長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

320. 『南方熊楠 - 100年早かった智の人 - 』展

2018-01-29 20:00:41 | 博物館企画展
今月26日。東京、上野の国立科学博物館で開催中の南方熊楠生誕150周年記念企画展『南方熊楠 - 100年早かった智の人 - 』を観に行ってきた。

午後遅くに会場に着いたのだが、平日の午後だというのに来場者がけっこう多い。1フロアーの1室を使用したさほど広くはない会場は熊楠の幼少時、学生時代、アメリカ各地やロンドンの留学時代、帰国後の熊野での研究期、といった時系列に分かれた展示や採集調査の標本や論稿、資料、人文研究についてのコーナーなど順を追って観て行ける構成となっていて解り易い。

僕が我が国を代表する生物学者、博物学者、民俗学者である南方熊楠(1867年-1941年)とその研究内容について知ったのは1990年代、前のバブル期のことだった。中沢新一氏の著作「森のバロック」(読売文学賞受賞作)の南方熊楠論や松居竜吾氏の著作「南方熊楠 一切智の夢」(小泉八雲賞奨励賞受賞作)を読んだことがきっかけだった。そしてちょうどこの時期、30年前に科学博物館で熊楠氏の大きな企画展示があったのだが、なんとこれを観そびれてまった。なので今回は、どうしても観たかったので時間を作って出かけたというわけである。

熊楠氏の生物学の主な対象となっているのはコケ類、地衣類、シダ類、藻類、菌類、そしてその代名詞ともなっている不思議生物の粘菌類(変形菌類)といった地味な隠花植物(現在は死語)であるが、今回の展示の中でも特に目をひくのは自ら制作したそれらの数多くの標本類と水彩絵の具によるスケッチ画であろう。これらの標本は実に丁寧に作られていて整理されていたようで制作技術も高かったと言われている。それでも制作してから100年以上経っているものもあるので台紙も含めてかなり傷みの激しいものもあり、むしろそのことが独特な雰囲気を醸し出してもいた。当時としては最高級の英国製水彩絵の具を使用して描かれたスケッチ画はまるで、つい昨日描かれたように新鮮な色彩のものもあった。エカキである僕はやはりここに時間を割いて観賞したのである。熊楠自身は生前に「自分は絵を描くのは得意ではないが必要にせまられて描いている」という意味のことを語っていたらしいが、どうしてどうしてスケッチ画は野外観察者としてのリアルな視線を感じ取ることができ、かつ美しい。


じっくり一回り観て1時間強ほどだった。一旦会場を出て別の階の小さな部屋で現代の研究者による「地衣類」の展示を観る。再度、熊楠展の会場入り口に戻ると今日のもう一つの目的、博物館学芸員によるギャラリー・トークの集合時間となった。入り口には続々と来場者が集まり、あっという間に溢れんばかりとなった。やはりテンギャン(和歌山弁で天狗のこと。生前、奇行の多かった熊楠氏につけられたあだ名)先生は人気があるんだなぁ。T氏という担当学芸員は和歌山の「南方熊楠顕彰会」のメンバーでもある。当然、熊楠については詳細にわたりスペシャリストなのである。もう一度同じ順路でゆっくりと解説を聞きながら会場を移動して行くのだが、とても解り易い説明内容であり、これまで知らなかった興味深い話題も多く参加できて良かった。

大正から昭和の初めにかけて、日本では前人未到の生物学研究を成し遂げた熊楠氏だが我が国では人文的著書は出版されてはいるが、生物学のきちんとした論文や出版物は出されなかったのだという。意外な気もするが、芸術もそうだが、昔から今も変わらない日本の学界の体質というものが垣間見られたような気がした。それでも、気が遠くなるような膨大な量の資料を残して逝ったのである。今回の展示だけでも溜息が出るようなものだが、熊楠氏が遺した全ての資料からすれば氷山の一角であろう。

熊楠氏は生涯にわたり定職を持たず自らの研究に没頭したとされている。当の本人はもちろん偉大であるが、あの時代、生物学やら博物学など軽んじられて見られていた頃に、その熊楠氏の才能とビジョンを理解し信じ、経済的、精神的に支え続けた南方家の人々の姿勢は立派であると思う。そして特に実弟の常楠氏に至ってはアメリカ遊学、ロンドン留学の資金を全て援助していたのだという。その金額は今の金額にして約1億円に相当するのだということだ。偉大な人物、偉大な功績の陰には立派な理解者、スポンサーがいるということだろう。

展覧会は3/4まで。熊楠ファン、生物学好き、博物学好きの方々、この機会に是非お見逃しなく。会場で熊楠ワールドの濃密なオーラを感じ取ってください。

画像はトップが科博の企画展入り口。下が展示物の数々と会場風景。










319. 『冬の図書館 - bibliotheca hiberna - 』 展 が始まりました。

2018-01-15 18:54:16 | 個展・グループ展
前回のブログでご案内したグループ展、『冬の図書館-bibliotheca hiberna-』展が東京、目白の gallery FUURO(フウロ)で13日(土)から始まった。初日、17:00からオープニング・パーティーがあるということで出品作家の1人として参加してきた。

ギャラリーは山の手線をJR目白で下車し徒歩3-4分の好立地条件にある。そして僕にとっては初めての展示会場である。新宿で買い物を済ませ、午後遅くに会場に到着すると今展の企画作家であるS氏や協力者のN.Sさん、そして来場者の方々もチラホラとお見えになっていた。会場は1階と2階を使用していて「本」の展示には相応しい広さで、落ち着いた雰囲気のオシャレな空間である(画像参照)。

1階から順番に観ていくと今回参加の14名の作家が思い思いの工夫を凝らした書籍作品がタイトルのとおり図書館のようにジャンル別に整然と展示されている。それぞれが好きな作家の著作を選びオリジナルのカヴァーに仕立てた文庫や単行本の作品、紙のレリーフとも言っていいようなオブジェとも見紛う半立体作品、版画による絵本、ポートフォリオ作品等々、目移りがしてしまう。「みんな凝っているなぁ…」出品者である僕が感心して見入ってしまうほどどれも魅力的である。

出品者の多くは僕と同世代の版画家なので、もう中堅からベテランの域。当然技術的には円熟期なので作品のクオリティもかなり高い。若い頃から作品も本人も知っている間柄ではあるが、その人がどんな文学者のどんな著作に魅かれてきたのかは知らなかった。このことに絞って観て行くだけでもとても興味深かった。「なるほどなぁ」とうなずく組み合わせもあれば「へぇーっ」と意外に思うこともあった。その意外さもおもしろい。

17:00からは2階会場でオープニングパーティー。この時間帯になると続々とお客さんたちがみえる。画家、版画家、装幀家、ギャラリスト、コレクターをはじめ、出版関係者、書籍の編集者の方々の顔も見える。あっと言う間に2階の会場は満員御礼状態になってしまった。あとは企画者のS氏の乾杯の音頭に始まり次々にワインが注がれていき、ご歓談タイムとなる。ワインがおいしい。本好き、版画好き、アート好きがたくさん集結したので話題には尽きることがない。楽しい時間はいつでもあっという間に過ぎて行くものである。19:00のギャラリー閉廊時間となってしまった。

二次会は有志20名ほどで目白駅前のワイン・バーに移動。ここでも一次会の延長でおいしいお酒を飲みながら楽しい話がさらにディープに続いていく。ここでS氏からこの企画展の次の巡回展先が今秋、横浜の博物館に決定したと発表があった。さらに京都への巡回も話題に出ていた。「会場芸術ではなく、今は忘れられつつあるが、版画本来の魅力である書物との関わりや手に取って楽しむ魅力を全国展開で提示していきたい」という前向きなお話もあった。「そのためにもっと若い世代の版画家にも声をかけて行こう」という意見も出た。最近、現代版画の世界が元気がないのでこの展覧会が版画のもう一つの可能性を広げて行く羅針盤的なものになってほしいと願っている。遠い我が家への終電の時間が気になる頃となり宴もたけなわ、ほろ酔い気分で一足先に会場を後にした。

展覧会は1/27(土)まで。繰り返しになりますがアート好き、版画好き、本好きな方々、この機会に是非ご来場ください。どうぞよろしくお願いします。詳細は下記ギャラリー・ホームページをご覧になってください。

gallery FUURO(フウロ)WEB www.gallery-fuuro.com

画像はトップが展覧会1階会場を階段の上から撮影したところ。下がそれぞれ作品の展示状況と会場風景。



                              

  

318. 『冬の図書館』展 - bibliotheca hiberna - 

2018-01-06 18:51:33 | 個展・グループ展
2018年、新年最初のグループ展のお知らせです。以下、企画グループ展に出品します。以下、ご確認ください。


・展覧会名:『冬の図書館』展 bibliotheca hiberna

・会場:gallery FUURO(フウロ) 
    
    東京都豊島区目白3-13-5 イトーピア目白カレン 1F TEL/FAX 03-3950-0775 / WEB www.gallery-fuuro.com

・交通:JR.山手線、目白駅下車徒歩5分 目白通りに面した画廊です。    

・会期:2018年 1月13日(土)~ 1月27日(土)12:00-19:00(27日は17:00まで)18日(木)・25日(木)は休み

・企画立案:柄澤 齋

・協力:岩切裕子・WATERMARK arts & crafts  

・内容:画家・版画家、ミステリー作家である柄澤齋氏の企画立案によるグループ展。14名の作家による『本』をテーマとしたグループ展で版画や絵画、立体によるオリジナル・カヴァー作品やポートフォリオ、蔵書票など書物にまつわる作品を
    多数展示することでギャラリー空間を一つの「図書館」として創造する。

・出品作家(50音順):岩切裕子/柄澤齋/木下恵介/木村繁之/田中彰/永井桃子/中村桂子/長島充/林孝彦/藤井敬子/筆塚稔尚/古谷博子/安井寿磨子/横山智子

・関連イベント:ギャラリートーク/柄澤齋 岩切裕子 藤井敬子 1月21日(日) 13:00-15:00 参加費¥2000(お飲物・お土産付き/定員20名)製本の初歩的のデモンストレーションあり。参加希望の方は1/13までにメールにてご予約くだ        さい。(予約 問い合わせ/info@watermark-arts.com 担当:清水典子)申し込み多数の場合は抽選となりますので要注意。

以上、アートフアン、書籍好き、版画好きの方々、冬の寒い一日、14名の個性が創り出す「冬の図書館」へこの機会に是非お立ち寄りください。

※長島は初日、午後遅く17:00頃から会場にいる予定です。

画像はトップが展覧会のフライヤーの表面、下が裏面。



   
  


317. 2018年、新年明けましておめでとうございます。A Happy New Year !!

2018-01-01 00:56:57 | 日記・日常
2018年、平成30年、新年明けましておめでとうございます。今年は大晦日のご挨拶から続けて行きます。ブロガーの皆様、SNS友達の皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。今年も変らずマイブログやSNSに画像投稿を続けて行きますのでよろしくお付き合いください。

皆様にとって新たな年が明るく良い年となりますようお祈りいたします。大晦日のブログにも書きましたが、もう一度。どうかこの小さな美しい青い星の環境がすべての生物にとって良好に保たれていきますように。そしてこの地球上のすべての人々が争いごともなく平和で幸福に暮らすことができますように。

今年は僕も年間を通して展覧会の企画が入っています。秋にはひさびさに絵画作品の新作個展の予定も入っています。昨年の年末頃からギアが入ってきているので正月早々、「描画三昧」の日々となりそうです。また発表の時期が近づきましたら順番にブログにご紹介していきますので、どうぞリアルのほうでもお付き合いのほどよろしくお願いします。

今回の画像は暮れにお参りした成田山新勝寺の境内で撮影したものです。三が日の初詣はとても混雑するのですが、この時期は空いていてゆっくりとお参りできました。そしてすでに新年に備えたお飾りも観ることができました。ここは当工房に近い地元の名刹ということもあり、年間を通しときどき訪れる寺院ですが、お参りし帰宅すると頭がクリアになり、新たにセットアップされて制作に臨むことができるのです。寺院建築のディテールには大陸から日本に伝承され仏教を守護すると伝えられるさまざまな「聖獣」も数多く見られ、現在の作品のテーマにも刺激になる場所でもあります。

では、皆様、どうか穏やかで素敵な三が日をお過ごしください。

画像はトップが新年のお飾りを施した新勝寺本堂。下が境内の伽藍のようすと建築の部分装飾など。