長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

428. 『GALACTIC TRADING CARDS 2021 / ギャラクティック・トレーディング・カード 2021』

2021-03-31 17:54:13 | 書籍・出版
今日は3月の最終日、4月の声を聞こうと言うのに相変わらずコロナ禍が続く。自粛生活も2年目に入り、そろそろフラストレーションがたまっても来ている。

今月中旬、カナダの美術家でエコロジストでもある友人、デルヴィン・ソルキンソン氏から彼とそのメンバーが企画・出版した国際的アート・プロジェクトである『GALACTIC TRADING CARDS 2021 / ギャラクティック・トレーディング・カーズ・2021』の成果品が届いた。このプロジェクトはもう15年以上、続いているものだが、SNSを通してソルキンソン氏との交流が始まり、今回で僕の参加も4回目となった。

参加アーティストは幻想美術系の画家が8割ぐらいをしめ、かなり写実的な表現の画家も少数入っている。基本的にイラストレーターではなくファイン・アートの画家たちで、エコロジカルな問題やスピリチュアルなイメージ、世界各地の神話などに題材をとった内容の作品、作風のものが多い。中には幻想美術の世界的な美術家で、関係筋ではよく知られているエルンスト・フックスやアンドリュー・ゴンザレス等の作品も含まれている。
今回は40名以上の美術家による54枚のアート・カードとして企画され、全てはソルキンソン氏とそのグループのメンバーによって選出され、制作されている。カードはしっかりとした厚口の紙製で表に画像、裏に解説文等が印刷されたもので、さらにしっかりした紙製で凝った作りの箱にセットされている。

今回、彼らによって選ばれた僕の作品は『麒麟図・2018』という和紙に日本画の顔料や水性絵の具を併用して描かれた絵画作品である。参加アーティストの8割は英語圏か欧米からが多く、その幻想イメージも当然キリスト教的なものやギリシャ神話等に題材をとったものも多いので、東洋の伝説に登場する幻獣をモチーフとした僕の作品は珍しかったのかも知れない。

自粛生活の中、遠くカナダの友人から届いたアート・カードを床に広げ、その豊かで深い幻想表現に溜息をしつつ眺めていると、コロナ禍での自粛生活のフラストレーションを少しの間忘れることができ、精神が自由に解き放たれたような気持ちになれた。いつも素敵なアート・カード・プロジェクトに参加するよう誘ってくれている遠いカナダの友人たちには、いつも感謝しているのである。


         

419. 『GOOSE CALENDAR 2021・長島充 木版画の世界』

2020-11-30 19:39:31 | 書籍・出版
今月の初め、昨年より自然保護団体から依頼を受けて制作していた木版画を原画とする2021年のカレンダーが完成した。

このオリジナル・カレンダーのタイトルは『GOOSE CALENDAR 2021・長島充 木版画の世界』という。カレンダーの内容は日本に生息するカモ科の雁類6種をモチーフとして制作した木版画6点により構成されている。つまり2か月ごとに1点の木版画が割付られているのである。依頼主となったのは宮城県内に本部を置く雁類の保護団体「雁の里親友の会」でスポンサーとなっていただいたのは「(株)ネクスコ・エンジニアリング東北」である。

日本産の野性鳥類である雁類は秋冬期に冬鳥として越冬のために渡来する種類がほとんどだが、そのうちマガン、コクガン、カリガネ、ヒシクイ、シジュウカラガン、ハクガンの6種をセレクションし、それぞれに割り当てた季節の環境、風景の中でカレンダーとして構成した。画家・版画家の僕が制作するので、もちろん印刷物の受注イラストレーションとしてではなく全て写実絵画(版画)作品として時間と労力をかけて制作しその後の展覧会に出品することを前提としている。
制作を進める中、秋冬に生息する野鳥なので本来、雁類がいない季節の初夏と盛夏の風景をどうするかに苦労をしたが、そこは考え工夫をして夏季に過ごすであろう繁殖地の風景を想定し、その季節に観られる植物や水面等をバックに配することで何とかカヴァーした。僕自身の制作も春から真夏にかけてのコロナ禍の中での木版画制作となった。真夏に冬の雪景色の中のハクガンを彫っている時には、さすがにちょっと妙な気分にもなったのだが、制作そのものに集中していくことで気にならなくなっていった。

実はこの企画、来年の2月に宮城県内に国内外の雁類研究者が集い、雁類保護活動のための国際シンポジウムが開催される予定だった。そしてそれに合わせて県内ホテルのイベント空間で、この雁類木版画(原画)の連作を中心とした僕の『野鳥版画」の個展が開催され制作にまつわるアーティスト・トーク等も予定されていたのだがコロナ禍の影響により全てが中止となってしまった。カレンダーだけではなくこの展覧会に重きを置いていたので、とても残念でならないのだが、この状況下では仕方がない。
今年ももうすぐ師走である。10月中旬ごろから北海道等の集結地に集まった雁類は例年通りだと日本の各地に南下し分散している頃だろう。そして完成したこのカレンダーも北海道のネイチャーセンターでの配布をはじめ、さまざまな方法で多くの人々の手に渡っている最中である。企画を担当した方や印刷をしていただいた印刷会社の方からも「たいへん好評をいただいている」というメールでの連絡が入った。僕もようやく肩の荷が下りてホッとしているところである。

なお、このカレンダーは一般的な販売物ではなく、自然保護団体の普及・調査活動の一環として制作配布されるものなので、カレンダーを希望される方には送料500円と任意の額のご支援金を合わせていただいている。ご支援金は全て、世界的な希少種であるカモ科コクガンの繁殖地(ロシアの北極圏)の生息状況調査を行う「2021年度 コクガン調査支援」の保護活動資金として活用させていただくことになっている。

最後に意義深く素敵な企画にお誘いいただいた「雁の里親友の会」のI氏と会員の皆様、そしてスポンサーとなっていただいた「(株)ネクスコ・エンジニアリング東北」様、そして美しい印刷によりカレンダーを仕上げていただいたA社と担当のN氏に心から感謝をいたします。みなさん、ありがとうございました。

画像はカレンダーの中で描く季節に割り当てられたの6種の雁類たち。


               







339.月刊 BIRDER誌 8月号 特集記事『概説 空想鳥類学』に寄稿しました。 

2018-08-21 19:31:39 | 書籍・出版
国内唯一のバードウォッチングの月刊誌『BIRDER・バーダー』(文一総合出版)の8月号特集記事『概説 空想鳥類学』に「世界幻鳥図鑑」と題して寄稿した。文章は連載でもタッグを組んでいたS女史。僕は絵の方を担当した。

このBIRDER誌、ふだんは硬派でマニアックな野鳥観察者のための雑誌で、野鳥の生態や観察地、野鳥写真の撮影方法などを紹介している。僕がこの雑誌に連載などで関わり始めてから早いもので18年が経った。この間に特集への寄稿も5回ほどあった。最近では毎年8月号の特集記事だけは編集部で冒険をすると決めているとのことである。今回、編集担当のT女史からの依頼内容は「古から世界中に伝承される幻鳥をカラー6ページの中に図鑑風に構成してほしい」というものだった。

以前、文章のS女史とは、こうした内容で同誌に「伝説の翼」という連載を3年程続けた。絵は元々、イラストレーションとしてではなく画廊などで新作として発表する絵画作品として制作していたもので、この時のものと今秋の新作絵画個展に向けて制作している作品を合わせた形で寄稿している。合計で東西世界に分布する「幻鳥」を13種類載せてもらった(詳細は8月号誌面をご覧ください)。元々、世界中の人々が空想で伝えてきた「幻鳥」である。S女史の文章の方は「図鑑風の構成」ということに苦労していたようだが、何とかうまくまとめてくれた。

たとえばハリーポッター・シリーズに登場する「グリフォン」であれば分類の表記を「キメラ目・獣鳥科」、東洋を代表する「鳳凰」であれば「神鳥目・不死鳥科」という風に創作しているのである。そして13種それぞれに、起源、生息地、形態、生態、モデルとなった鳥、類似種などの解説を付けている。こちらも全て創作によるものである。さすがに、慶応大学野鳥学部出身と自称するだけのことはある。

ありそうでない特集内容。発売後の読者反応も結構ご好評をいただいているようである。BIRDER8月号は大手書店、Amazon、文一総合出版のネットショップなどから購入することができる。ご興味のある方は是非お手に取ってご覧いただきたい。


画像はトップが特集記事の「世界幻鳥図鑑」トップページ。下が向かって左から同じく記事の別ページ、BIRDER8月号の表紙(部分)。


   

326. スズメの絵本が出版されました。

2018-03-09 16:59:55 | 書籍・出版
今月1日。以前に制作中の話題をブログにも投稿しましたが、企画から2年間かけて制作した絵本が出版されました。以下、情報となります。

・タイトル:まちでくらす とり すずめ 月刊かがくのとも 4月号

・文:三上 修(みかみ おさむ) 日本鳥学会会員 理学博士

・絵:長島 充(ながしま みつる)

・仕様:本文28ページ + 表紙、裏表紙 

・出版社:(株)福音館書店

・企画・編集:福音館書店編集部・かがくのとも

・付録:ポスター『まちでくらすとり』(スズメを含めてメジロ、キジバト等、街中で観察される11種の野鳥が描かれている)。

・定価:本体 389円+税

・内容:幼稚園生ぐらいのお子さんが対象。野鳥のスズメが主人公、全国どこの地域でもみられる新興住宅地の街が舞台。住宅地、公園、畑などスズメは人間の居住空間に近い環境でごく普通に生息している。そのスズメのペアが巣作り~産卵~育雛~巣立ちを通し天敵である野良ネコやカラスからヒナたちを守って巣立たたせるまでを早春から秋までの季節の中で観察する物語。

<著者(長島から)>

文章担当の三上さんは鳥の行動や生態の研究が御専門。絵本の仕事は今回が初めてとのことだが、最近ではTV番組などにも出演されてスズメの生態を解説されるなどご活躍中である。今回、幼稚園生ぐらいが対象ということで絵のタッチも鉛筆と水彩を中心に柔らかい雰囲気を出すことを心がけた。絵本に登場する街並みや公園は僕の住んでいる住宅地がモデルとなっていて、脇役として登場する人物は家族、特に娘たちの子供の頃の写真や記憶を参考にしリアルな感じを出した。小さく親しみやすい野鳥の「野生」に生きる姿を感じ取ってほしい。ブロガーやSNS友の方々、是非この機会にお子さんやお孫さんたちに読み聞かせてあげてください。よろしくお願いします。

※絵本は月刊で基本的に年間購読ですが、現在書店の棚にも置かれています。一般の書店に注文すれば単冊で取り寄せてくれます。また以下の福音館書店のホームページからもお気軽にネット注文ができます。3か月間ぐらいは書店に置かれ、3-4年間ぐらいはバックナンバーとして購入できます。


福音館書店HP. http://www.fukuinkan.co.jp/

画像はトップが絵本の表紙。下が向かって左から絵本のシーン3カット、裏表紙、付録のポスター。


               

313. 『街でくらす野鳥』のポスター原画を制作する。

2017-12-01 19:09:27 | 書籍・出版
先月はS社という出版社の依頼で「街でくらす野鳥」をテーマとしたポスターの原画を集中して制作していた。スズメやカラスに代表される人間の居住空間近くに生息する野鳥たちを1枚のポスターとして制作するという仕事である。こうした仕事は初めてというわけではなく今までにも時々依頼を受けて制作をしている。

編集者からお話のあった内容としては「住宅地や公園、駅前など人間の生活空間の中でも生息している代表的な野鳥たちを10種程度選択し、1枚のポスター原画として制作してほしい」という内容だった。いろいろと検討した結果、以下の野鳥を選び出した。キジバト、コゲラ、ハシブトガラス、シジュウカラ、ツバメ、ヒヨドリ、メジロ、ムクドリ、スズメ、ハクセキレイ、カワラヒワ、以上11種である。夏鳥のツバメ以外は平野部の街中で1年を通してごく普通に
観察でき、繁殖もしている野鳥を選んでみたつもりである。冬鳥でも馴染み深いジョウビタキやツグミといった種類も入れようかどうかと悩んだが案外一般の人たちには認知度がないかもしれないということで除いた。
こうした都市部でも繁殖している野鳥を近年、専門筋では「都市鳥・としちょう」などと呼んでいる。そして観察しやすいということもあり研究対象にする鳥類学者も増えているのだ。

野鳥に限らず動物、昆虫、魚類、植物等、野生生物を対象とする精密画・博物画は、自由に創作する絵画とは異なり難しい点もいくつかある。まず、科学的に正しくなければならないということだ。プロポーションや骨格的なこと、羽などの枚数や色彩の問題、等々といったことである。まぁ、こうした仕事を一度でも受けたことがある画家でないとこの苦労は理解できないと思う。出版社のほうもその点はよく解っているので大概は下絵の段階で中間チェックが入るのである。最近では下絵の時点での「赤入れ(修正)」も減ってきたが、受け始めた頃はずいぶんチェックが入り下絵が真っ赤になったこともあった。ここまで来るのにけっこう鍛えてもらったということである。

こうした身近な野鳥の画像資料は自分でも普段から撮影しているのでまずはそれらの資料を見ながら描いていくことになる。ただ鳥も個体差というものがあるので他の人が撮影したものや図鑑類、海外の資料にまで眼を通して確認していくことも多い。なので仕事机の周辺はたちまち足の踏み場もないほどに、参考資料の山積みとなっていくのが常である。

ようやく線描によるモノクロームの下絵が完成し、編集部にチェックを入れてもらうため画像添付で送信。しばらくしてから制作のGOサインの連絡が入って、ようやく原寸の本紙へのトレース(転写)となる。トレースが完了すると一安心。あとは水彩絵の具で実物と近い色が出るまで着色していくのだが、ここからが長い。納得する表現・色彩になるまでは何度も何度も薄く微妙な透明色を重ねて行くのである。途中、エンドレスで終了しないのではないかという時期を過ぎると不思議なもので「もうこれ以上は描けない、色がのらない」というような飽和状態がやってくる。ここでやっと筆を置くのである。

先日、担当の編集者が東京から原画を受け取りに工房まで来てくれた。これから専門のデザイナーの手により文字や大きさ表示のイラストなどと組み合わせデザインされてから色校正に入るのだがココまで来ると初稿の印刷が上がってくるのが楽しみになってくる。本番の印刷は来年の3月頃、「街でくらす鳥」の1種をテーマとした絵本と同時に発売される。その頃にまた詳細をご報告することにしよう。

原画を渡すとホッとする。翌日は1人、近所の湖沼でゆっくりとバード・ウォッチング。渡ってきたばかりの冬鳥の観察を行って長時間の細かい描画でたまった疲れの気分転換をした。疲労回復には自然の中に入って深呼吸をするのがなによりである。


画像はトップが野鳥ポスター原画制作中の僕。下が同じく制作中の僕、描画のようす4カット、使用した固形水彩絵の具、完成に近づいた原画の全体像。



                  

290. 絵本の制作が佳境に入る。

2017-05-11 19:27:29 | 書籍・出版
そろそろ初夏を迎える。新緑が美しい季節。こんな時期の天気の良い日は思いっきり屋外に出てアウト・ドアーを楽しみたいものである。ところが最近の僕は毎日工房に閉じ籠って机に向かい絵の仕事をしている。と、言うのも一昨年、依頼のあった絵本の仕事が佳境を迎えているからである。原画の入稿が来月の中旬と迫ってきている。

僕のようにフリーランスで絵画や版画の制作をしていると、画廊やデパートなどでの作品の発表意外にも、いろんな仕事をこなさなければ生活が成り立たない。これまでも絵と版画にかかわる仕事に関してはは大抵のことはやってきた。
その中で出版に係わるものも、雑誌の単発のイラスト、絵や版画と文章による連載、作家の文章への挿画、書籍のカヴァーデザイン、そして今回のような絵本制作と多種多様な内容である。自分でもよくこなしてきたと最近では感心している。

その中で、特に絵本の制作というのは長いスパンの仕事となる。編集部の企画から始まって、それを受けての絵コンテ制作、打ち合わせ、さらに仕上がりに近い形でのラフ・スケッチの制作、修正内容等、編集部とのやりとりが頻繁になり、ようやく原画制作のGOサインが出るのである。ここからは辛抱強く各ページを追って丁寧に絵を仕上げて行くことになる。
この仕事を一度でも受けたことのあるエカキならば大体想像がつくと思うが、いったいどの程度の仕事量かというと、最低でも30ページ前後の絵を描かなければならないので「絵画や版画などの新作個展を画廊で一回、開くぐらいの内容」となるだろうか。エカキが新作個展を開くには1年半から2年ぐらいは作品を描き貯めることになるので、手間暇としてはそのぐらいはかかっているだろう。

今回の絵本は「人間の生活圏の極く近くで生きるスズメたちの家族」がテーマとなっている。文章は鳥類の研究者でスズメが御専門のM氏によるものだ。昨年末頃、A社編集部を通して途中までの絵の画像をM氏に中間報告として見せてもらったところ「大変好評をいただいて仕上がりをとても楽しみにしてくださっている」という答えが返ってきたので少し安心した。

今週に入ってようやく全ページの絵に着彩の手が入った。あとは入稿〆切までそれぞれのページの絵にどこまで完成度を上げていかれるかが勝負である。まだ少し独房生活が続きそうだ。好きなアウト・ドアーに出かけるのは我慢である。

絵本の出版は来年の4月となる予定である。宣伝期間などのため早い入稿になっているのだ。またその時にはブロガーのみなさんやSNSの友人、知人のみなさんにお知らせすることにしよう。

画像はトップが最終ページを制作中の仕事机のようす。下が向かって左から提出した2回目の絵コンテの一部、修正の入ったラフ・スケッチ2カット、本画の中の1ページ、仕上がってきた原画の一部を並べたところ、水彩と合わせて原画制作に使用している色鉛筆。


                   








279. 書籍のカヴァー図版に絵画作品が掲載される。

2017-02-23 18:39:54 | 書籍・出版
昨年末、絵画作品の個展を開催している画廊を通して書籍のカヴァー図版の仕事が舞い込んだ。本のカヴァーの仕事はひさびさである。デザイン担当のK女史と作品のイメージなどについて少しやりとりがあって、今月に入り出版された新書版の本が1冊「謹呈」として送られてきた。

本の内容はスイスの作家による小説である。情報は以下の通り。

・タイトル:ギリシャ人男性、ギリシャ人女性を求む Grieche sucht Griechin

・作者:フリードリヒ・デュレンマット(Friedrich Durrenmatt) 増本浩子 訳

・出版社:白水社 白水uブックス(新書版)

・定価:(本体1400円+税)

帯の内容解説では「うだつの上がらぬ中年男アルヒロコスが知人の勧めで結婚広告を出したところ、すごい美女が現れた。以来、彼の人生は一変。どこへ行っても重要人物の扱い、前代未聞の大昇進……降りかかるこの不可解な幸運の裏には一体何が? スイスの鬼才が放つブラックコメディ。」と書かれている。

僕は海外の現代小説には恥ずかしながら、とんと不勉強で作者の名前も初めて目にした。参考までに作者のプロフィールを簡単にご紹介しよう。

フリードリヒ・ディレンマット(Friedrich Durrenmatt 1921-1990)スイスの劇作家、小説家。

スイス生まれ。プロテスタントの牧師の息子として生まれる。大学では哲学などを専攻。21歳で処女作『クリスマス』を執筆。1945年、短編『老人』が初めて活字となる。翌年、最初の戯曲『聖書に曰く』を完成。1940年代から1960年代にかけて発表した喜劇によって劇作家として一躍、世界的な名声を博した。推理小説『裁判官と死刑執行人』(1950-51)がベストセラーとなる。1988年、演劇から離れ散文の創作に専念、晩年は自叙伝『素材』の執筆に打ち込む。代表作に『老貴婦人の訪問』、『物理学者たち』など。「ブレヒトの死後、ドイツ語圏で最も優れた劇作家」などと称賛されて高い評価を得ている。

僕のカヴァー作品は3年前、東京での個展で発表された手漉き紙に水彩とアクリルで描かれた絵画作品で『伝説の翼』という連作の中の1点である。夜のロンドンの街の上空を幻獣グリフォンが飛翔しているイメージを描いた作品で、ロンドンに留学経験のあるアート・コレクターの方が購入された。デザイン担当のT女史は画廊のオーナーにいくつかの作家、作品の写真資料を見せてもらいセレクションしたのだが「この作品の奥深く青い闇の色に魅せられた」のだという。

本好き、小説好きの方々、この機会に是非、読んでみてください。Amazonで作者名を入力するとトップに出てきます(他にも同一作家作品で10冊ぐらい出てきます)。画像はトップが本のカヴァー図版のアップ。下が向かって左から同じく帯着き状態の本のカヴァー、今回採用された水彩画作品『聖夜(グリフォン)』。


   






149.『BIRDER』誌7月号の特集記事に掲載される。

2014-06-26 20:55:01 | 書籍・出版

BIRDER(バーダー)という月刊誌がある。BIRDERとは米英語で野鳥観察者のことで、国内で唯一のバードウォッチング専門誌となっている。この雑誌、14年前から連載や挿画、特集記事などでお世話になっている。

先々月、編集部のT女史よりメールが入った。「7月号の特集記事に『至極の鳥見旅行ガイド』という企画をたてています。今までとちょっと変わった特集記事にしたいのですが、何かいいアイディアはないですか」ということで、さらに「長島さんはパワースポットとか詳しいですか、そういう場所で夏鳥を見たことはないですか」ということだった。現在、この誌面に『伝説の翼』というタイトルで連載されているページに神話や伝説に登場する鳥や翼の絵を描いているということでの依頼だろうか? それとも、理科系(生物系)、写真派のバーダーが主流の中で、普段から自称「文科系バーダー」と」名乗っているので依頼されたのだろうか? どちらにしても興味もあり引き受けたいと思ったので「内容了解しました。少し考えてみます」と返信した。

「…パワースポットねぇ。都内の〇〇神宮ではバーダー界であまりにもポピュラー過ぎるし、近所の〇〇寺では、平地で夏鳥の種類が少ないし…うーむ」 返事をしたのは良いが悩んでいるうちに強力なパワースポットを思い出した。2年前の5月に司馬遼太郎の歴史小説『空海の風景』を読了後、思い立って和歌山県の高野山を旅行した。確か高野山は恐山、比叡山と並び『日本三大霊場』と言われている。そして深い山地に位置することもあり、野鳥も多かった。というわけで、さっそく、T女史にメールを打ち内容を伝えると 「ぜひ、その内容でお願いします」という返事が返ってきた。ひさびさの特集記事ということもあって、ページ割、文章量などを確認してから、すぐに構想に取り掛かった。

先日、楽しみにしていた7月号が手元に届いた。僕の「パワースポットで鳥見旅」以外にも、鉄道での旅の途中、車窓から見る野鳥の話や全国通津浦々、珍鳥を探し求めての旅などなど、盛り沢山な特集となっている。野鳥好き旅行好きのみなさん、この機会にぜひ書店にて見てください。画像のトップはBIRDER7月号の表紙。下が担当した特集ページとカットとして描いたオオルリの水彩画。

 

     


122.『版画芸術 No.162 冬号』の特集記事に掲載されました。

2013-12-25 17:48:02 | 書籍・出版

国内唯一の版画専門誌『版画芸術 No.162冬号』の特集記事「日本の現代版画 1990-2013」に文章と作品画像が掲載された。前号No.161 秋号に引き続き掲載ということで、とてもありがたい。

編集部から依頼された内容は「1990年代から2013年までの版画家と版画作品の特集ということで、長島さんには90年代の作家自身が代表作と思う作品画像と文章(その当時考えていたこと他)をお願いします」ということだった。今までも版画芸術誌では「現代版画 1968-1992」、「現代版画の先駆者たち」という巻頭特集を組んできたようだが、その第三弾となるとのこと。1970年代に「現代版画ブーム」というものがあって、多くの版画家、版画技法が世に登場した。僕らの世代は70年代末から80年代にかけて美術学校などで版画を学んだので、このブームの世代に影響を強く受け、後を追った形となった。まぁ、今日の美術界で『現代版画』という言葉自体が死語になりつつあるのだが…。

僕が大きな銅版画を発表し始めた90年代初頭と言えば、ちょうどバブル経済の終盤の頃にあたる。世の中は好景気に湧き上がり賑やかだった。そしてしばらくしてバブルの崩壊、経済が不安になるにつれ社会の方向性や価値観が大きく変わっていく時代でもあった。その世の中の状況と自分の内面との落差のようなことを文章に書いた。創作とか表現というものは結局、世の中の動きを無視できないと常日頃考えているからだ。作品画像もその時期とリンクする『新博物誌シリーズ』の中の1点を選んだ。「早いものであれから約20年、経ったんだねぇ」掲載された作家、作品の中、90年代のものは記憶に残っていて当時を思い起こすものが多い。作家にしてもグループ展などで親交のあった人が多くいて、誌面をめくりながら感慨にふけってしまった。今後、版画表現というものが存続されていったとして2020年代、2030年代にはどんな状況になっているんだろう。誰にも想像はつかない。興味のある方は阿部出版ホームページか、大手書店にてご覧になってください。画像はトップが『版画芸術No.162冬号』の表紙、下が掲載されたページ。

 

 

 

 

 


101.『版画芸術』誌に記事が掲載されました。

2013-09-05 15:01:58 | 書籍・出版

前々回のブログでご案内しましたが、国内唯一の版画専門の美術雑誌『版画芸術』通巻161号(秋号)に僕の作品と記事が紹介されました。

『版画アートコレクション』の作家という特集記事で10ページにわたり紹介されています。作品の図版も近新作の中から19点ほどが載っています。記事はベテラン編集者のM氏による作家取材記事で、20代半ばから今日までの版画制作のテーマとその変遷についてまとめられています。それから現在、神話伝説に登場する幻獣と、自然界に生息する現実の野鳥を同時に版画作品として制作している理由に関しても詳しく取材されています。そして、今回の企画であるオリジナル版画シリーズ『日本のフクロウ』4点に関しての解説と特別価格販売のご案内が載っています。

今回、巻頭特集は創作版画運動期の巨匠『川上澄生』です。大手書店か阿部出版ホームページのオンラインショップから購入することができますので、ブロガーの中で美術ファン、版画ファンであるみなさま、ぜひこの機会にご購入ください。よろしくお願いします。画像はトップが161号の表紙。下2カットが記事の一部。

 

   

 


99.一千二百枚の版画にサインをする。

2013-08-06 12:11:28 | 書籍・出版

『版画芸術』という美術雑誌がある。一年に春夏秋冬、計4回出版される季刊誌である。1970年代のいわゆる『版画ブーム』の時代から40年以上にわたり伝統版画、創作版画、現代版画など版画芸術全般を紹介してきた国内唯一の版画専門誌である…というか唯一になってしまったと言ったほうが正しいのかもしれない。前のバブル期の頃は美術出版関係も景気が良くて同類の版画専門誌も3-4種類は出ていた。なので今ではとても貴重な誌面となっている。

ちょうど一年前に東京での版画のグループ展オープニングに編集長のM氏と編集者のK女史が会場に来てくれた。特にM氏は僕の20代後半から続けて作品を見て頂いている数少ない関係者である。その頃からときどき特集記事の掲載などでお世話になってきた。立食パーティーの会場で歓談していると「実は来年の企画なのですが、版画を制作してほしい」と言う。この季刊誌には『アートコレクション』という企画があり、現役の版画家が4種類のオリジナル版画を制作、各号と同時刊行するという内容である。他ならぬM氏からのご依頼である。快く承諾の返事をした。

4種類で各300枚ということは1200枚の版画作品を摺るということだ。つまり、ラージエディションということになる。銅版画ではエッチングにしろメゾチントにしろメッキをかけてせいぜい100枚~200枚ぐらいが限度である。編集部の希望もあって大量印刷に耐える木口木版画で制作することに決定した。今年の春頃から少しづつ構想を練り、6月に4作品の版の彫りが完成した(絵柄は発売まで秘密です)。今年は秋から冬にかけて東京での絵画新作展を皮切りに数箇所での個展を予定しているので自摺りをする時間がとれない。見本摺りまで自分でおこない本摺りは普段蔵書票などで摺りを依頼しているT木版画工房のベテラン摺り師、K氏にお願いした。今月に入って1200枚すべての本摺りが完成してきた。後は僕のサイン入れである。一枚一枚摺りの状態を確認しながら鉛筆で同じような調子でサインを書いていく。ゆっくりと100枚サインするのに約一時間かかった。サインを入れながらいろいろなことを考える。版画というのは複数芸術である。過去の歴史を見てもギュスターヴ・ドレや安藤広重など西洋でも日本でも元々、版元があって制作されたものである。現代の日本は版元不在と言われている。こうした形の受注仕事こそむしろ版画の王道といっても過言ではないだろう。サインも枚数が多いと一仕事であるが、仕事とは言え安定した調子で摺り上げていく摺り師の方はさらにたいへんである。

整頓された和室で汗が版画に落ちないように冷房を効かせ慎重にサインを書き続けている。9月発売の版画芸術・秋号の誌面には関連した特集記事も組まれていて先日、編集部の方と楽しい取材の一時を過ごした。ブログをご覧のみなさん、この機会に是非、大手書店などでご覧になってください。阿部出版・版画芸術のホームページでもご確認することができます。画像はトップが版画にサインを入れている手元。下はそのようす。

最後にこの企画をいただいた阿部出版・版画芸術編集部と木版画摺り師、K氏に心から感謝いたします。