長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

417. 『木の鳥グランプリ 2020』 

2020-10-12 18:03:20 | イベント・ワークショップ
先月26日、東京都足立区北千住の千住ミルディスに於いて昨年に引き続きバード・カーヴィング(野鳥を題材とした木彫刻)の全国公募である『木の鳥グランプリ 2020』の審査会が開催され僕も昨年同様、審査員の1人として参加してきた。今回の審査員は、上田恵介(公財 日本野鳥の会会長)、梅川薫子(バード・カーヴァー)、叶内拓哉(野鳥写真家)、鈴木勉(バード・カーヴァー)、長島充(画家・版画家)、松村しのぶ(動物造形作家)の6名(50音順)で行った。

このコンペティションは今回で2年目、本来は3月に開催される予定だったのだが、年頭からのコロナ禍の影響により延期となり、二転三転した結果、ようやく9月開催に漕ぎ着けたのだった。スタッフ、審査員一同「果たして応募作品が集まるのだろうか?」とずっと心配していたのだが、さすがに応募数は昨年より減少したものの審査当日、会場には多くの力作の木彫の野鳥たちが勢ぞろいしていた。このコンペは、初心者に参加してもらうためのステージである、1.「ステップアップ部門」より高度な技術力と芸術性が求められる、2.「コンペティション部門」木目を生かした彩色のない表現で自由な発想で制作された、3.「ウッドスカルプチュア部門」の3つの部門に大きく分かれ、さらに1と2にはそれぞれ実物大のライフサイズと縮小版のミニチュアサイズにそれぞれ分かれている。

僕は昨年の第1回では『コンペティション部門』を担当したのだが今年は梅川女史、叶内氏と3人で入門編の『ステップアップ部門』を審査担当することになった。そして昨年同様、3番目の『ウッドスカルプチュア部門』に関しては6人全員で審査することに決定した。審査の基準としては事前の打ち合わせで、正確さ(野鳥としてのその種らしさや科学的な正しさ)、木彫作品としての技術力、アート性(芸術作品としての表現力や完成度)等を共通のポイントとして3人で会場を回って見ていくのだが、それぞれが得意な分野は特に任されていくということになる。まぁ、僕の場合はやはりアート性が中心となるのだが。
午前中、10時頃より審査に入り喧々諤々、意見を出し合いながら賞候補となる作品が絞られていく。そして各部門の賞が次々と決定していき、全てが終了したのは予定時間の12:00をかなりオーバーしてしまっていた。この時にはジンワリと汗をかいているのだった。審査後、会場に並ぶたくさんの木彫の野鳥たちをボ~っと眺めていて、惜しくも受賞には漏れたのだが写実的で精密、イキイキとして今にも飛び立ちそうな木の鳥の姿にしばらくの間、見入ってしまった。木という材質のせいなのだろうか、かなり精巧に、シビアに形を彫られていても何か人肌にも似た温もりが漂ってくるのを感じるのだった。

コロナ禍の厳しい状況の中、力作を制作しご応募いただいた作者のみなさんと、このコンペティションの準備に関わっていただいた全ての関係者、スタッフの方々にこの場をお借りしてお礼申し上げます。来年もこの素敵なコンペティションが継続して開催され、また多くの素晴らしい力作が観られることを願いつつ会場を後にしたのだった。

※画像はトップが審査会場風景。下が向かって左から審査員6名、審査会場風景、出品作品の数々、コンペティションポスター。


                     




386. 『木の鳥グランプリ 2020』

2019-10-26 18:31:02 | イベント・ワークショップ
今年度も以下、バードカービングのコンペティションの開催が決定し審査員の一人として参加することになりました。リーフレットやポスターがコンペ事務局より発送されてきたので以下にお知らせいたします。

・コンペ名称 JWCC(ジャパン・ワイルド・ファウル・カービング・コンペティション 2020)

・開催日 2020年3月20日(金)12:00~19:00 3月21日(土)10:00~16:30

・会場千住ミルディス1番館(北千住マルイ)11階ギャラリー 東京都足立区千住3-92

・作品応募受付期間 2019年12月1日~開催日初日午前(事前登録は2020年1月末日まで)

・開催趣旨(リーフレットより) この大会は、バードカービング(鳥の彫刻)を愛好する者が一堂に会してその作品を発表し、芸術性を競う場です。この大会を通じ、バードカービングの普及と技術や表現力を高めることを目 的とします。

・応募部門 ステップアップ部門、コンペティション部門、ウッドスカルプチュア部門の3部門により構成される。

・審査員 叶内拓哉(野鳥写真家)、川上和人(鳥類学者)、鈴木勉(バードカーバー)、長島充(野鳥版画家)、松村しのぶ(動物造形作家)、松本浩(バードカーバー)

・主催 JWCC2020 実行委員会

・後援 日本野鳥の会、日本鳥類保護連盟、世界自然保護基金日本委員会、全日本氷彫創美会、日本タイカービング協会、東京都足立区、足立区教育委員会

・協賛 ㈱アルゴファイルジャパン、エーストロフィー商会、㈱海洋堂、興和光学㈱、㈱サン-ケイ、文一総合出版

・特別後援 Ward Museum(USA)

※その他、応募規定、作品規定、審査基準、アワード(賞)、応募方法、出品料等に関しては以下、JWCC2020実行委員会事務局まで問い合わせ、ご連絡ください。

・JACC2020実行委員会 tel 090-1282-8700 Email 2018jwcc@gmail.com / ホームページ http://jwcc.jimdo.com/

以上、少し早目かとも思いましたが新たに新作を制作されて出品される方には応募出品まで半年を切っているので遅いぐらいかとも思います。審査員の一人として昨年同様に鳥たちの生き生きとした力作、傑作の木彫刻作品が勢ぞろいするのを楽しみにしております。当ブログをご覧いただいている方々の中でバードカービングの制作をされている方、または友人知人に制作されている方がいらっしゃる方、どうかこの機会に振るってご参加、ご紹介ください。どうぞよろしくお願いいたします。




369. 『ライヴ・プリンティング② 木口木版画を摺る』

2019-05-14 17:22:30 | イベント・ワークショップ
前回の投稿内容である個展終了の御知らせと時系列が逆になってしまった。

4/12~5/6まで開催された千葉県市川市の公立美術館、芳澤ガーデンギャラリーでの個展『長島充 - 現実と幻想の狭間で - 』の会期中、5/4(土)に関連イベントとして『ライヴ・プリンティング② 木口木版画を摺る』というタイトルで版画の解説トークと摺りの実演を行った。前回、4/20(土)に好評のうちに行った『ライヴ・プリンティング① 銅版画を刷る』の姉妹編とも呼べる内容である。
このようなワークショップ的とも言える版画の摺りの実演を美術館や公共施設で行うようになったのは15年以上前からだと思う。イベントの機会をいただき度に行ってきた。


何故、このようなことを続けているかというと我々、版画の制作者というのは個展などの会場で常に来場者から技法についての説明を強いられる。例えば「銅版画というのはどのように彫って、刷っているのですか?」「木口木版画って、普通の木版画とどこが違うんですか?」等と言う内容である。
版画の中でも板目木版画は日本人には「浮世絵」や「年賀状」のイメージが強くその技法内容も一般の人たちには想像しやすい。それに対して西洋から輸入された版画である銅版画や木口木版画、リトグラフ、シルクスクリーン等の版画技法は一般の人たちにはほとんど知られていないと言っても過言ではないだろう。
なので、版画の展覧会場では版画家は技法の質問に対しての説明にかなりの時間を割かなければならない。絵の内容は二の次ということも多いのである。

このことは、版画家、版画商、版画関係者がその普及を怠ってきたということもあるのではないだろうか。そこで甚だ微々たる歩みではあるが私個人としても、より多くの人たちに版画芸術の魅力を理解していただこうとこうした実演活動を続けているのである。勝手に「版画辻説法」と名付けている。

今回のイベントも前回同様に美術館のロビーで13:00からスタートしたのだが、参加希望者の方々はすでに12時頃から集まって来ていた。前回の銅版画もたいへん好評をいただいたのだが今回も第一回目は70名程の参加者が集まった。

初めに解説トークとして木口木版画の西洋での歴史と技法、代表的な作品のコピーなどを説明と合わせて観ていただく。「版画紙芝居」である。それから版木の材質や彫りと摺りの道具の説明を実物を見ていただきながら行う。そして15年前に偶然知り合った、昭和30年代まで木口木版画の職業彫り師として活動していたF氏から譲り受けた「小刀(こがたな)」と呼ばれる彫刻刀や実際に広告のイラストレーションとして使用された版木などを紹介した後、実際に摺って見せる。その後、自分が制作した木口木版画の「野鳥版画」や「蔵書票版画」を摺って見せた。

1回のトーク&実演が40-50分だったろうか。30分の休憩をはさみ2回目も同じ内容で行った。この時は20名から30名の参加者だった。前回の銅版画の実演と合わせトータルで約200名近くの方々が参加されたことになる。まだまだ微々たる歩みではあるが少しでも版画の魅力を感じてもらうきっかけができれば幸いである。

今後も機会があれば、可能な限り「版画辻説法」を続けて行きたいと思っている。今回、僕の提案に賛同していただいた美術館関係者の方々、会場設営をしていただいたボランティアスタッフの方々、そして熱心な参加者の方々にこの場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございました。

画像は高校のクラブの後輩でカメラの腕がプロなみのUGA氏に撮影していただいたカットから使用させていただいた。




                           


366. 『ライヴ・プリンティング① 銅版画を刷る』

2019-04-26 17:55:01 | イベント・ワークショップ
今月12日から千葉県市川市の公共美術館、芳澤ガーデンギャラリーで始まった個展『長島充 - 現実と幻想の狭間で - 』も折り返しの中間地点を過ぎた。ありがたいことにほとんどの新聞に掲載され、ローカルテレビなどにも取り上げられたこともあり連日多くの来館者で賑わっている。

先週20日(土)に展覧会の関連イベントとして『ライヴ・プリンティング① 銅版画を刷る』というタイトルで自ら制作した銅版画の摺りの実演を行ってきた。僕はこの日イベント会場の準備もあり午前中から在館していたのだが、個展会場には週末ということもありすでに多くの来場者がいらしていた。中には遠方から来館いただいた旧知の友人もあり、嬉しい再会となった。

イベントはお昼休みを挟んで13時開場、15時までの間に人の流れを観ながら2回ほど行う予定となっていた。『ライヴ・プリンティング』という言葉は僕が作った造語である。音楽のコンサート会場のステージなどで行う『ライヴ・ペインティング(ステージ背後に貼られたシートなどにアーティストが絵の具を用いてアドリブで絵を描くイベント)』に対して、版画なので刷る=プリンティングということで名付けたというわけである。過去のブログにも投稿したが今回が初めてというわけではない。

工房から持ち込んだ小型の「卓上エッチング・プレス機」の周囲には13時前から見学希望者が集まってきている。今日の僕の頼りになる相棒はこの小さなプレス機ということになる。
刷りに使用した版は連作版画「日本の野鳥」の中の「森の入り口」という作品。北海道に生息するフクロウの亜種、エゾフクロウをエッチング技法で制作したA4サイズぐらいの銅版画作品である。

イベントはいつものように自己紹介からスタートし、一般の人たちにはあまりなじみのない西洋銅版画技法の歴史、技法、エピソードなどをジョークも交えて解説してから実際に版にインクを詰め、さまざまな種類の布の端切れでふき取り、数日前から水で湿してあったビニール袋の中のドイツ製の銅版画用紙を取り出してプレス機で刷り上げていくまでのプロセスを、これも解説付きで行った。毎回反応がどうか気になっているのだが、みなさん銅版画を刷り上げて、紙をめくって見せると「おぉ~ッ!!」という歓声がいくつも上がりとても喜んでいただいたので、ほっと一息である。終了後質問の時間を作るのだが、美術館を訪れるという人たちは版画制作の経験者などもけっこういらして質問も専門的に突っ込んだ内容が多かった。

1回目の実演が終了するとこちらも少しゆとりが出てきて、その後も人の流れを観察しつつ合計3回、6枚の『ライヴ・プリンティング』を行った。今回、この企画に理解をいただいた美術館関係者の方々、会場設営などを手伝っていただいたボランティアスタッフの方々、そして参加していただいた多くの来館者の方々、ありがとうございました。この場をお借りして感謝申し上げます。

展覧会は大型連休最終日の5/6(月・振)まで。なお、会期中5/4(土・祝)に同美術館で午後13時から『ライヴ・プリンティング② 木口木版画を摺る』というタイトルのイベントを行います。ブロガーの皆様、美術ファン、版画ファンの皆様、この機会に是非ご参加ください。

詳細は芳澤ガーデンギャラリーのホームページ:http://www.tekona.net/yoshizawa/ で、ご確認ください。


画像はトップがライヴ・プリンティングのようす。下が同じくライブ・プリンティングのようすと個展会場風景



            




356.『木の鳥グランプリ』の審査員をしました。

2019-01-12 18:06:56 | イベント・ワークショップ
年末年始が慌ただしくて投稿が遅れてしまったが、昨年末12/21~12/23にかけて東京、足立区の千住ミルディスで開催されたバードカーヴィングのコンペティション『2018 木の鳥グランプリ』の審査員として参加してきた。

昨年から新しく始まったこのコンペの趣旨は「この大会は、バードカーヴィング(鳥の彫刻)を愛好する者が一堂に会してその作品を発表し、芸術性を競う場です。この大会を通じ、バードカーヴィングの普及と技術や表現力を高めることを目的とします」と開催要項に書かれている。

バードカーヴィングはアメリカを始めとして英語圏、カナダ、イギリス等の国々で盛んな立体アートの分野で、名前の通り野性鳥類を題材とした木彫刻作品である。特にアメリカでは歴史が古く19世紀の中ごろに発祥した。元々は、狩猟の囮としてのデコイ(カモの形をした木彫の浮き)から始まり、野生生物の保護上から狩猟対象としてではない鳥の写実的な木彫刻として発展してきたようである。つまり剥製の代わりのアート作品として生れたというわけである。1970年代後半以降、日本やアジア圏でも紹介され、制作者も増えつつある。

バードカーヴァーではない僕がこのコンペの審査員として呼ばれた理由は声をかけていただいた主催者の方々の話では「鳥の木彫刻以外の作家の目からみてどう見えるか、どう評価されるか」ということだった。当然、審査委員の中にはプロのカーヴァーも入るのだが、できるだけいろいろな観点から総合評価をしたいということである。
審査委員のメンバーとしては、叶内拓哉(野鳥写真家)・川上和人(鳥類学者)・鈴木勉(バードカーヴァー)・長島充(版画家)・松村しのぶ(造形作家)・松本浩(バードカーヴァー)の6名となっている。

応募部門は、①ステップアップ部門(初心者対象)、②コンペティション部門(上級者対象)、③ウッドスカルプチュア部門(自由な発想の木彫刻)という3部門に分かれていて、それぞれにライフサイズとミニチュアサイズのカテゴリーがある。僕が担当したのは②の上級者対象部門であった。12/21の夕刻には審査前のオープニングセレモニーがあり、このセレモニーと12/22の審査会に出席させていただいた。

22日、審査会当日の午前中、審査にあたっての注意事項の説明があり、昼食を挟んで、整然と多くの出品作の展示される広い会場に移動し審査会となった。各部門3名づつが審査する形式だが、僕が担当したコンペティション部門は他に野鳥写真家の叶内氏とプロカーヴァーの鈴木氏の3人で審査にあたった。鳥の生態、形態に詳しい叶内氏が実際の羽衣や羽の枚数、周囲の環境との整合性等を、僕が作品構成や美術造形物としての完成度を、鈴木氏がプロのカーヴァーとして専門的な技術面を主にチェックし総合的に上位作品を絞り、受賞作品を決定して行った。今回、出品作の合計は100点弱であったが力作、労作が多く、なかなか最終的な判断を決め兼ねる場面もあった。上位5-6名を選出してからの絞込みには時間がかかったが、審査員、スタッフ一同、納得できる作品に入賞を決定できたと語っている。ほぼ差がないところまで絞られ、最後に決め手となるのは結局はちょっとした「運」ということもあるのだなとつくづく感じたのだった。

僕はバードカーヴィングの審査というのは今回が初めてだが、平面作品(版画)とはいえ同じ野鳥をモチーフとして写実的に表現、制作している立場から参加させていただき、たいへん」刺激となり参考となる部分のある体験となった。
まだ日程は調整中だが今月か来月には審査員、スタッフ全員が出席する反省会もあり、次回に向けてのビジョンなども話し合われる予定である。このブログをご覧いただいている方々の中でバードカーヴィング作品をすでに制作されている方、あるいはこれから制作してみたいと思っている方がいらしたら是非、次回の「2019 木の鳥グランプリ」に揮って出品していただきたい。 


画像はトップが審査会場風景。下が向かって左からコンペポスター、審査会場風景、コンペティション部門のライフサイズ、ミニチュアサイズの各グランプリ作品とそのアップ画像、審査委員5名のスナップ(叶内氏は野鳥写真の講演会の最中で写っていない)。



                  


341. スペシャル講座 『小さな木版画 - 木口木版画の魅力』

2018-08-27 18:10:27 | イベント・ワークショップ
8/19(日)。千葉県千葉市にある千葉市美術館に於いて開催中の『木版画の神様 平塚運一展』の関連イベント・スペシャル講座に講師として出かけて来た。講座のタイトルは『小さな木版画 - 木口木版画の魅力』というもの。展覧会の版画家である平塚運一氏が若い頃から憧れていた西洋の木版画技法である「木口木版画」について彫り、摺りの実演も交えながら一般の参加者に解説するという内容である。

話は今年の春に遡る。以前、銅版画の制作と作品展示によるワークショップを開催した東京の町田市立国際版画美術館の担当学芸員の方から連絡をいただき「千葉市美術館の平塚運一展の担当学芸員の方が地元千葉県在住で木口木版画技法の解説ができる版画家を探しているのですが長島さん、お引き受け願えないでしょうか?」と尋ねられた。今までにいくつかの美術館や公共施設でこうした解説は行ってきたのでその場で「いいですよ、前向きに考えます」とお返事した。しばらくしてから千葉市美術館の担当学芸員のN女史からメールをいただいたり、工房に来ていただいたりして内容を詰めていったのだが「一般の方にはなじみの薄い版画技法であり、解説だけではなかなか理解しずらいので彫りや摺りの実演も行いましょう」ということに決定した。

その後、講座に向け当日までに平塚運一展を2回観て、僕の祖父母の年代にあたる、この偉大な木版画家の木口木版画作品を中心にじっくり観て彫り方や画面構成を分析した。やはりこの人は大正時代から昭和の初期に起こった「創作版画運動」の中心的な版画家なので木口木版画の彫り方も西洋の伝統を踏まえつつも自由自在な表現となっていた。この創作版画の人たちが唱えたのは「自画(自身で原画を描き)、自刻(自身で版を彫り)、自摺り(自身で摺りあげる)」ということと「彫刻刀を絵筆のように使い絵画を描くように自由に版を彫る(表現する)」ということがその精神であった。

この分析結果から、自分自身が講座で話す内容がほぼ決まった。「では、平塚氏が憧れた原点となった西洋の木口木版画の歴史、伝統まで遡ってこの魅力を浮き彫りにしてみよう」

展覧会案内には、講座への申し込みは美術館への事前申し込みとなっていて定員は40名。応募多数の場合は抽選とする、とされている。ただ、どちらかと言えば地味でマニアックな内容である。当日まで「5人から10人ぐらいの申し込みだったらどうしよう…」と不安だったが、当日の昼、N女史から「定員の倍、80名以上の応募があり半分の希望者が抽選に外れました」と聞いた時、自分でも意外な感じがして内心、ビックリした。

講座は午後の2時から約2時間ほど。途中休憩を入れて前半と後半に分けて解説と実演内容を変えて行った。各内容は以下の通り。

<前半 木口木版画の発祥と歴史・彫版の実演>

・18C末、イギリスの版画家、トマス・ビューイックからこの技法が始まり、19世紀にヨーロッパ中で木口木版画入り挿画本が大流行となったこと。その中心の超人気画家、フランスの画家ギュスターヴ・ドレの作品コピーを用いて描かれている物語の内容と共に技法を解説。引き続きその流行が飛び火してアメリカでもさかんに制作されるようになったことを作品の資料と合わせて解説。そして何故この技法が流行となったか?発祥した原因、必然性まで分析し解説した。さらに日本に伝わった明治期のことや平塚運一の技法についても分析し解説する。
そして、各種ビュランを用いた彫版の実演。僕が15年程前に出会った昭和30年代まで木口木版画の仕事をしていた彫り師のH氏から口伝され譲り受けたビュランによる彫り方なども実演してみせた。

ここで休憩と摺り場の準備。

<後半 木口木版画の摺りの実演>

・板目木版画との摺り用具、摺り方の違いを説明し、実際の版を使用しての摺りの実演を時間いっぱい行った。この時使用した版は僕自身の作品と合わせて彫りのところでも話した彫り師H氏が昭和30年代に新聞などのコマーシャル分野で制作した版(譲り受けたもの)の摺りも行った。

前半、後半と夢中になって話し実演、2時間という持ち時間を30分ほどオーバーしてしまったが、講座中、終了後も参加者から数多くの質問をいただき盛会のうちに終了することができた。

今回、貴重な機会の橋渡しをしていただいた町田市立国際版画美術館の学芸員の方、そして講座の事前打ち合わせや会場設営などでお世話になった千葉市美術館の担当学芸員の方々、そして酷暑の中、ご応募、ご参加いただいた参加者のみなさんにこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。 

※千葉市美術館の『木版画の神様 平塚運一展』は9/9(日)まで開催しています。初期の浮世絵版画に学んだ色彩木版画、小さく繊細な木口木版画、晩年の力強い白黒板目木版画等、たいへん見応えのある良い展覧会です。まだご覧になっていない版画ファン、アートファンの皆様、この機会をお見逃しなく。


画像はトップがスペシャル講座の会場のようす。下が向かって左から講座風景、平塚運一展ポスター、千葉市美術館外観など。



                           









338. ワークショップ 『消しゴム版画で東京の生きものを彫ろう!』

2018-08-02 18:22:52 | イベント・ワークショップ
1日。東京は記録的な猛暑日となった。街を歩いていてもヒートアイランド現象と言うのか頭がボーッとして思考回路がストップしてしまう。

その猛暑の中、千代田区駿河台にある企業の三井住友海上が持つ、エコロジーのコミュニケーション施設『ECOM・駿河台』に於いて『消しゴム版画で東京の生き物を彫ろう!』というワークショップに出演してきた。現在、会場となった施設内では、僕の野鳥版画による個展『日本の野鳥 in 駿河台』が8/31まで開催中である。そのロングランの個展の関連イベントとして企画されたものである。

今までこの消しゴム版画によるワークショップは東京を始め関東各地で開催してきた。その都度、参加者にその地域で観察される野生生物をモチーフとして制作していただいている。今回は東京都千代田区の大都会のど真ん中であるが、緑地や公園で観察される野鳥、動物、昆虫、花(園芸種も含む)等をモチーフに講師制作の下絵を事前支給し消しゴムを彫っていただいた。

早朝から車に荷物を積み込み相棒の連れ合いと高速道路を乗り継いで都内に向かう。途中、事故渋滞に巻き込まれヒヤヒヤしたが何とか遅刻せずに会場に到着できた。敷地内の緑地にあるベンチで朝食を済ませ、ECOMスタッフの方々と会場の設営。午前の部の開始時間前から参加者の方々が来場してきた。今回、夏休みということで小学校中学年以上の子供たちの参加が多い。参加予定者が揃ったところで、さっそく消しゴム版画とその彫り方の説明に入り各自が制作に入る。ワークショップなので講師も自分のゴム版を順を追って彫って見せる。

今回はみなさん優秀で失敗などほとんど見られなかった。彫りが終了するとインキングと摺り。コピーの裏紙で練習してから専用はがきに摺ってもらった。色のグラデーションや部分的な色付けなど実演したが、これもみなさん、飲み込みが早く難なく摺りあげていた。やはり都会の子供たちは情報も多くてよく理解もしているようだ。

昼食の休憩は小川町まで歩いてお気に入りのジャズ喫茶でタモリ氏ご推薦の「特製チキンカレー」を食べる。行き帰りの路上は猛暑によるアスフェルトの照り返しと熱気が物凄くて閉口してしまった。仕方がないのでなるべく日陰を歩くようにしていた。

午後の部は午前と参加者も入れ替わる。こちらのグループも呑み込みが早くスムーズに制作が進んで行った。参加者の中には「娘が版画と野鳥が大好きで先生の作品をどうしても見てみたいと言って参加しました」という母娘や「僕は版画制作が得意で図工の時間に作った紙版画が千代田区で賞をもらい区役所に展示されました」という少年もいた。
摺りの場所は彫る場所とは別テーブルとしていたのだが続々と力作、傑作が生みだされ指導した僕も自分のことのように嬉しくなって摺り上がる度に言葉にならない歓声を上げていた。そしていつの間にか窓の向こうに見える都会のビルの谷間では、午後遅くの低い陽光へと変化していた。

楽しい時間というものは、いつもあっと言う間に過ぎて行く。熱心な参加者と力作の数々に囲まれて満たされた時を過ごすことができた。

このイベントを主催、企画していただいたECOM駿河台の担当スタッフの方々と猛暑の中、参加していただいた素敵な参加者のみなさんに感謝いたします。ありがとうございました。

画像はトップが今回のイベントのフライヤー。下が向かって左からイベント会場のようす、参考に彫ったヒメアマツバメとアサガオの消しゴム版画、EKOM駿河台内部の風景等。


                                   






308. 消しゴム版画ワークショップ 『干潟の野鳥や生きものを彫ろう』

2017-10-10 17:09:15 | イベント・ワークショップ
トータル1か月半、ロング・ランと思っていた谷津干潟での野鳥版画個展「日本の野鳥 in 谷津干潟」もそろそろ折り返し地点となった。おかげさまで好評をいただき多くの来場者に訪れていただいている。8日(月祝)、個展の関連イベントである消しゴム版画のワークショップ『干潟の野鳥や生きものを彫ろう』を行うため早朝から車に道具などの荷物をたくさん積んで会場へ向かった。

会場である谷津干潟自然観察センターに到着。荷物を降ろして準備をしていると窓から見える淡水池からここで塒をとっているサギ類や北国から渡ってきたばかりの冬鳥のカモであるコガモの群れがいっせいに干潟方向に向かって飛び立った。そして池の上空を40羽近いヒヨドリの群れが鳴き交わしながら飛んで行った。「秋の渡り」の群れであろう。なかなかこんなロケーションの雰囲気は美術館や画廊などの展示では味わえないことである。開始時間にはまだ余裕があるので、事前にイベント担当であるレンジャーのHさんと今日のスケジュール打ち合わせをする。午前1回、午後1回の2回開催。すでに事前申し込みも多数あり当日申し込みの電話も何件か、かかって来ていた。ありがたいことである。

この消しゴム版画を使ったワークショップ、ここ10年弱ぐらいで随分いろんな場所で開催してきた。たいていが自然関係などの公共施設が多いのだがテフェスのテントブースなどでも行ってきた。初めは小さなプレス機を持ち込んで銅版画などでも行ったこともあるが会場の条件がさまざまであり臨機応変に対応できる画材として「消しゴム版画」を用いる形になってきた。そしてこの素材であれば手や指先に力のない小さな子供たちや年配者でも簡単に短時間で彫って摺ることができるのだ。
ワークショップというのであるから制作の指導だけではなく実際に僕自身が版を彫りハガキなどに摺って作品を作る現場も見せている。それから彫る下絵はオリジナルで考えても良いのだが事前に僕が原画を描いた小さな下絵を準備してきている。それから施設や環境によりモチーフも変えている。今回は千葉県の谷津干潟なのでこの季節の干潟で観察することができる野鳥や生きものを題材に下絵も準備した。

開始時間が近づいてくるとセッテイングされた会場のテーブル周辺には参加者が続々と集まって来始めた。老若男女、年齢もさまざまな人たち。オープンとなりHさんから谷津干潟の紹介とイベント内容、講師紹介があってから自己紹介を済ませるとここからはヨーイドン! ホワイトボードに完成までの手順の説明~下絵のゴム板へのトレース~彫り版の説明と実演~それぞれが彫りの作業~スタンプパッドを用いた摺りの説明と実演~それぞれが試し摺りとハガキへの本摺り~完成。と、休むことなく大忙しの流れとなる。この間、目の前の個展会場に版画を観に来た人たちに合間を見つけては作品説明などを行う。参加者は大人も子供も凄い集中力でモクモクと制作していた。ようやくカフエで休憩しお昼を食べたのは13:00を過ぎていた。

午後は新たな参加者で1時半スタート。いつものことだが、ここまで来るとあっと言う間に時間が過ぎて行く。好評のため終了予定時間を1時間以上オーバーしてゴール!!今回トータルで40人が参加。センターで用意していただいた大きな紙にも参加者全員がスタンプを摺って行き、楽しい共同作品もできあがった。

終了後、レンジャーのHさんとお茶を飲みながら反省会。アンケート用紙も見せていただき100%好評の内容だったので、ほっと一安心し胸を撫で下ろした。朝とは逆に荷物や画材の後片付けを始めていると窓から見える淡水池には水鳥たちが塒入りでバラバラと戻って来始めていた。「そうか、この職場は朝の鳥たちの塒出に始まり夕方の塒入りを観て人間も1日の仕事を終了するんだな」。
このことをHさんに話すと「そーなんです。言ってみればとても贅沢な職場なんですよねぇ」と答えが返ってきた。心地よい疲れが全身を覆い始め、夕暮れ色に染まりつつある美しい干潟の風景を後にして帰路に着いた。

今回、ワークショップを企画してくださったセンタースタッフのみなさん、そして力作を制作してくれた参加者のみなさん、ありがとうございました。

長島充 野鳥版画展『日本の野鳥 in 谷津干潟』はちょうど折り返し地点、会期は10/31(火)まで。僕がこの後、会場に在廊するのは10/28(土)の午後です。まだ、ご高覧いただいていない野鳥ファン、版画ファンの方々、ぜひ足をお運びください。よろしくお願いします。

展覧会の詳細は以下、習志野市谷津干潟自然観察センターのホームページまで。 http://www.seibu-la.co.jp/yatsuhigata/

画像はトップが消しゴム版画の彫りの実演。下がワークショップのようすと僕が参考に制作した野鳥の消しゴム版。



                               



251.『ワークショップ・木口木版画を学ぶ2日間』 in 札幌

2016-07-11 20:12:05 | イベント・ワークショップ

先月、25日と26日の2日間、北海道の札幌芸術の森、版画工房で木口木版画のワークショップと体験制作の講師を担当してきた。札幌で4年ぶり、今回で3回目のワークショップである。なぜか偶然にもオリンピック開催の年と重なっているのである。

24日。成田から飛行機に乗って新千歳空港に到着、電車に乗り換えて札幌駅まで移動。駅構内のレストランでランチを食べていると渋いモダンジャズがBGMとしてかかっていて初日から嬉しい気分になった。ホテルにチエックインし、しばし休憩していると工房の担当者のU氏が車で迎えに来てくれた。ここから芸術の森まで車で40-50分はかかる。ひさびさに道すがら見る北国の風景が懐かしい。札幌芸術の森は美術館、野外彫刻展示場、工芸工房、版画工房などが森林を切りひらいた敷地に点在する複合型の文化施設なのである。何と言っても周囲の大自然のロケーションが素晴らしい。

工房で木口木版画用具や明日からのワークショップ進行の打ち合わせをもう一人のスタッフ、日本ハムファイターズのファンだというH女史を交えて話す。3回目なので、すでにマニュアルもできていて、サラサラと終了。夕方版画工房を出る。今宵はU氏が音頭をとり、地元の版画工房で制作する方々を交えて、すすきので夕食会となった。版画に熱心な方々とお酒も入って楽しい一時を過ごせた。

25日、1日目。ホテルを出て版画工房に着くと開始時間前だというのに熱心な社会人の参加者の方々が勢揃いしている。やる気満々である。この日の午前中はまずはガイダンス。「木口木版画とは何ぞや?」ということで毎度のことだが、西洋でこの技法が誕生した背景、歴史、代表的な作品、技法などをザックリと解説していく。それから次にワークショップなので実際にビュラン(木口木版画用彫刻刀)を使い講師用に用意してあった樺の版木に彫り方をいろいろと行って見せる。熱心な方々が多いので質問も次々によせられた。そして、あらかじめ描いて来るように進めてあった各自の下絵を見て回り、どのようにして進めて行けば良いかのアドバイスをする。それから版木に彫り後が解り易いように薄墨を塗ってからU氏お勧めの白いクレパスを下絵を写したトレペの裏に塗って版木にトレース。これで準備OK! ここからはビュランで各自が彫り進めて行く。午後、参加者の彫り進め具合を確認しつつ「試し摺り」の実演。大理石の練り台で硬めの油性インクをゴムローラーで薄く薄く、注意深くのばし版面に塗ってバレンとスプーンを使用した摺り方を指導する。早い人はこの日、試し摺りを取り始める。ここで今日はタイムリミット。

26日、二日目。昨日と同じく、朝から引き続き彫りの指導。昔から銅版画にしろ木版画にしろ、版を彫る仕事は「ブラインド・ワーク」と言ってインクを盛って摺ってみなければ絵がどこまで進んでいるのかは解らない。早めに試し摺りを行うことを勧める。遅れていた人も試し摺りを取り始める。ここからは試し摺りが下絵の代わりとなる。そして摺っては彫り、摺っては彫りの繰り返し。木口木版画の制作は我慢比べである。参加者の集中力も佳境に入る時間帯。こちらも、だんだんサポートする言葉が少なくなる。途中、ガンピ紙による摺りの実演や昭和20年代-30年代に我が国の彫り師によって制作された版木を摺って見せたりした。そうこうしている中、あっと言う間に終了時間がせまってきた。作業机を廻って見ると細かく積み重ねた彫りの集積にによるモノクロの美しい作品が並び始めていた。最期にこちらの感想と質問を受け付けて無事、2日間にわたったワークショップもお開きとなった。

この木口木版画の講習会、偶然なのだが、なぜか新潟、青森、北海道と北へ北へと移動しつつ開催してきている。寒い北国には机の上で細密に制作するこの技法が良く似合う。北国の人たちの集中力も素晴らしい。この先さらに北へと進路をとり、サハリンやウラジオストック、アラスカあたりでも開催できないだろうか?などと取り留めのない夢を見るのでした。この日の夜もすすきのへ。今日は北海道版画協会の方々と一献交えるのでした。最期になりましたが、今回も講師としてお声をかけていただいたスタッフのみなさん、そして力作を制作された参加者のみなさん、すすきのでの楽しい飲み会を開いていただいた方々に感謝いたします。ありがとうございました。北海道シリーズは次回ブログに続きます。画像はトップが19世紀のイギリスの版画家の作品コピーを使用して解説しているところ。下が向かって左から札幌芸術の森の代表的な野外彫刻マルタ・パン作「浮かぶ彫刻」、工房内でのワークショップ風景4カット、参加者の方々の制作した作品2点。

 

             


248.ワークショップ 『銅版画でオリジナルカードを作ってみよう』

2016-06-10 19:44:30 | イベント・ワークショップ

今年は春から夏にかけて公共空間でのワークショップが続く。5日、地元の佐倉市立美術館で、銅版画体験講座(ワークショップ)『銅版画でオリジナルカードを作ってみよう』の講師をしてきた。現在、美術館では銅版画の収蔵作品展(入場無料)として『深沢幸雄-銅版画の魅力』展が5月末から7月18日まで開催されている。美術館からの依頼内容は「ワークショップをこの展覧会とリンクさせ制作を通して銅版画作品、技法についてより理解を深めて行こう」というものである。参加対象は市内に住む小中学生で定員は20名となっている。応募開始から人気があり、たちまち満席になってしまったということだが、残席待ちとなった方々にはワークショップなので入室自由とし制作現場を観てもらうこととしたそうである。

この美術館では、20年前の開館からこれまでに版画や地元作家の企画展に参加出品してきた。銅版画のワークショップ開催は今回で3回目になる。

早朝から銅版画の卓上プレス機や用具類を車に積んで出発、美術館に朝9時頃に到着すると今回の担当学芸員であるNさんが笑顔で出迎えてくれた。それから台車にプレス機などを積んで会場となる1Fの倉庫に到着すると、すでに会場の設営もできあがっていてアシスタントのボランティアスタッフの女性の方々も待機していた。お互い初めてなので自己紹介などしているとお二人共、学生時代からの銅版画の制作経験者だった。担当学芸員のNさんもM美術大学の版画科を卒業されているので、スタッフ全員が制作経験者、おもわず「全員、現場出身なので心強いですね」と念を押してしまった。

10時前後、ぞくぞくと参加者が入館してきた。9割がたが親子連れである。こうしたワークショップの定番であるが、まず始めに自己紹介をしてから簡単に銅版画の歴史や技法、用具の説明をした。時間も迫っているので、さっそく事前に準備してきてもらった下絵を銅板にカーボン転写してもらう。ここからは急ピッチで作業を進めて行く。銅版画は大きく分けて直接法(じかに工具で板を彫っていく)と間接法(酸などの薬品を使用して線などを彫っていく)とに分かれるが今回時間の関係で早く制作できる前者の技法、その中でももっともポピュラーで単純なドライポイント技法で制作してもらった。早い話が銅の板をニードルといわれる鉄筆で引っ掻いていくだけのものである。それから講師用に用意されたテスト・プレートに実際にニードルで引っ掻いて見せてからは各自、集中して彫版のスタート。

今回の参加者の多くが小学校の3-5年生のため、大人よりも思い切りが良く、あっという間に彫りあげてしまう子なども多く出た。なので早めにインクを詰めプレス機を通して試し刷りをとらせていった。ここからはこの刷りを下絵として腰を据えてじっくりと彫るように指導する。昼食を済ませてから、さらに彫りを進めていく。ここからは試し摺り~彫り版~試し刷り~彫り版~といった具合の繰り返し作業となる。ここで合間に版を持ってきた自作の銅版画作品「森の入り口(エゾフクロウ)」をデモンストレーションとして刷って見せる。プレス機をとおして刷り上がった紙をゆっくりとめくると「ワーッ」と歓声が上がる。それから手の速い数人が仕上げの本刷りを取り始めると誰言うこともなく、われもわれもと刷り始めた。毎度のことだが、あっという間に刷り場として用意した机が満員状態となってくる。プレス機の横にも順番待ちの長い列ができた。ここからはインク詰めの補助の人、刷りの補助の人、刷りあがった版画をパネルにテープ張りする人とスタッフの方々が大忙しとなる。そんなバタバタとした中でプレス機の担当として張り付いていた年配の女性スタッフがしみじみと僕に話しかけてきた。「子どもの頃にこうした貴重な美術の体験をするのって大切ですよねぇ…私の子どもたちもこんな素敵な時間があったら良かったのに」。確かに版画技法というものは、そうした体験をする魅力を強く持っているのかもしれない。子どもたちの作業の流れに注意をしているうちにあっという間に終了時間となった。

あらかじめ用意してあった乾燥用のパネルにはドライポイント技法特有のみずみずしい勢いのある線により創作された力作版画が並んでいった。ここで、ようやくほっとして頭の先から全身の力がゆるゆると抜けていくのを感じた。今回、ワークショップ企画段階からお世話になった担当学芸員のNさん、お手伝いいただいたボランティア・スタッフのみなさん、その他、美術館関係者の方々、そして素敵な銅版画のカードを制作していただいた参加者の子どもたち、温かく見守っていただいたご両親の方々、ありがとうございました。この場をお借りして感謝いたします。

画像はトップが会場でテスト・プレートを彫る僕。下が向って左からガイダンス風景、テスト・プレート制作中、インク詰めから刷りまでのプロセス3点、刷りの現場風景、刷りあがってパネル張りされた銅版画作品、美術館外用。

 

                


246. 『佐倉モノづくりFesta 2016』で消しゴム版画のワークショップを開催する。

2016-05-17 19:31:14 | イベント・ワークショップ

5/14(土)、5/15(日)の2日間にわたって開催された『佐倉モノづくりFesta 2016』の会場で今年も消しゴム版画のワークショップを開催した。当工房は初回から今回で5年目の出演である。このフェスは市の産業振興課が主催するものだが、市内の一般企業、商店、飲食店、博物館、個人の工芸作家などが参加する。このイベントも5年目ということで広く近隣の住民の方々に浸透し連日、多くの来場者で賑わっていた。

消しゴム版画を使ったワークショップを始めて今年で8年目になる。きっかけは、それまで公共施設や美術館で銅版画や木版画のワークショップを依頼され開いていたのだが、好評をいただいていて「来場者の流れる場所やテントブースなどでも教えてもらえないか」という要望が増えてきた。さすがにテントの下などに銅版画のプレス機などは持ち込めないし雨風のことも考えると紙やインクも扱いずらい。困っていたところ、たまたま東京で開催されていた「スタンプ・カーニヴァル」というゴム製の版や消しゴム版により制作されたクラフトアート作品の展示会場を見に行ったところ、それまでの版画技法にはない新鮮な刺激を受けた。これならばできるのでは…と、試してみたところがイベントにうまくはまったので続けて来たのである。正直なところ「苦肉の策」というところでもある。この9年間、野鳥系のネイチャーセンター、植物園、美術館、博物館、自然系のフェスティバル会場、など多くの場所でこの消しゴム版画によるワークショップを開催してきた。その地域も地元の千葉県内を中心に東京、新潟、山梨など広域にわたっている。まさに「消しゴム巡業」と言っていいかもしれない。たかだか消しゴム、されど消しゴムなのである。

今はこのゴム版や消しゴムを使用したクラフト作品が、出会った当時よりもさらにさかんになり日本だけでなく海外にも専門のアーティストが増えている。紙のカードなどに擦り取るだけでなく、特殊なインクで布や皮、石材など、さまざまな素材にも印刷されたりしている。一般には「スタンプアート」や「消しゴムはんこ」などと呼ばれているが、僕は版画家なので「消しゴム版画」と呼んで彫刻刀を使い版画的に制作してもらうことにこだわっている。版画制作者の意地かもしれない。

2日間、共通で午前1回、午後1回、各回1時間半の内容、会場では制作も見せるのが趣旨なので僕が目の前で1点、彫って摺って見せている。割合としては過半数が親子連れだが、中には中高年の大人の方もいる。こちらがあらかじめ用意した下絵から選んで彫ってハガキに擦ってもらうのだがモチーフとしては市内で観察できる植物、野鳥、動物、昆虫などが中心で作りながら野生生物に親しんでもらうという、もう一つの狙いもある。5回目となると中にはリピーターとなっている親子もいて「3回目だね。手慣れたもんだねぇ」などと挨拶を交わすのも嬉しい。何はともあれ子どもたちを中心に楽しんでもらうのが一番なのだが家族で参加して熱中してくると、お父さんが夢中になってしまうのも毎年のことである。多忙な仕事の合間に参加され、頭の中で子供の頃の図画工作の授業が蘇っているのかもしれない。2日間、天候に恵まれたせいか参加者も多く、事前に用意していたセットもすべて完売してしまい嬉しい悲鳴となった。

今年もたくさんのカラフルで楽しい「いきものカード」が生まれた。今回も楽しいイベントにお誘いいただいた佐倉市産業振興課の方々、設営などでお世話になった会場担当スタッフの方々、活動を取材してくださった地元テレビの方々、そして素敵なカードを制作した多くの参加者のみなさん、ありがとうございました。感謝いたします。画像はトップが消しゴムの版の彫り方の実演、下が向って左からワークショップ会場のようす6点、イベント会場のようす2点、以前の参加者が制作したカード作品1点。

 

                 

 


208. 講演と音楽『世界の自然と自然・人と人をつなぐ渡り鳥』に参加する。

2015-09-14 21:23:54 | イベント・ワークショップ

13日。東京大学弥生講堂一条ホールで開催された講演と音楽会『世界の自然と自然・人と人をつなぐ渡り鳥』に参加した。このイベントは日本を代表する鳥類学者で東京大学名誉教授の樋口広芳先生ご本人の企画である。

今さらだが樋口先生と言えば野鳥の生態の中でもとりわけ「渡り鳥」の研究が良く知られている。1980年代からマナヅルやハクチョウ類、最近ではタカ類に超高性能の超小型発信機を装着し、衛星受信とコンピューターをとおして渡り鳥のルートを解明するという画期的な調査研究により、この分野に新風を吹き込んだ学者である。つい最近、NHKの野生生物をテーマとしたBS番組「ワイルドライフ」でタカの仲間のハチクマの渡りルートと生態について美しい映像を通して新知見を発表された。

今年の6月、このイベントの実行委員になっている方を通してオファーがあった。「BIRDERという鳥の月刊誌に掲載された長島さんの水彩画が、今回の講演内容にピッタリなのでチラシや会場内で投影する画像として使用させてほしい…と、樋口先生が言われているのですがどうでしょう?」とのこと。最初はわが耳を疑ったが、20代から憧れの存在の鳥類学者からのオファーである。渡りに船、二つ返事でお受けした。それにしても驚いたのは開催時期で9月だという。先生の中では思いついた時、すでにイベントの設計図ができていたらしく、講演者や音楽家、協力スタッフなどに次々とアポイントをとり、わずか三か月間で実現する運びとなった。素晴らしい。アートディレクターとしての素質もお持ちなのである。これには周囲の関係者から驚嘆の声が上がっていた。怒られてしまうが、ここで一言「学者だけに留めておくのは惜しい…」。

ご配慮もあり、会場に僕の野鳥をモチーフとした絵画、版画作品展示コーナーも設営させていただくことになった。当日、会場設営のため早めに家を出た。お昼前に東京大学農学部の正門をくぐり会場である弥生講堂一条ホールに到着。木造とガラス張りのポストモダンな建物。周囲の戦前から建つゴチック風な校舎とは対照的である。予め宅配便で送っておいた額装作品の荷をほどいていると現在樋口先生が教鞭をとる慶応義塾大学の研究生の方たちが設営を手伝ってくれた。あっという間に小展示会場の完成となった。

お昼を過ぎて開場時間近くになると参加者が次々にやってきた。前売りだったチケット300枚も早い時点でほぼ完売となり、キャンセル待ちが何人も出たそうだ。プログラムを見ると演題は三つ。一つ目は杉浦嘉雄氏の『此岸と彼岸をつなぐ渡り鳥-宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の世界』と題した宮沢賢治の文学作品に多く登場するフアンタジックな鳥たちの宇宙。事前に講演の内容は知らされていなかったが、僕がギリシャ神話と星座の関係を描いた「わし座」の絵画作品の世界がそのまんま重なってくる内容で驚いてしまった。ディレクター樋口先生の手腕発揮である。この講演と次の講演の間に音楽の演奏があった。曲目は賢治の作詞作曲で最近、高倉健主演の映画で再び人気の出た「星めぐりの歌」である。たしか映画では田中裕子が歌っていた。演奏はソプラノ(山口由里子)、ヴァイオリン(鍋嶋芳)、チェロ(富樫亜紀)のトリオだったが、美しいストリングスと歌姫の良く通る声が会場に響き渡った。その間ずっと照明を落としたステージの壁面に僕の「わし座」の絵が拡大されて投影された。二つ目は遠藤公男氏の『北と南の離散家族をつないだ渡り鳥-アリランの青い鳥、シベリアムクドリをめぐる物語』というもので、朝鮮戦争によって南北に離れ離れとなった鳥類学者親子の奇跡的な再会を追った感動的なドキュメンタリー。この後の演奏は朝鮮半島民謡の「アリラン」だった。

そして最後が樋口先生による『世界の自然と自然、人と人をつなぐ渡り鳥-渡り鳥の衛星追跡研究の成果から』で世界地図とアニメーションを使用した渡り鳥それぞれの種のルート解析にはその神秘的ともいえる生命の営みに会場からは唸り声とも溜め息とも言えない声が多く起こっていた。印象的だったのは先生の「鳥たちには国境がなく、どこの国へも自由に渡っていく」という言葉と「今、目の前で観察している渡り鳥の同じ群れを異なる国の人々も観ているんだ」という人間と鳥をとりまく環境を絡めた言葉だった。そしてエンディングの演奏はバッハの「G線上のアリア」だった。

4時間にわたる講演会と音楽会もあっという間に過ぎて行った。参加者の中からは「今回限りとしないで全国を巡回してはどうだろうか」というような声もあがっていた。ありがたいことに僕の版画作品も熱心に鑑賞する人が多く、購入希望者も出た。このあと本郷で評判の中華料理店で関係者とスタッフにより打ち上げ会。研究者、文学者、自然カメラマン、音楽家、編集者などそうそうたるメンバーで楽しい宴が開かれた。今回の楽しい企画に御指名いただいた樋口先生をはじめスタッフのみなさんにこの場をお借りして御礼申し上げます。ありがとうございました。画像はトップがソプラノの声が響く会場の壁面に投影された僕の絵画作品「わし座」。下が向かって左から会場となった弥生講堂一条ホール外観、樋口先生と今回印刷物のデザインを担当した重原さんと展示コーナー前で撮影したスナップ、特徴的な14面構造の会場内風景、農学部敷地内のライトアップされた「忠犬ハチ公」像。

 

         


195. 『佐倉モノづくり Festa2015・消しゴム版画ワークショップ』  

2015-05-30 21:11:37 | イベント・ワークショップ

今月16日(土)と17日(日)の二日間にわたり、地元のイベント『佐倉モノづくり Festa2015』に参加してきた。市の産業振興課からの依頼で、今年で4回目の参加となる。今までいろんな場所でワークショップを開いてきたが、ここ数年は作品制作やレクチャー関係が忙しくなってきたため参加する回数も少なくなった。

当工房が担当するのは『モノづくりワークショップ』という名称で、その場で老若男女、誰でも制作できる消しゴム版画をその場で制作して見せ、同じように彫ってハガキに摺ってもらうというもの。あらかじめ下絵は用意してあり、モチーフは市内で見られる身近な動植物など。早朝から準備をして会場に道具や荷物を運びこむ。今年も会場となっている公園や公共施設には多くの地元企業や商店のテントブースが立ち並んでいる。中央広場のステージではライブやアトラクションの練習が始まっていて忙しい。

老若男女とは言っても参加者の多くは親子連れである。今回も開始時間前には入り口に参加希望者がたくさん申込みに集まってきてくれた。定員を絞り、午前1回、休憩をはさんで午後2回開催する。会場に入ってくる子供たちは好奇心に溢れていて、みんな目が輝いている。制作手順を説明し、版の彫り方を実演してからいっせいにスタート。大人も顔負けの集中力で彫っていくのだ。今までの傾向としては女の子の方が集中力、持続力があり、男の子は杭月は早いが少し飽きっぽいように思う。しかし、最も集中力があるのはお父さんたちである。年少の子供の制作を手助けしているうちに自分が夢中になってしまうのだ。これも見ていると微笑ましい姿である。

今年からモチーフに市内の動植物以外に子どもたちに人気のある生物をくわえてみた。これは美大に通い絵画教室のアルバイトをしている長女からのアドバイスである。その中で1番人気があったのは「イルカ」だった。シルエットがシンプルではっきりとしているのと、親しみやすいイメージという理由からなのだろう。やはり若い人の意見は素直に聞くべきである。長女に感謝。

2日間とも満員御礼のうちに終了。小さな力作が出来上がった。展示などに活用させてもらうため摺りあげたハガキの中1枚に名前と日付を入れ提出してもらうのが恒例となっているのだが、この時、小さな頭をペコリと下げて「ありがとうございました楽しかったです」などと言われると毎度のことだが目尻が下がってしまう。2日間、心が和む時間を共有することができてこちらがお礼を言いたい。今年もこの機会を与えてくれたスタッフと多くの参加者のみなさんに感謝します。画像はトップがワークショップでの指導の様子。下が向って左から同じく指導の様子とイベント会場の風景。

 

      

 


145.産業祭で消しゴム版画のワークショップ

2014-06-01 12:47:10 | イベント・ワークショップ

4月から5月にかけて締切り仕事やレクチャーが集中してしまいブログの更新が遅れ気味になっている。今回も先月の17日、18日の2日間にわたって参加した地元フェスでのワークショップの話題である。

当工房のある千葉県佐倉市で毎年開催されている『佐倉市産業祭-モノづくりフェスタ』という地域密着型のフェスがある。市内に工場を持つ企業や地元産業関係者が中心となってブースを出店し、展示や販売を行うという内容となっている。このフェスは以前開催されていたものが一時中断されていて3年前から再開された。当工房は地元公立美術館で銅版画のワークショップを行ったことがきっかけで、再開された初回から参加している。今年で3回目。おかげさまで毎年大勢の方に参加いただき好評を得ている。

内容は老若男女どなたにでも手軽に制作できる「消しゴム版画」。こちらであらかじめ用意した下絵を元に小さな版画を1点制作してもらう。これに合わせて僕も1点制作するというものである。下絵の図柄は佐倉市で見られる動植物をモチーフとしたもので花や鳥、昆虫の中から好きなものを1点選んで彫っていく。

一日目の朝、会場設営のためスタッフと現場に着くと、すでに参加希望者が並んでいる。ほとんどが親子連れだが、大人の参加者もチラホラと混ざっている。午前、午後と定員を決めて募集するのだが、今年も満員御礼で参加できない方々が出てしまった。こちらとしてはうれしい悲鳴だが、たいへん申し訳ないとも思っている。このワークショップをいろんな場所で始めてから6-7年経ったので、手順はほぼ決まっていて、スムーズに制作工程が進む。実演で下絵の転写方法、彫り方を行い、全体の進行具合に注意しながら、お次はインクの付け方、ハガキへの摺り方を指導、あとは各自納得のいくまで版画作品として仕上げてもらうといった段取りである。最終的には子供たちよりも父兄の方が夢中になっていることが多い。きっと、子供の頃の図画工作の授業を思い出しているんだろう。

募集にあたって、「カッターや彫刻刀など刃物を使用するため小3以下の場合は父兄が手伝い制作してください」と一言注意をして年齢制限をしているのだが、子供たちの方がどうしてもやりたいということで、かなり年少の子が参加することも多い。たいてい彫刻刀を使用する段階で手がとまってしまうので、こういう場合この後の工程はほとんど僕が手伝ってしまう。と、いうよりあまりにもかわいいので、ほおってはおけない。「うちの二十歳を超えた娘たちも、ついこの間までこんなだったのになぁ…」

今年も2日間、ありがたいことに『満員御礼』。こちらも楽しませていただいた。毎年声をかけていただく、佐倉市産業振興課の担当者の方々、会場で手伝っていただくスタッフの方々、そして多くの参加者のみなさんに感謝いたします。画像はトップ、下共、ワークショップ指導風景。

 

   

 


120.ワークショップ『消しゴムで作ろう!福島潟版画教室』

2013-12-20 18:35:54 | イベント・ワークショップ

14日、新潟滞在2日目。早朝は吹雪の中、福島潟を散策し、10時頃から 『ビュー福島潟』 のイベント会場に準備のために入った。

午後から『消しゴムで作ろう!福島潟版画教室』というタイトルで野鳥版画の個展と絡めて消しゴム版画のワークショップを行う。施設の外はこの週末に到来した寒波のため雪が降っている。担当者から「この雪で道路事情も良くないようです」と連絡があった。天候を気にかけながら会場をセッティングしていると、一人、二人と参加者が到着する。中には電車とバスを乗り継いで3時間以上もかけて来てくださった女性もいた。コートの雪を払いながら「この展覧会とワークショップに来たいと、とても楽しみにしていました」と言われた。「ありがたい」 人数が少なくても頑張ってみよう。

そうこうしているうちに、この悪天候の中20名定員のところ15名の方が出そろった。館長のオープニングの挨拶と僕の自己紹介を終えると、いつものように制作手順を説明し、実際に自分でも制作しながらワークショップとして進行していく。こうしたネイチャーセンターでの版画のレクチャーもいろいろな場所で開催してきたが、いつも熱心な参加者の方々に支えられて続けてきている。版画のモチーフはこれも毎度のことだが野鳥、昆虫、植物などの自然界の生物を対象としたもので、制作を通じて自然の大切さを感じてもらおうというもの。あらかじめ僕が用意した下絵を写しても良いし、自分で絵柄を考えても良いということにしている今回は冬鳥のシーズンなので下絵の方は冬に観察できる野鳥を多くしている。次に版をカッターや彫刻刀などいろんな用具を使用して彫っていき、インクを付けてハガキに摺るという手順。今回は大人の参加者が多く、みなさんかなり集中して黙々と制作していた。手のひらに乗る程度の小さな版だが2時間というタイムスケジュールは目いっぱいかかり、結局30分ほどオーバーして終了。机の上には力作がズラリと並んだ。最後に担当者のS氏が一人一人に感想を聞いたのだが「理屈抜きで楽しかった」「時間の経つのも忘れて夢中で作れた」など、楽しんでいただけたようだ。

新潟の参加者の熱意にすっかり寒さも忘れていたが、外は相変わらずシンシンと雪が降っている。施設のガラス越しに広がる眼下の干拓地には餌を採るためにたくさんのコハクチョウとオオヒシクイが集まっているのが肉眼でも見えた。担当者と参加者のみなさん全員に感謝します。画像はトップがワークショップ会場風景(窓の外は雪景色)。下は会場のようすと机の上の力作の数々。