今月も個展に向けての絵画作品の制作を続行中。古代エジプト神話に登場する鳥、『イビス』を主題とした水彩画を制作した。
古代エジプトには人の体にトキの頭を持つトートという英知を司る神がいる。長い嘴をペン先にみたて、書記の守護神とも言われた。この神の聖鳥、化身がイビスである。そして英語名Sacred Ibis(聖なるイビス)を持つアフリカクロトキがこのイビスであると言われている。知恵の神イビスはヨーロッパに伝わり、現在、イギリス鳥学会のシンボルバードになった。良く似た種類で日本に稀に迷行してくるクロトキ・英語名Black-heated Ibisは中国南部、東南アジア、インドに分布する別種である。古代エジプト人たちは、このイビスを崇拝し大事にした。古代ギリシャのヘロドトスが著した『歴史』には、エジプトではこの鳥を殺した者は死罪にされたと書かれている。日本の江戸時代の元禄期に出された『生類憐みの令』を連想してしまう。この時代、サギやコウノトリ、タンチョウなど白い鳥は特に大事にされたそうだ。
この神聖な鳥をどのように表現するか…悩んだ末、エジプトのサンド・カラーの風景の上をゆったりと飛翔する群れとして描くことに決定した。スケッチブックに鉛筆で消しては描き、消しては描き、ようやく下絵が仕上がると、いつものようにネパール産の自然な風合いの手漉き紙に転写する。あとは日本画用の水干絵の具とアクリル絵の具を併用し納得のいくまで描き込んでいく。背景となる空には聖鳥の持つ高貴なイメージを強調するため金色の絵の具をフラットに塗り込んだ。画面に対していつもより鳥の姿を小さめに描いたためようすが違い途中、全体感をつかむのに苦労したが、なんとか完成までたどりついた。全体像は個展会場で観てください。画像はトップが制作途中の水彩画(部分)。下が使用した絵の具皿と辞典に掲載されていた大英博物館に収蔵される古代エジプトの青銅製のクロトキ像。