長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

97.『貴婦人と一角獣展』

2013-07-30 14:21:41 | 美術館企画展

近年、東京周辺での美術館の企画展はどれも充実した内容で、行ってみたいと思うものが多い。日本の美術館側の対応が世界的に水準が高いのだろう。もちろんその全てを見ることは不可能であるし、また仕事にも支障をきたす。

と、いう訳で六本木の国立新美術館で今月始めまで開催されていた『フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展』に行って来た。今回も会期ギリギリの滑り込みセーフである。一角獣と言えば幻想絵画好きの人達は、ドイツ文学者で美術評論も数多く手がけた種村季弘氏の『一角獣物語』を思い出すだろう。そして絵画作品ではなんと言っても19世紀フランス象徴主義の画家ギュスターブ・モローの『貴婦人たちと一角獣』を思い浮かべるだろう。一角獣(Unicorn)という白馬の体に長い一本角を持つ空想上の動物は西洋で15世紀まで実際にアフリカ、インド、中国などに生息していると信じられていた。そして古い探検記や動物誌に挿絵入りで紹介されている。シルクロード文化圏ではこれが長い時間の交易により中国に伝わり『麒麟』になったのではないかとも伝えられている。東西文化圏といっても結局はつながっているんだねぇ。西洋では一角獣は告知、啓示、純潔、精神などの象徴であり、絵画などの主題として貴婦人とのペアで表されることが多い。

ひさしぶりの新美術館。展覧会も終盤で混んでいるのではないかと思ったが、それほどでもなかった。上野の山の美術館よりはずっと空いている。会場に入って圧倒されたのは今回のメイン作品である『貴婦人と一角獣』」の6面のタピスリーである。高さ、幅共に3mを超えるその大きさもさることながらさまざまな寓意を盛り込んだ煌びやかで緻密な画面は圧巻でひとつの部屋を囲むように展示されているのだが、物語世界の深い森に迷い込んだような錯覚さえ覚えるような空間を演出していた。原画の作者は15世紀パリで活動していたジャン・ディープルという画家だという。今までもいくつかの中世ヨーロッパ作品の企画展でタピスリーは見てきたが、これほど圧倒されたことはない。デザイン的にも真っ赤な背景に一角獣や貴婦人を中心として周囲に数多く散りばめられ織り込まれた花々、木々、動物、鳥類など時間をかけて何度も回りながら見たのだが飽きることはなかった。タピスリーは織物工芸に属するものだろうが、そんなジャンル分けなど忘れてしまうほど絵画性と密度を併せ持った作品群であった。最後に20世紀初頭に、このタピスリーを見て感動したリルケの連作詩の中から翻訳されたその一部をご紹介しよう。

…彼女たちはその獣を穀物で養うのではなく、

ひたすらに、それが在るという可能性を糧として養った。

そしてそれこそが獣にその身から

額の角を生いはやす力を授けたのだ、一本の角を。

獣は一人の処女の許へと迫りより、

銀の鏡のうちまた彼女のうちに存在した。

 -ライナー・マリア・リルケ『オルフォイスによせるソネット』第二部第四歌より

画像はトップがタピスリー『一角獣と貴婦人」部分図(展覧会図録より) 下が同じくタピスリー部分と国立新美術館内部。

 

  

 


96.高宕山・お茶立場コース山行記

2013-07-26 20:43:20 | アウトドア

6月にあまりブログを更新できなかった関係でネタだけはたまっている。と、いう訳で前回に引き続き先月の話題。

先月末日、房総の山と自然を歩く会『Bosso Club』のメンバー3人で『高宕山・お茶立場コース』を登ってきた。今まで高宕山はさまざまなコースから登りこれで4回目となるが、これまではいずれも君津市側から登っていたのが今回初めて富津市側から登ることになった。そしてロングコース、ガイドブックにも健脚向きのマークが付いている。さらにコース上には源頼朝伝説が伝わる。伝説によると頼朝率いる東方遠征軍が休憩のためお茶を立てたという窪地が残っていると言う。それで『お茶立場』というのだそうだ。うーん、古のロマンを感じる土地。登る前から興味津々である。

K氏の車で現地に到着するが登山口がなかなか見つからない。あまり登られてないコースのようだ。途中、車道を若いニホンザルが横切った。このあたり野生のサルの生息地として天然記念物に指定されている。ようやく溜池に隣接した小さな登山口を発見し、3人で登り始めた。道がところどころ荒れていて普段人が入山していないことが想像できる。例によって低山の夏鳥であるキビタキやヤブサメの囀りがあちこちから聞こえてくる。一汗かいたところで大きな分岐に出る。さらに進むと北側が開けて見晴らしが良くなり、目指す高宕山の頂上や崖に作られた観音堂が見えてくる。このあたりから同じく夏鳥のオオルリの、のどかで美しい声が聞こえて来た。コースが長いので途中の広場で大休止。各自昼食をとった。

昼食後、単調な登りを繰り返し、さらに進むとポッカリと『白い崖のテラス』と呼ばれる大岩の上に出た。ここまでは、順調だった。この先がまた荒れたコースとなる。尾根上の道から足元に注意しつつグングン高度を下げていくと沢の窪地に出た。このあたりが例の『お茶立場』付近のはずである。さて、ここからの取り付きを見失ってしまう。地元山岳会の取り付けた、たよりのテーピングによるマークもなくなっていた。M氏を残し、僕とK氏で左右に分かれて沢からの出口を探すが途中から道が途絶えていてギブアップ。M氏の待つ場所まで戻ると斜面をに登っていたK氏も戻って来ていて3人でしばし途方にくれていた。すると突然、”フィフィフィフィフィフィフィ…”と美しい声が周囲から聞こえて来た。「カジカガエルだ!以前、丹沢の渓流で聞いたことがある」よく見ると足元でもピョンピョン飛び跳ねていた。とても、標高300m前後の山の沢とは思えない。深山幽谷の響である。しばらくの間、あーでもないこーでもないと意見を言い合っていたが、ここで決断。「元来たコースを引き返そう、またいつか季節を変えてリベンジしよう」Bosso Club設立以来、13回目にして初の記念すべきエスケープとなった。

がっくりと肩を落としつつ急斜面を登り始めると足元に大きなニホンマムシを見つけた。「くわばら、くわばら…」ロングコースを引き返しながら改めて低山の難しさを噛み締めたのだった。本日の教訓。「ルートを見失ったら、思い切ってエスケープする勇気を持つ」 画像はトップがお茶立場付近と思われるカジカガエルの生息する沢。コース途中から見た高宕山方面風景、登山道でみつけたキノコの1種。

 

  

 

 


95.トンボ王国へ。

2013-07-24 17:45:55 | 野鳥・自然

梅雨明け以来、酷暑が続く毎日だ。先月中旬のことである。美術家で友人のF氏と千葉県の北東部に自然観察に出かけた。F氏とは野鳥を通じて知り合ったのだが、昆虫や天体にも造詣が深く話をしていて楽しい。F氏の愛車で移動する道すがら興味深い話をたくさん聞くことができた。

最初に訪れたのはF氏ご推薦のトンボ観察スポットでH町のH沼という場所。現地に到着すると、バス・フィッシングの人や昆虫採集の親子連れなどが忙しなく動き回っていた。さっそく車を止めて、はやる気持ちを抑えつつ、観察用具やカメラを担いで繰り出した。頭上を見覚えのあるトンボが群れで飛んでいる。「チョウトンボだ!最近、農薬散布の影響か近所の印旛沼周辺でも少なくなったなぁ…」 紫、青、緑と光の方向によって微妙に色彩が変化する金属光沢の美しい羽をキラキラと輝かせて飛び回っていた。幸先が良い。始めにF氏が『秘密の水路』を案内してくれた。「ここは全国的にも数少ないイトトンボ科のオオセスジイトトンボ(Paracercion plagiosum)とオオモノサシトンボ(Copera tokyoensis Asashima,1948) の貴重な生息地なんだよ」と、F氏。僕はトンボの中でもイトトンボは似ている種類が多く同定が難しいので苦手としているグループだ。

F氏は野鳥を観察するときでもかなりジックリと見る方だが、今回も水面をジーッと静かに見つめている。「いたよ!オオセスジイトトンボの雌雄が交尾をしている、とても近い」指を指してもらったがヨシや浮草に紛れてなかなか見つけることができない。ようやく周囲の目印を教えてもらって見ることができた。繊細なトンボである。♂は明るいブルー、♀はイエローグリーンとなかなか美しい体色をしている。1カップルを見つけると環境に目が慣れ昆虫の目線になってくるせいか次々に見つかってくる。結構数がいる。そーっと近づいて夢中でカメラのシャッターを押した。次はオオモノサシトンボである。こちらもしばらくして見つかった。体色に黒が多いせいかなかなか渋い装いのトンボだ。一頭、じっとしていて逃げない個体がいたのでじっくりと撮影することができた。

木陰で昼食を済ませてから再びF氏の案内で今度はブッシュを掻き分けてミドリシジミの観察ポイントに移動するが、時期が早いのか、時間帯なのか見つけることができなかった。あきらめて沼の奥地を探検することにする。釣り人がつけた狭い道をたどりながら沼沿いに移動するのだが、ここは周囲が林に囲まれその中を小沼がいくつも連続していて散策しているだけでも楽しい。上記の他にショウジョウトンボ、コシアキトンボ、クロイトトンボ、ノシメトンボ、ウスバキトンボ、ギンヤンマ、コフキトンボ、などこの地域の普通種のトンボやその他、昆虫、クモなどを数多く観察できた。ここはまさに『トンボ王国』である。元来た道を車までもどるが引き上げるにはまだ早い。このあと、九十九里方面に移動し海岸の砂丘地帯にあるコアジサシとシロチドリのコロニーを観察、さらに移動しつつゴールは北印旛沼でサンカノゴイ、ヨシゴイなどヨシ原のサギ類を観察して帰路に着いた。梅雨の晴れ間、ひさびさにゆったりと自然を堪能する時間を持つことができた。案内をしてくれたF氏に感謝。画像はトップがオオイトトンボの交尾。下がオオモノサシトンボ、チョウトンボとH沼風景。

 

    

 

 


94.『ライフ11展』 無事終了しました。

2013-07-22 13:34:53 | 個展・グループ展

西新宿の京王プラザホテルで開催された動植物を描く画家によるグループ展『ライフ11展』も先週末、19日に無事終了いたしました。今回長島は仕事の都合であまり、在廊できませんでしたが、猛暑の中ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました。感謝いたします。

ホテルでの作品展示はひさしぶりでした。西新宿の東京都庁近くのホテル内ギャラリーということでどんなようすか想像できなかったのですが、会場の一部となっているロビー空間を多くの宿泊客の方々が訪れたり、ギャラリーとなっているスペースも、きれいで落ち着いた空間で充実した展覧会となりました。搬出を含んだ最終日は午前中のレクチャーを終えて、すぐに駆けつけましたが首都高が大渋滞で閉口しました。ひんやりとした会場に着くとひさびさにお会いする方々が遠方よりいらしていて、ほっとする一時を過ごせました。またこうした機会があれば出品したいと思っています。

今回、グループ展出品にお声をかけていただいた方々、いろいろとお世話になったロビーギャラリー、スタッフのみなさん、ほんとうにありがとうございました。この場をお借りしれお礼申し上げます。画像はトップが京王プラザホテル表玄関。下がギャラリー内部のようす。

 

    

 

 


93.再び水彩画を制作する日々。

2013-07-11 12:17:51 | 絵画・素描

梅雨明け宣言以来、毎日猛暑が続く。絵画や版画の制作をしていると、集中力、思考力に影響するのでまいってしまう。

今年は秋以降に個展を4つ開催する予定なので、前半はレクチャーなど外出する日を除いては毎日朝から晩まで絵画と版画の制作の日々である。毎日のように制作してるので、こうしたブログには向いていない内容である。どう更新しても絵を描く手元や作品の画像という具合にワンパターンとなってしまうからだ。しかし、ブログタイトルに「工房通信」と、うたっている以上アートに関係ない内容ばかりを更新しているわけにはいかない。

後半の発表の中で、ひさしぶりに絵画の新作個展を開催する。これに向け特に力を入れ続けているのが手漉きの紙に描いている水彩画である。水彩画というと水をたっぷりと使用し、滲みやボカシなどを多用した自由で情緒的な作品を想像する方が多いと思うが、僕の場合は全く異なる。自身の表現内容に合わせて少しずつ描き方を変えてきたというところだろうか。画材も透明水彩を中心にガッシュやアクリル、鉛筆、色鉛筆、ペンとインクなど紙素材に使用できるフルメンバーを登場させて制作している。あえて分類すれば「ミクスドメディア」ということだろうが、どちらかというと「水彩画」というよりも「テンペラ画」に近い絵肌だろうか。

展覧会準備のツメの時期に入り、大小26点の作品が揃ってきた。テーマは東西世界の神話や伝説に登場する『翼』。最新作は日本神話に登場する『白鷹』を描いているところだ。ゴールまであともう少し、この暑さにめげず、熱中症対策をしながら作り続けて行こう。ブロガーのみなさん会場でお会いできるのを楽しみにしています。画像はトップが製作途中の新作『白鷹』。下が固形のガッシュ絵の具と各種水彩画用メディウム。

 

  

 


92.『LIFE 11展~生命讃画~』

2013-07-08 22:56:28 | 個展・グループ展

展覧会のご案内

・タイトル 『LIFE11展~生命讃画~』

・会期:2013年7月11日(木)~19日(金) 10:00am~7:00pm(最終日~4:00pm)

・会場:京王プラザホテル ロビーギャラリー 東京都新宿区西新宿2-2-1 Tel.(03)3344-0111  http://keioplaza.co.jp

・内容(DM紹介文より):「輝く生命の感動を、11人の作家が独自の感性と技法で描いた作品の数々を展示致します。エネルギーあふれる大作から優しく繊細な小品まで、どうぞお気に入りの一枚   に巡り合って下さい。」 油彩、アクリル画、日本画、版画、手描き友禅等さまざまな技法により制作された動物、野鳥、植物など。

・入場料無料。

※長島は銅版画、木版画、木口木版画などによる「日本の野鳥」をモチーフとした版画作品約20点を出品しています。一般の画廊とは異なるので会場には常駐していません。

暑さ続きますが、生き物ファン、美術ファンの皆さま、広くて涼しい会場です。この機会にぜひご高覧ください。よろしくお願いします。画像はグループ展DMの裏表。