タイトル文字を見て「なんのこっちゃ!?」と思われるブロガーの方は多いでしょう。アトリとは野鳥の名前でスズメ目アトリ科の小鳥である。漢字で『花鶏』と書き、英語名をBramblingという。大きさはスズメ大。羽色は黒、オレンジ、白のコントラストが美しい。スカンジナビアからカムチャッカ、サハリンにかけてのユーラシア大陸の亜寒帯で繁殖する。日本には10月ごろから冬鳥として渡来し、渡来数の多い年には数十万羽の大群となることがある。また年によって渡来数の多少にに変化があることも知られている。
昨年の晩秋頃から「この冬はアトリが多いぞ」とSNSなどで全国のバードウォッチャーが画像付で情報を流している。工房の近所ではどうかと注意していたが、今月初めになりようやく近くの公園で25羽の群れと出会った。仕事の合間にカメラを以て何日か通ってみたが群れで動いているとなかなか警戒心が強くて近寄れない。
こういう年は思い切って低山に行くに限る。ひょっとしてアトリ以外の冬の小鳥類が大当たりかもしれない。昨年の今頃、山梨で同じアトリ科の「赤い鳥」たちを外しているのだがが、版画を制作する取材と決めつけて冬鳥が良いという群馬県の小根山森林公園まで出かけることにした。
今月の14日。早朝に千葉を出発。上野へ出て新幹線で高崎まで行き、信越本線に乗り換えて横川へ向かう。この時間下りの電車はガラガラである。昔はこの線で軽井沢や小諸に出たものだが上越新幹線の開通と共に寂れてしまったようだ。しばらくすると車窓から進行方向の左側に上州の山々や大きく噴煙を上げる浅間山が見えてきた。そして山の風景が裏妙義の奇岩群に変わった頃、終点の「横川」に到着した。信越線と名前が残ったが信州にも越後にも行かないのである。横川の改札から外に出ると山間の空気がヒンヤリと冷たい。小根山森林公園までの近道である「関東ふれあいの道」入り口まで徒歩で行くが町の中は寂れた雰囲気だった。
コース入り口からは矢野澤という沢沿いの山道に入る。登り始めてすぐに「クマ出没注意」の看板がいくつも登場。この季節はツキノワグマにとっては冬眠の季節、まずは出くわさないだろうが、念のため持ってきたクマよけの鈴を腰に着けた。"チリン、チリン…”と音をたてながら進んで行く。地蔵堂を過ぎ高速の下を潜ると明るい林道に着いた。ここで小休止。水分を補給しながらしばらく周囲の風景を眺めていると頭上の木から"キョッ、キョッ”といういくつもの声が落ちてきた。「アトリだ!」数えると15羽いた。「ほんとうにこの冬はアトリが多いんだなぁ」。腰を上げてさらにコースを進む。すぐにポッカリと開けた「山吹の郷」という広場に着く。鳥の姿はない。ここからはガイドブックにも載っていた急な山道に入る。丸太でステップが作られている山道をジグザグに登って行くのだが確かに急なのでたっぷりと一汗かいてしまう。喘ぎながら登り詰めると森林公園の入り口ゲートに着いた。"キョ、キョ”キツツキの仲間のアカゲラが1羽、出迎えてくれる。
ゲートを潜りしばらく行くとこの公園の管理事務所「鳥獣資料館」が見えてくる。手前の駐車場で野鳥カメラマンが1人、長い望遠レンズを構えていたので鳥情報を訪ねてみると「アトリの群れやミヤマホオジロ…それからマヒワが出ているよ」と教えてくれた。資料館横に餌台や水場がありここに小鳥たちがとっかえひっかえ出入りしていたのが見えたので三脚とカメラをセットしようとすると館の奥から男性が「今日は寒いから中に入ってお茶でも飲んでからにしなよ」と声をかけてくれた。館長のY氏である。お言葉に甘えて中に入って熱いお茶を呼ばれることにした。Y館長は地元、横川の消防署を定年退職してからここの職員になったとのこと。とても暖かい人柄で今回、この人に会えたことが最大の収穫と言ってもいい。森林公園内の鳥たちの事や訪れる人たちのことなどいろいろと話してくれた。2013年にアトリ科のオオマシコという赤い鳥(冬鳥)が23羽渡来した時には野鳥カメラマンも200名以上来て狭い駐車場に車が入りきらず、大の大人同士の喧嘩も起きたと苦笑いしていた。
森林館の暖かさに、うっかり野鳥たちの写真取材に来たことを忘れるところだった。館長も公園内を巡回に出るとのことだったので、カメラを構えて良いという距離、位置をお聞きして給餌場の前で粘ることに決めた。この日は風もなく晴天。とても気持ちが良い。待つこと数分で5羽のミヤマホオジロがやってきた。その中、雄のきれいな個体も3羽いる。夢中でシャッターを押す。すぐ横の駐車上にも餌が撒かれているようでアトリの群れが次々に樹上から降りてきた。50羽はいただろうか。気を取られていると目の前の給餌場にはマヒワが2羽。入れ替わりヤマガラ、シジュウカラ、ヒガラ、エナガ、など森林性のカラ類がやってくる。中でもヤマガラはとても慣れていてカメラを構える僕のすぐ近くに飛んできた。小鳥たちの撮影に夢中になっていると頭上でタカ類の声がする。"ピーッ、ピョ、ピョ” 見上げてビックリ「クマタカだっ!!」よく見ると2羽がグルグルと旋回飛行をしている。大きさが違う。1羽は一回り小さく細目に見える。「小さい方が雄でペアだな…時期的にディスプレイフライト(求愛飛翔)かも知れない」あわててカメラを構えるが木の枝がかぶってしまい超オートフォーカスではピントが合わない。あたふたとしているうちに2羽のクマタカは滑るように飛び去り視界から消えていってしまった。大きくりっぱである。ひさびさにしっかりとクマタカを観ることができた。
しばらくして館長が巡回から帰ってきた。興奮冷めやらずにクマタカ出現の話をすると「そーかい。そりゃあいいもん観れたなぁ。ここの上はイヌワシも飛ぶこともあるんだよぉ」と我ことのように喜んでくれた。そして「こんな寒い日に外に出っぱなしじゃ、具合が悪くなるから中に入って熱いお茶でも飲みなよ」という言葉に甘えて資料館の中で遅い昼食を取り、中からしばらく給餌場を眺めながら館長と雑談。先ほどの駐車場の餌に体の大きなシロハラ(ヒタキ科の冬鳥)が1羽出るとアトリを追い払ってしまった。小鳥どうしも餌場争いがあるようだ。山の日暮れは早い。日が落ちて資料館全体が翳ってくると肌寒くなって来た。明日から休日という館長が「おたくにはマヒワのきれいな雄の写真を撮って行ってもらいたいな…帰りは山吹の郷にはベニマシコの群れがいるみたいだから注意して見て」とアドバイスをしてくれた。ミソサザイやコガラが訪れた頃、館長と明日もここに来ると約束して宿までの下山路を急いだ。帰りも同じコース。朝方寄った山吹の郷で館長の予言どおり5羽のベニマシコの群れが低く飛んだ。
関東ふれあいの道入り口近くまで下りてくると夕映えの裏妙義の山並が美しい色に染まって見えた。今夜の宿は横川駅近くの『東京屋』という評判の宿。風呂で一日の汗を流し、郷土料理で一杯やって明日の取材に備えるとしよう。
画像はトップが給餌場のアトリ。下が向かって左からアトリの群れ、ヤマガラ、ミヤマホオジロの雄、シロハラ、夕暮れの横川の街と裏妙義の山並、夕日に染まる裏妙義の主峰・相馬岳(1104m)。
昨年の晩秋頃から「この冬はアトリが多いぞ」とSNSなどで全国のバードウォッチャーが画像付で情報を流している。工房の近所ではどうかと注意していたが、今月初めになりようやく近くの公園で25羽の群れと出会った。仕事の合間にカメラを以て何日か通ってみたが群れで動いているとなかなか警戒心が強くて近寄れない。
こういう年は思い切って低山に行くに限る。ひょっとしてアトリ以外の冬の小鳥類が大当たりかもしれない。昨年の今頃、山梨で同じアトリ科の「赤い鳥」たちを外しているのだがが、版画を制作する取材と決めつけて冬鳥が良いという群馬県の小根山森林公園まで出かけることにした。
今月の14日。早朝に千葉を出発。上野へ出て新幹線で高崎まで行き、信越本線に乗り換えて横川へ向かう。この時間下りの電車はガラガラである。昔はこの線で軽井沢や小諸に出たものだが上越新幹線の開通と共に寂れてしまったようだ。しばらくすると車窓から進行方向の左側に上州の山々や大きく噴煙を上げる浅間山が見えてきた。そして山の風景が裏妙義の奇岩群に変わった頃、終点の「横川」に到着した。信越線と名前が残ったが信州にも越後にも行かないのである。横川の改札から外に出ると山間の空気がヒンヤリと冷たい。小根山森林公園までの近道である「関東ふれあいの道」入り口まで徒歩で行くが町の中は寂れた雰囲気だった。
コース入り口からは矢野澤という沢沿いの山道に入る。登り始めてすぐに「クマ出没注意」の看板がいくつも登場。この季節はツキノワグマにとっては冬眠の季節、まずは出くわさないだろうが、念のため持ってきたクマよけの鈴を腰に着けた。"チリン、チリン…”と音をたてながら進んで行く。地蔵堂を過ぎ高速の下を潜ると明るい林道に着いた。ここで小休止。水分を補給しながらしばらく周囲の風景を眺めていると頭上の木から"キョッ、キョッ”といういくつもの声が落ちてきた。「アトリだ!」数えると15羽いた。「ほんとうにこの冬はアトリが多いんだなぁ」。腰を上げてさらにコースを進む。すぐにポッカリと開けた「山吹の郷」という広場に着く。鳥の姿はない。ここからはガイドブックにも載っていた急な山道に入る。丸太でステップが作られている山道をジグザグに登って行くのだが確かに急なのでたっぷりと一汗かいてしまう。喘ぎながら登り詰めると森林公園の入り口ゲートに着いた。"キョ、キョ”キツツキの仲間のアカゲラが1羽、出迎えてくれる。
ゲートを潜りしばらく行くとこの公園の管理事務所「鳥獣資料館」が見えてくる。手前の駐車場で野鳥カメラマンが1人、長い望遠レンズを構えていたので鳥情報を訪ねてみると「アトリの群れやミヤマホオジロ…それからマヒワが出ているよ」と教えてくれた。資料館横に餌台や水場がありここに小鳥たちがとっかえひっかえ出入りしていたのが見えたので三脚とカメラをセットしようとすると館の奥から男性が「今日は寒いから中に入ってお茶でも飲んでからにしなよ」と声をかけてくれた。館長のY氏である。お言葉に甘えて中に入って熱いお茶を呼ばれることにした。Y館長は地元、横川の消防署を定年退職してからここの職員になったとのこと。とても暖かい人柄で今回、この人に会えたことが最大の収穫と言ってもいい。森林公園内の鳥たちの事や訪れる人たちのことなどいろいろと話してくれた。2013年にアトリ科のオオマシコという赤い鳥(冬鳥)が23羽渡来した時には野鳥カメラマンも200名以上来て狭い駐車場に車が入りきらず、大の大人同士の喧嘩も起きたと苦笑いしていた。
森林館の暖かさに、うっかり野鳥たちの写真取材に来たことを忘れるところだった。館長も公園内を巡回に出るとのことだったので、カメラを構えて良いという距離、位置をお聞きして給餌場の前で粘ることに決めた。この日は風もなく晴天。とても気持ちが良い。待つこと数分で5羽のミヤマホオジロがやってきた。その中、雄のきれいな個体も3羽いる。夢中でシャッターを押す。すぐ横の駐車上にも餌が撒かれているようでアトリの群れが次々に樹上から降りてきた。50羽はいただろうか。気を取られていると目の前の給餌場にはマヒワが2羽。入れ替わりヤマガラ、シジュウカラ、ヒガラ、エナガ、など森林性のカラ類がやってくる。中でもヤマガラはとても慣れていてカメラを構える僕のすぐ近くに飛んできた。小鳥たちの撮影に夢中になっていると頭上でタカ類の声がする。"ピーッ、ピョ、ピョ” 見上げてビックリ「クマタカだっ!!」よく見ると2羽がグルグルと旋回飛行をしている。大きさが違う。1羽は一回り小さく細目に見える。「小さい方が雄でペアだな…時期的にディスプレイフライト(求愛飛翔)かも知れない」あわててカメラを構えるが木の枝がかぶってしまい超オートフォーカスではピントが合わない。あたふたとしているうちに2羽のクマタカは滑るように飛び去り視界から消えていってしまった。大きくりっぱである。ひさびさにしっかりとクマタカを観ることができた。
しばらくして館長が巡回から帰ってきた。興奮冷めやらずにクマタカ出現の話をすると「そーかい。そりゃあいいもん観れたなぁ。ここの上はイヌワシも飛ぶこともあるんだよぉ」と我ことのように喜んでくれた。そして「こんな寒い日に外に出っぱなしじゃ、具合が悪くなるから中に入って熱いお茶でも飲みなよ」という言葉に甘えて資料館の中で遅い昼食を取り、中からしばらく給餌場を眺めながら館長と雑談。先ほどの駐車場の餌に体の大きなシロハラ(ヒタキ科の冬鳥)が1羽出るとアトリを追い払ってしまった。小鳥どうしも餌場争いがあるようだ。山の日暮れは早い。日が落ちて資料館全体が翳ってくると肌寒くなって来た。明日から休日という館長が「おたくにはマヒワのきれいな雄の写真を撮って行ってもらいたいな…帰りは山吹の郷にはベニマシコの群れがいるみたいだから注意して見て」とアドバイスをしてくれた。ミソサザイやコガラが訪れた頃、館長と明日もここに来ると約束して宿までの下山路を急いだ。帰りも同じコース。朝方寄った山吹の郷で館長の予言どおり5羽のベニマシコの群れが低く飛んだ。
関東ふれあいの道入り口近くまで下りてくると夕映えの裏妙義の山並が美しい色に染まって見えた。今夜の宿は横川駅近くの『東京屋』という評判の宿。風呂で一日の汗を流し、郷土料理で一杯やって明日の取材に備えるとしよう。
画像はトップが給餌場のアトリ。下が向かって左からアトリの群れ、ヤマガラ、ミヤマホオジロの雄、シロハラ、夕暮れの横川の街と裏妙義の山並、夕日に染まる裏妙義の主峰・相馬岳(1104m)。