存在となりつつある。実は僕自身30代に『変容・Metamorphosis』と題した銅版画の連作を50点以上制作している。

「この課題内容はたして今の学生たちの心に伝わるだろうか…」寸前まで不安が残った。ところが心配など吹き飛んでしまった。ガイダンスでアルチンボルドの作品を投影し、課題内容の説明をしてアイディアスケッチが始まるとあれよあれよという速さで自然物などで構成された未知の生物が生み出されていくではないか。「飲み込みが速い!」 最初の授業の昼休みF先生と顔を見合わせて「うまくはまったねぇ」と言い合った。こちらの小さな心配などどこ吹く風、今の学生にはこうしたファンタジー的な想像力を膨らませることなど日常の感覚になりつつあるのだろう。逆に指導するこちら側が毎回どんな作品が生まれるのか楽しみになってきている。画像はトップがアルチンボルドの代表作『春』の部分。下が同じく『夏』の部分と美術学校内の風景。

 

        

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


86.新緑の都市公園でスケッチ実習

2013-05-01 14:02:54 | カルチャー・学校
先月、25日と26日の2日間、都内の新宿御苑に美術専門学校の野外スケッチの指導に行って来た。A美術学院のこの授業を受け持つのも今年で5年目となった。「野外に出て自然物を描写する」というのが学生たちへの課題となっている。

朝、少し早めにインフォメーションセンターに着くと、幾人かの学生がスケッチ用に大きなカルトンをかかえて待っていた。しばらくすると専任で担当のF先生を始め、学生たちも続々と到着。さっそくゲートをくぐって入苑することとなった。4月も末ということで樹木や花を描くにはちょうど良い季節である。初日は風も弱く天気もまずまずの日となった。苑内はとても広い。思い思い方々に散らばった学生たちを毎回探して歩くのが一仕事になる。おかげでいい運動にもなる。終日、学生の姿を求めて歩いているとポケットに忍ばせている万歩計は軽く一万歩を超えてしまう。そして出会った先で新入生たちのフレッシュなスケッチを見ながらコメントをして行く。

昼なお暗い苑内の林の中を歩いていると頭上で美しい野鳥の声が聞こえてきた。声のする横枝に視線を移すとヒタキ科のオオルリの♂が見つかった。少し先でもう一羽が囀っている。渡りの途中に立ち寄ったのだろう。東南アジアからこの時期に渡って来て、これから繁殖地である日本の山間部に入っていくのだ。そういえば今年から5年以上にわたり工事中だった。『大温室』もリニューアルオープンした。ここで描いている学生がいないかと、視察がてら入館してみた。さほど広くはないが、明るい館内には所狭しと熱帯の植物や絶滅危惧植物が植えられている。形や色彩が変わった種が多く、まるでアンリ・ルッソーの熱帯幻想絵画を見ているようである。見ごたえがある場所だが通路が狭く人が多い。スケッチには向かないのか学生は一人しか入館していなかった。

翌日も天候に恵まれ、人出も多かったが気持ちよく今年の実習をスタートすることができた。「教室にいるよりも気持ちがいい」という声を学生たちからも聞けた。これから6月までクラスごとに続いていくが、新たな学生たちとの出会いと共に、季節ごとに変化していく動植物との出会いも楽しみにしている。画像はトップが木々がうっそうと繁った苑内の玉藻池、下がスケッチ中の学生と大温室で見た熱帯植物の花。