長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

295.草原の希少な小鳥 コジュリン 

2017-06-23 18:03:01 | 野鳥・自然
今月は偶然だが、自然関係の投稿が続いている。まぁ、真夏に向かって生物が活気づく季節であるということだろう。

今日ご紹介するのは平野部の草原で繁殖する小鳥。僕が野鳥の観察フィールドとしている千葉県北東部の印旛沼周辺のアシ原や草原にホオジロ科の「コジュリン Japanese Reed Bunting」という野鳥が生息している。

スズメよりも小さく成鳥の雄は頭部がスッポリと黒い。ちょうどプロレスの覆面レスラーが覆面をかぶったような風にも見える。これに対して成鳥の雌は頭部が黒褐色で淡い不明瞭な頭央線のあり全体に地味な体色である。囀りは "ピッチリリ、ツーピチョチッ" という少しホオジロのそれと音の響きが似たカワイイ声で鳴く。地鳴きは"ツッ、ツッ" 分布は中国北東部・ウスリー・南千島で繁殖する。北方のものは冬季には南方に渡り、朝鮮半島南部・中国南東部で越冬する。日本では中部以北の本州および九州で繁殖するが、繁殖地はとても限られていて局地的である。そして冬季は本州中部以南の沿岸域で越冬する。関東周辺では利根川流域や印旛沼周辺の平野部のアシ原や草原で繁殖している。

8年程前には絶好の観察ポイントである休耕田にできた草原があり毎年のように観察に通っていた。コジュリンと共に同じく局地的分布であるウグイス科のオオセッカやコヨシキリなどの希少種も生息していて3種セットで観察することができてけっこう楽しんでいた。
その後、この場所は沼の取水場の新設工事などが入り、まったく観られなくなってしまった。長くこの場所を観察していた鳥仲間によると川沿いの他の場所へ移動したようであると教えてくれた。野性鳥類は環境の微妙な変化に敏感なのである。
いずれにしてもコジュリンが生息しやすい環境というのは人間から見れば平野部の開発がしやすい場所にあり、常に生活の場を追われる緊張した状態を強いられているのだ。

このコジュリン、「環境省発行の2014年版『Red Data Book・日本の絶滅のおそれのある野生生物』の中で「絶滅危惧Ⅱ類・絶滅の危険が増大している種」として指定、掲載されている。

初夏のそよ風の中、真っ黒い帽子をかぶったコジュリンが広い草原で囀る長閑な姿をいつまでも観られるよう切に願うこの頃である。画像はトップが餌をくわえたコジュリンの成鳥雄。下が同じく成鳥雄、囀る成鳥雄、成鳥雌2カット、囀る成鳥雄。

          

294. 行徳鳥獣保護区の『クモ観察会』に参加する。- 初夏編 - 

2017-06-16 17:58:20 | 野鳥・自然
先月、5月14日。千葉県市川市南部にある行徳鳥獣保護区内で東京蜘蛛談話会主催により行われた「クモ観察会」に参加してきた。行徳鳥獣保護区周辺は新浜(しんはま)と呼ばれ昭和30年代頃までは渡り鳥(主に水鳥)の中継地として世界中の鳥類学者が注目する場所だった。
それが高度成長期に大規模な東京湾岸域の開発が進み、現在までに三番瀬、谷津干潟などと合わせわずかな干潟や水辺の自然が残される形となっていった。そして僕にとっては今から40年前、高校生の頃に野鳥観察を始めた想い出の場所でもある。

今回、「クモ観察会」を主宰するのは東京蜘蛛談話会という生物のクモを研究、愛好する会で全国にプロ・アマ含めた会員がいる団体である。僕は30代の初めに専門的な研究機関である「日本蜘蛛学会」と共に入会し現在にいたっている。入会の動機は住まいの近くである印旛沼周辺の「クモ相・ファウナ」を調べたくてみたくなったのがきっかけだった。学会の方は僕には専門的すぎて10年程前に退会してしまったが、談話会はみんなで楽しく観察会などを行っているところが気に入って続けている。とはいえ東京と名がつくだけあって会員が東京、神奈川、埼玉に集中していて、いつも観察会がそちらの方面のことが多く会員数の少ない千葉県での観察会が少ないので、なかなか参加できず幽霊会員になりつつあった。それが今年は千葉県市川市の保護区内で開催されるというので重いオシリを上げて参加することとなった次第である。

当日の朝、9時過ぎに地下鉄東西線の行徳駅で下車、改札の駅員さんに保護区までの順路を確かめテクテクと歩き出した。20年近く来ていない。ひさびさに訪れた街中のようすは随分変わっている。初めて見るビルや住宅地も拡張されていたりと風景が様変わりしていて途中からどこをどう歩いているのか解らなくなってしまった。結局、保護区の南端まで移動してしまい集合場所までグルリと遠回りした形になった。
どうにか行徳自然観察舎前の集合場所に辿り着くと、すでにボランティア・ガイドの人による保護区内での行動や観察の注意事項の説明が始まっていた。これから入る保護区内は普段は一般の人の入場はできず、今回はこの観察会のため特別に入場させていただくのである。
古くからの談話会の知人で観察会の世話人であるK女史や何人かの顔見知りの人に挨拶し、参加者20名の列の後ろに並んで注意を受けた。

10時過ぎにいよいよ保護区内に出発する。ゲートをくぐってしばらく進むと右手に干潟が現れた。引き潮でトビハゼやヤマトオサガニといった干潟特有の生物が観られた。このあたりまでは40年前の記憶がピタリと重なってくる。さらに進むとうっそうとしたブッシュが広がり始めた。草原、常緑樹の林、笹薮、ところどころ池が現れたりなかなか変化に富んだ自然環境が形成されている。ポッカリと開けた場所に出ると水田が作られ、ため池に水車が回っている場所に出た。ここで世話人のK女史による観察会の簡単な流れの説明があり、あとはおのおの観察へと向かう。それこそ「蜘蛛の子を散らす」ようにテンデンバラバラに保護区内に散って行った。いきなり採集を始める人、じっくりとクモの網を観察する人、奥の方まで移動する人など人それぞれの観察が始まる。僕はというと「採集はしない」と決めているのでカメラ片手に大きな種類を撮影したり、種のわからないクモを同定会用に持参した小瓶に入れたり(後で生きたまま逃がす)ゆっくりと移動して行く。
コガネグモ科のコガネグモの亜成体が多く目につく。コガネグモは平野部では農薬散布なので減少している種類だがここは居心地が良いらしい。それから太平洋岸で北上傾向のあるアシナガグモ科のチュウガタシロカネグモも多く観察できた。

あっという間にお昼の時間。元来た道をもどり観察舎前まで戻り昼食を兼ねて「クモ合わせ」と呼ばれる同定会。参加者全員が種名の解らないクモを小瓶に入れて持ち帰ったものをベテラン会員(若い生物系大学院生)がルーペで除きながら次々に同定していく。今回、カニグモ科の「ワタリカニグモ」という珍しいクモの雄雌の成体が採集された。僕も初めて聴いた種名で出版されたばかりの最新の図鑑には掲載されているということだった。

午後の観察会も同じルートで保護区内に入り、それぞれに観察行動をする。おもしろかったのはk女史が捕まえたハエトリグモ科のネコハエトリ数頭をノートの上に放して「ホンチ(ハエトリグモによる相撲)」を始めたことだった。周囲にはギャラリーも増えヤンヤヤンヤと結構楽しめた。
楽しい時間はアッと言う間に過ぎて行く。再び元来たルートを戻り、出口付近の草地に集まると二度目の「クモ合わせ」。同定できたもので今回74種のクモ類が記録された。名残惜しいが午後4時過ぎに解散となり保護区をあとにした。
今回の参加による収穫はクモの個体数の多さもさることながら40年の歳月の中で保護区内の植生が豊かに繁茂し、まるで欧米の自然保護区のように発達し、管理されていたことだった。40年前の何もない埋立地の状態を知るものとして再生された自然環境はまるで「創世記」を現実で見せられているような感覚になった。これもひとえに「行徳野鳥観察者友の会」を初めとしたボランティアの人たちによる地道な保護活動の成果なのだと納得し感動した。友の会の皆さん、お世話になり感謝します。この観察会は7月、10月、2月とシーズンを変えて開催される。今後もできるだけ参加してみようと思っている。

画像はトップがチュウガタシロカネグモの♀成体。向かって左からコガネグモ♀、ナカムラオニグモ♀、コゲチャオニグモ♀、ゴミグモ♀、イオウイロハシリグモ♀亜成体、クサグモ幼体、観察会のようすと保護区内の風景。

                                                      






293. LTAP・リトルターン・アートプロジェクトに参加する。

2017-06-09 19:04:42 | 野鳥・自然
今月、3日。自宅から浜松町駅まで電車で移動、ここからモノレールに乗り換えて昭和島駅で下車、東京都大田区の昭和島にある「東京都下水道局 森ケ崎水再生センター」に行ってきた。こう書くと「絵描きがそんな場所に何をしに行ったんだ」と言われそうである。
この施設の屋上に毎年、今の季節になるとカモメ科のコアジサシという夏鳥の野鳥がコロニー(集団営巣地)を形成し子育てを行っているのである。「なんだぁ、バードウォッチングかぁ」と思われるかも知れないが、今日はただの個人的な野鳥観察ではない。

コアジサシはかつては首都圏近郊でも湾岸域や河川、内陸湖沼など水辺ではどこでも必ず普通に観察できた野鳥だったが現在では繁殖地の大規模な開発により、その生息数が激減し環境省が発行しているレッドデータブック(絶滅の危機に瀕する野生生物のリスト)に「絶滅危惧種」として掲載されてしまっているのである。

16年以上前、この地の人口基盤上でコアジサシの営巣が確認されてから、この危機に瀕する野鳥たちを救おうと立ち上がった人たちがいた。少しずつ賛同する人たちを募りながら地道な調査研究活動、営巣地の保全・再生のための環境整備事業、観察会、環境学習会、関連自然保護団体とのネットワーク構築などの活動をコツコツと積み重ね、現在はNPO法人「LTP リトルターン・プロジェクト」という組織としてコアジサシをはじめとした野生生物と人間との共生を目指す非営利活動を展開している(リトルターン・Little Tern とはコアジサシの英語名)。

僕もLTPの活動の事は以前よりさまざまなメディアを通して知り、「とうとう日本にも本格的な野鳥保護活動をする人たちが出て来たんだな」と、たいへん感心し注目してきた。
今年の春、都内の公共施設で開催された日本の野生生物を描くアーティストたちのグループ展に参加したところ知人のイラストレーター、O女史より、LTPの中心メンバーとして活動されているM氏を紹介された。そして二人は今「LTAP リトルターン・アートプロジェクト」というコアジサシの保護活動と連動した展覧会の企画を計画中であるというのだ。そこで是非、僕にもアーティストの1人として参加してほしいというのである。二人の真剣な表情、特にM氏の熱っぽい説明にその場でつい「よし、コアジ(コアジサシの略称)のためにみんなで一肌脱ごうじゃあないか!」と言ってしまった。いや、これで良かったのである。

3日はその参加メンバーでの「現地取材観察会」。普段は関係者以外は入れないのだが、特別にコロニー内に入れてもらったのだった。午前10:30集合時間に入り口に辿り着くと今日の参加メンバーである画家、イラストレーター、漫画家、立体作家などのアーテイスト19名が勢ぞろいしていた。さっそくM氏のコロニー内での観察行動の注意事項が説明され、いざ取材に出発となった。今年は約1000羽のコアジサシが飛来しているという。

施錠された門が開けられ中に入ると人口的な建築物の屋上という広くて平らな環境には砂利や貝殻が敷き詰められ所々に外敵からの保護用の煉瓦ブロックが組まれている。参加者は暑さ除けに設置されたテントの周辺まで移動すると各々、双眼鏡や望遠鏡で観察を始める。カメラでコアジサシたちの姿を撮影する人、スケッチブックを取り出してスケッチを始める人、ノートにメモを取る人などそれぞれの取材内容となる。

望遠鏡で観察していると巣の上にうずくまる親鳥の下から生まれたての可愛いヒナの姿や卵が観られた。よく見回していくとそこかしこに巣ができている。ときおりコアジサシたちがワッと群れで飛び立つことがある。カラスが出現するのだ。M氏の解説では、ここでの最大の天敵はカラスたちで卵やヒナを丸呑みしてしまうそうである。それから猛禽類のハヤブサやチョウゲンボウも出現し親鳥も捕えられるとのことだった。まさに「命がけの子育て」なのである。昼食後はM氏の誘導でさらに巣が近くにある特別な場所や保護区内に作られた水辺のビオトープなどを案内してもらったり至れり尽くせりの取材だった。

炎天下の中、ちょっとハードな取材となったが、アーティストそれぞれが、生きたコアジサシの姿を取材し脳裏に焼き付けて16時に解散となった。展覧会は早いものが今年の11月、それから何か所かを巡回する。さぁてここからが勝負。どんな作品に仕上げて行こうか。仕上がった作品はLTPの保護活動に使用される。コアジサシたちの未来のため、少しでも保護活動の役にたてる作品を制作するために気持ちを引き締めて行こう。

画像はトップがコロニー内のコアジサシの成鳥。下が向かって左からコアジサシ成鳥と飛翔図、取材のようす3カット、営巣地内の環境4カット。