長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

383. 絵画作品 『バステト・2019』を描く日々。

2019-09-21 18:48:08 | 絵画・素描
古の教え通りに秋彼岸が近づいてきてようやくストンと涼しくなってきた。今年の夏もとても暑かった。絵画作品や版画作品を制作するのに暑い季節が一番堪える。なにより集中力が鈍るのである。

9月に入って、夏の間に下絵を制作していた古代エジプト神話に登場する女神『バステト・Bastet』の絵画作品を制作している。バステトは古代エジプトでは猫の姿をした女神。時代によってさまざまな解釈が生まれたが、もっとも後期のものでは性格も親しみやすく穏やかなものとなり「愛情」を表すシンボルとなった。月との関わりを持ち、神話の中では月の目となった。残された造形物も多く、全身が猫の場合はとてもプロポーションの美しく凛とした姿の雌猫として彫刻などに表現されている。

僕が世界中に分布する『神話・伝説』の世界をテーマとして絵画や版画で作品制作を始めてから15年ほどたった。その中でモチーフとして度々登場する神獣の中の1つがこの『バステト』である。今までに絵画で2点、素描で1点、版画で1点を制作している。昔から洋の東西を限らず、どんな画家でも気に入った画題というものは時を変え年齢を変えて繰り返し描いていくものだと思う。それは理屈ではなく言葉にすると「相性」ということになるのだろうか。
今回も手漉きの和紙に顔料やアクリルその他の画材をいろいろと混合して描き進めている。和紙は表面がデリケートで毛羽立ちやすかったりするので描きづらい点もあるのだが、絵の具が重なって仕上がりに近づいてくると独特の雰囲気を醸し出してくれるので、最近では絵画の制作上なかなか手放せない基底材の1つになってきた。画像に載せたカットはそろそろ最後の追い込みに入ってきたところでアクリル絵の具による色の重ねや細部の書き込みに入った状態のものである。

これから秋も深まり制作にエンジンがかかってくるシーズンとなる。『バステト』に限らず古代エジプトの動物神の連作の制作を進めている。作品は秋の絵画グループ展に出品する予定である。また展覧会が近づいた頃にご案内する予定でいるのでブログをご覧いただいている方々、お楽しみに。

※画像はトップも下も制作中の絵画作品『バステト』とその机の周囲を撮影したもの。



      

382. 『フリーア美術館の北斎展』を観る。

2019-09-07 17:27:14 | 美術館企画展
先月9日。東京駅のステーションギャラリーで『メスキータ展』を観た同じ日、順番が逆だが、両国のすみだ北斎美術館で開催されている『フリーア美術館の北斎展』を観て来た。国立スミソニアン協会・フリーア美術館は1923年アメリカのワシントンD.C.に設立された美術館で、スミソニアン美術館群の1つである。実業家であるチャールズ・ラング・フリーア(1854-1919)がコレクションした美術品をはじめ、隣接するアーサー・M・サックラー・ギャラリーも合わせて、日本美術の収集品数は約1万2700点に及び、中でも北斎の肉筆画は世界屈指のコレクションを誇っている。そしてフリーアの遺言により所蔵品はすべて門外不出とされ、その方針は現在も固く守られている。

そこで今回の展覧会はフリーア美術館の全面的な協力により、京都便化協会と光学メーカーのキャノンが推進する「綴りプロジェクト(文化財未来継承プロジェクト)」によって同館が誇る世界最大級の北斎の肉筆画コレクションの中から13点の高精細複製画を制作、これにすみだ北斎美術館の約130点の関連コレクション作品と共に展示するという内容になっている。

実は「高性能デジタル撮影による複製画」による展示という事を会場の入り口で知った。この時は「なぁんだ…」と思ってしまいあまり期待していなかった。ところが会場に入って順番に観ているうちにその偏見は拭い去られていったのだった。特に六曲一双の大作「玉川六景図」や「波濤図」のデジタル再現コピーは会場で観る限りは本物とまったく区別がつかない。岩絵の具の極薄い絵の具層の盛り上がりや余白部分の絹本の質感、飛び散った絵の具、古くなってできたシミに至るまで極々細部までもがリアルに再現されていた。そのあまりにも見事な再現技術に見入っているうちに目の前のコピーが複製プリントであることを忘れてしまうほどである。

一眼レフカメラと高性能レンズで知られるキャノン・Canonの入力、画像処理、出力に到る先進技術と京都伝統工芸の匠の技との融合によって表された門外不出の北斎の肉筆画コピーに完全にノックアウトされ脱帽状態であった。デジタル撮影・印刷技術は日増しに進化を続けている。こうしてどんどん進化する中、手描きの絵画や手摺りの版画というものが人にとっていったいどこまで意味を持ち続けていられるのか。いろいろと考えさせられる展覧会であった。

会場を出ると猛暑のの大都会、真っ青な夏空が広がっている。北斎美術館の館長をご紹介いただいた知人の方に教わった近くの手打ち蕎麦店「穂乃香」で遅い昼食をとった。ここは「北斎せいろ」など北斎の名がついたメニューもありお薦めの蕎麦屋である。


※展覧会は8/25で終了しています。