長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

399. アオガエルの鳴く真冬 

2020-02-08 16:22:12 | 野鳥・自然
今シーズンは初冬から「暖冬」と報じられてきた。近年、こうした冬が多い。生物の世界でもこうした気候の変動と伴っての変化が時折観察されている。モンシロチョウが真冬に羽化して飛んでいたり、本来ならば南の地域に移動する野鳥が日本列島に留まっていたり、冬に花を咲かせるはずのない樹木や草本の花が咲いたり…。今回は工房の近所でのこうした生物の話題である。

先月の29日の朝、工房に入り、版画の制作に入った頃である。窓から見える斜面林の方向から何やら生き物の声が聞こえてきた。「クリリ・クリリ…クリリ・クリリ…」始めはルリビタキなど越冬のヒタキ科の野鳥の鳴き声かと思っていた。窓から顔を出して耳を澄ましてよく聴いてみた。ヒタキの声にしては何か違う…。よく聴いていると2-3か所で鳴いている。その時にピンときた「これは…シュレーゲルの声だ!間違いない」。シュレーゲルとは里山に生息するシュレーゲルアオガエルというカエルのことである。スマホで検索し声を確認するとそのまんまであった。

シュレーゲルアオガエル(Rhacophorus schlegelii)は両性網カエル亜目アオガエル科に分類される日本固有種のカエルで体長は3-5㎝、本州、四国、九州とその周辺の島々に分布するが対馬にはいない。同じ環境に棲むアマガエル科の二ホンアマガエルに外見が似ているがより大型であること、鼻筋からか目、耳にかけての暗褐色の線がないこと、声がアマガエルでは「ゲッゲッゲッゲッゲッゲッ…」と鳴くことなどから区別できる。どちらかというと同じアオガエル科のモリアオガエルの無班型に似ている。里山の水田や森林に生息し、繁殖期は4月~5月だが地域によっては2月~8月までと変化がある。里山の水田や森林に生息し昆虫類などを食べて生活している。これも地域によってだが土中に産卵された卵塊をタヌキが好んで食べることが知られている。千葉県、栃木県、兵庫県のレッドリストで準絶滅危惧種に指定されている。

今までも近所の里山でこのカエルの雄の声は時々聴いてきたが、全て初夏から晩夏にかけての季節であった。この日はまだ立春前である。多くのカエル類は土の中で冬眠している季節である。この地域でシュレーゲルが鳴くにはまだかなり早い。同じカエルでもニホンアカガエルなどは真冬に一度目を覚まして繁殖行動をすることが知られているのは知っているのだが生息環境が異なる。近頃、身の周りのさまざまな生物たちの動きが変である。ちょっと気になる出来事だった。これからも注意して観察記録をマメに付けて行くことにしよう。

※画像はトップが夏に近くの里山で撮影したシュレーゲルアオガエル。下が同じく夏の里山で撮影した外見がよく似た二ホンアマガエル。



398. 宮城県ガン類取材 その二・伊豆沼の塒入り

2020-02-01 18:22:49 | 野鳥・自然
昨年の暮れ、12/13。2泊3日で宮城県にガン類取材に行った2日目。朝、南三陸町の宿を出て小さな漁港の内湾でカモ科のコクガンを撮影取材した後、一旦町内の宿に帰り朝食を済ませてから同じ町内のK観光ホテルへと向かった。実は2021年の冬にこのホテルでガン類保護のシンポジウムがあり、その会場の隣で僕の『野鳥版画』作品の展示を行うことになっている。詳細は後日追ってブログでご紹介するとして、その会場の下見に行ってきたのだ。ホテルは美しい三陸海岸の崖地に建っていて大きな窓からの景色は「ベルビュー!」であった。まさに絶景である。ホテルの担当者の方々との打ち合わせと会場下見を終えると午後13:00を過ぎていた。

まだ早い。時間がある。実はこの日の午後の予定はハッキリと立てていなかった。連れ合いといろいろ意見を出し合っている中で「せっかくここまで来たのだからお隣の若柳町にある伊豆沼まで足を延ばそう」ということに決定し車で向かった。途中、登米市内に入るとタカ科のノスリが電柱にとまっていたり、河川にはオオハクチョウが7羽、中洲で羽を休めていたりした。みやぎ県北道辺りに来ると上空をガン類が釣り鐘上の編隊を組んで飛んで行くのがいくつも観察できた。

14:00ジャスト。「伊豆沼・内沼サンクチュアリ・センター」に到着。スマホで事前に連絡してあったので研究員のS氏が出迎えてくれた。S氏とは一昨年の11月末にこの周辺のガン類の取材旅行に来て以来の再開である。ガン・カモ類の研究者でもあり千葉の高校の後輩でもあるS氏に宮城県内のガン類の情報をいろいろと伺う。興味のある内容ばかりなので、つい聞き入ってしまう。冬の日入りは早い。お名残り惜しいが14:48センターを出発した。

「さて、この先どうしようか?」連れ合いが訊いた。「日入りまで時間が迫っているが、今シーズン、1羽だけ出現しているという珍鳥のアオガンやハクガンの群れを探してみよう。それでも時間があったら伊豆沼のガン類の塒入りを観て帰ろう」ということで決定した。センターから沼沿いの狭い仕事道を進み一昨年も訪れた左手に広い干拓地、右手に伊豆沼がよく見える高い土手のポイントに到着した。ここから望遠鏡で珍鳥アオガンやハクガンの群れがよく入っているという場所辺りを高倍率の望遠鏡をセットして舐めるように探してみた。ちょうどその場所は「野焼き」の最中で人が何人も入っていたりしたのでガン類の群れが少ない。けっこう粘って探してみたが結局、見つからなかった。

そうこうしているうちに日も傾きガンたちの塒入りの時間となった。沼の周囲からガンたちが鳴き交わしながら塒となる沼の枯蓮地帯に入ってくる。土手の上はこの時間になるととても寒く露出した顔が痛いほどだが夕暮れ色に染まった水辺の広い風景は例えようもなく美しい。その自然の舞台に好きな野鳥であるガン類の声や姿が加わるのだから文句の言いようがない。多くはマガンだが比較的近い水面に数十羽のオオハクチョウと10羽のヒシクイの姿も観察できた。あっという間に時間が過ぎる。16:29、周囲も暗くなったので観察を終了する。元来た夜のルートを宿がある南三陸町まで戻った。この次の日、地元のガン類研究者のI氏の案内で伊豆沼周辺の観察ポイントを回ることになっていたが、連れ合いの実家で急用ができ中止となってしまった。

冬の伊豆沼へは、またゆっくりと余裕をもって訪れてみたい。

※画像は夕刻の伊豆沼の風景、マガンの塒入り、オオハクチョウ、ヒシクイ、珍鳥アオガンの図鑑コピー。


            



397. 宮城県ガン類取材・その一 コクガン

2020-01-26 18:27:57 | 野鳥・自然
昨年末の12/12~12/14の24泊3日で宮城県本吉郡南三陸町に『野鳥版画』制作のため、カモ科のコクガンを取材に行ってきた。先月末から年頭にかけ公私ともども忙しく、先月中旬の話題を今頃画像投稿している。どうも最近、時系列が上手く運ばず遅れ気味の投稿になってしまっている。

昨年の春、宮城県在住のある自然保護団体のI氏から連絡を受け「コクガンを含むガン類の木版画を制作してほしい」という依頼があった。宮城県の南三陸町といえば、8年前の『3.11東日本大震災』の時に史上稀な高さ20mを超える津波に襲われ甚大な被害のあった町の1つとして記憶に新しい。そして野鳥の世界では国内で数少ない、まとまった数のコクガンが越冬する地域として知られている。

カモ科のコクガンは漢字では黒雁、英語ではBrent Goose または、Brant という。和名の通り成鳥は黒と白の羽衣のコントラストがはっきりとした美しい雁類である。大きさはカラスより一回り大きい程度。日本では冬鳥として北海道、東北地方の一部(南三陸町を含む)局地的に飛来し、越冬する。1971年に国の天然記念物に指定されている。
僕自身は今までに東京湾の最奥部や青森県の八戸港などで少数の出会いがあるが、今回のような、まとまった数を観察するのは初めてである。

12日、現地でI氏と合流し、この場所でのコクガンに関してのさまざまな情報を教えていただく。次の日からはいつも取材に協力してくれる連れ合いと二人で南三陸の美しい海岸にある小さな漁港を探して回った。現地では宿の女将さんや地元漁港の漁師さんたちがコクガンについての詳しい情報を親切にご教示してくださり、とてもスムーズに撮影取材をすることができた。

今月に入ってからその取材資料を基に大判木版画の下絵の制作に入っている。ここからが本当の意味で僕の仕事。三陸の美しい海の空気や水の美しさ、厳しい寒さを身をもって感じてきてどのように作品に反映させることができるだろうか。制作経過や仕上がった作品はまたブログの回を追ってご報告することにしよう。

今回の取材にあたりいろいろな面でアドバイスいただいたI氏と現地で親切にしていただいた町の方々にこの場をお借りしてお礼申し上げます。


      





377. 道央・道北 野鳥取材旅行 その五(最終回)

2019-07-27 18:08:32 | 野鳥・自然
6/30(日)北海道『野鳥版画』取材旅行も5日目。最終日となった。

AM:5:41、新札幌駅近くの高層ホテルで朝を迎える。窓の外には町の遠方に石狩平野の森林地帯をのぞむことができる。実は最終日のこの日、前日までスケジュールを決めていないフリーの状態だった。候補地としては「ウトナイ湖サンクチュアリ」、初日と同じく千歳市の「嶋田忠・バードウォッチング・カフェ」、そしてホテルから近い江別市の「野幌森林公園」の3ヵ所が上がっていた。1つ目のウトナイ湖は今まで僕も2回程、尋ねているのだが「森林性の野鳥はこの季節はどうだろうか?沼水面の渡り鳥には季節が違う」ということでスルー。残り2ヵ所のうち野幌は夏鳥や森林性の鳥の繁殖期でベスト・シーズンだが6月の始めから若いヒグマが出没中、ということで千歳の方向に決まりかけていた。
だが、昨夜、3女の大学の友人たちと江別の居酒屋で飲み会を開いた後に親友のYさんが僕たち夫婦と一緒にバードウォッチングができるのを楽しみにしているということで、ヒグマ遭遇のリスクは覚悟して「野幌森林公園」に決定した。

ホテルで朝食を済ませチェックアウト。10:15に車で出発した。途中、江別市内の3女のアパートに立ち寄り2人と合流し合計4名で近隣にある「野幌森林公園」に向かった。30分ほどで森林公園の『自然ふれあい館』というネイチャー・センター側の入り口に到着する。この公園は2053haと言う広大な敷地面積なのでいくつかの入り口があるのだが、今回は野鳥が数多く観察できるというコースに近いこの入り口からスタートをすることにした。入り口付近には「ヒグマ出没中、注意!!」の看板が貼ってあった。さっそく連れ合いと2人で事前にクマよけに用意してきた「熊鈴」をウェスト・ポーチなどに装着する。"チリ~ン、チリ~ン" と音を鳴らしながら森の中に入って行く。「クマさん、しばしの間、僕らの前に出てこないでね」。入り口付近ではさっそくアオバトの哀調を帯びた声と2羽の可愛いハシブトガラが出迎えてくれた。それからエゾハルゼミの"ヨ~キン、ヨ~キン、ケケケケク…"という賑やかな合唱が響きわたっていた。先に来ていたバーダー風の大きなカメラを担いだ男性がすれ違いざま「数日前にこのあたりでクマゲラやヤマゲラなど北海道に生息するキツツキ類が飛び回っていたよ」と教えてくれた。

6月下旬の北海道の森林は樹木の葉が生い茂り美しいグリーンが眩しいほどである。さらに奥へ奥へと遊歩道を進んで行くとクロツグミ、キビタキ、オオルリ、ヤブサメ、センダイムシクイ、イカルなどの囀りや声が深い森林の中から聞こえてくる。キビタキの雄と雌が遊歩道近くをウロウロと飛び交っている。きっと巣立ち雛が近くの茂みにいるのだろう。Yさんが低い枝にとまるオオルリの雄を双眼鏡で見つけた。結構近い。全員で美しいブルーの羽衣をシッカリと観察することができた。この森の夏鳥は囀りの数から特にクロツグミとキビタキの生息密度が高いようだ。

それからこの森は野鳥だけではなくさまざまな生物が数多く生息している。遊歩道をゆっくりと歩きながら昆虫類のチョウやガ、甲虫、バッタ、、クモ類、植物の花、キノコ類などが観察できて飽きることがなかった。13:00過ぎに木製テーブルとベンチが設置された広場に出た。ここで遅めの昼食と休憩をとる。テーブルには誰かが杖代わりに使ったと思われる棒が1本立てかけてあった。よく観るとこの棒を短い羽を震わせて1頭の蛾が上ってきている。その形と大きさからスズメガの仲間であることが解る。羽化シーンに偶然出くわしたのである。3女に言って棒の下あたりを探索してもらったのだが蛹の抜け殻は見つからなかった。僕たちが昼食を済ませる頃には棒の先端に辿り着き、じっとしている。そしてだんだんと翅が伸びて来ていた。すると横にいた連れ合いがスマホ内の「蛾類図鑑」を検索し、羽の模様から種類を同定した。スズメガ科のエゾシモフリスズメという種類だった。名前に「蝦夷・エゾ」付くが北海道特産種ではない。しばらく翅が伸びきるのを観察していたいのだが時間も押して来ていて、まだ野鳥取材ポイントがこの先にあったので帰りに寄ってみることにして出発した。

大沢園地という野鳥観察のポイントに到着。屋根付きの四阿に荷物を降ろして周囲の鳥の声に集中する。この周辺でもキビタキとクロツグミの囀りがいくつも聞こえて来た。声がする樹の葉の繁みの中を双眼鏡で丁寧に探して行くと比較的近い距離の横枝にクロツグミの雄が止まって囀っている。あわててカメラを構えると少し離れた奥の繁みに入って行ってしまった。木の葉が繁ったこの季節の小鳥類の撮影は難しい。スマホを見ると14:00を過ぎている。帰りの飛行機の時間から逆算するとここでタイムリミット。元来たコースをUターンする。

帰り道、先ほどの広場でスズメガのようすを確認すると、まだ棒の先にとまっていてすっかり羽が伸びきっていた。白と黒とグレーのシックな着物のような色彩。ゆっくり画像撮影をさせてもらった。それから入り口付近まで来た所で太い木の幹に逆さに張り付いているエゾリスに遭遇。よく観ると前足でキノコをつかんで食事中だった。クリクリとした目が可愛い。人をあまり恐れずジックリと観察することができた。みんな大喜びである。朝来た入り口には15:13に到着。娘たちを江別市内のアパートまで送って、帰りの成田空港までの便に乗る新千歳空港へと向かった。

今回の4泊5日の『野鳥版画』制作取材の旅の連続投稿は5回に亘ってしまった。それだけ密度が濃かったということである。お付き合いいただいたブロガーのみなさん、ありがとうございました。次回の北海道取材は来年の3月、まだ雪の残る冬景色の中で冬鳥の観察撮影を行う予定である。その時にはまたお付き合いください。どうぞよろしくお願いいたします。


                   






376. 道央・道北 野鳥取材旅行 その四

2019-07-20 18:23:42 | 野鳥・自然
6/29(土)北海道『野鳥版画』取材旅行の4日目。天売島で3日目。天売島内、フットパス(森林地帯)を中心に自然観察をする。天売港から高速フェリーで羽幌港へ。内陸を新札幌まで長距離移動をする。

<早朝の宿周辺の散策>

朝、4:40、天売島の民宿「オロロン荘」で目が覚める。荷物整理などをしてからまだ疲れて寝ている3女を残し、連れ合いと宿の周辺を散策することにした。歩いてすぐに海岸線に出る。早朝の澄んだ空気の中、オオイタドリやラワンブキなど大きな葉を持つ北海道特有の植物が繁る海岸線の道を歩いて行く。岸には小さな漁船がたくさん停泊していてマストにはオオセグロカモメが何羽もとまっていた。島中央の山の手方向の森林からはツツドリの声やクロツグミの声が響き渡ってきた。夏鳥の美しいノゴマの雄がこの海岸でもエゾニュウの花の上などで囀っていた。この日は天売島を船で離れ内陸へと移動をする日。船の出港時間が13:20なので朝からお昼までフリーの時間がある。そういえばこの移動日の午前中の取材予定を決めていなかった。海鳥のコロニーまで行くには宿から歩いて片道1時間はかかってしまうし…。「昨日行ってみて気持ちが良かったので宿からすぐに歩き出すことができるフット・パス(森林地帯)を時間いっぱい歩いてみよう」ということで決定した。

<オロロン荘からフットパスへ>

朝食を済ませてから少し休憩をとりチェックアウト。宿に自然観察には不必要な荷物は預けて3人で島内をゆっくり歩き始めた。疲れが出ていた3女も休養をとったので元気を取り戻している。9:34、「海龍寺」という禅宗のお寺の境内を通り抜けフットパスの遊歩道入り口に辿り着いた。ノゴマ、エゾセンニュウ、ツツドリ、コムクドリ、アオバト、アカゲラ、ヒガラ、シジュウカラ、ルリビタキなどの姿や声が次々に確認された。上空をアマツベメのブーメランが6羽滑翔していく。島には種類も数も少ないといわれている猛禽類のハヤブサ成鳥が飛んで行った。
野鳥だけではなく森林の中を歩いていると植物、シダ類、コケ類、キノコ類、それから昆虫類や爬虫類などの小動物も観察でき生き物好きな僕たちとしては飽きることはなかった。楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去って行く。11:59、オロロン荘に戻り宿の車で天売港まで送ってもらった。

<天売港から羽幌港、内陸を移動>

港に着いて少し待ち時間があったので漁船や埠頭に集まるカモメ類やウ類を観察撮影したりして時間をつぶした。13:20 発 羽幌港行の高速フェリー・サンライナー2号に乗船する。速い速い、この日は海も穏やかだったのであっという間に隣の島、焼尻島の港に到着する。ここまでの海峡ではウトウ、ケイマフリ、ウミウ、オオセグロカモメなどを船内から観察することができた。14:21、羽幌港に到着。行きの27日に港の駐車場にとめておいたレンタカーに乗車、ここからはまた来た時と同様に海岸道、高速道、一般道を通る移動のコースを延々と進むことになる。途中の海岸線を走る道路からは日本海の鉛色の風景の中に天売島と焼尻島が兄弟のように仲良く浮かんで見えた。島での体験がいろいろと思い出され、お名残惜しい気持ちになる。留萌市からは高速道に入る。行きと同様に長~い長~い、平野部に広がる森林地帯の風景の中の移動である。砂川PAで大休止。3女を下宿先の江別市のアパートに送ってからこの日の宿である新札幌の駅前ホテルにチェックインできたのは18:26、だった。この日は3女が通う江別市内の大学の友人たちが、僕たち二人と北海道歓迎飲み会を開いてくれることになっている。どんな話題が飛び出すかとても楽しみである。

画像はトップが天売島で観察したヒタキ科の野鳥、ノゴマの雄。下が同島の海岸線やフットパスと言う森林地帯で観察した植物、キノコ、昆虫など。



             

375. 道央・道北 野鳥取材旅行 その三

2019-07-13 18:03:03 | 野鳥・自然
6/28(金)北海道『野鳥版画』取材旅行の3日目。海鳥類の繁殖地から島の中央の森林地帯へ。

<天売島ガイドツアーに参加する>

午前3:45、道北の日本海に浮かぶ小島、天売島の宿で目が覚めた。窓の外ではシマセンニュウ、エゾセンニュウ、コヨシキリ等の小鳥類が囀っている。ザックに観察用具、撮影用具を入れてしばらく部屋で休憩。今日は島最大の海鳥の繁殖地を巡る『天売島ガイドツアー』に参加する。午前6:02、ガイドツアーのAさんが車で宿まで迎えに来る。昨夜のウトウの帰巣を観察するナイトツアーは団体さんが入っていて賑やかだったが、今日の同行者はAさん以外は島に風景や野鳥の写真を撮影に来た年配の男性が1人だった。観察ツアーは朝食前の2時間コース。うちの家族と合計5名で繁殖地へと出発した。

<黒崎海岸>

最初の観察地は東にに海を眺める黒崎海岸という開けた岩礁海岸。ここはカモメ科のウミネコの繁殖地となっている。途中、車の正面の道路にもウミネコがたくさん降りていてAさんが「あぶないからどいてね~っ」と声をかけながらゆっくり運転する様子がなんとも微笑ましかった。駐車スペースに到着して岩礁地帯に作られたコロニーのようすをじっくりと観察し、風景と合わせて画像撮影をした。背後の大地の斜面にもコロニーができていたのでガイドのAさんに尋ねると今年から新しく作り始めたものらしく、ウミネコの繁殖数も増加傾向にあることを教わった。ここでも背後の草原にエゾセンニュウやコヨシキリの囀りが聞かれ「北海道らしいな」と思った。

<赤岩灯台>

2番目に向かったのはこのツアーのメインとなる赤岩灯台の岸壁にできた海鳥類の繁殖地。昨晩、ウトウの帰巣観察を観たのと同じ場所である。ウトウの成鳥はこの時間帯にはほとんどの数が海上へと餌を採りに飛び立ってしまった後だったが少数が巣の近くを飛んだり灯台のすぐ下の海上に浮かんだりしている姿を観察できた。Aさんはコロニーに近い岸壁のポイントに到着すると高倍率の望遠鏡で海鳥の姿を探し始めた。
しばらくしてウミスズメ科の海鳥、ケイマフリの雄と雌が1羽づつ比較的距離の近い岩に飛来してとまった。Aさん曰く「この2羽はいつも観察されるペアですぐ近くに巣があるんですよ」と説明してくれた。逃げる様子もなくじっくりと姿を見せてくれたのでいろいろな角度やポーズの画像を撮影することができた。続いて岸壁直下の海上を望遠鏡で丁寧に追っていたAさんが「ウトウの小群のといっしょにウミガラスが浮かんでいますよ。今、このスコープに入っていますので順番に観てください」と声をかけてくれた。少し遠いが2羽のウミガラスが仲睦まじく泳ぐ姿が観察できた。ウミスズメ科のウミガラスは現在、天売島で80羽が生息している。ケイマフリと共に絶滅危惧種に指定されている希少な海鳥である。岸壁の直下のちょうどこのポイントからは見えない場所で繁殖している。
しばらくして「ウルル~ン、ウルル~ン」という声が聞こえてきた。これこの声につられてもっと数が増えてくるように保護上、再生音を流しているだということだった。その電子音に混じって本物のウミガラスの声も聞こえてきた。この声から別名「オロロン鳥」とも呼ばれている。それから僕は見なかったが連れ合いと3女は哺乳類のゴマフアザラシが海面に浮かぶ姿を観察したのだと言っていた。

<フットパス>

海岸を後にして最後に向かったのは「フットパス」と呼ばれる島の中央の森林地帯。ここで山野の小鳥類を観察した。森林に向かう途中、林道でアリスイやクロツグミの雄が目の前に出現する。午前:7:26、入り口に到着。ここからは徒歩でゆっくり野鳥を探しながら林の中の遊歩道を進んで行く。林縁でヒタキ科のノゴマの雄が囀る姿を観察する。それから樹上にムクドリ科のコムクドリ、季節外れのアトリ科のマヒワの小群が飛ぶ姿も観察できた。この季節は樹木の葉が茂り森林では鳥の姿を見つけ難い。姿は見えなかったが、ツツドリ、ベニマシコ、クロツグミ、エゾセンニュウ、アオバト等の声や囀りを確認することができた。午前:8:08、観察終了。宿まで送ってもらい朝食の時間となった。

ここまでで、島の自然をかなり堪能することができた。朝食後、朝が早かったので少し仮眠をとる。午前11:00前に、疲れが出たので宿で休みたいと言う3女を残し連れ合いと徒歩で出発する。「海の地球館」という海鳥関係の資料を展示した施設やもう一度、フットパス周辺を歩いて野鳥を観察したりしてのんびりと過ごした。












374. 道央・道北 野鳥取材旅行 その二

2019-07-06 18:05:37 | 野鳥・自然
6/27(木)北海道『野鳥版画』取材旅行の2日目。

<岩見沢市ホテル周辺>

午前3:35、ようやく外が白み始めた頃、岩見沢市のロッジ風のホテルで目が覚める。窓の外では夏鳥のキビタキの囀りが聞こえてくる。今日は移動の工程が長い。ザックの中身をいろいろと整理する。6:25、まだ朝食の時間には早いので連れ合いと2人で双眼鏡を持ってホテルの周辺を散策することにした。ここの残念なのはテニスコートなどの他に近所に散策できる遊歩道が整備されていないことだ。光背に広がる森林の風景は良いのだが…。それでも1時間ちょっとの散策でツツドリ、センダイムシクイ、キビタキ、クロツグミ、アマツバメなどの夏鳥の姿や囀り、アオバト、ゴジュウカラ、イカルなどの森林性の野鳥の姿や囀りを観察することができた。

<岩見沢市~羽幌町へ>

朝食をすませ9:53、チェックアウト。まずは昨晩夕食を共にした酪農系大学生として江別市に暮らす3女と合流するためJR.岩見沢駅へ向かう。無事3女と合流し今日のコースを出発。美唄市から高速道路に乗りひたすら北上して行く。右手には夕張山地が遠望される。この高速道から見える景色は行けども行けども単調な森林風景である。11:12、砂川PAで小休憩し、さらに北上、昼食は車中で済ませた。滝川市、深川市をい過ぎて留萌市に入ったのは12:00を過ぎていた。高速道から一般道にスライドし小平町という街に入ると目前に海岸の風景が広がってきた。日本海だ。天候が曇りということもあるが鉛色の広大な海景が広がっていた。ここから先も海岸道を北上、左手に延々と日本海が見える単調で長い道のりだった。苫前町を過ぎ今日の中間地点である羽幌町の「羽幌港・フェリーターミナル」の駐車場に到着できたのは13:08だった。

<フェリーに乗船し天売島へ>

今日の目的地へはここからさらに海路を行く。13:43、フェリーの「おろろん2号」に乗船し目的地である天売島を目指す。ボォ~ッ、という大きな霧笛とゴゴゴゴゴッ…というエンジン音をたてて想像していたよりは大きなフェリー船は出港した。今日は少し海が荒れ気味なのだろうか、船底の船室に寝転んでいると船体はグラングランとブランコのようによく揺れた。
14:56、目的地の天売島と隣接する兄弟のような島の焼尻島(やきしりとう)の港に到着する。デッキに出て防波堤で休んでいる海鳥を双眼鏡で確認するとウミウとオオセグロカモメの群れだった。湾内に白くて丸っこい水鳥を発見、双眼鏡で追うとこの海域で繁殖しているウミスズメだった。潜水行動を繰り返していたが白と黒の羽衣のコントラストがよく観えた。15:12、再び出港、会場には点々と海鳥が散らばって浮かぶ様子が観えた。双眼鏡で詳しく観察するとウトウとケイマフリというウミスズメ科の海鳥だった。

<天売島>

15:41、天売港に到着する。アマツバメが上空を飛翔し、どこからかイソヒヨドリの囀りが聞こえてきた。あらかじめ連絡してあった今日の旅館であるオロロン荘のご主人が車で迎えに来てくれていた。天売島は民家もまばらなとても小さな島である。それでも300人ほどの住民が住んでいるのだと言う。宿に到着し部屋に通されると窓からは海峡をはさんで先ほど立ち寄った焼尻島が正面い見える。「絶景だな」。
双眼鏡で観ると海峡の天売島寄りの洋上にポツポツと海鳥が浮かんだり海面スレスレを飛翔したりする姿が観える。さっそくザックでかついできた高倍率の望遠鏡をセットしてジックリと観察することにした。最高のロケーションである。距離は遠いがこれがなかなか楽しい。夕映えの海景の中、ウトウ、ケイマフリ、ウミウ、ヒメウ、オオセグロカモメなどの海鳥を観察確認することができた。

<ウトウ・コロニー帰巣ガイド>

5時代の早い夕食を済ませ少し部屋で休息。今日のメイン・イベントは島内にある『海の地球館』という自然観察、研究の施設が主催する「ウトウコロニー帰巣ガイド」に参加することだ。18:57、マイクロバスが旅館に迎えに来る。今日は島内の他の宿に宿泊する他のお客さんも一緒である。すでにバスの中には20人以上の人たちが乗り込んでいた。
バスの中で『海の地球館』のスタッフの方がこの島で80万羽が繁殖する海鳥のウトウの生態やコロニー観察の注意点を解説、約20分ぐらいでウトウのコロニーである赤岩灯台の駐車場に到着した。バスを降りて断崖上に造られた観察路を歩いて行くと地面が露出した斜面には所狭しと無数の穴があいている。これがウトウの巣穴である。そうこうしているうちに海の方向からウトウが次々と帰巣し、雛の餌となる小魚を加えて穴に入って行く姿が観察できた。スタッフの方の声で上空を見上げると薄暗くなった空にたくさんのウトウが"グッ、グッ、ググッ "と鳴き交わしながら帰巣してきていた。いつのまにか周囲が真っ暗になってしまうと他のマイクロバスで来たスタッフの方も加わりコロニーの端に特殊なライトを数本セットし始めた。「ストロボでの写真撮影はウトウのを驚かせ繁殖の妨げになるので禁止ですが、我々が研究を重ねてウトウの夜間観察用に開発したライトの下での撮影は可能です。このライトの色はウトウを驚かせることがないのです」という説明があった。 美術館内部の照明のように温かみのある柔らかい照明に照らし出された巣の近くのウトウたちが数羽、目の前でヨチヨチと歩いたり巣穴に出入りしたりする姿を短い時間だったが観察することができた。この時に高感度撮影をしたのが投稿画像である。

この後、20:24、オロロン荘に戻る。明日はまた早朝から他の海鳥の繁殖地の観察会に参加する予定である。今日の車とフェリーを乗り継いで来た長い道のりを振り返るとドッと疲れが出てきた。入浴を済ませると3人で爆睡してしまった。

画像はトップが特殊ライトに照らし出された天売島繁殖地でのウトウ。


               




373.道央・道北 野鳥取材旅行 その一 

2019-07-02 19:07:54 | 野鳥・自然
6/26(水)から6/30(日)の4泊5日で連れ合いと2人で北海道の道央・道北地方に『野鳥版画』の取材旅行に行ってきた。今年は4月、5月と、ちょうど大型連休の時期を含み公立美術館での個展が入っていて休暇をとっていなかった。実はその変わりも兼ねているのである。久々の北海道、どんな野鳥たちとの出会いが待っているのか出発日が近づいてくると何となく気持ちがソワソワとして落ち着かなかった。

26日、重い取材機材を背負って成田空港へ向かった。またしても荷物チエックとボディチェックの2段階で引っかかる。荷物の方はカメラの予備バッテリーを預ける荷物の中に入れてしまったこと、ボディの方は金属探知機でキンコン、カンコンと鳴ってしまい検査官に執拗に調べられたが結局原因は解らなかった。どうしていつも必ず何かに引っかかるのだろうか?「そうだ相性というものなんだろう」と割り切ることにする。
バタバタとしながら搭乗ゲート近くまでたどり着く。今日の便は格安チケットのジェット・スター便。

離陸したと思いきや、12:59.あっという間に新千歳空港に到着した。ここからはレンタカーに乗り千歳市内を移動。取材最初の目的地である市内の『嶋田忠・ネイチャー・フォトギャラリー』に到着する。嶋田氏は若い頃から憧れの動物写真家である。1980年代~1990年代、カワセミ、アカショウビン、シマフクロウ等、日本の野鳥を被写体とした写真集の名作の数々を出版している。事前に連絡を入れていてお会いするつもりだったが、ちょっと前に東京へ展覧会の打ち合わせに向かわれたとのこと。こちらが遅めに到着してしまったのですれ違いでお会いすることできなかった。「残念」またの機会に。

このギャラリーは広くはないが、この近くで撮影された野鳥や野生生物の写真を展示するギャラリー、それから「バードウォッチング・カフェ」と呼ばれる軽食スペース、カフェに隣接したハイドルームに分かれていて、けっこう長い時間楽しめる空間になっている。特にハイドルームにはカモフラージュされたガラスのない窓の直ぐ傍にセットされた餌台に次から次へと野鳥やエゾリスが訪れる様子が手に取るように観えるようになっていた。もちろん、カメラ持ち込みも自由で撮影することができるのである。

今の季節はちょうど野鳥たちの子育てのシーズンであり、席に着いたとたんにアカゲラの親子が目の前にやって来た。親鳥が餌台の餌を嘴に含み奥の林近くにいる巣立ち雛の所に飛んで行っては口移しで与えていた。ここで遅い昼食をとる。スープとカリカリに焼いたパンの大きなサンドイッチを注文する。特製ドリンクも含めてとてもおいしかった。
食事を済ませ隣のハイドルームへ移動。先客で4-5人の野鳥カメラマンが来て窓から望遠レンズを構えて撮影していた。地元の人だけではないようだが、とてもマナーが良くて譲り合って楽しく撮影していた。後から来た僕にも良い場所を譲ってくれて撮影することができ、ありがたかった。
野鳥の方はアカゲラの親子、コゲラ、シジュウカラ、ヤマガラの兄弟、ヒガラ、カワラヒワ、キジバト等が代わる代わる目前の舞台を訪れて飽きることがない。奥に広がる明るい林からはセンダイムシクイ、ウグイス、キビタキ、ゴジュウカラの囀り、ツツドリの声なども聞こえてくる。そしてクライマックスは立派な雌のエゾリスの登場。人間の存在など見向きもせずにゆっくりと餌を食べてくれたのでいろいろな方向、ポーズののカットを撮影することができた。ここでけっこうゆっくりしてしまった。時間を見ると16:43になっている。

フォトギャラリーを出て今日の宿泊地、岩見沢へと向かう。開けた風景の石狩平野の1本道を走る。北海道らしい広い道幅の心地よい道路が続く。左右は広い農地で見渡す限り広大な麦畑、牧草地、水田となっている。途中、真っ黒い和牛や乳牛のホルスタインの姿などが見られた。元、炭鉱の夕張の町を過ぎて山間部に向かって入って行くと18:05、今日の宿となるホテル・メープルロッジに到着した。今夜は地元、隣町の江別市の酪農系大学に通う3女とその同居の友人と4人でホテルのレストランで待ち合わせ夕食をいっしょにする約束をしている。山間の静寂なホテルでおいしい料理に舌鼓を打ちつつ、大学生活の話などを聞くことにしよう。


                         






360. 明治神宮 御苑 ・探鳥記

2019-02-28 17:47:09 | 野鳥・自然
              

今月21日。東京の明治神宮 御苑に『野鳥版画』制作の取材のため越冬の小鳥類を観察に訪れた。

明治神宮の森には20代からこれまでに、ちょくちょくと野鳥観察に訪れている。ここはJRの原宿駅を下車し1-2分の便利な場所であることから大抵は都内に何かの用事で出たついでに立ち寄っている。気軽に立ち寄れるというのが最大の魅力である。それから都会の樹木の多い公園に生息する野鳥は人の存在に慣れていて、あまり人を恐れないために観察や撮影がし易いのである。朝ゆっくり目に家を出る。この日も銀座界隈で知人や関連画廊での企画展が重なっており、それらの個展を観に行く前に立ち寄ることにしたのである。

11:26、JR原宿駅に到着。南鳥居から神宮の森に入る。ここから南参道を北方へと歩いて行くのだが、このあたり背の高い常緑樹が多く、とても都心の真ん中とは思えない雰囲気の場所である。実は僕は神宮には野鳥観察以外の目的で来たのは数回しかない。わずかに友人と初詣などに来た程度である。これまでもほとんどが秋冬の野鳥の観やすい季節に来ている。大鳥居をくぐって左手に小さな門が見えてくる。ここから入苑料を払って入ると今日の目的の『御苑・ぎょえん』となる。

この御苑の始まりは江戸時代、大名の庭園として整備されたことから始まる。明治になって明治天皇と昭憲皇太后にゆかりの深い由緒ある名苑となった。明治天皇は静寂なこの地をとても愛され、「うつせみの代々木の里はしずかにて 都のほかのここちこそすれ」という有名な歌を詠まれている。森の広さは83,000㎡あり、小道には熊笹が覆い、園内には樹木が多く「南池」と呼ばれる池もあり、大都会にあって小鳥や水鳥のオアシスとなっている。特に秋冬のシーズンは落葉広葉樹の葉が散って空間ができ、野鳥観察がし易くなるのである。

入り口から入ると御多分に漏れず、ここも外国人観光客が多い。比較的空いている左手の小道を歩いて行く。しばらくして道のすぐ近くまでヤマガラやアオジが出てきて出迎えてくれた。特にヤマガラは人懐っこくて、すぐ近くまで移動してくる。しばらく進むと、とても小さな橋がかかる水路に出る。ダイサギが1羽鬱蒼と茂った林の中の水路で餌を探して歩いている。時々、パッと嘴を水の中に突っ込み小魚を捕えていた。南池沿いに歩き開けた芝地に出る。「隔雲亭」と呼ばれる昔の休憩所を右に観てから林の中の道に入った辺りで再びアオジが近くに出てくる。さらに先に進むと" タッ、タッ、タタ… "というヒタキ科特有の地鳴きが聴こえてきた。しばらくその場でじっとしてると林の奥から低い場所に小鳥が1羽出てきた。双眼鏡でじっくり観るとルリビタキの雌だった。人を全く恐れずに僕の周囲をウロウロしてくれたので写真も撮影することができた。なかなかチャーミングな美人である。

ここからさらに道に沿って進み「清正井・きよまさのいど」と言われるパワー・スポットまで行ってみた。印象としては越冬の小鳥類がとても少ない。それでもウグイスやシロハラ、そして留鳥のメジロやコゲラ、シジュウカラ等が観察できた。頭上から、" キイーッ、キイ、キイ、キイ… " という甲高く空間を引き裂くような声が降ってきた。するとグリーンの大きなシルエットが飛翔する姿が観えた。外来種のワカケホンセイインコだった。近年、東京などの都会を中心に生息域を広げている鳥である。

途中、数人のバーダーと出会ってこの場所の鳥の情報を尋ねてみた。御苑を出て参道を代々木方面に向かって歩く途中に「北池」という小さな池がある。以前はここに毎年、秋冬になると数十羽のオシドリの群れが越冬していたのだが、行政による「鳥インフルエンザ予防対策」として餌やりが禁止されてからはまったく渡来しなくなってしまい、3年前からはオシドリが来なくなったので、とうとう池の水を抜いてしまったのだと言う。現在、北池はカラカラに乾燥してしまっているようだ。事情はいろいろとあるだろうが、神宮の森のオシドリは晩秋から冬の名物だったのに、とても残念なことである。

あまり大きな収穫はなかったが、合計14種の野鳥が観察できた。最後に南池まで戻り、持参したお茶を飲みながら何も鳥がいない池の水面をボウッと眺めていた。" キィーッ、キキキキキ… " と鋭い声がしたので、そちらに目を移すとカワセミが1羽、杭の上にコバルト・ブルーの美しい姿を見せてとまっていた。あまり距離は近くなかったが証拠写真を撮ってここでお開き。元来た道を原宿駅まで戻り、地下鉄に乗って銀座の画廊巡りへと向かった。

画像はトップがルリビタキの雌。下が南池のカワセミ、御苑内の風景、ヤマガラ、アオジ、ダイサギ、明治神宮の大鳥居、JR原宿駅の屋根。























 





357.真岡市 井頭公園・探鳥記

2019-01-19 17:47:55 | 野鳥・自然
今回も年末、年始のドサクサで遅れてしまった投稿内容である。昨年末、12月某日。栃木県真岡市にある井頭公園に冬鳥の取材に行った。ここ数年、冬の越冬の小鳥類の取材は北関東と決めている。あまり山間部でも小鳥たちが平野に降りてしまっていないし、まったくの平野部では当工房のある千葉県と鳥相に変わりがないと判断しているからだ。

「山梨も行ったし、群馬も行った…今冬の小鳥類の取材地はどこにしようか」と迷っていた。いろいろと検討していて「そうだ栃木県の真岡市に日本野鳥の会栃木県支部が観察地としている井頭公園という場所がある、樹木も多いしカモなどの水鳥も入る池もあり変化に富んでいるから良いかもしれない」ということで井頭公園に決定した。

8:40分に連れ合いと2人、家を出た。関東と言っても栃木県、茨城県を超えて行かなければならない。途中、高速道やら圏央道をいくつか超えて行かなければならない。結構遠いのである。千葉を出る時には曇っていたが、途中、茨城に入ってからは晴れ間がのぞいてくる。筑波山がしばらく見えていて方向を少しづつ変える度に形を変える。単調な道が長く続いて真岡インターチェンジを出たのは10:50となっていた。ここから数分で井頭公園の駐車場に到着した。

入り口から池の近くまで下りて行き「鳥見亭」というロッジ風の施設に入館する。ここの二階は池が一望できる観察スペースになっていて野鳥観察用の望遠鏡も数台セットされていた。ここには野鳥の会栃木県支部の方がボランティア・ガイドをしているので、この時期の野鳥情報を聞いたほうが良いと事前情報で聞いていた。窓口に女性のガイドの方が1人いらしたのでいろいろと尋ねてみることにした。
最近の野鳥の会、栃木県支部主催の探鳥会では山野の小鳥、池の水鳥を含め、1日で50種以上の野鳥が記録されたということ、小鳥類は池の東側の林縁に多く出て現在、キクイタダキの小群やニシオジロビタキが出ていることや、ここの池の名物であるカモの仲間のミコアイサはまだ定着していないということ等々、詳しく話てくれた。しばらくここの2階から池のカモ類を中心に観察する。ヨシガモ、ヒドリガモ、カルガモ、オナガガモ、マガモ等、カモ類の他に近年、どこの水辺でも増えているオオバンや色彩の美しいカワセミなどが観られた。

「鳥見亭」を出発。林に沿った園路に入る。さっそく出迎えてくれたのはジョウビタキの♀、しばらく進んで林床にの美しいブルーのルリビタキの♂が1羽、ヤマガラ、コゲラ等の小鳥類が次々に登場する。園路をふさいで野鳥カメラマンの人たちがなにやら上方を動く小鳥を撮影をしている。双眼鏡でレンズを向ける方向を追うと針葉樹の葉先にキクイタダキがいた。頭頂の特徴まで連れ合いが観るとどうやら♀のようである。このあたりで池に目を移すと先ほど「鳥見亭」では観られなかったカモ類のコガモ、ハシビロガモが観られた。

先ほどガイドの方に池の北側にある釣り堀周辺にはベニマシコなども観察されていると聞いていたので、足を延ばすことにした。途中、林の中などを探すが小鳥類は少ない。釣り堀の入り口の手前に開けた草原に小鳥が立っている姿を発見。大きい。双眼鏡で観るとヒタキ科のトラツグミだった。割合、距離が近く、人をを恐れない個体だったにでカメラで楽に撮影することができた。釣り堀に入ると" キィーッ、キキキキキッ" という声と共に、いきなり目の前の横枝にカワセミが飛んで来てとまった。これも距離が近くこちらを恐れない。カメラでゆっくり撮影する。しばらくして池の水面に飛び込んだかと思ったら赤い金魚を捕えて林の奥へと飛んで行ってしまった。落ち着いた場所で獲物をさばくのだろう。
釣り堀の奥のハンノキやヨシ、セイタカアワダチソウが繁る場所でベニマシコやマヒワの出を待つが声すら聞こえなかった。「今年の冬は小鳥類はハズレかもね」連れ合いがポツリと呟いた。

ベニマシコをあきらめて元来たルートに戻りかけると14:00を過ぎていた。小腹も空いてきたので、ガイドの女性が薦めてくれた公園内の南側にあるレストラン「陽だまり亭」へと向かう。途中、林縁でカケスを1羽見かけた。左手の明るいアカマツ林の林床に3羽の小鳥が動くのが見えた。双眼鏡で観るとセキレイ科のビンズイだった。撮影しようとソロリ、ソロリと音をたてずに近づくと2羽が飛んで目の前の横枝にとまった。そのうちの1羽が羽繕いを始めたのでジックリと撮影させてもらった。さらに先ほどキクイタダキが出た場所辺りで再び5羽の小群が出現。この辺りで出現しているというニシオジロビタキを探すが見つけられなかった。

14:27、レストラン「陽だまり亭」に到着。平日といいうこともあり空いていて料理は素朴な味だがとてもおいしかった。15:13、再び出発。「さて、園内は一通り観たけれど、ここからはどうしようか」と言うと連れ合いが「ベニマシコをもう1度探そう」ということになり、元来た東側の園路を観察ポイント戻ることにした。途中、池のカモ類を撮影したり、人を恐れない午前中とは別個体のカワセミを撮影したりしながらゆっくりと戻って行った。ベニマシコ・ポイントの草薮に到着。ベンチでペットボトルのお茶を飲みながらしばし待つがいっこうに現れない…どころか声もしない。スマホを見ると、いつのまにか16:00を過ぎていて日暮れ時となっていた。ここでタイム・リミット。

戻りしな、池越しにロッジ風の「鳥見亭」には明かりがともり夕刻の時間にまるで山間部の湖畔の宿のような雰囲気に観えた。「鳥はイマイチだったけど、いい場所だね」と連れ合い。「鳥見亭」の入り口に到着すると先ほどのボランティアの女性がちょうど出てきた。呼びとめて観察できた鳥の種類の報告と情報の御礼を言って駐車場まで戻った。
ここからは、本来た長~いルートを千葉まで戻ることになる。車に乗ると2人とも自然と溜息が出るのであった。



画像はトップがトラツグミ。下が向かって左から井頭公園風景2カット、人に慣れたカモ類、池の木の枝で休息するマガモ、カワセミ、ビンズイ、夕方の鳥見亭。



                  




353.伊豆沼・内沼、雁類 取材旅行 その三(最終回)

2018-12-29 17:46:58 | 野鳥・自然
11/29、27日からスタートした宮城県伊豆沼周辺での『野鳥版画』制作のための、野生雁類の取材も三日目、最終日となった。

この日はレンタカーの返却時間や新幹線に乗車する時間もほぼ決まっているので案外時間があるようでないだろうということで、朝から「蕪栗沼」の周辺を時間の許す限り集中して観察、撮影して回ることに決めていた。

<蕪栗沼の雁類の塒出を観察>

初日の日入り時間に蕪栗沼の雁類の塒入りのショーを観に行った時に地元の親切なカメラマンから「塒入りもいいけど、早朝の塒出の飛翔も素晴らしいよ。一度、観に来る価値は十分ある」とアドバイスをもらっていた。
午前、4時29分辺りが暗いうちに起床、宿の外では伊豆沼の雁類が鳴き始めている。準備をして食事もせずチェックアウトし5時31分に出発、まっしぐらに蕪栗沼へと向かう。6時4分に蕪栗沼の南東岸の駐車場に到着する。誰もいない。望遠鏡やカメラを三脚にセットし沼の土手を歩いて行く。塒入りの時と同様に水面が見える場所に出たら待機する。東北の早朝の野外は「寒い」。チョウゲンボウが沼の外の電柱にとまり、アリスイがヨシ原の中で鳴いた。水面に浮かぶ雁類は想像していたよりも少なく感じた。たぶん塒入りしてからはヨシ原の中に入ってしまうものもあるんだろう。
しばらく待って周囲が明るく白み始めると雁たちの鳴き交わす声が落ち着かないように聞こえ始めた。するとマガンの第一陣が飛び立った。かなり数は多い。スマホの動画で写してみる。「あっちの数が凄い!」連れ合いが叫んだ。夢中で写しているうちに沼の北側のヨシ原から続々と雁類の群れが飛び立っていく。小さな群れ、大きな群れ、雁類特有の棹型になって沼を出て行く。しばらくしてシジュウカラガンの大きな群れが出て行くのが観察できた。夢中で飛翔姿を追い、カメラのシャッターを押し続ける。まるで僕たち二人が立っている土手が客席で沼とその上の空が大がかりなショーの舞台のようでもある。そして沼の周囲からはオナガガモの大きな群れが逆にヨシ原に塒入りするのも観察できた。雁とは逆に夜行性のカモたちが戻ってきているのだ。沼の水面の雁類の最後の群れが飛び立ち、すっからかんになった頃、スマホで時間を観ると7時35分となっていた。
タカの仲間のチュウヒが1羽、ヨシ原上をゆうゆうと飛翔し、ベニマシコが1羽鳴きながら飛んで行った。

<沼周辺の干拓地で雁類を観察>

塒出を堪能した後、蕪栗沼の北側のオオヒシクイの採餌ポイントへと移動する。土手から広い干拓地を一望できる場所である。双眼鏡で丁寧に観て行くがお目当てのオオヒシクイの姿は見つからない。ちょうど年度末の工事なのだろう。干拓地にはダンプやらクレーン車、ブルドーザーが入っていて忙しく動いていた。それらの音も大きい。おそらく採餌場を変えてしまったのだろう。コンロで湯を沸かし朝食を済ませてから次のポイントへと移動する。
沼の東側のマガンやシジュウカラガンの採餌場となっている情報を得ている干拓地に着く。広い干拓地の車道を雁類の群れを探しながらゆっくりと徐行して行く。いくつかのマガンの群れと出会い撮影しているうちにシジュウカラガンの30羽ほどの群れに遭遇した。距離も比較的近いし警戒していない。光も良くてしばらく車の中からカメラを構えて撮影させてもらった。

<再び蕪栗沼の土手へ>

12時44分、早朝に塒出を観察した沼の南東岸に再び戻る。沼の水面には結構マガンやシジュウカラガンが戻ってきている。早く餌場に向かった群れが休憩に戻ってきているのだろうか。土手の上から望遠鏡越しに観察していると飛翔する鳥影が横切った。雁たちが、ざわつき始めた。ヨシ原を低く♂の美しいハイイロチュウヒが飛んで行った。しばらくして沼の上空にタカ類の飛翔するシルエットが観えた。双眼鏡で追うとオオタカである。さらにチュウヒも2個体、飛んでいるのが観察された。なるほどタカが飛ぶ時間帯なので、これを嫌う雁類が落ち着かないようすだったのである。

<沼の中央道を歩いてみる>

13時22分、駐車場に戻り昼食をとる。目の前の電柱にタカの仲間のノスリがとまっていた。食事を済ませて、まだ帰りの時間には余裕がある。「沼の中央に作られたヨシ原の中の道を歩いてみよう」ということになり。腰を上げた。土手をぐるっと左にまいて歩いて行く。中央の道を進むがヨシの丈が高くて視界は悪い。それでもオオジュリン、ウグイス、エナガ、ツグミなどの小鳥類が観察できた。沼の中ほどまで来ると水面が少し見える場所があった。この辺りでチュウヒが3羽ゆったりと飛翔していた。時間を見ると15時30分、ここらでタイム・リミットとなった。


御名残惜しいが、ここからJRの「くりこま高原」駅へと向かう。途中、南方町の「道の駅」で家で留守番をする娘に郷土のお土産を買った。駅に着いたのは17時22分ですっかり周囲は暗くなっていた。3日間、足早に忙しく撮影取材してきたが帰りの新幹線の座席に着くと何とも言えない充実した感覚が蘇って来た。次回いつ来れるかは解らないが、また仕切りなおして、あの雁類のつぶらな瞳に会いに来よう。

画像はトップが蕪栗沼での雁類の塒出。下が向かって左から雁類の塒出3カット、マガンの群れ2カット、シジュウカラガン2カット。



                  











352. 伊豆沼・内沼、雁類 取材旅行 その二

2018-12-20 18:13:33 | 野鳥・自然
11/28、カラスがカァ~ッ、で目が覚めた。宮城県の伊豆沼・内沼周辺での『野鳥版画』制作のための、野生雁類の取材旅行の二日目となる。

この日は日の出前の午前四時頃より準備を始め、朝食抜きで伊豆沼の西岸の土手ポイントへと直行する。昨日、サンクチュアリ・センターのS氏より教えていただいた朝日と雁類の塒出
を観るためである。土手ポイントは宿からも近く、車だとすぐに着いた。駐車スペースには、すでに先客の車が4-5台止まっていて、土手にはカメラの三脚がいくつも並んでいた。
遅れてはならないと、こちらもカメラと三脚、観察用の望遠鏡などをセットして空いている場所に並んだ。周囲の人たちの話を聞いていると、どうやら鳥関係の人というよりも風景写真の人が多いようだ。スマホで時間を確認すると5:56だった。

<伊豆沼の日の出と雁類の塒出の観察>

11月とは言っても下旬、北国の早朝である。普通に寒い。寒さをこらえて土手で待っていると少なかった雁類の声が徐々に増えてくる。その多くはマガンのようで例によって" カハハン、カハハハ~ン " と沼の静かな水面に響き渡っている。その声がどんどん大きく響くようになると沼中央に浮かんで休んでいた雁たちのようすが落ち着かなくなって来るのが土手の上からもよく解る。すると隣の男性が「昨日は塒からの出方がばらけていたけど今日はいいかもしれないな…」と、コートのポケットに両手を突っ込んだまま呟いた。おそらく「リタイア世代」で近所から毎日来ているのだろう。
沼中央の雁類の塊をジッと凝視していると東の低い山並の上がオレンジ色に明るく変化してきた。しばらくして太陽が頭を見せると水面にオレンジ色の一条の光が差し込んで実に美しい情景が浮かび上がってきた。その光の中を雁たちが水面を忙しそうに行ったり来たりしている。パッと、第一陣の雁の群れが飛び立った。土手の上ではカシャカシャとカメラのシャッター音が一斉に鳴り出す。雁たちの群れも続いて小群になったり、大群になったりして所謂「雁行・がんこう」の棹の形になって次々と飛び立ち始めた。これと同時に太陽の位置もグングンと登って行き、あっと言う間にまん丸い姿を現わした。僕も土手の上で必死にシャッターを押していたが、あまりにも飛翔する数が増えてくると、昨日の蕪栗沼での「塒入り」と同様にボー然と立ち尽くすのみとなってしまった。そんなに長い時間ではなかった。沼がすっかり空っぽになった頃、スマホを確認すると7:25だった。

宿に帰り、連れ合いと地形図を眺めながら、今日のスケジュールを確認する。この日は伊豆沼・内沼周辺の「雁のいる風景」を中心に取材することとした。

<再度、カリガネを探す>

昨日の行程のトップに出会った小型雁類、カリガネのつぶらな瞳が忘れられなくて、これだけは今日も探すこととなった。昨日と同じく沼の東側の広大な干拓地を車で移動して行く。
昨日の場所には目標とするマガンの群れが降りていない。車を降りて干拓地の端っこから双眼鏡で舐めるように一枚一枚、水田を観ていく。諦めかけた頃、昨日とは別の水田に大きなマガンの群れが見つかる。目算で500羽程はいるだろうか。「この中にはきっとカリガネが入っているでしょう」連れ合いが呟いた。
干拓地でお目当ての野鳥を見つけたら、とにかく徐行運転。ソロリソロリとゆっくり近づいていく。少しづつ、ジリジリと距離を縮めていき、なんとかマガンの大群の真横に着けることができた。ここからは鳥たちを驚かさないよう車の中から音を立てずに、焦らず探して行く。「群れを見つけたらその端っこの方を観るといい」とS氏からアドバイスされていたので端を集中的に観て行くと…「いた!」またもや成鳥が2羽。「昨日と同じペアかな」と連れ合い。しばらく撮影させてもらい、昼食を簡単に済ませてから次のポイントへと移動。

<内沼でオオヒシクイを観察する>

カリガネとのしばしの再会を楽しんでから真っ直ぐに内沼へと向かう。ここは水面にオオヒシクイが観察されるという場所である。途中、緩やかな起伏のある里山の丘陵地を抜けていったのだが、日本の原風景的な景観が実に美しく好ましかった。30分弱で内沼の北側の駐車場に到着。車を降りて岸辺を歩き始めた。水際と岸辺には約500羽のカモ科、オナガガモが休んでいた。餌付けされているのだろうか、近づいても逃げるようすはなかった。
さて、オオヒシクイがいつも観察されているという広いヨシ原の前あたりの水面を双眼鏡で探して行く。結構遠いが黒っぽい水鳥の大きな群れが逆光気味の中にみつかった。望遠鏡をセットして詳しく観察するとオオヒシクイであることが判明した。目算で約100羽。この沼には他に鳥影が観られず、道路の向かいの「昆虫館」で世界の甲虫の標本を見てから14:10、次に移動する。

<伊豆沼の北部干拓地で雁類とオオハクチョウの餌場を観察>

次に向かったのは伊豆沼の北側にある雁類とオオハクチョウが昼間の餌場としている大きな干拓地である。14:45頃、干拓地を一望できる土手の上に造られた農道に到着する。双眼鏡で探すと距離は遠いが雁類とオオハクチョウの大きな群れが休息したり餌を採ったりしているのが解る。こうした環境での主な餌はコンバインで稲を刈り取った後の「落穂」で特別給餌はしていないのだということだ。さすがに東北の「米所」、落穂だけで十分に雁たちを養って行けるのである。
それにしてもカウントこそしなかったが、たいへんな数である。望遠鏡でじっくりと観て行くが雁類は、ほぼマガンだった。マガンに比べるとずっと数は少ないが体が大きく真っ白なオオハクチョウはよく目立っていた。時折、マガンの声に交じって" コホーッ、コホーッ" と、よくとおる声で家族が鳴き交わしていた。しばらく、農道を車で移動しながらマガンとオオハクチョウの群れに遊んでもらってから次のポイントへ移動する。

<伊豆沼の東岸で雁類の塒入りを観察>

この日のシメは伊豆沼での雁類の塒入り観察。15:40、塒入りの観察ポイントである北東岸の土手に到着した。車を降りてカメラや望遠鏡をセットし、観察を始める。着いてしばらくは水面を観ていっても、大した数の雁類、ハクチョウ類は入っていなかった。それが、待つこと20分、16:00を過ぎた頃から、北側と東側を中心に上空を雁の小群や大群が鳴き交わしながらゾクゾクと入って来始める。ほとんどがマガンである。僕らの立っている土手の対岸のヨシ原や水面に次々に吸い込まれて行った。日没後、16:35までの間に、天候は曇り空だったが十分にその数を堪能することができたのだった。

ここでタイムリミット、二日目の取材は終了。この日、東北の大地と、空と、水と、光と、そして鳥たちが織り成す大きな一枚のタペストリーを体感することができたのだった。明日は取材の最終日、今度はどんな場面が待っているのだろうか。

画像はトップが伊豆沼の日の出風景。下が向かって左から伊豆沼の雁類の塒出飛翔2カット、小型のカワイイ雁類カリガネ、内沼のオナガガモの群れ、伊豆沼北側干拓地で休息する雁類とオオハクチョウ、オオハクチョウのペア、広い干拓地上を大群で飛翔する雁類、伊豆沼に塒入りした後、水面に浮かぶ雁類。



                     

351. 伊豆沼・内沼、雁類 取材旅行 その一 

2018-12-08 19:19:04 | 野鳥・自然
先月末、11/27から二泊三日で宮城県の伊豆沼・内沼周辺に『野鳥版画』制作のため、野生の雁類の取材旅行に行ってきた。恒例の冬の遠出取材である。今年の二月に鹿児島県の出水平野に野生のツル類の取材を終えてから、次の取材地はどこにするのか連れ合いと検討をしていたが「久々に雁行が見たい」ということで早くから候補地として計画していた。

伊豆沼や内沼など、宮城県の栗原市、登米市一帯の内陸湖沼や周辺の水田地帯は昔から国内外でも有数の野生の雁類の越冬地であり、現在では国際的な湿地の生態系の保存条約である『ラムサール条約』の重要な登録地ともなっている。
雁類はカモ目カモ科に分類される比較的大型の野生水禽類で日本では現在11種・7亜種が観察確認されている。冬鳥として日本にはユーラシア大陸の北部や北極圏地域などから毎冬、渡って来るのである。

<JR.くりこま高原駅から伊豆沼・内沼サンクチュアリ・センターへ>

11/27 取材一日目、朝4時代に起床、電車を乗り継いで上野駅から東北新幹線に乗車、目的地の「くりこま高原駅」にはAM:10時ジャストに到着した。駅からロータリーに出るとさっそく上空をマガンの家族が " カハハン、カハハハ~ン " と、やや哀調を帯びた特徴のある声で飛んでいった。周囲をよく見渡すと数十羽が飛翔しているのが観られた。
レンタカー店で車を借りて真っ直ぐに「伊豆沼。内沼サンクチュアリー・センター」へと向かった。出水平野のツルの取材の時にお世話になった高校の先輩で鳥の世界の先輩でもあるT氏に今回も現地の情報を聞ける雁類の専門家を事前に紹介してもらっていた。センターの研究員であるS氏である。S氏もは偶然にも千葉の高校の10期後輩であった。カモ科の水禽類の生態研究が専門である。
センターに到着するとS氏が迎えに出て来てくれた。挨拶も早々にセンター内のテーブルで鳥の話。初対面なのでまずはお互いの鳥の世界の共通な「ヒト」の話。かなり重なるところがあり二人で驚いてしまう。そこから伊豆沼周辺の雁類の越冬状況やポイントとなる観察地をいくつか伺った。やはり地元で調査研究している方はアドバイスが的確である。

<伊豆沼東部の広い干拓地・カリガネとの出会い>

名残惜しいがまたの再会を約束してS氏と別れ、最初の観察ポイントへ移動。11月下旬、晩秋の里山の風景が美しい。工房のある千葉県の印旛沼周辺の里山によく似ているがそ、その規模はとても広く大きい。平野部といってもまったく平というわけでもなく、なだらかな丘陵地が車で走っていて心地よかった。
ナビゲーターを頼りにS氏から教わったポイントに到着。見渡す限りの広大な干拓地(水田)である。最初の内、雁の群れが見つからない。干拓地の真ん中あたりに到着。遠くに黒っぽい塊が見えたので双眼鏡で確かめると雁類の群れである。ゆっくりと車を徐行させ近づいていくと採餌中のマガンの大きな群れだった。周囲を良く観るといくつか大きな群れが降りている。ここからは車を降りずに車窓から観察する。降りるとドアの音で鳥が驚いて飛んでしまうからである。1羽1羽丁寧に双眼鏡で観察して行く。「いた!」連れ合いが静かに言った。「どこ?」「手前の群れの一番右!」言われるがまま双眼鏡で追うと…、いたいた、畔の上に雁の1種のカリガネの成鳥が2羽。マガンより一回り小さく嘴の基部の白色部が頭頂まで達し、黄色いアイリングがよく目立つチャーミングでかわいらしい雁である。歩いたり、空のカラスに警戒したり、伸びをしたり、ゆっくりとその姿を堪能させてくれた。この後、干拓地の空き地でコンロでお湯を沸かし、遅い昼食をとってから次のポイントへと移動。

<蕪栗沼周辺の干拓地・多くの雁類の採餌場・シジュウカラガンとの出会い>

二つ目の観察ポイントは伊豆沼・内沼に並んで多くの雁類の塒(ねぐら)となっている蕪栗沼(かぶくりぬま)周辺の干拓地。ここはかなり多い数の雁類が採餌場としている。結構距離を走ってポイントに到着する。土手の上の道路から広い干拓地を見渡すことができる場所である。とても大きな群れがついていた。マガン、マガン、マガン、見渡す限りのマガンである。双眼鏡で端から見て行く中、1羽の真っ白い鳥が目に入ってきた。距離は遠い。「もしや!」と思い高倍率の望遠鏡をセットし、じっくりと観察すると「ハクガン」であった。
しばらく観察してから蕪栗沼へと移動する。途中、マガンの群れをみつけては徐行し双眼鏡を向けてみた。農道のコーナーを曲がる時に前方にマガンのまとまった群れを発見、よくみると違う種類が混じっている。丁寧に観て行くと首から頭部にかけての白と黒のコントラストが美しい「シジュウカラガン」である。車の中から撮影する。数えると30羽ほどがいた。

<蕪栗沼・雁類の塒入りを観察する>

最後の観察ポイントは、この日のメインイベント「日入り時の雁の塒入り」である。15:35、蕪栗沼の小さな駐車場に到着。この塒入りを目当てのカメラマン5-6人がすでに集まっていた。バーダーというわけでもなさそうである。ここから、観察・撮影機材を担ぎ、沼の土手を歩いて水面が見える場所まで移動する。さすがに少し寒くなってきた。
ヨシ原越しに水面が見える場所に到着するが、マガンの数はまばらである。少し大きい雁がいたのでスコープで確認すると亜種オオヒシクイが25羽ほど見つかった。オオハクチョウも50羽ほど入っているが、まだ塒に入っている数ではない。待つこと1時間弱。そろそろ日の入りである。" カハハン、カハハハ~ン " いくつかのマガンの群れがさまざまな方角から入って来始めた。一つ一つの群れを追っているといつの間にか少し奥の空に大きな群れがこちらに向かって来ている。いちいちその数に驚いているうちに、どんどんとその数は増し、こちらももうあきれて口を開けて眺めているだけになる。その数は目算だが万羽単位だと思う。家族同士で行動する雁が迷わないように合図しているのだろうか、周囲はいつの間にか雁類の鳴き交わす声で騒がしいほどに溢れかえっていた。陽が落ちて周囲が暗くなってきてからも、どんどん塒入りしてくる。この光景は強烈に網膜に焼き付けられた。初日から感動的でダイナミックなシーンを観せてもらった。

結局、この日のうちに伊豆沼周辺で観察できる雁類、マガン、カリガネ、ハクガン、シジュウカラガン、ヒシクイの5種を観察してしまった。S氏の的確なアドバイスに感謝である。明日からはもう少し余裕を持って風景を含めて取材できるだろう。塒入りの熱い興奮が冷めないでいる状態のまま、宿である「伊豆沼ウエットランド交流センター」へと向かった。

画像はトップが夕陽に染まる蕪栗沼の雁類の塒。下が向かって左から蕪栗沼の夕景、マガンの大きな群れ、マガン、カリガネ、シジュウカラガン。



            




324. 出水平野、ツル類取材旅行 その三(最終回)

2018-03-03 18:55:00 | 野鳥・自然
2/11(日)。鹿児島県出水平野のツル類取材旅行も最終日となった。朝、5:00起床。野鳥たちの朝は早い。6:15、車に乗りホテルを出るとまず東干拓にあるツル達の塒に向かった。20分弱で目的地。ここも農作業用の一般道から観察させてもらうため対向車や地元の農作業の車には細心の注意をしつつ移動し、干拓中央部の車除けスペースに停車し、ツル類の朝の飛翔を待つことにした。ここまでは初日にお会いした地元ベテランバーダーのM氏のアドバイスどおりに行動する。

<東干拓・早朝のツル類の飛翔を観察する>

エンジンを切って車中からツル達の声や動きに五感を集中させた。昨日とは打って変わって雨は上がっていて天気はまずまずである。風は少し強い。しばらくすると、まだ青黒い朝の空をツル達の小群がほうぼうからこの干拓地を目掛けて飛んできた。”クックルルー、クックルルー" ”グワッグルルー、グワッグルルー" 寒空を早いスピードで給餌場へと向かうナベヅルとマナヅルの声が響き渡る。それはそれは見事な光景である。帰宅してから制作する大判木版画のためにしっかりと瞼に焼き付けておかなければならない。次から次へと飛んで来ては干拓地の東端や中央部に舞い降りる。静かに車を降り双眼鏡だけでその様子を眺めていた。その数とスピードは強風に押され速度を増し、人の動体視力が追いつかなくなって来た頃ピークに達した。いったいどのくらい空を見上げていたんだろうか。周囲が白々と明るくなってきたかと思ったら東の空に朝日が現れ始めた。そして飛翔するツル達の数もまるで台風が去った後のように少なくなっていった。飛翔姿を堪能し、ここでまたいったんホテルに帰る。

<東干拓~福ノ江港周辺の野鳥たち>

ホテルで朝食をとり、帰りの荷造りをしてチェックアウトを済ませてから再び行動開始。来る前の計画では「ツルだけ見るのではなく山間部にも入って九州南部特産のヤマドリの亜種コシジロヤマドリを観に行こう」とか「最終日の帰り道、河口干潟に立ち寄ってカモメ科の珍鳥オオズグロカモメを観て行こう」などと話していたのだが、「今回はやはりツル達の作品を制作するための取材なのだから時間いっぱいツル達を観察して帰ろう」ということに2人で決定した。そしてもう一度明るくなった東干拓に戻り、水田をゆっくりと歩いたり休息するナベヅルやマナヅルの家族群を観察、撮影しながら移動した。途中、冬水田んぼで15羽のツクシガモの群れを観たり、水田上を低く飛び回るアトリの大群を観たり、堤防で休むミヤマガラスの群れを発見したりしてけっこう楽しめた。3日目に入って当たり前となってしまったが、こうした西南日本に多い冬鳥が観られるのも九州ならではのことである。
それから初日、M氏がカラムクドリやギンムクドリなど希少なムクドリ類を観ることがあるという近くの福ノ江港周辺に移動する。狭い農道を海側へ向かってゆっくりと走って行くとポッカリと小さな溜池の真横に出た。ここでも水面を泳ぐ1羽のツクシガモを発見。双眼鏡で池を見渡しているとヨシ原近くに白いサギ大の水鳥が12羽休息しているのを見つけた。「ヘラかクロツラだね」連れ合いが言った。昔からのバーダーは種名を省略するクセがある。ヘラサギかクロツラヘラサギだが嘴を背中に突っ込んでいるので特徴が見えずどちらなのかは識別できない。やむをえず、この状態をカメラに収めて移動。児童公園の近くで車を止めてコンビニ弁当でお昼にする。窓の外をふと見上げると「雪だ!」。小雪がチラチラと降ってきた。スマホで天気予報を調べると南九州には今晩にかけて大雪警報が出ていた。

<ツル展望所でツル達の渡りを観察する>

「どうする?ウカウカしていると高速道路上で雪に遭遇するかも…一応スタッドレス・タイヤだけど」と、不安そうに連れ合い。「速足でツル展望所に寄ってスナップ写真を撮ってツル達へ最後のお別れをしてから帰ろう」ということで意見がまとまり西干拓へと移動。ツル展望所の駐車場に着いてもまだ小雪はチラチラとしていた。周辺を少し散策し、ツル類の大群を背景に記念写真を撮ってから展望所3階へ上がった。連れ合いには1つ見落としていたことがあった。それは「そろそろツルの北帰行が始まっている。滞在中に1度、ツルの渡りの飛翔をする姿が観たい」というのである。しばらくの間、広大な干拓地に広がるツル達の大群を眺めたり、空に注意したりしていた時、14:00頃「あっ、あれそうじゃない!」と連れ合いがはるか彼方の空を指差した。見上げるとナベヅルとマナヅルの混群が上昇気流に乗ってグングンと高度を上げて飛んで行くのが見えた。「そうだ、渡りだね!」さらに丁寧に観て行くといくつもの混群が上昇していくのが解る。飛んで行ったツルたちはこれからロシアのウスリー川流域、アムール川流域、中国東北部などの繁殖地へと向かったのである。最後の最後にとても感動的なシーンを見せてくれたツル達に感謝。ここでタイムリミット。展望所を降りて駐車場まで来ると、まだ小雪がチラチラしていた。天候悪化が心配なので名残惜しいが予定よりも早めに熊本空港へ向かって出水の町を後にした。

※今回この取材旅行をするにあたり事前にアドバイスをいただいた鳥の世界のT先輩と地元ベテランバーダーで詳細なガイドをしていただいたM氏にこの場をおかりして感謝いたします。
画像はトップが早朝のナベヅルの飛翔。下が向かって左から東干拓のツル類の飛翔風景、ナベヅルの家族、マナヅルの家族、溜池で休息するヘラサギ類、ミヤマガラス。


                             

323. 出水平野、ツル類取材旅行 その二

2018-02-24 18:20:08 | 野鳥・自然
2/10(土)。鹿児島県出水市でのツル類取材旅行2日目である。今日も五時に起床するがあいにく天気はよくない。ホテルの窓から外を見ると道路が濡れていて小雨が降っている。天気だけはどうすることもできない。

昨日は千葉のT先輩に紹介して頂いた地元出水のベテラン・バーダーのM氏に生息地をご案内いただいて、こちらで観察しておきたい種類のほとんどの種を観ることができた。そして今日から連れ合いと2人だけでフィールドを巡回するポイントも抑えていただいたので後は現地に向かうだけである。野鳥たちの朝は早い。6:29車に観察用具とカメラ一式を積み込んでにホテルを出発した。

<西干拓のツル類の塒と給餌場>

まず初めに昨日の予習どうりに向かったのは「ツル展望所」に近い西干拓の広い水田にあるツル類の塒と給餌場だ。道すがらまだ小雨が降っているが外に出られないほどでもない。昨日、M氏には「まぁ、自然な状況というわけではないですが、西干拓の給餌場でのツル達の飛翔と群がるようすは一見の価値がありますよ」とアドバイスしていただいていた。6:50干拓地の道路脇のポイントに到着。一般道のため場所、停車する場所や対向車には最新の注意をしながら止める。周囲はまだ青暗く思いの外、寒い。南九州の冬の朝がこんなに寒いものだとは想像していなかった。車の中で連れ合いと2人、じっと待っているとすでに周囲からはナベヅルのクルルーッやマナヅルのやや強いヴァルルーッという声が、あちらこちらから聴こえてくる。そして幼鳥のピィー、ピィーという声も入る。
地元ボランティアの人たちによる給餌は7:00から7:20頃ということだが、この寒さが厳しい中での10~20分の待ち時間はとても長く感じた。そうこうしているうちに給餌の軽トラックが近づいてきた。ツルたちがザワザワとし始め、一際強く鳴き声を放っている。
そしてまだ薄暗い中、ツル達の群れが、方々から飛んで来始めるといよいよツルたちの騒ぐ声で車の中のお互いの声が聴こえなくなるほどである。軽トラックに用意してあった餌を放り出し始めるとその強烈なエネルギーはピークに達した。「凄いねぇ…」「いったい何羽ぐらいいるんだろうか…」どのくらい時間が経ったのかも忘れるほど興奮し、夢中でカメラのシャッターを押し続けたり、スマホで動画を撮ったりしているうちに辺りが明るくなってきた。「そろそろ宿の朝食の時間だから一端戻りましょう」という相棒の声で、はっと我に帰ったほどである。

<雨の干拓地と「ぶんちゃんラーメン」>

一端ホテルに戻って朝食を済ませ部屋で少しだけ仮眠をとる。10:05から再び取材スタート。と思いきや雨が本降りとなってきた。仕方ないので雨の上がった時のことを想定し東西の広大な干拓地のポイントを確認しながらグルグルと巡回した後、ツル展望所へ避難した。ここで館内から雨の中のツル類の群れの写真や動画を撮影したり館内のテレビで放映している出水のツル達のドキュメンタリー映画を観賞したりしてしばらく過ごした。
正午も過ぎた頃、小腹が空いてきたのでT先輩ご推薦の「ぶんちゃんラーメン」という地元で評判の九州ラーメンを食べに車で移動する。道路に面した小さなお店は周りに何もない場所なのですぐに見つけることができた。午後1時を過ぎているというのに店の外まで人が並んでいる。なんとか席に着き、このお店の名物である「もやしラーメン」を注文するとすぐに出てきた。それは、もやしというよりは細かく刻んだ長ネギがまるで、かき氷のようにラーメンの上高く盛り上がったものだった。「えっ、これがラーメン!?」割り箸でほじくるのだが、肝心の麺がなかなか出てこない。ラーメンを食べているというよりも中華味の長ネギを食べているような妙な感じであった。これもご当地ならでは経験ということだろう。店を出るやいなやクサシギが1羽、目の前を鋭く飛んだ。

<東干拓・憧れのカナダヅルとの出会い>

ここから東干拓のポイントに移動する。途中、ニュウナイスズメの群れが電線にとまっていたり、タゲリが車の窓からすぐ近くまで近づいてきたりして天気は悪いがそれなりに楽しい。昨日の夕刻、M氏の案内で訪れたツル類の塒近くに到着する。昨日はナベヅル、マナヅルの外、近い距離でクロヅルやナベクロヅル(ナべヅルとクロヅルの自然交雑種)、距離は遠いがカナダヅルも観察できた場所である。しばらくここで腰を据えて観察することにする。水田上を低くミヤマガラスの150羽以上の群れが飛び、アトリの1000羽強の大群が右へ左へ飛ぶ様子は見事であり、しばし見惚れてしまった。そうこうしているうちに午後も遅くなって雨が上がってきた。昨日比較的近くでツル類の群れが観られた水田近くまで移動、エンジンを止めてここでしばらく待つことにする。1-2枚先の水田にいたツルたちが餌を食べながら移動しどんどんこちらに近づいてきた。もうじき繁殖地へと向かう渡りが始まる季節である。ツル達は四六時中餌を食べてエネルギーを蓄えている。時々何かの音に驚いて群れで、わっっと飛び立つこともあり落ち着かないようすである。ここではじっくりとカメラと動画の撮影をすることができた。そろそろ宿に帰る時間も近づいてきた。もう一度、昨日、クロヅルを観たところに立ち寄ってみようと移動する。現場に着くと今日もツルの群れは車道から遠い。車から降りて双眼鏡で端から観察していると、後にいた連れ合いが押し殺した声で「あなたの後っ、…ほら、カナダヅルが6羽!」と言った。「えっ(まさか)」と言って振り返ったすぐ後ろの水田に佇んでいたのだった。カナダヅルは英語名をSandhill Craneといい、北アメリカ北部とシベリア北東部で繁殖し、北アメリカ中部、南部で越冬するツル類で日本では稀な冬鳥として記録されるが、ここ出水平野では毎年数羽が越冬している。25年ぐらい前に千葉県にも1羽が渡来したが僕は観に行っていない。
そして幸運にもツルの保護用に水田脇に据え付けられた黒いネットの下がこの水田だけ切れていた。憧れのツルとの至近距離での出会い、夕方でシャッタースピードがかせげないのと、逸る気持ちを抑えつつ、大興奮でシャッターを押し続けたのが今回の画像である。めでたしめでたし。今日の取材はここまでで終了。今晩は予約しておいたお店で地元名物の刺身と黒毛和牛のステーキ、それから薩摩の芋焼酎で、カナダヅルとの出会いに祝杯をあげることにしよう。

※取材旅行記はあと1日分、つづきます。

画像はトップが憧れのカナダヅル。下が向かって左から同じくカナダヅル、朝の西干拓の給餌場のようす2カット、東干拓の塒周辺でのツル達のようす2カット。