長島充-工房通信-THE STUDIO DIARY OF Mitsuru NAGASHIMA

画家・版画家、長島充のブログです。日々の創作活動や工房周辺でのできごとなどを中心に更新していきます。

141.古代エジプト神話の鳥・『イビス』を描く。

2014-04-25 20:45:13 | 絵画・素描

今月も個展に向けての絵画作品の制作を続行中。古代エジプト神話に登場する鳥、『イビス』を主題とした水彩画を制作した。

古代エジプトには人の体にトキの頭を持つトートという英知を司る神がいる。長い嘴をペン先にみたて、書記の守護神とも言われた。この神の聖鳥、化身がイビスである。そして英語名Sacred Ibis(聖なるイビス)を持つアフリカクロトキがこのイビスであると言われている。知恵の神イビスはヨーロッパに伝わり、現在、イギリス鳥学会のシンボルバードになった。良く似た種類で日本に稀に迷行してくるクロトキ・英語名Black-heated Ibisは中国南部、東南アジア、インドに分布する別種である。古代エジプト人たちは、このイビスを崇拝し大事にした。古代ギリシャのヘロドトスが著した『歴史』には、エジプトではこの鳥を殺した者は死罪にされたと書かれている。日本の江戸時代の元禄期に出された『生類憐みの令』を連想してしまう。この時代、サギやコウノトリ、タンチョウなど白い鳥は特に大事にされたそうだ。

この神聖な鳥をどのように表現するか…悩んだ末、エジプトのサンド・カラーの風景の上をゆったりと飛翔する群れとして描くことに決定した。スケッチブックに鉛筆で消しては描き、消しては描き、ようやく下絵が仕上がると、いつものようにネパール産の自然な風合いの手漉き紙に転写する。あとは日本画用の水干絵の具とアクリル絵の具を併用し納得のいくまで描き込んでいく。背景となる空には聖鳥の持つ高貴なイメージを強調するため金色の絵の具をフラットに塗り込んだ。画面に対していつもより鳥の姿を小さめに描いたためようすが違い途中、全体感をつかむのに苦労したが、なんとか完成までたどりついた。全体像は個展会場で観てください。画像はトップが制作途中の水彩画(部分)。下が使用した絵の具皿と辞典に掲載されていた大英博物館に収蔵される古代エジプトの青銅製のクロトキ像。

 

   


140.『栄西と建仁寺』展

2014-04-18 21:24:15 | 美術館企画展

毎年、ソメイヨシノの開花期に合わせ、上野の山の美術館、博物館の企画展を見に行くのが恒例になっている。今年の首都圏のソメイヨシノはちょうど満開の時期に天候が悪くて残念だった。

3日。東京国立博物館で開催中の『開山・栄西禅師800年遠忌特別展・栄西と建仁寺』展を観に行ってきた。いつものように電車を日暮里駅で降り、谷中の墓地をブラブラと散策しながら上野公園まで歩くコースをとる。ところがこの日は本降りの雨である。ちょうど見頃となった満開のソメイヨシノが強い雨のためにかなり散ってしまっている「もったいないなぁ…」。これも風情と言えば風情。桜並木の根本の水たまりに浮かぶたくさんの花びらを見ながらカメラに収めた。博物館に到着すると、この天候のせいだろう。さすがに空いている。ここでの特別展でこれほど空いている日も珍しい。

栄西禅師(1141~1215)と言えば、鎌倉時代、宋に渡り我が国に臨済宗を伝え、京都最古の禅寺「建仁寺」を開いたことで広く知られている。「茶祖」とも言われ、日本に茶をもたらし喫茶の習慣を根付かせたことでも有名である。依頼今日まで、「禅」と「茶道」は日本文化を象徴するものとして広く海外にも知られるようになった。同じ禅宗の曹洞宗開祖である永平寺の道元禅師の師匠でもある。今年はその「栄西禅師」の800年遠忌にあたるということで、禅師と建仁寺ゆかりの宝物の中から、彫刻や絵画、書などを数多く紹介する今回の企画展示が開催されることになった。

会場に入ってまず目についたのは寺院内で実際に茶道を行う部屋を再現したコーナー。整然と展示された茶道具や掛け軸、仏具などから作法に厳しい禅の宗風が垣間見られるようだった。開場を移動すると夥しい数の経典や文書が続く。さらに進むと建仁寺ゆかりの僧たちの肖像彫刻、肖像絵画が出迎えてくれた。そしてここから先が今回の僕のお目当てとなる絵画の名宝の部屋となる。狩野山楽、山雪、長谷川等伯、伊藤若冲など中世を代表する画家たちの名品が続く。そして『海北友松(かいほくゆうしょう)1533~1615』という画家の龍、花鳥、山水を題材とした墨による力強い障壁画には圧倒されてしまった。僕は勉強不足でこの画家のことを知らなかったが、建仁寺は別名「友松寺」と呼ばれるほど作品が山内には多く残っているということだった。「それにしともこの単純とも言える描線の大胆さと形の強さは他に例を見ない」 視線を引き付けられながらゆっくりと会場を移動する。

そして展示の最終章は目玉中の目玉となる俵屋宗達筆『風神雷神図屏風』。 かなりひさびさの再会である。前回観た時とも印象が違って見えた。宗達は日本美術史の中でも、かなり特異なタイプの画家だと思う。いったいこのフォルムの強さはどんな感性から出てくるのだろう。左右に飛び回る風神と雷神の交互に視線を移しながら長い時間、飽きずに立ちすくんでしまった。展覧会は5月18日まで。まだ観に行ってない方はぜひこの機会にどうぞ。画像はトップが宗達の『風神図』。下の向かって左から雨に散ったソメイヨシノの花びら、展覧会看板、海北友松筆の『雲竜図』『竹林七賢図』部分(展覧会図録から転写)。

 

         


139. 鋸山・車力道コース山行記

2014-04-11 18:19:44 | アウトドア

先月、今月と締切仕事などが重なりブログの更新がとても遅れてしまった。と、いうわけで先月21日に登った房総の山の話題。

今回はいつもの房総の低山を登る会『Bosso Club』のメンバーではなく、日頃、絵画作品の個展やグループ展でお世話になっているA画廊のメンバー4名と当工房のメンバー2名の合計6名による山行となった。A画廊のメンバーは最近、低山歩きにはまっていて、これまでに筑波山、奥多摩、丹沢などを登ってきたということだ。「長島さんの地元の山でコースはおまかせします」とのことだったので、東京から電車の便が良い鋸山に決定した。

JR内房線、浜金谷駅に朝10時集合。駅からトボトボと登山口まで歩き始めた。この日の前日まで天候が悪く心配したのだが、雨が止んで空には青空、絶好の登山日和となった。このメンバー、どうやら雨男、雨女はいないようである。歩き始めて20分ほどすると登山口に到着、上半身が汗ばんできて各々、寒いと思って着てきたパーカーなどを脱ぐことになった。ウグイスの囀り、カラ類など森林性の野鳥の声がそこかしこから聞こえてくる。A女史が登山道脇に変わった野草をみつけた。近づいてよく観察してみると、サトイモ科のヒガンマムシグサの花だった。この花はこの地域の特産種だが、ちょうど春のお彼岸の頃に花を咲かせるのでこの名前がついている。周囲をよく探すと数多く咲いていた。その他にもキフジやタチツボスミレ、フキノトウそれからチラホラとサクラの花も咲いていた。房総の春は早い。道が山道となり少し登りがきつくなってきたところで苔むしたレールのような敷石が目立つようになった。このコースは名前が表すように、かつて鋸山の天然石を切り出して降ろすことに使われていた仕事道である。石を切り出すのは男の仕事、それを運ぶのは女の仕事だったらしい。「昔の房総の女性は逞しかったんだなぁ」

12時前に新展望台と呼ばれる開けた場所に到着した。ここでランチにすることとなった。ここからの風景は房総の山屈指の絶景である。南に太平洋に浮かぶ伊豆大島、西に天城山、三浦半島、丹沢と並び、その遠景に真っ白に雪をかぶった富士山が見える。東京湾越しのこの富士山は江戸時代の絵師、葛飾北斎が連作『富嶽三十六景』で描いた『上総富士』である。この冬は積雪量が多かったので裾野近くまで真っ白である。さらに北西に視線を移すと東京の街が見えてくる。葛西臨海公園や新宿副都心など双眼鏡で追って見ていくと、ついにスカイツリーを発見。一同、感動したのでした。そこでH女子が一言「東京って狭いねぇ」。東京湾越しに箱庭のように見えるこの絶景を見ながらのランチは最高に贅沢なのでした。時折、トビが「ピーヒョロロロ…」と鳴きながら低空飛翔で弁当を狙ってくるのだけは閉口した。隣のベンチではA画廊のメンバーがコンロでシシャモやスルメを焼き始めたかと思ったら、焼酎を勧められた。絶景を前にしての一杯もなかなかおつなものだった。

昼食を済ませると鋸山のピークに向かう。アップダウンを繰り返し進んで行くと一等三角点のある329.5mの狭い頂上に到着。展望は良くない。早々に切り上げて石切り場に向かう。石切り場の断崖が目の前に開けてくると一同再び感動。このあたりの断崖下で当工房スタッフと二人、アトリ科の冬鳥ハギマシコの♂2羽と♀1羽を間近で観察。県内での観察記録が少ない野鳥である。羽衣に混じるバラ色が美しかった。さらに進むと奈良時代に創建された古刹、日本寺に到着。入場料を払って境内に入る。ここから地獄覗きと呼ばれる断崖絶壁まで一気に登ると空を暗い雲が覆ってきて、冷たい風が吹き始めたかと思うとポツポツと雨が降り始めた。下山を急いで大仏広場までまっしぐら。広場に到着する頃には雨もほぼ止んだので四阿で大休止をとる。水分補給をしたり、大仏様の前で記念撮影をしたりしてから、電車の時間を気にしつつ、一面のナノハナ畑やツクシ摘みを楽しみながら帰りの駅であるJR内房線保田駅に向かった。暖かい南房総の早春の一日、楽しい山行にしてくれた同行のみなさんに感謝します。画像はトップが新展望台から見た館山・伊豆大島方面。下が石切り場の断崖絶壁とモミジの芽吹き。